会社のガバナンスや株式の譲渡など、経営に関する規定は会社法や定款などによって定められています。
しかし、会社法や定款でカバーしきれない細かなルールを定めたい場合、株主間契約を結んで健全かつ円滑な経営を目指す場合もあります。
本記事では、株主間契約の概要や目的、注意点などを詳しく解説します。
M&Aへの影響についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
株主間契約(SHA)とは?

株主間契約(SHA:Shareholders Agreementの略)とは、特定の企業の株主同士が取り交わす契約で、株主の権利や義務、企業運営に関するルールを定めるものです。
この契約は、株主間でのトラブル防止や、企業運営の円滑化を目的としています。
株主間契約は、当事者同士が締結する契約なので、法的拘束力は弱く、契約を結んだ当事者間のみで有効です。
基本的には個人の株主同士で契約を締結する場合が多いですが、会社に対しても一定の契約を結ぶケースもあります。
主に非上場企業やスタートアップ企業などで活用されることが多く、会社法では規定されていない細かな取り決めを補完する役割を果たします。
株主間契約の主な目的
株主間契約は、株主同士が特定の目的を果たすために契約するものです。
主な株主間契約の目的は、以下の5つです。
- 株主間の対立を防ぐため
- 株式の譲渡を制限するため
- 出口戦略をスムーズに進めるため
- 競業を防止するため
- 少数株主の意見を反映しやすくするため
株主間の対立を防ぐため
株主が複数存在して議決権が分散している場合、意見や方針が食い違うことで株主同士が対立することが考えられます。
そのような場合、株主総会で決議をとって意思決定することが基本的な流れですが、決議ができず経営に関する重要な事項を決定できなくなるケースもあるでしょう。
このような状況を「デッドロック」といい、経営に大きな支障をきたす危険性があります。
そのため、あらかじめ株主間契約で適切な解消方法を定めておくことが重要です。
株主間で対立が起こった場合、最も多くの議決権を持つ株主の意向に従うと定めることが最も一般的な契約です。
株式の譲渡を制限するため
株主間契約を結ぶ企業は、非上場企業やスタートアップ企業が多いと冒頭で説明しました。
そのため、通常は株式の譲渡制限がついているケースが多いですが、譲渡承認請求をすれば株式を第三者に売却することも可能です。
非上場企業やスタートアップ企業では、株主がそれほど多くなく各株主が経営において重要な役割をになっているケースが多いでしょう。
そのような企業では、株式を自由に譲渡されてしまうと経営がしにくくなってしまいます。
そのため、株主間契約を締結し、株式譲渡を禁止したり制限したりするルールを定めることがあります。
出口戦略をスムーズに進めるため
非上場企業やスタートアップ企業は、IPO(株式公開)やM&Aによってエグジットを狙うケースが多いです。
そして、出口戦略を検討する際に株主同士で意見が食い違うことが考えられます。
そのため、株主間契約を締結して適切な解消方法を定めておくことが重要です。
会社側が定めた方針に従うように定めたり、特定の株主が抜けがけすることを禁止する条項を定めたりすることが一般的です。
競業を防止するため
競業を防止するために、株主間契約を締結することがあります。
株主間契約で競業避止義務を明文化することで、株主が競合企業を設立したり、既存の競合へ関与を制限したりすることが可能です。
創業メンバーや主要株主が企業にとって重要な情報やノウハウを持っている場合、その情報が外部に漏れるリスクを抑える効果があります。
契約には、競業が認められない地域や期間を明確に設定し、合理的な範囲で適用されるようにしましょう。
これにより、株主が企業の利益に反する行動を取ることを防ぎ、株主間の信頼関係を維持することが可能です。
競業を防ぐ取り決めは、特にスタートアップや競争の激しい業界で有効です。
少数株主の意見を反映しやすくするため
少数株主が経営に一定の発言権を持ち、企業運営に参加できる仕組みを構築するために、株主間契約を結ぶことがあります。
具体的には、特定の重要事項において少数株主の同意を必要とする条項を設けたり、少数株主が議決権を行使しやすくする取り決めを盛り込んだりなどです。
また、少数株主が不当に軽視されるリスクを軽減するため、情報開示義務や意見交換の場を定期的に設けることを契約で締結することもあります。
これにより、少数株主との信頼関係を強化し、公平で安定した経営を実現することが可能です。
株主間契約を結ぶタイミング

株主間契約は、当事者同士の自由契約ですので会社法や定款で定められているわけではなく、当事者同士が合意すれば基本的にはいつでも締結することが可能です。
しかし、株主間契約を締結する目的はある程度決まっているため、主に以下のようなタイミングで結ばれることがほとんどです。
- 会社を設立するタイミング
- 第三者が資本参加するタイミング
- 株式を売却するタイミング
会社を設立するタイミング
株主間契約が締結される典型的なタイミングは、会社を設立するタイミングです。
特に複数の株主が出資し合って設立する合弁会社(ジョイントベンチャー)を設立する際は、お互いの利害関係が対立しないように株主間契約を結ぶケースが多いです。
経営方針や株式の持ち分、重要な意思決定のルールを明確にし、将来的な対立を未然に防ぐために株主間契約を結びます。
このタイミングでの契約締結は、企業の経営基盤を安定させるために非常に重要です。
第三者が資本参加するタイミング
資金調達や株式売却などによって、第三者が新たに株主として資本参加すると、株主間の利害関係に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、新たに資本参加する株主にも、株主間のルールに従ってもらうようにするために株主間契約を締結するケースがあります。
これにより、株主間の利害関係に大きな影響を及ぼすことを防ぎ、株主間のトラブルを避けて円滑に経営を進めることが可能です。
株式を売却するタイミング
既存株主が株式を売却する場合、外部の第三者が予期せず株主になるリスクを防ぐために株主間契約を締結することがあります。
これにより、株式譲渡による影響を最小限に抑え、企業の安定運営を確保することが可能です。
株主間契約の内容には、他の株主に優先的に購入の機会を与えることや、他の株主が取得時の価額で買い取るなどの条項が設けられることがあります。
株主間契約のメリット

株主間契約を締結することには、主に以下のメリットがあります。
- 手続きが容易である
- 柔軟にルールを定められる
- 内容を公開する必要がない
手続きが容易である
会社の定款を変更する際は、株主総会の決議が必要になるため、煩雑な手続きが必要になるだけでなく、多くのコストがかかります。
しかし、株主間契約は煩雑な手続きが不要で、基本的に当事者間同士で契約内容に合意すれば契約を締結することが可能です。
株主間契約書を作成し、当事者が記名・押印などをして締結が完了します。
簡易的な手続きで会社の経営に関するルールを定められるというのは、株主間契約の大きな特徴です。
柔軟にルールを定められる
株主間契約は、柔軟にルールを定めて詳細な内容を盛り込めるという点も大きなメリットです。
会社法や定款ではカバーしきれない具体的な取り決めを、株主間契約によって補完することが可能です。
たとえば、株式譲渡の条件や手続き、競業避止義務、議決権の行使方法、利益分配の詳細など、企業や株主の状況に応じた細かいルールを自由に設定できます。
この柔軟性により、企業の成長フェーズや株主構成の変化に合わせて、契約内容をカスタマイズすることが可能です。
また、特定の株主を保護する条項や、重要な経営判断時における少数株主の意見反映ルールなど、企業独自のニーズに応じてルールを変更することができます。
こうした柔軟性は、株主間のトラブルを未然に防ぎ、公平で効率的な経営を実現するために重要な役割を果たします。
内容を公開する必要がない
株主間契約は、株主間の合意に基づいて作成される私的な契約であり、定款や登記内容のように一般に公開されるものではありません。
そのため、企業運営や株主間の取り決めに関する機密情報を守ることができます。
たとえば、株式譲渡に関する制限や利益分配の詳細、競業避止義務、エグジット戦略など、競合他社や外部に知られたくない重要な情報を契約に盛り込むことが可能です。
この非公開性により、株主間での信頼関係が維持され、企業価値を守ることが可能です。
株主間契約は、企業運営の自由度を高めつつ、情報漏洩リスクを低減する有効な手段といえます。
株主間契約のデメリット
株主間契約は、以下のデメリットも十分理解したうえで結ぶかどうか検討しましょう。
- 必ず契約が履行される保証はない
- 契約内容が無効となるリスクがある
必ず契約が履行される保証はない
株主間契約は、あくまで当事者間同士の信頼に基づく合意であり、法的拘束力が弱いというデメリットがあります。
もちろん、契約違反時の損害賠償に関する内容も契約に盛り込む場合がほとんどですが、損害賠償を払ってでも契約を破棄されるのであれば、それに抗う術はありません。
また、株主総会において契約違反をされても、株主総会自体が正規の手続きに則って行われれば、その決議は有効となり、無効にすることはできません。
契約内容が無効となるリスクがある
株主間契約は、当事者同士の合意に基づく契約ではありますが、その契約内容が会社法や定款、公序良俗に反する場合は無効とされるリスクがあります。
たとえば、株主の権利を過度に制限する条項や、法律で定められた議決権の行使方法に違反する取り決めが含まれる場合、契約のその部分が無効とされる可能性が高いです。
したがって、株主間契約を締結する際は、契約内容が法令や公序良俗に適合していることを確認することが不可欠です。
必要に応じて契約内容を専門家に確認してもらい、法的リスクを最小限に抑えることが推奨されます。
株主間契約がM&Aに与える影響

株主間契約は、M&Aの成功やスムーズな取引きに向けて重要な影響を及ぼします。
一方で、その内容によっては取引を複雑化させる場合もあります。
まず、株主間契約に含まれる株式譲渡に関する規定は、M&Aの円滑化に寄与します。
たとえば、株式譲渡制限や強制売却権(ドラッグアロング)により、少数株主が売却に応じないことで取引が停滞するリスクを防げます。
同時に、共同売却権(タグアロング)によって少数株主が公平な条件で売却できることも保証されます。
さらに、契約にエグジット戦略が明確に規定されている場合、株主全体でM&Aを目指す共通の方向性を持つことができ、意思決定がスムーズに進むことがあります。
これは特にベンチャー企業やスタートアップでの投資家との協力において重要です。
しかし、株主間契約が複雑であったり、株主の利益が対立する内容を含む場合、M&Aの交渉が遅延する可能性もあります。
たとえば、譲渡制限条項が厳しすぎる場合、買収側の条件を満たすのが難しくなることがあります。
また、利益分配の優先順位を巡る規定が複雑であると、取引成立までに追加交渉が必要となる場合があります。
全体として、株主間契約はM&Aの効率性を高め、リスクを軽減するための強力なツールである一方、その内容が適切でない場合には障害となる可能性もあるため、慎重な設計が求められます。
株主間契約で定める主な事項
株主間契約で定める主な事項は、企業の状況や株主間の関係に応じてさまざまですが、以下が一般的に取り決められる項目です。
- 株式譲渡に関する事項
- 配当や利益分配に関する事項
- 株主の行動制限に関する事項
- 対立解消に関する事項
- 経営意思決定に関する事項
上記の内容を全て盛り込む必要はなく、契約を結ぶ目的に応じて適切な内容を盛り込むことが重要です。
目的の達成に向けて、当事者同士が納得できる内容の契約を交わしましょう。
株主間契約を締結する際の注意点

株主間契約を締結する際は、以下の点に注意しましょう。
- 法令や公序良俗に適合した内容にする
- 契約内容を具体的かつ明確にする
- 定款や他の契約との整合性を確認する
法令や公序良俗に適合した内容にする
株主間契約のデメリットでも紹介した通り、株主間契約は会社法や関連法令、公序良俗に適合していなければ無効とされるリスクがあります。
たとえば、株主の議決権行使を過度に制限したり、競業避止義務の範囲が不合理に広い場合、裁判所で契約が無効と判断される可能性があります。
契約内容を適切に設計するためには、法律の専門家の助言を受け、法令の範囲内でルールを定めることが重要です。
特に、少数株主の権利や利益を過剰に制限しないよう注意する必要があります。
契約内容を具体的かつ明確にする
契約内容が抽象的または曖昧だと、株主間での解釈の相違や紛争の原因となります。
たとえば、「重要事項は合意で決定する」とだけ記載されている場合、具体的な重要事項や合意の方法が不明確です。
これを防ぐために、対象となる事項や意思決定の手順、条件を具体的に明記します。
また、株式譲渡制限や利益分配ルールなどは、状況に応じた詳細な条件を盛り込むことが必要です。
定款や他の契約との整合性を確認する
株主間契約は、会社定款や既存の契約と内容が矛盾しないようにする必要があります。
たとえば、株主間契約で株式譲渡制限を定めても、定款に記載されていない場合、会社としての拘束力が十分でない可能性があります。
また、会社運営や利益分配に関する内容が複数の契約で異なる場合、混乱を招く恐れがあります。
契約を締結する際には、他の契約や定款と内容を照らし合わせ、整合性を確保することが重要です。
株主間契約締結の際は専門家に相談を
株主間契約について詳しく解説しました。
株主間契約を結ぶことで、会社法や定款でカバーしきれない細かなルールを柔軟に定めることができ、株主間の利害関係を守りながら円滑な経営を推進することができます。
基本的には株主同士で契約内容に合意すれば書面で契約を取り交わすことができるので、煩雑な手続きが不要でコストもかからないという点も、株主間契約の大きなメリットです。
しかし、法的拘束力が弱かったり、無効になったりするリスクもあるため、契約内容について十分に検討し、慎重に契約を結ぶ必要があります。
そのため、株主間契約を結ぶ際は専門家に相談しながら契約内容を定めるようにしましょう。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。