相続税や贈与税のほか、専門家への報酬など、事業承継時には多額の費用が発生します。
一般的に、事業承継といえば後継者不足ばかりが問題視されがちですが、実はこうした金銭的な事情がスムーズな事業承継を妨げているケースも少なくありません。
解決策の1つとして補助金制度の活用が挙げられますが、問題は採択されるかどうか。
どのような制度でも補助金を受給できる枠はあらかじめ定められており、申請すれば誰でも採択されるというわけではありません。
そこで今回のコラムでは、事業承継における主要な補助金制度である「事業承継・引継ぎ補助金」について解説いたします。
採択率をはじめ、採択されるためのポイントなどをお伝えしていくので、申請を検討されている方はぜひ最後までご覧ください。
※本コラムは2024年1月時点での情報を掲載しています。時間経過に伴い、情報が更新されている可能性があります。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
- 事業承継
- 事業再編
- 事業統合
上記のように、事業の承継や引き継ぎ時に発生する費用を補助することで、会社の存続や経済の活性化をサポートするのが「事業承継・引継ぎ補助金」です。
主に中小企業や個人事業主を対象としており、補助の上限額も高く、実際に事業承継を行う際にはぜひ活用を検討すべき制度の1つだといえるでしょう。
2024年1月現在では8次公募の申請受付が既に開始されています。
事業承継・引継ぎ補助金の採択率は何%?
申請件数 |
採択件数 | 採択率 | |
1次公募 (2022/7/20) |
1033 | 531 | 51.40% |
2次公募 (2022/10/6) |
631 | 348 | 55.15% |
3次公募 (2022/12/26) |
626 | 354 | 56.55% |
4次公募 (2023/3/14) |
810 | 446 | 55.06% |
5次公募 (2023/6/16) |
799 | 478 | 59.82% |
6次公募 (2023/9/15) |
862 | 523 | 60.67% |
7次公募 (2023/12/25) |
839 | 499 | 59.48% |
8次公募 (2024/4/1) |
730 | 442 | 60.54% |
※申請件数は併用申請も個別で計測しています。
事業承継・引継ぎ補助金の採択率はその都度異なりますが、2022年・2023年における全体の採択率はおよそ50〜60%。
他の補助金制度と比較してもやや高めであり、採択される可能性は十分あるといえるでしょう。
また、事業承継・引継ぎ補助金は年間で3,4回ほど公募があります。
直近ではおよそ3か月という短い間隔で新たに公募が始まっているため、もし不採択となっても内容を精査し、またすぐ再申請することが可能です。
「採択率が高い=申請が容易」は誤り
前述の通り、事業承継・引継ぎ補助金は比較的採択されやすい制度ですが、申請が容易というわけではありません。
申請時には何種類もの書類を用意しなければならないことはもちろん、以下の流れに沿って複雑な手続きが必要になります。
- 補助対象事業の確認
- 認定経営革新等支援機関への相談
- 「gBizIDプライム」のアカウント設定
- 交付申請(jGrants)
- 交付決定通知
- 補助対象事業の実施・実績報告
- 確定検査・補助金交付
- 後年報告
そのため、場合によっては専門業者に申請代行を依頼するのも選択肢の1つです。
尚、申請内容によっては申請代行の依頼が義務付けられているケースもあります。
事業承継・引継ぎ補助金の種類
事業承継・引継ぎ補助金には以下の3種類があります。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業・再チャレンジ事業
それぞれ主旨や補助金の対象となる経費が異なるため、ご自身がどの事業に該当するか確認しつつ、各種類の特徴や採択率を把握しておきましょう。
経営革新事業
生産性を向上させるための事業承継、またはM&Aを行う場合は経営革新事業に分類されます。
- 創業支援型(I型)
- 経営者交代型(II型)
- M&A型(III型)
上記のように、経営革新事業の中でもさらに細かい型に振り分けられますが、型の名前からわかる通り、どのような形態の事業承継であるかによって決定されます。
対象となる経費の種類が多く、補助上限額も高く設定されているため、幅広い事業承継に活用することができるでしょう。
経営革新事業の補助率・補助上限額
類型 | 賃上げ | 補助上限額 | 補助率 | |
①小規模企業者 ②営業利益率低下 ③赤字 ④再生事業者等 のいずれかに該当 |
実施 | 800万円 | 600万円超~ 800万円相当部分 |
1/2以内 |
実施せず | 600万円 | ~600万円相当部分 | 2/3以内 | |
上記①~④該当なし | 実施 | 800万円 | 1/2位内 | |
実施せず | 600万円 |
経営革新事業の補助対象となる経費
- 店舗等借入費
- 産業財産権等関連経費
- マーケティング調査費
- 設備費
- 原材料費
- 会場借料費
- 謝金
- 旅費
- 広報費
- 外注費
- 委託費
- 廃業費(併用申請時)
経営革新事業の過去の採択率
申請件数 |
採択件数 | 採択率 | |
1次公募 (2022/7/20) |
209 |
105 | 50.2% |
2次公募 (2022/10/6) |
188 | 105 | 55.8% |
3次公募 (2022/12/26) |
189 | 107 | 56.6% |
4次公募 (2023/3/14) |
264 | 146 | 55.3% |
5次公募 (2023/6/16) |
309 | 186 | 60.1% |
6次公募 (2023/9/15) |
357 | 218 | 61.1% |
7次公募 (2023/12/25) |
313 | 190 | 60.7% |
8次公募 (2024/4/1) |
334 | 201 | 60.2% |
専門家活用事業
後継者不在や経営力強化といった経営資源引継ぎ(M&A)の際には、専門の士業や仲介業者に業務を依頼することも多いですが、それには多額のコストが発生します。
そういった金銭的負担が補助対象になるのが、専門家活用事業です。
- 買い手支援類型(I型)
- 売り手支援類型(II型)
経営資源を譲り渡すか、譲り受けるかによって上記のいずれかの型に分類され、それぞれ補助率が異なります。
採択率は他の種類と大きく変わりませんが、申請件数・採択件数が最も多い事業です。
専門家活用事業の補助率・補助上限額
類型 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 |
|
買い手支援型 | 2/3以内 | 50万円 | 600万円以内 | +150万円以内 ※上乗せ額(廃業費) |
売り手支援型 | 1/2または 2/3以内 |
専門家活用事業の補助対象となる経費
- 委託費
- 謝金
- 旅費
- 外注費
- システム利用料
- 保険料
- 廃業費
専門家活用事業の過去の採択率
申請件数 |
採択件数 | 採択率 | |
1次公募 (2022/7/20) |
790 |
407 | 51.5% |
2次公募 (2022/10/6) |
422 | 234 | 55.4% |
3次公募 (2022/12/26) |
408 | 234 | 57.3% |
4次公募 (2023/3/14) |
518 | 290 | 55.9% |
5次公募 (2023/6/16) |
453 | 275 | 60.7% |
6次公募 (2023/9/15) |
468 | 282 | 60.2% |
7次公募 (2023/12/25) |
498 | 299 | 60.0% |
8次公募 (2024/4/1) |
374 | 229 | 61.2% |
廃業・再チャレンジ事業
2021年から上記の2項目に追加する形で新設されたのが廃業・再チャレンジ事業です。
対象となるのはM&Aによる事業の譲り渡しが叶わなかった中小企業や個人事業主で、地域の新たな需要の創造や雇用の創出に寄与する新たなチャレンジを行うことを前提に、既存事業の廃業にかかるコストを補助する事業です。
- 再チャレンジ申請
- 併用申請
さらに上記の2種類に区分けされますが、併用申請は経営革新事業か専門家活用事業のいずれかとの申請になります。
尚、もともとの申請件数が少ないため、採択率は公募時期によってバラつきがありますが、全体で見ると47.2%とやや低くなっています。
廃業・再チャレンジ事業の補助率・補助上限額
申請の種類 | 補助率 | 補助下限額 | 補助上限額 |
再チャレンジ申請 | 2/3以内 | 50万円 | 150万円以内 |
併用申請 | 1/2または 2/3以内 |
廃業・再チャレンジ事業の補助対象となる経費
- 廃業支援費
- 在庫廃棄費
- 解体費
- 原状回復費
- リースの解約費
- 移転・移設費用
廃業・再チャレンジ事業の過去の採択率
申請件数 |
採択件数 | 採択率 | |
1次公募 (2022/7/20) |
34 | 19 | 55.8% |
2次公募 (2022/10/6) |
21 | 9 | 42.8% |
3次公募 (2022/12/26) |
29 | 13 | 44.8% |
4次公募 (2023/3/14) |
28 | 10 | 35.7% |
5次公募 (2023/6/16) |
37 | 17 | 45.9% |
6次公募 (2023/9/15) |
37 | 23 | 62.2% |
7次公募 (2023/12/25) |
28 | 10 | 35.7% |
8次公募 (2024/4/1) |
22 | 12 | 54.5% |
事業承継・引継ぎ補助金の申請時のポイントは?
全体で見ても、種類別に見ても、事業承継・引継ぎ補助金の採択率は決して低いわけではありませんが、申請には相応の時間やコストが必要になります。それらを無駄にしないためにも、一度の申請で採択されることが望ましいですが、それには以下のポイントを押さえておくことが重要です。
- 補助金の主旨に合致した目的である
- 目的に沿った事業計画である
- 申請内容が明確である
補助金の主旨に合致した目的である
本制度に関わらず、補助金で採択されるにはそもそもその制度がどのような主旨で設定されているかを理解し、申請の目的もそれに沿っている必要があります。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業再編、事業統合を含む事業承継を契機として経営革新等を行う中小企業・小規模事業者に対して、その取組に要する経費の一部を補助するとともに、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助する事業を行うことにより、事業承継、事業再編・事業統合を促進し、我が国経済の活性化を図ることを目的とする補助金です。
引用:事業承継・引継ぎ補助金
上記は事業承継・引継ぎ補助金の特設サイトに掲載されている事業目的です。
これらを見る限り、事業承継・事業再編・事業統合に該当してさえいれば要件を満たしているように思えますが、どのように経済の活性化に繋がるかどうかという部分も重要です。
過去の採択事例を見ても、自社の生産性が向上することはもちろん、特定分野の発展や地域貢献、労働者の賃上げといった社会問題にアプローチする申請が選ばれやすい傾向にあることがわかります。
事例は特設サイトで確認することができるので、良ければ参考にしてみてください。
目的に沿った取組みである
申請にあたり、経済の活性化に繋がる目的を掲げるだけでは不十分です。
申請内容にある取組みが事業承継の目的を達成するに値するかどうかも、採択される確率を上げるためには慎重に検討したい部分です。
また、申請する金額によっても採択される確率は変動することがあります。
事業承継・引継ぎ補助金は種類によって補助上限額が設定されていますが、上限額いっぱいを狙って妥当性のない経費を申請すると、不採択になりやすくなるでしょう。
申請内容が明確である
全体を通して、申請内容が明確であることも重要です。
どれだけ実態が優れていても、判断する人に要点が伝わらなければ、不採択になってしまう可能性は十分に考えられます。
申請書を丁寧に作成することは重要ですが、必要な情報は取捨選択し、補助金を受給する価値があることがしっかりと伝わる内容であることを心掛けましょう。
また、現状や今後の展望を述べる場合、実際の数値を用いて計画に具体性を持たせるのも1つのポイントです。
不採択になってしまう原因
事業承継・引継ぎ補助金は、不採択となった理由を原則として公開していませんが、よくある原因はいくつか考えられます。
- 申請の要件を満たしていない
- 申請書類に不備がある
- 申請期限を過ぎている
このような例はもちろんですが、申請内容に何の問題もないにも関わらず不採択になってしまう場合、前述した申請のポイントを押さえられていないことがほとんどです。
そのため、例え時間がかかってしまっても、念入りに準備を進めて一度の申請で採択されることが最も効率的なやり方だといえるでしょう。
また、まとまりのある内容であることに加え、重要度や緊急度の高さを訴求することも重要です。
事業承継・引継ぎ補助金以外の補助金制度
最後に事業承継・引継ぎ補助金以外におすすめの補助金制度を紹介いたします。事業承継・引継ぎ補助金が不採択になってしまった場合や、他の制度についても知っておきたい場合はご確認ください。
- 事業再構築補助金
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
ただし、同一事業においてこれらの補助金制度は基本的に併用できません。どの制度を利用すべきかも合わせて確認しておきましょう。
事業再構築補助金
「事業再構築補助金」は、新型コロナウイルスの影響によって経営が悪化した中小企業の支援を目的とした制度です。
そのため、制度としての根本的な主旨は事業承継・引継ぎ補助金と全く異なりますが、こちらも事業承継において活用することは可能です。
例えば、「事業承継をきっかけに新事業を展開する」といったケースでの利用が考えられます。
前述したように、事業承継・引継ぎ補助金との併用はできませんが、上限額は事業再構築補助金の方が高いため、こちらを活用する方が望ましいこともあるでしょう。
ものづくり補助金
革新的な商品やサービスの開発の支援が目的である「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」。
「革新的」と聞くと、ハードルが高そうに感じられるかもしれせんが、実際は幅広い採択事例があります。
過去には、「従来より品質の高いサービスの提供」といった申請が採択されたケースも少なくありません。
類似する目的で事業承継を行う場合、採択される可能性は十分あるでしょう。
IT導入補助金
3つ目は、「IT導入補助金」です。
こちらも有名な補助金制度の1つであるため、ご存知の方も多いかもしれません。
業務効率化などを目的としたITツール導入費用を支援する本制度ですが、実は事業承継とも関係が深い分野になります。
例として、M&Aで他社を買収した場合、社員の増加や業務の拡大は大いにあり得ることであり、それらを適切に管理していくために新しいツールが必要になることも多いでしょう。
同様の過程で申請するとなれば、IT導入補助金の主旨とも合致しています。
しっかり準備すれば十分採択される可能性がある
採択率が50~60%と比較的高い事業承継・引継ぎ補助金ですが、実際に採択されるのは緻密な計画を練った事業者ばかりです。
各書類など、申請の準備をするだけでも膨大な時間がかかるでしょう。
しかし、念入りに準備しさえすれば、十分に採択される可能性がある制度ということでもあります。
リソースを確保できないという方は、外部の専門家に申請代行を依頼するのも良いでしょう。
事業承継M&Aパートナーズでは補助金の申請などはもちろん、事業承継に関する様々なご相談を受け付けております。
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