組織再編は、会社の組織や形態を編成し直して、経営資源の有効活用や事業強化を図るために有効的な手段です。
経営が厳しくなった企業の企業再生において、組織再編がよく活用されます。

しかし、組織再編において多額の税金が発生することで、思うように進められないという問題もあります。
そこで検討していただきたいのが、組織再編税制の活用です。

本記事では、組織再編税制に関する情報を詳しく解説します。
適格要件や対象となるスキームなども併せて紹介するので、最後までご覧ください。

  1. 組織再編税制とは?
  2. 適格組織再編と非適格組織再編
  3. 組織再編税制の対象となる主なスキーム
  4. 組織再編税制の適格要件
  5. 組織再編税制の適格要件の資本関係による違い
  6. 組織再編税制では繰越欠損金をどう扱う?
  7. 組織再編税制の留意点
  8. 組織再編の際は専門家へご相談を

組織再編税制とは?

組織再編税制とは、組織再編を実施する際に、適格要件を満たすことで税制の優遇措置を受けられる制度です。

企業が組織再編を実施する際、資産や負債も同時に移転しますが、税務上は原則として時価で行われたものとされ、譲渡損益が発生する場合は法人税等が課されます。
その際に多額の税金が発生すると、税負担が障壁となって適切な組織再編が阻害されるということで、2001年(平成13年)に組織再編税制が導入されました。

適格要件を満たして組織再編税制が適用されると、資産・負債を簿価で譲渡したものとして扱い、課税が将来に繰り延べられます。
これによって税負担が軽減され、資金を有効活用することが可能です。

適格組織再編と非適格組織再編

組織再編は、適格要件を満たす「適格組織再編」と、適格要件を満たさない「非適格組織再編」の2つに分けられます。

組織再編税制の適用を受けることができるのは、適格組織再編だけです。
適格組織再編では、資産・負債を簿価で引き継ぐことができるため、簿価と時価に差額がある資産を移動しても譲渡益は発生しません。

一方で、非適格組織再編では資産・負債を時価で引き継ぐため、譲渡益が発生し、それに対して法人税等が課されます。

組織再編税制の対象となる主なスキーム

組織再編税制の対象となる主なスキームは、以下の通りです。

  • 合併
  • 会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転
  • スクイーズアウト
  • スピンオフ

合併

合併とはその名の通り、複数の会社を1つの会社に統合するスキームです。
合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2つの方法があり、いずれも売り手側の法人格は消滅します。

  • 吸収合併:複数の会社のうち1つの会社の法人格を残して合併する
  • 新設合併:複数の会社が新たな会社を設立して合併する

組織再編税制の適用が認められた場合、売り手側の法人とその株主に対する法人税・所得税等が繰り延べられます。

会社分割

会社分割とは、会社を事業ごとに分割して、事業の一部または全部を買い手企業に承継するスキームです。
事業譲渡と混同されやすいですが、会社法上の取扱いや税務面など様々な違いがあり、明確に異なるスキームです。

会社分割には、以下の2つの方法があります。

  • 吸収分割:既存の法人に事業を承継する
  • 新設分割:新たな会社を設立して事業を承継する

組織再編税制の適用が認められた場合、分割した法人とその株主に対する法人税・所得税等が繰り延べられます。

株式交換

株式交換とは、売り手企業の全株式と買い手企業の株式を交換することで、完全親子会社関係を創設するスキームです。
全株式を取得された売り手企業を「完全子会社」、取得した買い手企業を「完全親会社」と呼びます。

組織再編税制の適用が認められた場合、完全子会社の資産の含み損益に関する課税が繰り延べられます。

株式移転

株式移転とは、既存の会社が新規に親会社を設立し、株式を全て取得させるスキームです。
異なる企業同士が生き残りをかけて経営統合を図ったり、企業グループが持株会社を新たに設立して、グループ企業が傘下に入るという企業再編で使われたりします。

組織再編税制の適用が認められた場合、完全子会社の資産の含み損益に関する課税が繰り延べられます。

スクイーズアウト

スクイーズアウトとは、少数株主や特定の株主から、現金を対価として強制的に株式を買い取るスキームです。
少数株主や特定の株主を退出させることで、意思決定を迅速化させたり株主管理コストを削減したりすることを目的として実行されることがあります。

組織再編税制の適用が認められた場合、譲渡損益や時価評価損益に対して発生する法人税が繰り延べられます。

スピンオフ

スピンオフとは、特定の事業部門や子会社を独立させるスキームです。
独立させた後も元の会社との資本関係は維持されたままです。

スピンオフは、不採算部門の切り離しや企業価値向上を図るために用いられることがあります。

組織再編税制の適用が認められた場合、新会社に移転する資産や株主に対するみなし配当に関する課税を繰り延べることができます。

組織再編税制の適格要件

組織再編税制の適用を受けるための適格要件は、以下の通りです。

適格要件 概要
金銭等不交付要件 支配関係がある会社間で、親会社等の株式以外の資産が対価として交付されないこと
支配関係継続要件 組織再編前に支配関係があり、組織再編後にも支配関係の継続が見込まれること
主要資産等引継要件 組織再編対象会社の主要な資産・負債が移転していること
従業者引継要件 組織再編後も概ね8割以上の従業員が、引き続き従事することが見込まれること
事業継続要件 組織再編後も引き続き主要事業の継続が見込まれること
事業関連性要件 組織再編の対象となる会社間で、主要事業が相互に関連するものであること
事業規模要件 両者の売上・従業員数・資本金のうち、いずれかが概ね5倍を超えないこと
特定役員引継要件 組織再編の対象となる会社の特定役員が、組織再編後も事業運営に参画することが見込まれること
株式継続保有要件 組織再編時に交付される株式を継続して保有することが見込まれること
完全親子関係継続要件 組織再編後も完全支配関係が継続することが見込まれること
非支配関係要件 組織再編前に他者による支配関係がなく、再編後も他者による支配関係がないことが見込まれること
按分型要件 株式以外の資産が交付されず、かつ交付が株主の株式保有割合に応じて行われること

全ての組織再編において、上記の適格要件が必須となるわけではありません。
企業間の資本関係によって、対象となる適格要件は異なります。

詳しくは次章で解説します。

組織再編税制の適格要件の資本関係による違い

組織再編税制の適格要件は、次の資本関係の場合でそれぞれ異なります。

  • 完全支配関係の適格要件
  • 支配関係の適格要件
  • 共同事業を行うための組織再編の適格要件
  • 独立して事業を行うための組織再編(スピンオフ)の適格要件

完全支配関係の適格要件

完全支配関係とは、持株比率が100%の状態のことです。
完全支配関係の場合、以下の適格要件を満たす必要があります。

スキーム 合併・株式交換・株式移転 会社分割
適格要件 ・金銭等不交付要件
・支配関係継続要件
・金銭等不交付要件
・支配関係継続要件
・按分型要件

支配関係の適格要件

支配関係とは、持株比率が50%を超えて100%未満の状態のことです。
支配関係の場合、以下の適格要件を満たす必要があります。

スキーム 合併・株式交換・株式移転 会社分割 スクイーズアウト
適格要件 ・金銭等不交付要件
・支配関係継続要件
・従業者引継要件
・事業継続要件
・金銭等不交付要件
・支配関係継続要件
・従業者引継要件
・事業継続要件
・按分型要件
・主要資産等引継要件
・支配関係継続要件
・従業者引継要件
・事業継続要件

共同事業を行うための組織再編の適格要件

元々支配関係がない状態からの組織再編の場合、以下の適格要件を満たす必要があります。

スキーム 合併 株式交換・株式移転 会社分割
適格要件 ・金銭等不交付要件
・従業者引継要件
・事業継続要件
・事業関連性要件
・株式継続保有要件
・事業規模要件または特定役員引継要件のいずれか
・金銭等不交付要件
・従業者引継要件
・事業継続要件
・事業関連性要件
・株式継続保有要件
・完全親子関係継続要件
・事業規模要件または特定役員引継要件のいずれか
・金銭等不交付要件
・従業者引継要件
・事業継続要件
・事業関連性要件
・株式継続保有要件
・按分型要件
・主要資産等引継要件
・事業規模要件または特定役員引継要件のいずれか

独立して事業を行うための組織再編(スピンオフ)の適格要件

スピンオフの場合、以下の適格要件を満たす必要があります。

  • 金銭等不交付要件
  • 従業者引継要件
  • 事業継続要件
  • 主要資産等引継要件
  • 按分型要件
  • 非支配継続要件
  • 特定役員引継要件

組織再編税制では繰越欠損金をどう扱う?

組織再編税制で注目したいのは、適格要件だけではありません。
繰越欠損金の扱いも理解しておきましょう。

繰越欠損金とは、青色申告の承認を受けている場合、ある事業年度で発生した欠損金を翌事業年度以降に繰り越すことができるというものです。
これにより、翌事業年度以降に発生した利益と相殺することができ、課税所得を圧縮することで税負担を軽減することができます。

組織再編によって消滅する会社に繰越欠損金がある場合、税制適格要件を満たす合併であれば繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。

支配関係がなく、共同事業を行うための合併が適格要件を満たす場合は、繰越欠損金を全額引き継ぐことができます。

支配関係がある企業グループの合併の場合、合併事業年度の事業開始日の5年前の日から支配関係が継続していれば、繰越欠損金の承継が可能です。
支配関係の継続期間が条件に満たない場合、みなし共同事業の要件を満たすことで承継できます。

みなし共同事業の場合は、以下の1~4のすべて、もしくは1および5を満たすことで繰越欠損金を承継が可能です。

要件 概要
1.事業関連性要件 組織再編の対象となる会社間で、主要事業が相互に関連するものであること
2.事業規模要件 両者の売上・従業員数・資本金のうち、いずれかが概ね5倍を超えないこと
3.被合併法人の事業規模継続要件 支配関係の発生から合併直前まで相互に関連する事業が継続して営まれており、支配関係発生時点と合併直前における被合併事業規模の割合がおおむね2倍を超えないこと
4.合併法人の事業規模継続要件 支配関係の発生から合併直前まで合併事業が営まれており、支配関係発生時点と合併直前における合併事業の割合がおおむね2倍を超えないこと
5.特定役員引継要件 組織再編の対象となる会社の特定役員が、組織再編後も事業運営に参画することが見込まれること

組織再編税制の留意点

オーナー一族で組織再編成の対象会社の全株式を保有しているような場合は基本的に完全支配関係がありますので、適格要件を満たすのはさほど難しくありません。
しかし、完全支配関係でない場合、支配関係→共同事業の順に満たすのが難しくなっていきます。

適格要件を満たしているかどうかの判定も厳格で、適格組織再編になるように努力をしていても、非適格組織再編と判定されることも珍しくありません。
過去には適格として申告した組織再編が否認され、巨額の追徴課税が発生した事例も存在します。

そのため、組織再編税制を活用する際は、税理士等の専門家の力を借りて組織再編を進めるようにしましょう。
努力が水の泡にならないよう、慎重に組織再編を進めてください。

組織再編の際は専門家へご相談を

組織再編税制について詳しく解説してきました。

組織再編税制は、組織再編を実施した際に発生する税負担を将来に繰り延べられる税制で、組織再編を後押しするための制度です。
企業の立て直しや経営資源の有効活用を図る際、組織再編税制を活用して組織再編を実行することで、多額の税負担を軽減することが可能です。

しかし、厳しい適格要件を満たさなければ適格組織再編に認められず、組織再編税制による優遇措置を受けることはできません。
税理士等の専門家の力を借りて、慎重に組織再編を進めましょう。

名古屋事業承継センターでは、組織再編の支援サービスを行っております。
貴社の状況に合わせた最適なスキームを選定し、適格要件を満たしながら組織再編を行い、優遇措置が受けられるようにサポートいたします。

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