中小企業の事業承継を後押しする制度として、事業承継税制というものがあります。
事業承継における税負担を軽減することで、事業承継を促進するための制度です。
しかし、事業承継税制には厳しい要件が定められており、活用が難しいという声も。
そこで、政府は時限的な制度として、事業承継税制の特例措置を2018年(平成30年)1月1日から施行しています。
事業承継税制の特例措置を受けるためには、特例承継計画を提出しなければなりませんが、その提出期限を延長するという方向性が2023年(令和5年)12月22日に閣議決定されました。
本記事では、特例承継計画の提出期限が延長されたことについて詳しく解説します。
注意点や提出の流れも紹介するので、最後までご覧ください。
特例承継計画とは?
まず初めに、特例承継計画がどういうものなのかについて説明します。
特例承継計画とは、事業承継税制の特例措置の適用を受けるために、後継者に承継するまでの経営課題や、後継者が承継してからの経営計画を策定したものです。
特例承継計画を策定し、経営承継円滑化法の認定を受けるための申請書に添付して、管轄の都道府県に提出する必要があります。
特例承継計画を提出しなければ、事業承継税制の特例措置を受けることはできません。
しかし、特例承継計画を提出したからといって事業承継税制を活用しなければならないという義務もないです。
そのため、将来的に事業承継税制の適用を受ける可能性が少しでもあるのであれば、ひとまず提出しておくことをおすすめします。
なお、事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには様々な要件がありますが、特例承継計画を提出する際に全ての要件を満たしておく必要はありません。
事業承継税制の特例措置とは?
事業承継税制には、恒久的な制度である「一般措置」と、時限的な制度である「特例措置」があります。
一般措置は2009年(平成21年)の税制改正により創設されましたが、「適用要件が厳しい」「使い勝手が悪い」という意見が上がり、実際に活用される事例は多くありませんでした。
これでは本来の目的である円滑な事業承継が進まないということで、2018年(平成30年)の税制改正で導入されたのが、特例措置です。
特例措置は、一般措置の制約や使い勝手の悪さをほぼ解消した画期的な措置として知られており、主に以下の違いがあります。
一般措置 | 特例措置 | |
対象株数 | 総株式数の2/3まで | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与:100% 相続:80% |
贈与:100% 相続:100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
緩和 (正当な理由があれば納税猶予を継続) |
対象株数や納税割合が拡大したことで、要件を全て満たせば事業承継に関する課税が全額猶予されることになります。
最も厳格といわれ、ハードルが高いとされていた雇用確保要件も緩和され、平均8割を下回っても正当な理由があれば納税猶予を継続することが可能です。
特例承継計画の提出期限が2年延長
事業承継税制の特例措置は時限的な制度のため、特例承継計画の提出期限が定められています。
2023年(令和5年)12月22日、政府が令和6年度税制改正の大綱を閣議決定したことで、「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度」の特例承継計画、および「個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」の個人事業承継計画の提出期限が、下記の通りそれぞれ2年延長されます。
改正前 | 改正後 | |
特例承継計画(法人) | 2024年(令和6年)3月31日 | 2026年(令和8年)3月31日 |
個人事業承継計画(個人) | 2024年(令和6年)3月31日 | 2026年(令和8年)3月31日 |
特例措置の実行期限は延長されない点に注意
税制改正によって、特例承継計画の提出期限は延長されましたが、事業承継計画等に基づく相続・贈与の実行期限は延長されないことに注意しなければなりません。
事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、2027年(令和9年)12月31日までに贈与・相続を実行する必要があります。
つまり、特例承継計画を提出期限ギリギリで提出した場合、実行期限までわずか1年9ヵ月しか時間が残されていません。
事業承継は、後継者の育成や諸手続きに長い期間が必要です。
特例承継計画の提出期限が延長されたからといって先延ばしにするのではなく、スケジュールに余裕を持って準備を進めましょう。
特例承継計画提出までの流れ
特例承継計画を提出するまでの流れは、以下の通りです。
- 特例承継計画を策定する
- 認定経営革新等支援機関による指導・助言を受ける
- 特例承継計画と添付書類を都道府県庁へ提出する
1.特例承継計画を策定する
まずは特例承継計画を策定します。
特例承継計画を記載する書類はフォーマットがあり、中小企業庁のホームページから入手することが可能です。
参考:法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類
記載事項は、以下の通りです。
- 会社の基本情報(会社名、所在地、事業内容など)
- 特例代表者の氏名(事業承継税制の適用を受けて事業を承継させる人)
- 特例後継者の氏名(事業承継税制の適用を受けて事業を承継する人)
- 特例後継者が株式を取得するまでの経営上の課題と対応
- 特例後継者が株式を取得したあと5年間の経営計画
特例承継計画を提出する際には、後継者を選定しておく必要があります。
3の項目に記載されなかった人は、事業承継税制の適用を受けることができないので、慎重に検討しましょう。
4と5の項目に関しては、現実的で合理性のある内容を記載しなければ、今後の手続きでつまずくことになるでしょう。
専門知識を持った第三者に客観的な意見を求めながら、計画を策定することを推奨します。
2.認定経営革新等支援機関による指導・助言を受ける
特例承継計画を策定したら、その計画を認定経営革新等支援機関に提出し、内容について指導・助言を受ける必要があります。
その際、特例承継計画の別紙に、指導・助言を受けた機関の名称や年月日、内容等を記載してもらいます。
認定経営革新等支援機関とは、税務や金融、企業財務に関する専門知識や実務経験がある一定レベル以上の支援機関です。
自社に顧問税理士がいれば、その税理士が認定経営革新等支援機関に該当する可能性があるので、一度尋ねてみるとよいでしょう。
もし身近に該当する機関がなければ、中小企業庁の「認定経営革新等支援機関検索システム」を使うことで、都道府県別に検索することができます。
また、事業承継M&Aパートナーズを運営している株式会社MACコンサルタンツ・MAC&BPミッドランド税理士法人も、認定経営革新等支援機関ですので、ぜひお問い合わせください。
3.特例承継計画と添付書類を都道府県庁へ提出する
特例承継計画について認定経営革新等支援機関から指導・助言をもらったら、添付資料と共に会社の主たる事業所がある都道府県へ提出しましょう。
下記の書類を同封して都道府県庁に郵送します。
- 認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた後の特例承継計画2部(原本と写し)
- 履歴事項全部証明書の原本(申請の3ヵ月以内に取得したもの)
- 返送先を記入した返信用封筒(定形外封筒)
履歴事項全部証明書は、全国にある法務局窓口またはオンラインで請求することができます。
オンライン請求は窓口まで出向く必要がなく、手数料も窓口より安いため、オンライン請求がおすすめです。
特例承継計画の作成は専門家へご相談を
特例承継計画の提出期限が、2024年(令和6年)3月31日から2年延長され、2026年(令和8年)3月31日までになりました。
これにより、特例措置を受けられる機会が拡大したため、将来的に事業承継を考えているのであれば、この機会を逃さず事業承継の計画を立てましょう。
しかし、特例措置の実行期限は延長されていません。
2027年(令和9年)12月31日までに、贈与・相続を実行しなければ特例措置が適用されないということに注意しましょう。
特例承継計画の策定は、専門家に相談して進めることがおすすめです。
事業承継M&Aパートナーズは、特例承継計画のみならず、事業承継全般の専門知識を持ったコンサルタントが、貴社の事業承継を丁寧にサポートさせていただきます。
初回相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。