M&Aを成功させるためには、計画を立てる段階から戦略を立てて臨むことが重要です。
戦略がしっかり定まっていなければ、途中で目的が曖昧になったり、妥協すべきではない点を妥協してしまったりして失敗に終わるリスクがあります。

本記事では、M&Aの成功に欠かせない「M&A戦略」について詳しく解説します。
M&Aを検討している経営者の方は、ぜひ本記事を参考にしてM&A戦略の策定に取り組んでみてください。

  1. M&A戦略とは?
  2. M&A戦略はなぜ重要なのか
  3. M&A戦略の基本的なフロー
  4. M&A戦略策定の注意点とM&A成功のポイント
  5. M&A戦略の策定に役立つ3つのフレームワーク
  6. M&A戦略を策定してM&Aを成功させましょう

M&A戦略とは?

M&A戦略とは、M&Aの目的を達成するための戦略のことです。
M&Aを行う目的は企業によって様々ですが、最終的には自社が抱える課題を解決するために行います。

何の戦略もないままM&Aを行ってしまえば、M&Aが実施できたとしても経営戦略における最終的な目的が達成できない可能性があります。
そのため、M&A戦略が今後の企業の成功のカギを握っていると言っても、過言ではありません。

M&A戦略は、M&A実施後の未来を見据えたうえで策定することが大切です。
事業再建、領域拡大、事業承継など、それぞれの企業が持つ最終的な目的を達成するためには、綿密なM&A戦略が必要になります。

M&A戦略はなぜ重要なのか

M&A戦略を策定することは、なぜ重要なのでしょうか。
売却側、買収側から見たM&A戦略の重要性を、それぞれ解説します。

売却側から見たM&A戦略の重要性

売却側の場合、例えば次のような目的でM&Aを行うことがあります。

  • 後継者問題を解決する
  • 不採算事業を整理する
  • 会社を譲渡して売却益を得る

これらの目的を達成するためにはM&Aが有効的ですが、適切な売却先やスキームを選定しなければ、M&Aが成立しなかったり不利な条件になったりする可能性があります。

例えば、不採算事業を整理するといっても、その事業部に所属する従業員を守ることが目的なのか、自社が利益を得ることが目的なのかを見失ってしまうと思うような結果が得られないでしょう。

ただ闇雲にM&Aを行っても、良い条件でM&Aを進められなかったり、M&Aによって課題を解決することができなかったりするため、戦略を立てることは非常に重要なのです。

買収側から見たM&A戦略の重要性

買収側がM&Aを行う目的として、具体的には以下のようなケースが挙げられます。

  • 事業を拡大させたい
  • 関連事業のシナジー効果を得たい
  • 新たな事業を始めたい

上記のような目的があってM&Aを実施したとしても、戦略がなければ逆に自社の経営を圧迫してしまうリスクが大きくなってしまいます。
「シナジー効果を見込んで買収したが思うように機能しなかった」「事業規模は大きくなったが利益率が減少してしまった」など、思うような成長が見込めない可能性があります。

M&Aによって買収するということは、会社にとっては大きな投資となります。
投資金額を回収することはもちろん、それ以上の成長を見込むのであれば、必ずM&A戦略を策定してから実行に移しましょう。

M&A戦略の基本的なフロー

M&A戦略の基本的なフローは、以下の通りです。

  1. 自社を分析する
  2. 市場を調査する
  3. M&Aの目的を明確にする
  4. シナリオプランニングを行う
  5. M&A候補企業を検討する
  6. 自社の財務や会計を踏まえて最終確認する
  7. 相手先企業へアプローチする

1.自社を分析する

M&A戦略の第一歩が、自社の状況を分析することです。
自社の経営資源や財務状況の整理、事業の将来性や懸念点、今後想定されるリスク等を分析します。

自社の現状を明確にしなければ、根本の課題を突き止めることができず見当違いな目的や手段を選んでしまう可能性があります。
自社を分析する際は、以下のフレームワークを用いて客観的に評価してみると良いでしょう。

  • SWOT分析:自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」に分けて分析する手法
  • PPM分析:市場成長率と市場占有率を計算して事業の将来性を見極める手法
  • VRIO分析:「経済的な価値」「希少性」「模倣の可能性」「組織」の4項目で経営資源を評価する手法

自社の分析をする際は、希望的観測から適切な評価ができていない可能性があります。
複数のフレームワークを用いたり、第三者の意見を取り入れるなどして、客観的な評価をしながら分析を進めることを意識しましょう。

2.市場を調査する

M&Aを成功させるためには、自社の状況だけではなく市場についても調査することが必要です。
市場規模や商品のニーズ、競合の存在や業界の将来性など、自社を取り巻く状況は日々変化しています。

シナジー効果を期待する同業種のM&Aであれば、同じ業界の市場調査を行えば良いので比較的多くの情報が得られやすいでしょう。
しかし、新規参入を目指したM&Aの場合、異業種の市場調査を行わなければならないため、中々有効な情報が得られないかもしれません。

市場調査が自社で困難な場合は、専門の業者に依頼することも可能なので検討してみましょう。

3.M&Aの目的を明確にする

自社の現状と市場を分析できたら、自社が抱える課題の根本と業界の動向が見えてくるので、それをもとにM&Aの目的を明確にしましょう。
そもそも、M&Aを実施することが課題を解決することに繋がるのかというところから議論する必要があります。

M&Aの実行が課題を解決することに繋がると判断したのであれば、M&A実施後に会社はどういう状態になっていることが理想的なのかを明確にします。
「後継者問題を解決したいが、従業員の雇用も守りたい」「できるだけ多くの売却益を得て残存事業に投資したい」など、M&A後の会社の状態まで考えることが重要です。

自社の現状と業界の動向を加味したうえで、M&Aの目的を明確に定めましょう。

4.シナリオプランニングを行う

シナリオプランニングとは、5~10年後の中長期的な目線で、今後起こり得る結果を複数想定し、将来の不確実性に対応するためのプランを策定したり検証することです。

M&Aは、成立したらゴールではありません。
むしろそこからが本当の試練だといえるでしょう。

M&Aを実施したことによって起こり得る様々なシナリオを想定しておくことで、今からできる対策を練ったり、リスクを回避したりすることができます。
長い目で見た時に会社へ利益をもたらすことができるように、複数のシナリオを策定して意思決定に役立てましょう。

5.M&A候補企業を検討する

いよいよM&Aの実行に向けて本格的な動きが始まります。
M&Aの候補企業をリストアップして、どの企業にアプローチするか検討しましょう。

これまでの分析やプランをもとに、自社にとって最適と思われる候補企業を複数リストアップします。
候補企業を見つけるには、具体的に以下の方法があります。

  • M&Aマッチングプラットフォームを利用する
  • 金融機関に相談する
  • 専門家に依頼する

近年、M&A市場が活発になっていることから、M&Aのマッチングプラットフォームには多くの事業者が登録しています。
希望する条件の企業はなかなか見つけられないこともありますが、案件数が非常に豊富なのが特徴です。

金融機関は、様々な会社の経営状況を把握していることが多いです。
経営者との付き合いも多いため、M&Aによって買収や売却を検討している方は、金融機関の担当者に相談してみると良いでしょう。

最もリスクがなく、自社の希望に沿った候補企業を見つけやすいのが、専門家に相談することです。
M&A仲介業者や、事業承継に精通した税理士など、専門知識や業界の繋がりがある専門家に依頼すれば、適切な候補企業を紹介してくれるでしょう。

名古屋事業承継センターも事業承継のプロ集団として、最適なM&Aを実現するための候補企業をご紹介いたします。
候補企業をお探しの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

6.自社の財務や会計を踏まえて最終確認する

候補企業のリストアップを終えれば、アプローチ前に自社の財務状況や会計状況を踏まえて最終確認を行います。
特に、買収企業はのれんの取扱いに注意しなければなりません。

のれんとは、財務諸表には表れない、ブランドやノウハウ、従業員や顧客情報といった無形の経営資源のことです。
会計上は純資産にのれんを加算し、M&A後は最大20年かけて償却します。

しかし、M&A実施後に買収した事業や会社全体の業績が事業計画よりも悪化した場合は、のれんの減損処理を行わなければなりません。
のれんの減損処理は事実上のM&A失敗を意味し、税務上は損金として認められないケースが多いことから、このような事態にならないように自社の財務や会計を点検しておくことが必須です。

7.相手先企業へアプローチする

リストアップした候補企業にアプローチをかけ、実際の交渉に入ります。
リストアップした企業の中から、優先順位が高い企業から順にアプローチをかけていき、交渉に臨みましょう。

相手先企業にアプローチする手段は、主に以下の2つです。

  • 直接的に接触する
  • 専門業者に仲介してもらう

直接的に接触を図ることは、交渉をスピーディーに進められたり機密情報を当事者間だけで共有できたりするというメリットがあります。
しかし、とても負担が大きい手段でもあり、相手企業との規模の違いや相手先の面目などに対する配慮が必要です。
直接交渉するとなると、トップクラス同士の面談が必要になるため、双方の都合をつけることも一苦労でしょう。

そのため、直接交渉は元々トップ同士が知り合いで気心が知れていたり、企業間で深い交流がある場合などに限られるでしょう。

専門業者に仲介してもらう場合、専門知識を持ったプロの業者に依頼できるので、交渉ノウハウを持っていたり、随時アドバイスをもらえるというメリットがあります。
交渉がある程度進むまでは自社の名前を伏せた状態でアプローチすることも可能で、機密情報が漏洩するリスクも少ないでしょう。

スムーズに交渉を進めるためには、専門的な知識や経験が豊富な専門業者に依頼することをおすすめします。

M&A戦略策定の注意点とM&A成功のポイント

M&Aを成功させるためには、以下の注意点とポイントを押さえてM&A戦略を策定しましょう。

  • 最後まで目的を一貫する
  • リスクやデメリットの対策をする
  • 専門家に相談しながら進める

最後まで目的を一貫する

M&Aを成功させるためには、最終的に達成したい目的を最後まで一貫することが重要です。
本来の目的を見失ってしまえば、M&Aが実行できたとしてもその後の会社の成長に貢献できない可能性が高まります。

M&Aはあくまで手段であり、目的ではありません。
M&A実行を目的にしてしまうと、妥協してはいけない点で妥協してしまい、最終的に達成したい会社の状態を実現できないかもしれません。

目的を最後まで見失わず、一貫してM&Aを進めましょう。

リスクやデメリットの対策をする

M&Aでは、売却側も買収側もリスクやデメリットが存在します。
全ての条件がお互いにとってWin-Winで終わるM&Aは非常に稀でしょう。

どちらの立場にいても、交渉中やM&A成立後にどのようなリスクやデメリットが存在するかをしっかり想定しておかなければいけません。
そして、起こり得るリスクに備えて対策を講じる必要があります。

M&Aによるメリットだけでなく、リスクやデメリットも十分に理解したうえで進めましょう。

専門家に相談しながら進める

M&Aは、自社の分析から始まりM&A成立まで非常に長い時間と多くの労力が必要になります。
加えて、高度な専門知識も必要となるため、仕事の片手間でやり切ることは困難でしょう。

せっかく多くの時間と労力をかけたのに、思うようにM&Aの計画が進まず、失敗に終わればこれまでの苦労も水の泡です。
そのような事態に陥る前に、専門家の力を借りることを検討してみましょう。

専門家に依頼したからといって、必ず成功するわけではありませんが、その確率は格段に上がります。
専門家はこれまでの知識や経験から様々なリスクに対して対応できますし、第三者として冷静な判断ができます。

計画の遂行もスムーズに進められ、自力で進めるよりも短期間でM&Aを成立できるかもしれません。

M&A戦略の策定に役立つ3つのフレームワーク

最後に、M&A戦略を策定する際に役立つ3つのフレームワークをご紹介します。

  • バリュー・チェーン分析
  • マイケル・ポーターの競争戦略
  • アンゾフの成長マトリックス

バリュー・チェーン分析

バリュー・チェーン分析とは、自社の事業を工程ごとに分析し、どの工程でどのような価値が生み出されているのかを分析する手法です。
具体的には、以下のように事業を分解し、それぞれの収益を算定します。

  • 原材料調達
  • 製造・加工
  • 出荷・物流
  • 販売
  • サポート・サービス

これらのどの段階で、どれほどの価値が生み出され、どれくらいの利益が得られるかを算定します。
バリュー・チェーン分析を行うことで、自社の強み・弱みを明らかにして課題や改善点を見つけることが可能です。

マイケル・ポーターの競争戦略

マイケル・ポーターの競争戦略とは、どのように競合よりも優位性を高めてビジネスを成功させるかについての考え方で、以下の3つの基本戦略に分けられます。

  • コストリーダーシップ戦略:必要なコストを最も少なくすることで競合より安価で提供することが目標の戦略
  • 差別化戦略:他社とは違う特別なものにすることで、顧客に選ばれやすくする戦略
  • 集中戦略:特定の市場や顧客のグループに絞って、特定のニーズに合ったものを提供する戦略

これらの戦略はビジネスを成功に導くための考え方の一部であり、上手に活用することで競争優位性を高めてビジネスを展開することが可能です。

アンゾフの成長マトリックス

アンゾフの成長マトリックスとは、経営環境が変化する中でどのように事業を成長させるべきかを検討する際に用いられるフレームワークです。
成長戦略を「製品」と「市場」の2軸で考え、さらに「既存」と「新規」の2軸に分けて検討します。

既存製品 新規製品
既存市場 市場浸透戦略 新製品開発戦略
新規市場 新市場開拓戦略 多角化戦略

このフレームワークを使って分析することで、自社がどの方向にビジネスを拡大するべきか、どのような成長戦略を立てるべきかを考えることができます。
自社の強みや市場の状況を反映し、どの製品をどの市場に売り出すかを決める際に役立つでしょう。

M&A戦略を策定してM&Aを成功させましょう

M&A戦略について詳しく解説しました。

M&Aを成功させ、会社の成長を促進するためにはM&A戦略が非常に重要になってきます。
M&A戦略を策定する際は、適宜専門家の力を借りながら進めることで、スムーズかつより確実に戦略を立てることができるでしょう。

名古屋事業承継センターでは、M&A戦略の策定だけでなく、M&A全般をサポートいたします。
M&Aをはじめとした事業承継のプロ集団が、ビジネスの成長を促進するM&Aを全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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