2006年の会社法改正を受けて新しく設立できるようになった合同会社ですが、年々その数を増やしており、2020年には初めて設立件数が33,000社を超えました。
株式会社とはあらゆる面で仕組みが違うこともあり、合同会社でもM&Aで売却することができるのか気になる方もいるでしょう。
本記事では、合同会社のM&Aについて詳しく解説します。
合同会社を売却することが難しいと言われている理由や、具体的な売却手法についても解説するので、最後までご覧ください。
合同会社と株式会社の違いをおさらい
合同会社とは、出資者が社員と呼ばれ、社員が経営や業務執行権を有する法人形態です。
会社と言えば株式会社が一般的ですが、会社法では持分会社という法人も定められています。
合同会社は持分会社の一種で、他にも「合名会社」「合資会社」があります。
合同会社は、2006年の会社法改正を受けて有限会社の代わりにできた法人形態であり、原則として小規模な会社を想定して定められました。
そのため、株式会社より設立の費用や手間がかからず、比較的柔軟に経営できることが大きな特徴です。
合同会社と株式会社の最も大きな相違点は、所有と経営が分離されているかどうかという点です。
株式会社は株式で出資を募り、会社を所有しているのは株主で経営者は取締役となります。
基本的には、株主と取締役は別であることから、会社の所有者と経営者は分離されています。
一方で合同会社は、出資した人のことを「社員」と呼び、会社の所有者であると同時に経営も行います。
つまり、会社を所有する者が経営も行うことになるので、所有と経営が分離されていません。
補足ですが、合同会社の社員は株式会社の従業員を意味する社員とは別の概念です。
その他にも両者には細かな違いがあるので、代表的なものを以下の表にまとめます。
株式会社 | 合同会社 | |
出資者の呼び方 | 株主 | 社員 |
経営の主体 | 取締役 | 原則社員全員 (定款で業務を執行する社員を定めることも可能) |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会 |
設立費用 | 約25万円 | 約10万円 |
設立時の手続き | 煩雑 | 容易 |
合同会社のM&Aは可能なのか?
結論から申し上げると、合同会社でもM&Aで売却することは可能です。
会社法では、M&Aに関して会社形態について制限を設けていません。
つまり、株式会社と同様のルールが適用されるので、事業譲渡や持分譲渡による経営権の移転が可能です。
しかし、株式会社と比較すると合同会社を売却することは容易ではありません。
合同会社がM&Aで売却することが困難な理由
合同会社がM&Aで会社を売却することが難しい理由は、主に以下の4つです。
- 社員全員の同意がなければ持分譲渡できない
- 社員の過半数の同意がなければ事業譲渡できない
- 株式会社への組織変更が難しい
- 合同会社を買収するメリットが少ない
社員全員の同意がなければ持分譲渡できない
原則として、社員全員の同意がなければ、持分の全部または一部を譲渡することができません。
持分とは、合同会社の出資者としての議決権や配当請求権のことを指します。
基本的に合同会社は少数での経営を想定しているため、持分譲渡のハードルは高く設定されています。
社員数が多くなればなるほど、持分譲渡に反対する社員が出てくる可能性が高くなるため、持分譲渡による売却は難しいと言えるでしょう。
社員の過半数の同意がなければ事業譲渡できない
事業譲渡する場合でも、社員の過半数の同意が必要です。
持分譲渡は社員全員の同意が必要であるため、持分譲渡と比較するとハードルが低いですが、規模の大きな会社であれば過半数の同意を得ることも難しいでしょう。
過半数の同意を得るために社内調整のための時間が必要となり、容易には進められません。
株式会社への組織変更が難しい
合同会社のままでは売却することが難しいとなれば、株式会社に変更してからM&Aによって売却するという方法も考えられます。
この手法で売却することは可能ですが、合同会社を株式会社に変更するためにも社員全員の同意が必要です。
つまり、持株譲渡することと比べても難易度が下がるわけではありません。
ただし、合同会社よりも株式会社のほうが買い手にとってメリットになることが多いので、あらかじめ株式会社に変更しておくと、後に売却する際に有利に働く可能性もあります。
合同会社を買収するメリットが少ない
買い手側からすれば、わざわざ合同会社を買収するメリットが少ないことから、そもそも買い手が見つかりにくいというのも、合同会社を売却することが困難な理由の1つです。
合同会社を買収するくらいなら、似た業態の株式会社を買収した方が買い手からするとメリットが多いです。
合同会社は、株式会社と比較すると社会的認知度が低いため資金調達が難しい傾向があります。
株式を発行することができないため、会社の規模が大きくなってきたとしても上場できません。
上記のように、株式会社と比較したときに買い手にとってメリットが少ないということが、合同会社の売却を困難にしています。
合同会社を売却する4つのM&Aスキーム
売却が難しい合同会社ですが、主に以下の4つの手法によって売却することができます。
合同会社のまま事業譲渡
1つ目に挙げられるのが、合同会社のまま事業譲渡する手法です。
事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を他社に売却することを指します。
会社の全てではなく、特定事業を選んで売却することが可能で、会社全体を売る持分譲渡と比較すると社員の同意を得やすいため、合同会社の売却では最も一般的な手法です。
持分譲渡では社員全員の同意が必要ですが、事業譲渡は過半数の同意があれば実行できるため、持分譲渡よりもハードルが低く実行しやすいです。
合同会社のまま持分譲渡
規模の大きな合同会社ではハードルが高いと言えますが、包括的な売却手法として一般的なのが合同会社のまま持分譲渡するという手法です。
持分譲渡による売却が困難な理由は社員全員の同意を得ることなので、社員が1人の場合や社員が少数で全員の同意が得られることが明白であれば、有力な選択肢になるでしょう。
持分譲渡は、株式会社でいう株式譲渡にあたる手法なので、手続きの流れは同じです。
社員全員の同意を得て持分譲渡契約を締結し、クロージング後に登記変更して持分譲渡が完了します。
株式会社に変更して株式譲渡
合同会社の売却が難しい理由でもお伝えした通り、株式会社と比較すると合同会社を買収するメリットが少ないため、買収先が見つからない可能性が十分にあります。
合同会社のままでは買い手が見つからず売却が難しい場合、株式会社に会社形態を変更してから株式譲渡する方法が有効的な手段と言えるでしょう。
株式会社に変更するためには社員全員の同意が必要になりますが、会社を売却することに全員が賛成ならば、こちらの手法がおすすめです。
合同会社よりも株式会社の方が買い手側からすればメリットが大きいため、買い手が見つかりやすくなったり、売却金額が高額になったりと有利に売却を進められるでしょう。
吸収合併
吸収合併の手法を活用することで、合同会社を売却することもできます。
吸収合併の場合、売却側の法人格が消滅するという点に注意が必要ですが、株式会社との合併も可能です。
消滅する会社が合同会社、存続する会社が合同会社のどちらのパターンでも吸収合併ができ、対価として買い手から売り手に対して現金等の対価が支払われることになります。
事業譲渡で合同会社を売却するメリット
合同会社の売却で最も一般的に用いられているのが、合同会社のまま事業譲渡する手法です。
事業譲渡で合同会社を売却するメリットは、以下の通りです。
- 他の手法よりもハードルが低い
- 売却する事業を選択できる
他の手法よりもハードルが低い
持分譲渡や株式会社に変更して株式譲渡するといった他の手法よりも、合同会社のまま事業譲渡する方がハードルが低いです。
持分譲渡や株式会社への変更は社員全員の同意が必要ですが、事業譲渡であれば社員の過半数の同意があれば実行することができるので、比較的容易にできると言えます。
買い手の立場からしても、持分譲渡や株式譲渡で買収する場合、簿外債務を負うリスクがあるので、他の手法よりも事業譲渡の方が安心して取引できるというメリットがあります。
売却する事業を選択できる
持分譲渡や株式譲渡の場合、会社の経営権そのものを譲渡することになるため、事業の全てを一括して譲渡しなければなりません。
しかし、事業譲渡であれば自社で売却したい事業を決めて、その事業だけを売却することが可能です。
会社の中でも黒字事業と赤字事業があり、赤字事業が経営を圧迫しているのだとしたら、赤字事業だけ事業譲渡で切り離すことができます。
そうすることで会社の経営状況は改善され、財務基盤を強化することにも繋がるでしょう。
買い手の立場からしても、不要な資産を引き継ぐ必要もなく、簿外債務を背負うリスクもないというメリットがあります。
事業譲渡で合同会社を売却するデメリット
事業譲渡で合同会社を売却することには多くのメリットがある一方で、以下のデメリットに注意が必要です。
- 資産や権利義務を移転する手続きが複雑である
- 事業譲渡後に負債が残る可能性がある
資産や権利義務を移転する手続きが複雑である
持分譲渡や株式譲渡と違い、事業譲渡では資産や権利義務を個別に移転させる必要があるため、手続きが煩雑になります。
従業員の雇用についても、従業員1人一人に個別で確認しなければならず、時間がかかるでしょう。
移転する資産や負債が多岐に渡る場合、事業譲渡を用いることが難しいケースがあります。
認許可を引き継ぐこともできないため、買い手は新たに取得しなければなりません。
買い手側は認許可の取得が間に合わなければ、事業譲渡は締結できたのにすぐに事業を開始できないというリスクがあります。
上記のようなことを考慮すれば、社員が少ない合同会社で持分譲渡ができるのであれば、事業譲渡よりも持分譲渡の方が両者にとってメリットがあるでしょう。
事業譲渡後に負債が残る可能性がある
事業譲渡は包括承継ではないため、売り手と買い手の双方が合意した資産・負債のみが譲渡対象として引き継がれます。
買い手側としてはもちろん、不要な資産は引き継ぎたくないと考えるため、事業譲渡後に売り手側に負債が残ってしまう可能性があります。
買い手側から受け取る売却益で負債を弁済できれば問題ありませんが、売却益に対して30%程度の法人税と、消費税の課税資産の対価の額に対して10%の消費税が課されることも考慮しなければなりません。
事業譲渡を行う際は、実行後の財務状況についてシミュレーションしておくことが重要です。
合同会社のM&Aは専門家へご相談を
合同会社を売却することは、合同会社ならではの様々な理由があり困難です。
しかし、決して売却することができないわけではないので、もし売却を検討しているのであれば専門家に相談してみることをおすすめします。
事業承継M&Aパートナーズでは、合同会社をはじめあらゆる会社形態の事業承継・M&Aの支援サービスを提供しております。
具体的な要件が決まっていなくても構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。
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