会社の重要事項を決定する場である株主総会ですが、決議事項によって決議方法がそれぞれ分かれています。
その中の1つに特別決議という決議方法があり、一部のM&Aの実行や会社の解散などの決議は、特別決議によらなければ成立しません。

本記事では、株主総会の特別決議について詳しく解説します。
その他の決議方法との違いや決議事項、知っておきたいポイントなども併せて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

  1. 株主総会の特別決議とは?
  2. 株主総会の3つ決議方法と要件
  3. 特別決議が必要になる決議事項
  4. 特別決議で知っておきたいポイント
  5. 特別決議は書面決議も可能
  6. 特別決議でM&Aが不成立になりそうな場合の対処法
  7. 特別決議に向けて万全の準備を

株主総会の特別決議とは?

特別決議とは、株式会社の株主総会の決議方法の1つで、通常の議案よりも重要度が高く株主に大きな影響を及ぼす事項について決議を採る場合に用いられる決議方法です。
原則として、議決権の過半数を有する株主が出席、かつ、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成をもって決議されます。

普通決議と比較すると決議されるための要件が厳しく設定されているため、決議されることは容易ではありません。
特別決議の要件が厳しくされているのは、企業の経営方針や重要な企業行為に関する決定を、多数の株主の賛同を得て行うことで、安定的な経営を目指すためです。

その他の決議方法や決議要件などは、次章で詳しく説明します。

株主総会の3つ決議方法と要件

株主総会によって決議する事項は数多く存在しているため、会社法でそれぞれの重要度合いによって決議要件が設定されています。
株主総会に出席する株主の割合(定足数)と、決議に投じられる議決権の割合(表決数)によって、株主総会は以下の3つの決議方法に大別されます。

  • 普通決議
  • 特別決議
  • 特殊決議

なお、会社法では決議事項によって決議方法が定められています。
会社法で定められている正しい決議方法を履行しなかった場合は、総会決議取消しの訴えが認められて決議が取り消されることになるので、注意が必要です。

定足数 表決数
原則 定款による変更 原則 定款による変更
普通決議 行使できる議決権の過半数 出席株主の議決権の過半数 不可
特別決議 行使できる議決権の過半数 1/3以上の割合を定めることも可 出席株主の議決権の2/3以上 2/3以上の割合を定めることも可
特殊決議 なし ①議決権を行使できる株主の半数以上(頭数要件)かつ、
①当該株主の議決権の2/3以上
①について、半数を上回る割合を定めることも可
②について、2/3を上回る割合を定めることも可

普通決議

普通決議とは、株主総会において最も一般的な決議方法で、後述する特別決議や特殊決議に該当しない決議事項は、原則として普通決議によって決議されます。
会社法309条1項では、定款に定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成をもって決議されると定められています。

普通決議を成立させるためには、出席要件である「定足数」と決議要件である「表決数」の2つを満たさなければなりません。
以下は、決議されるために必要な定足数と表決数の例です。

定足数:行使できる株式が10,000株の場合、5,001株以上の議決権を有する株主が出席
表決数:出席株主の議決権が5,001株の場合、2,501株以上の議決権を有する株主が賛成

普通決議の決議事項としては、主に以下のものが挙げられます。

  • 役員の選任・解任
  • 自己株式の取得
  • 剰余金の配当
  • 役員報酬の決定

特別決議

特別決議とは、経営の根幹に関わるような重要事項を決定する際に行われる決議方法です。
株主に対しても大きな影響を及ぼす事項を決議するため、普通決議よりも厳しい要件が定められています。

会社法309条2項では、定款の定めがある場合を除き、議決権を行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成をもって決議すると定められています。
定款を変更することで、定足数を変更することができますし、表決数をさらに厳しくすることも可能です。

以下は、定款の定めがない場合に決議に必要な定足数と表決数の例です。

定足数:行使できる株式が12,000株の場合、6,001株以上の議決権を有する株主が出席
表決数:出席株主の議決権が6,001株の場合、4,001株以上の議決権を有する株主が賛成

特別決議が必要となる決議事項については、次章で詳しく解説します。

特殊決議

特殊決議とは、極めて特殊な事項を決議する場合に用いられる決議方法です。
特殊決議には、定足数の要件はありませんが表決数の要件が特別決議よりも厳しくなっており、圧倒的な賛成が要求されます。

会社法309条3項では、定款の定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の半数以上、かつ、当該株主の議決権の2/3以上の賛成をもって決議すると定められています。
さらに、非公開会社が株式の権利に関する権利について株主ごとに異なる取扱いを定める定款変更を行う場合は、総株主の半数以上かつ総株主の議決権の3/4以上の賛成が必要です。

特殊決議が必要な決議事項としては、主に以下のものが挙げられます。

  • 全部の株式を譲渡制限とする定款の変更
  • 株式譲渡制限株式を対価として交付する場合の合併契約承認
  • 株式譲渡制限株式を対価として交付する場合の株式交換契約承認

特別決議が必要になる決議事項

特別決議が必要となる決議事項は、主に以下のものが挙げられます。

  • M&A
  • 解散
  • 減資
  • 定款の変更
  • 取締役・監査役の解任
  • 取締役の損害賠償責任の減免
  • 重要な財産の譲渡・処分
  • 株主に大きな影響を及ぼす重要事項

M&A

M&Aを実施する際、選択するスキームによっては特別決議が必要になります。
特別決議が必要となるM&Aのスキームと、必要になるケースについてそれぞれ以下の表にまとめます。

主なスキーム 売り手企業 買い手企業
株式譲渡 親会社が子会社の株式の過半数以上を売却する場合、特別決議が必要。 株主総会の決議は不要。
事業譲渡 事業の全部や重要な事業の一部を譲渡する場合、特別決議が必要。 事業の全部を譲受する場合、特別決議が必要。
合併 一般的には特別決議が必要。 一般的には特別決議が必要。
分割 吸収分割、新設分割どちらの場合でも特別決議が必要。 吸収分割で事業を譲受する場合、株主総会の決議は不要。

解散

会社を解散して法人格を消滅させることは、会社にとって極めて重大な事項であるため、株主総会の特別決議が必要です。
特別決議で決議されなければ、解散手続きを進めることはできず、現在の事業活動を継続しなければなりません。

減資

減資とは、資本金額を減らすことを意味します。
資本金額を減らすということは、株価に影響を与える可能性があり、株主にとっても投資価値が変動する可能性があるため、特別決議が必要です。

ただし、定時株主総会によって欠損の額を超えない範囲で減資するのであれば、特別決議ではなく普通決議によって決議することができます。

定款の変更

定款は会社の組織や事業内容の基本的なルールを定めているため、変更を行うとなれば会社の経営にも大きな影響を与える可能性があります。
株式会社を設立する際に必ず制定する大切なもので、定款に変更を加える場合は特別決議によって決議しなければなりません。

取締役・監査役の解任

一般的な取締役・監査役の解任は、普通決議で決議することが可能です。
しかし、累積投票によって選任された取締役や監査役を解任する場合は、特別決議が必要です。

取締役の損害賠償責任の減免

取締役には任務懈怠責任というものがあり、任務を怠って会社に損害が生じた場合、賠償する責任を負わなければなりません。
取締役の任務懈怠によって生じた損害の責任を免除するためには、株主全員の賛成が必要になります。

しかし、その取締役が、善意無重過失の場合は、特別決議によって賠償責任の一部を免除することが可能です。

重要な財産の譲渡・処分

会社にとって重要な財産を譲渡・処分する場合は、事業に大きな影響を及ぼす可能性があるため特別決議が必要です。
重要な財産の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 工場や店舗、ビルなどの不動産
  • 商標権や特許権などの知的財産
  • 生産設備やITインフラ
  • 顧客データベース

上記のもの全てが重要な財産に該当するわけではありませんが、どれも会社の事業活動に大きな影響を与える可能性があるものです。
重要な財産であるかを判断することは難しいですが、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • 当該財産の価値
  • その会社の総資産に占める割合
  • 当該財産の保有目的
  • 処分行為の態様
  • 会社における従来の取扱い

株主に大きな影響を及ぼす重要事項

上記の他にも、株主に大きな影響を及ぼすと考えられる場合には、特別決議が必要になります。
代表的な例として、いくつかご紹介します。

  • 金銭以外の財産を配当する場合
  • 非公開会社が新株予約付社債を発行する場合
  • 特定の株主から自己株式を取得する場合

特別決議で知っておきたいポイント

特別決議で決議するにあたって、事前に以下のポイントを抑えておく必要があります。

  • 拒否権について
  • 黄金株について
  • 開催の流れについて

拒否権について

特別決議は、基本的に議決権を行使できる株主の過半数の株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成があれば決議されます。
言い換えれば、議決権の1/3超を有する株主であれば、自身が決議に反対することにより、他の株主全員が賛成したとしても、特別決議を通せなくできます。
それをここでは、拒否権と呼んでいます。

拒否権を持つ株主がいると、あらゆる特別決議が通らなくなる可能性があるので、会社運営に大きな影響を与えてしまうリスクがあります。

黄金株について

拒否権を保有している株主がいない場合でも、特別決議が覆るケースがあります。
それが、黄金株による拒否権の行使です。

黄金株とは、正式名称を「拒否権付種類株式」といい、たった1株だけでも特別決議で決議された決議を拒否できる特別な株式です。
黄金株は、信用できる友好的な株主に保有してもらい、敵対的買収の防衛策として行使してもらうために活用される場合があります。

ただし、黄金株による拒否権の範囲は会社が自由に決めることが可能です。
通常の拒否権とは違うので、黄金株によって拒否権を行使できる範囲を慎重に判断しましょう。

開催の流れについて

特別決議だからといって、株主総会の開催の流れが変わるわけではありません。
株主総会には、あらかじめ決められた時期に開催される「定期株主総会」と、臨時で決議する内容がある場合に株主を招集して開催する「臨時株主総会」の2種類があります。

どちらの株主総会も決議事項の定めは無く、定時株主総会でも臨時株主総会でも特別決議を採ることは可能ですが、ほとんどの場合、臨時株主総会を開催することになるでしょう。
基本的な臨時株主総会の開催の流れは、以下の通りです。

  1. 取締役会の決議
  2. 株主総会招集通知を送付
  3. 株主総会を開催
  4. 特別決議を実施

特別決議は書面決議も可能

株主総会は、原則として前述した手順を踏んで株主を招集して開催されますが、株主の都合や新型コロナウイルスなどの影響により、正規の開催が困難な場合があります。
このような場合、書面を通じて株主総会の決議を行うことが可能です。

書面決議とは

書面決議とは、文字通り書面のやり取りを通じて株主総会の決議を行うことです。
みなし決議と呼ばれることもあります。

書面には、紙の書類だけでなく電磁的記録も含まれるため、メールによるやり取りも可能です。
書面決議は、特別決議の際だけでなく普通決議の場合も実施することができます。

書面決議を行う条件

書面決議は、どのような場合でも行うことができるわけではありません。
以下の2つの条件を満たした場合に、書面決議を行うことが可能です。

  • 取締役または株主が株式総会の目的である事項について提案した場合
  • 株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合

書面決議の注意点

書面決議を行った場合、その日から10年間は株主総会議事録を保存しておかなければなりません。
そして、その中には以下の内容を盛り込むことが会社法で定められています。

  • 株主総会の決議事項
  • 決議事項の提案者の氏名
  • 株主総会の決議があったものとみなされる日
  • 議事録作成者の氏名

特別決議でM&Aが不成立になりそうな場合の対処法

株式譲渡や事業譲渡によってM&Aを実施しようとしても、場合によって特別決議が必要となることを説明しました。
特別決議で決議されなかった場合、M&Aを実施することはできず不成立となってしまうでしょう。

このような場合、スクイーズアウトを実行して反対株主から株式を買い取るという選択が挙げられます。
スクイーズアウトとは、少数株主や特定の株主から強制的に株式を買い取る手法で、対価として現金を交付します。

スクイーズアウトを実施することで、あらかじめ反対しそうな株主を退出させることで、決議される可能性を高めておくと良いでしょう。

特別決議に向けて万全の準備を

株主総会の特別決議について詳しく解説しました。

特別決議は、M&Aの際だけでなく様々な企業行為の重要事項を決定する際に用いられる決議方法です。
普通決議と比較して重要度の高い決議内容を話し合うため、普通決議よりも要件が厳しく設定されています。

苦労して決議された決議内容だとしても、拒否権を保有している株主が拒否権を行使すれば全て覆される可能性があるので、注意しなければなりません。
特別決議について理解を深め、入念な準備をして株主総会の特別決議を実施しましょう。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。