通常、株式会社は株主に対して利益を配当金として分配しています。
しかし、一部の企業行為によっては、実際に配当を行っていないものの、事実上配当とみなされる「みなし配当」が発生している可能性があります。
普段、税務に関わっている人でなければ聞き馴染みのない言葉だと思いますが、みなし配当によって思わぬ税負担が発生してしまう可能性があるので注意が必要です。
本記事では、みなし配当とはどういうものなのか、どのようなケースで発生するのかなど詳しく解説します。
みなし配当が発生して、思わぬトラブルを引き起こさないようにするためにも、最後まで読んでみなし配当について理解を深めましょう。
みなし配当とは?
みなし配当とは、法人税法で規定されている剰余金の配当・分配には該当しないものの、実質的には剰余金の配当と変わらない所得や利益のことです。
配当をもらっているわけではありませんが、税務上の統一性を保つために配当の一種として取り扱われます。
みなし配当は様々な企業行為によって発生する可能性がありますが、実際には配当をしていないため気付かないケースもあります。
みなし配当を放置しておけば、後に税務署から指摘を受けて本来の税金だけでなく、延滞税や罰則が課される可能性が高いです。
そうならないためにも、みなし配当に関する知識を深めておきましょう。
一般的にみなし配当が発生する主なケース
一般的にみなし配当が発生するケースとして、主に以下の3つが挙げられます。
- 自己株式を取得する場合
- 解散・清算等で残余財産の分配をした場合
- 資本剰余金から配当金を支払う場合
自己株式を取得する場合
自己株式とは、株式を発行している会社自身の株式のことです。
元々株を保有している株主から自己株式を買い取る際、株主に金銭を支払う必要がありますが、その支払った金銭の一部がみなし配当に該当する場合があります。
このケースでみなし配当に該当するのは、株主が株式を取得するために支払った出資金額よりも、自己株式取得の際に会社から受け取った対価が大きい場合です。
受け取った対価が大きい場合、差額は株主の利益になります。
しかし、出資した金額が増えて戻ってくるということは、事実上の配当金と捉えることができるため、みなし配当として処理されます。
解散・清算等で残余財産の分配をした場合
会社を解散・清算する際は、その時点で残っている会社の財産である残余財産を株主に分配しなければなりません。
残余財産の中には、会社が事業によって得た利益が含まれているので、株主へ利益を分配することになります。
残余財産の分配も事実上の配当と捉えることができるため、みなし配当として処理されます。
資本剰余金から配当金を支払う場合
資本剰余金とは、株式の発行をはじめとした資本取引で募った出資金のうち、資本金に計上しなかった余剰金のことです。
株主から出資を受けたとしても、それを全て資本金に計上する必要はないので、資本余剰金として会社が保有するケースがあります。
通常、会社が事業によって得た利益を株主へ分配しますが、資本剰余金から配当金を支払うことも可能です。
資本剰余金を確保しておけば、業績が悪く利益が少ない場合でも安定して配当金を支払えるというメリットがあります。
しかし、資本剰余金から配当金を分配するということは、株主からしてみれば出資した金額の一部を返してもらっただけに過ぎません。
この場合、通常の配当とは意味合いが異なるので、みなし配当として特別な税務処理をする必要があります。
M&Aでみなし配当が発生する主なケース
みなし配当は、M&Aを行った際にも発生するケースがあります。
M&Aでみなし配当が発生する主なケースは、以下の2つです。
- 会社合併
- 会社分割
会社合併
会社合併とは、複数の会社を1つの会社に統合する形でM&Aを実施するスキームです。
会社合併には、1つの会社の法人格を残して他の会社の法人格を消滅させる「吸収合併」と、新しい会社を設立して既存の会社の法人格を消滅させる「新設合併」があります。
会社合併では、合併される会社(A社)の株主が合併する会社(B社)へ株式を譲渡して、その対価として金銭または合併する会社(B社)の株式を交付することになります。
この時、B社から受け取った対価がA社の株式を取得する際に支払った金額を上回れば、その差額は事実上の配当として扱われるため、みなし配当として処理しなければなりません。
ただし、会社合併でみなし配当が発生するのは、非適格合併の場合のみです。
会社合併には、資産を簿価で譲渡する「適格合併」と、時価で譲渡する「非適格合併」の2種類があり、適格合併の場合はみなし配当は発生しません。
会社分割
会社分割とは、会社を事業ごとに分割し、分割した事業を買い手企業に承継するスキームです。
会社分割には、既存の会社に事業を承継する「吸収分割」と、新たに会社を設立して事業を承継する「新設分割」の2種類があります。
さらに、譲渡した事業の対価を会社が受け取る「分社型分割」と、譲渡した事業の対価を株主が受け取る「分割型分割」に分類することが可能です。
会社分割にも会社合併と同様に簿価で譲渡する「適格分割」と、時価で譲渡する「非適格分割」の2種類があります。
そして、みなし配当になるのは分割型分割+非適格分割の場合のみです。
みなし配当の基本的な計算方法
みなし配当は基本的に、株主が受け取った対価の金額が、出資した資本の払い戻しに該当する額を上回った時に発生します。
したがって、みなし配当の金額は、以下の計算で求めることができます。
みなし配当=(受け取った対価の金額)ー(資本の払い戻し金額)
資本の払い戻し金額=(資本金と資本剰余金の合計)×(株式の保有割合)
株式の保有割合=(株式の保有数)÷(発行済みの全株式数)
取引別のみなし配当の計算方法
次に、取引別にみなし配当の計算方法を詳しく紹介します。
非適格合併の場合
非適格合併の場合、合併によって消滅する会社の資本金に、株主の株式保有割合を乗じた金額が、資本の払い戻し金額と捉えることができます。
つまり、合併によって株主が受け取った金額と、上記で求めた金額との差が、みなし配当の金額です。
非適格分割型分割の場合
非適格分割型分割の場合、計算が複雑になります。
まず、分割部分と分割法人全体の純資産額を割り出したうえで、それぞれの純資産比率を使って分割部分の資本金額等を算出しなければなりません。
上記で求めた資本金額等をもとに、資本の払い戻し金額を算出します。
分割時に受け取った対価から資本の払い戻し金額を差し引いた金額が、みなし配当の金額です。
資本剰余金や残余財産の分配の場合
この場合、まずは払い戻し金額のうち資本金等に対応する金額を算出します。
上記で求めた金額に、株式保有割合を乗じて求めた値が、資本の払い戻し金額と捉えることができます。
受け取った金額から上記で求めた資本の払い戻し金額との差額が、みなし配当の金額です。
自己株式取得の場合
自己株式取得の場合は、合併と同じような計算方法が適用されます。
一株あたりの資本金等の金額を算出し、売却株式の数を掛け合わせて資本の払い戻し金額を求めます。
上記で求めた金額と、株主から株を買い取る際に支払った金額との差額が、みなし配当の金額です。
みなし配当の税務
みなし配当には税金が課せられますが、立場によってそれぞれ税務処理が異なります。
それぞれの立場ごとによる税務を、詳しく解説します。
株式を譲渡した個人
個人株主がみなし配当を受け取った場合、配当所得として扱われるため、所得税を収める必要があります。
保有している株式が上場企業か非上場企業かで税務処理が異なるため、注意しなければなりません。
保有しているのが上場企業の株式の場合、申告分離課税か総合課税かを選択することが可能です。
総合課税の場合は累進課税となり、みなし配当の金額が少なければ申告分離課税よりも税金の負担が軽くなるでしょう。
非上場企業の場合、申告分離課税を選択することができないため、総合課税で他の所得と合算して税金が課されます。
みなし配当の金額が大きいほど、税率が高くなり所得税の負担も大きくなってしまうでしょう。
株式を譲渡した法人
法人がみなし配当を受け取った場合、会計上はみなし配当金を受取配当金として処理し、法人税が課せられます。
みなし配当で受け取った金額は、二重課税を防ぐため益金には算入しません。
ただし、みなし配当で受け取った金額を全て不算入にできるわけではなく、持株比率に応じて益金不算入制度が適用されます。
持株比率別の益金不算入割合は、以下の通りです。
株式等の区分 | 持株比率 | 益金不算入割合 |
完全子法人株式等 | 100% | 100% |
関連法人株式等 | 1/3を超えて100% | 100% (負債利子の控除あり) |
その他の株式等 | 5%を超えて1/3以下 | 50% |
非支配株式等 | 5%以下 | 20% |
自己株式を取得した法人
自己株式を取得した法人は、株主に対して支払った金額を配当として処理します。
みなし配当の金額に対応する源泉徴収税を、翌月の10日までに納付しましょう。
みなし配当が発生しないケース
会社合併や会社分割、自己株式の取得の場合でも、みなし配当金が発生しないケースがあります。
まず、会社合併や会社分割に関しては、適格要件を満たす取引の場合はみなし配当が発生しません。
適格合併の場合、消滅会社の利益積立金がそのまま存続会社に引き継がれ、消滅会社の株主に対して金銭による対価の交付が発生しないためです。
適格分割型分割の場合も同様に、分割会社の利益積立金はそのまま承継会社に引き継がれるので、株主に対して金銭による対価は交付しません。
適格要件を満たさない取引の場合も、みなし配当となる対価が発生しないことも考えられます。
その場合は、みなし配当の税務処理について考える必要はありません。
自己株式を取得するケースでは、証券取引所などの市場で株式を取得した場合や、事業全部を譲受けによって取得する場合、合併反対株主の買取請求権に応じた場合はみなし配当は発生しません。
みなし配当が発生しない場合は、それぞれの取引に基づいて通常通りの税務処理を行うことになります。
みなし配当が発生した際の注意点
みなし配当の考え方は複雑でわかりにくいため、みなし配当が発生しそうな行為を行う際は十分に注意しなければなりません。
みなし配当が発生した際は、特に以下の3点に注意してトラブルが起きないようにしましょう。
- 条件によって課税方法が異なる
- 税負担が高額になる可能性がある
- 税務処理が複雑になる
条件によって課税方法が異なる
みなし配当の税務でもご説明した通り、立場や条件によって税務処理がそれぞれ異なります。
個人の場合は、譲渡する株式が上場企業か非上場企業かで課税方法が変わります。
法人の場合も、株式の保有割合によってみなし配当を益金不算入にできる割合が異なり、課税対象額に大きな差が生まれます。
みなし配当の税金は、課税方法によって想定以上に高額になることもあるので、違いをそれぞれの税務に関して十分に理解を深めておきましょう。
税負担が高額になる可能性がある
みなし配当を受け取るのが個人の場合、上場企業の株式であれば申告分離課税を選択できますが、非上場企業の場合は総合課税で所得税が課せられます。
所得税の税率は累進課税になるので、みなし配当金が高額になればなるほど税率も高くなり、株主に対して非常に高額な税金が課されてしまう可能性があります。
会社分割や会社合併などのM&Aを実行する際は、株主総会で特別決議を取る必要がありますが、2/3の賛成で可決されるので一部の株主の意に反することになるでしょう。
納得のいっていない株主がいたとしても、M&Aを実施してみなし配当が発生すれば高い税金が課せられる可能性も否定できません。
企業側としては、株主に高額な税負担が発生することも考慮したうえでM&Aを検討しましょう。
税務処理が複雑になる
みなし配当の金額は、取引別にそれぞれ異なり、複雑な計算をしなければ正確な金額を求めることができません。
税務処理が複雑で、計上する税金を誤ってしまえば、税務署から指摘を受けて延滞税や罰則が課される可能性もあります。
M&Aのスキームによってみなし配当金が発生するかしないか変わってくるため、どのスキームを選択するかも慎重に検討しなければなりません。
予想外の課税によってM&Aが失敗しないように、税務やM&Aに関する専門知識を豊富に持っている専門家に相談しながら、手続きを進めると良いでしょう。
思わぬみなし配当の発生に注意しましょう
みなし配当に関する情報を、詳しく解説しました。
みなし配当は様々なケースで発生する可能性がありますが、実際には配当金を分配しているわけではないため、配当所得と気付かない可能性もあります。
正しい知識を持っていなければ、複雑な税務処理をクリアできず誤った計上をしてしまうリスクもあるでしょう。
立場や取引によっても、みなし配当金の金額や課税方法が変わってくるためしっかり理解を深めておきましょう。
みなし配当金に関する情報は理解することが難しいので、専門家に相談するのも有効な手段です。
事業承継M&Aパートナーズでは、税務や事業承継、M&Aに精通した専門のコンサルタントが多数在籍しているので、何かお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
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