複数の企業がグループを形成するには、資本提携や完全子会社化など様々な形があります。
その中の1つに持株会社を設立してホールディングス化をするという方法もありますが、持株会社を設立することのメリット・デメリットを詳しく知らないという方もいるでしょう。

本記事では、持株会社とは何か、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
持株会社の設立方法やポイントも紹介するので、最後までご覧ください。

  1. 持株会社とは?
  2. 持株会社の種類
  3. 持株会社の設立方法
  4. 持株会社のメリット
  5. 持株会社のデメリット
  6. 持株会社を設立する際のポイント
  7. 適切な準備と計画で持株会社を設立しましょう

持株会社とは?

持株会社とは、企業グループ全体の支配・統治を目的として傘下にある会社の株式を保有する会社のことです。
持株会社を設立して、傘下にある企業の管理や経営方針の立案をできるような組織体制にすることを、「ホールディングス化」といいます。

持株会社の役割は、グループ内の各社の株式を保有し、株主としてグループ全体を統治して経営戦略の立案や意思決定を専門に行うことです。
経営側を持株会社が担うことで、傘下の企業は事業に専念できるため、効率良く事業を運営することができます。

日本ではかつて、財閥が持株会社と同様の体制で運営されていましたが、1947年に独占的企業支配の解消を目的に、独占禁止法で持株会社の設立を禁止しました。
しかし、市場のグローバル化の影響や組織再編による経営管理の効率化を促進するために、1997年に独占禁止法が改正され、持株会社の設立が解禁されました。

持株会社の種類

一口に持株会社と言っても、その成り立ちによって以下の3種類に分類することができます。

  • 純粋持株会社
  • 事業持株会社
  • 金融持株会社

純粋持株会社

純粋持株会社とは、子会社の株式を保有してグループ企業の統治や支配のみを行うことを目的に設立された持株会社です。
株式を保有することで子会社の事業運営をコントロールし、子会社からの配当金によって収入を確保することが一般的です。

親会社となる持株会社を新たに設立する場合、持株会社には既存の事業が存在しないので企業統治のみを行う純粋持株会社になることが多いでしょう。

事業持株会社

事業持株会社とは、子会社の株式を所有して経営を担うだけでなく、単体としても事業を運営している持株会社のことです。
子会社からの配当収入だけでなく、自社事業でも収益を確保することができます。

元々事業を運営していた会社が株式交換によって持株会社を設立し、持株会社になった後も運営していた事業を継続していくことで事業持株会社になるケースが多いです。

金融持株会社

金融持株会社とは、銀行・証券会社・保険会社などの金融機関を傘下に持ち、グループ全体の経営戦略や資本政策を統括する役割を果たす持株会社です。
金融持株会社も事業の運営には携わらないため、立ち位置的には純粋持株会社と同じですが、傘下にいる子会社のほとんどが金融機関という特徴があります。

国内の金融持株会社の例を挙げると、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券などを傘下に持つみずほフィナンシャルグループなどがあります。

持株会社の設立方法

持株会社を設立する方法は、主に以下の2通りです。

  • 株式移転
  • 会社分割

株式移転

株式移転とは、既存の会社が新たに親会社を設立し、その親会社に既存の会社の発行済株式を全て取得させ、既存の会社が子会社となるスキームです。
新たに設立された会社が持株会社となり、既存の事業会社が子会社となります。

事業会社は株式移転によって持株会社を設立しただけであるため、事業会社において許認可が必要な事業を営んでいた場合であっても、許認可の移転の手続きを必要とせず、これまでの事業を継続して運営できるというメリットがあります。
また、金銭出資をしなくても持株会社を設立することも可能です。

会社分割

会社分割とは、既存の会社の傘下に新しく子会社を設立し、その子会社に事業の一部または全部を承継させるスキームです。
既存の会社を分割して新たに設立した子会社に事業を承継させることで、既存の会社は親会社として事業を運営せず子会社の株式を保有している状態になります。

会社分割によって既存の会社を持株会社とするメリットは、金銭を要しないため、多額の資金を準備できなくても既存の会社が子会社となる分割承継法人の出資者として持株会社となれるという点です。

持株会社のメリット

持株会社を設立することには、以下のような様々なメリットがあります。

  • 経営を効率化できる
  • 経営リスクを分散できる
  • 事業ごとに人事制度を細分化できる
  • 間接的買収を防止できる
  • 事業承継のハードルが下がる
  • M&Aをスムーズに進められる

経営を効率化できる

持株会社を設立するメリットとして、経営の効率化を図れるという点が挙げられます。

持株会社を設立して経営と事業を分離すると、子会社の経営戦略の策定や重要な決定は持株会社が担当するので、子会社は事業の運営に集中することが可能です。
そうすることで、子会社の業務効率が向上し、より多くの売上をあげられるようになる可能性があります。

さらに、持株会社がグループ全体を俯瞰的な視点で見渡せるようになり、それぞれの会社の状況に応じてグループ全体で最適な戦略がとれるようになるでしょう。
グループ企業間でのシナジー効果も期待できます。

経営リスクを分散できる

持株会社の傘下にある企業は、それぞれが法人格を持ち独立した関係を保っています。
そのため、ある企業で急激に業績が悪化した場合や企業の根幹を揺るがす損害賠償が発生した場合でも、他のグループ企業へ影響を及ぼすことがほとんどありません。

これがそれぞれ独立した企業でなかった場合、会社全体に大きなダメージを残すことになるので、会社の経営を脅かすことになるでしょう。
しかし、持株会社を設立してグループ化しておけば、傘下にある企業間は資本関係を結んでいないため、想定外の問題が発生した際の経営リスクを分散することが可能です。

事業ごとに人事制度を細分化できる

一般的に、事業や業種によって繁忙期や労働条件は異なりますが、1つの会社が多様な人事制度や労働条件を整備することは難しいです。
そこで、持株会社化して事業ごとにそれぞれ子会社を設立すれば、各子会社が独自の人事制度を導入することができるようになります。

業種や職種に応じて適切な人事制度を導入すれば、社員の働きやすさや労働環境が改善され、社員満足度が向上するでしょう。

間接的買収を防止できる

間接的買収とは、ターゲットとする企業を直接買収するのではなく、その親会社を買収することで間接的にターゲット企業を買収することです。
一般的な親子関係のグループ会社の場合、親会社を買収することで子会社も買収することが可能です。

しかし、持株会社の場合、グループ企業の株式は二重構造になっており、それぞれが独立しています。
そのため、グループ企業の間接的買収を防ぐことが可能です。

事業承継のハードルが下がる

事業承継の大きな課題として、後継者へ株式を相続・贈与する際に多額の税負担が課されるという点が挙げられます。
事業会社の株式を直接相続・贈与すれば、多額の税金を負担しなければならないことから、事業承継のハードルが高くなかなか進められないという企業は多くあります。

しかし、持株会社を設立して持株会社の株式を相続すれば、株式の評価額が低くなる場合があります。
評価額が低くなれば、相続税や贈与税の負担が軽減されるため、事業承継のハードルが低くなるでしょう。

M&Aをスムーズに進められる

一般的に、M&Aによって企業を買収する際、買収される企業の従業員や取引先から不安や抵抗感が生まれやすいです。
そのため、なかなかM&Aがスムーズに進められなかったり、買収される企業の従業員が大量に離職するリスクがあります。

しかし、持株会社の子会社化であれば、傘下のグループ企業間では上下関係が生まれず、それぞれが独立した事業を運営しているため買収後も大きな変化がありません。
これにより、従業員や取引先などの心理的抵抗を軽減することができ、M&Aによる買収をスムーズに進められる可能性があります。

反対に、グループ会社の業績が悪化したり想定外の経営リスクが生じたりした際は、その企業をグループから切り離してスムーズに売却することも可能です。

持株会社のデメリット

多くのメリットがある持株会社ですが、以下のデメリットがあることも考慮しなければなりません。

  • グループ企業間の連携が難しくなる
  • 管理コストが増加する
  • 経営が硬直化するリスクがある

グループ企業間の連携が難しくなる

持株会社のグループ企業はそれぞれ独立しており、経営方針も会社ごとにある程度の裁量を持っているケースが多いです。
子会社の独立性が高くなるとグループ企業間での連携がうまくいかなくなるリスクが高まり、場合によってはグループ全体として不利益な影響を与えてしまう可能性もあります。

各会社の裁量が大きくなり過ぎてしまうと、持株会社の求心力が低下して次第に意思疎通が難しくなることも考えられます。
絶妙なパワーバランスを保たなければならないという、難しい経営課題があるでしょう。

管理コストが増加する

持株会社化によって各企業が独立すると、それぞれの会社を管理しなければならないため、会社の数だけ管理コストが増加します。
さらに、各会社に必要となるバックオフィス業務が重複することで、過剰にコストがかかってしまうでしょう。

そのような場合、シェアードサービスセンターを設置することで上記の管理コストを削減できる可能性があります。
シェアードサービスセンターとは、グループ企業が共通して利用するバックオフィス業務(総務、経理、人事など)を集約して提供する組織です。

経営が硬直化するリスクがある

持株会社のメリットとして経営の効率化を挙げましたが、場合によっては迅速な意思決定や対応が難しくなり、経営が硬直化してしまう恐れがあります。
持株会社の承認が必要な事案が発生した際に意思決定が遅延したり、持株会社と子会社で権限が分散して迅速に対応できなくなったりするリスクがあるでしょう。

持株会社としての統制はしつつも、適度に子会社へ裁量と権限を与えることで経営の硬直化をできるだけ防ぐことができます。

持株会社を設立する際のポイント

持株会社を設立する際は、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。

  • 法的要件を理解する
  • 税務処理について理解する
  • 組織構造を適切に設計する

法的要件を理解する

持株会社の設立により、市場における支配力が著しく強化される場合、独占禁止法によって設立が認められなかったり公正取引委員会から監視が強化されることがあります。
そのため、設立前に独占禁止法やその他の規制についてよく理解し、適切な対策を講じなければなりません。

また、金融持株会社の場合、金融庁から監督や規制を受ける可能性があります。
業界特有の規制も理解しておきましょう。

税務処理について理解する

持株会社化することによって税務上のメリットがある一方で、税務処理が複雑になり、申告漏れや二重課税が発生するリスクが高まるでしょう。
特に配当金の支払いによる二重課税には注意しなければなりません。

純粋持株会社や金融持株会社の場合、収益は子会社からの配当金です。
子会社があげた利益に対して法人税がかかり、手元に残った利益を持株会社へ配当しますが、持株会社がこの配当金に対してさらに法人税を支払えば同じ利益に対して二重課税されることになります。

複雑な税務処理を完璧にこなすことは難しいので、専門家に協力を依頼して税務処理の体制を整えましょう。

組織構造を適切に設計する

持株会社を設立する際は、グループ全体で適切な組織構造に設計することが重要です。
ただ闇雲に事業部ごとにグループ会社を設立すれば良いわけではありません。

各会社がどのような役割と目的をもって事業を運営するか整理し、グループ全体で考えた時に高いシナジー効果が得られるようにしっかりと戦略を立てて組織を設計しましょう。

適切な準備と計画で持株会社を設立しましょう

持株会社について詳しく説明しました。
持株会社は経営の効率化やリスクの分散だけでなく、事業承継やM&Aにおいてもメリットがある一方で、管理コストの増加や経営の硬直化などのリスクもあります。
メリットとデメリットをしっかり理解したうえで、持株会社を設立するか検討しましょう。

持株会社の設立を検討する際は、専門家へ相談しながら進めることをおすすめします。
会社の状況や目的に合わせて最適なスキームを提案し、スムーズに組織再編を進められるでしょう。

事業承継M&Aパートナーズは、組織再編やM&A、事業承継に精通したプロ集団です。
持株会社を活用することのメリットや活用方法をさらに具体的に知りたいという方は、ぜひ一度ご相談ください。

初回相談は無料です。

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