現在、製造業は少子高齢化や技術承継の課題、競争の激化など多くの課題に直面しています。
そして、これらの課題を解決し、持続可能な成長を遂げるための有効な手段として、M&A(企業の合併・買収)が注目されています。

本記事では、製造業の現状と課題をはじめ、M&Aの概要や市場の最新動向、代表的な事例、さらには成功のためのポイントについて詳しく見ていきます。

  1. 製造業の現状と課題
  2. 製造業のM&A市場の現状
  3. 製造業M&Aの主な目的とメリット
  4. 製造業M&Aの事例3選
  5. 製造業M&Aを成功させるためのポイント
  6. 製造業のM&Aはまずは相談先選びから

製造業の現状と課題

製造業は、国内総生産(GDP)の約20%を占め、多くの雇用を創出し、地域経済の発展にも寄与する重要な産業の1つです。
しかし近年は、国内外のさまざまな課題に直面しています。

まずは、製造業の現状と、その課題について深堀りしていきます。

製造業の市場規模と重要性

経済産業省によると、2021年時点で日本のGDPに占める製造業の割合は20.6%に達しており、日本経済の約5分の1を支えています。
内閣府「2021年度(令和3年度)国民経済計算年次推計」(2022年12月)

さらに、製造業は約880万人の雇用を創出しており、雇用者全体の約15.2%を占めています。
令和3年経済センサス

製造業の多様な分野には、自動車、電機、機械、化学、食品、医薬品などが含まれ、それぞれが日本の輸出産業として重要な役割を果たしており、日本経済の牽引役となっています。

製造業が直面する主な課題

製造業は、日本経済を支える重要な産業にも関わらず、いくつかの重大な課題に直面しています。
以下に、特に注目すべき課題を挙げます。

  • 人材不足
  • 設備投資の不足
  • 技術承継

人材不足

少子高齢化の進行に伴い、製造業では深刻な人材不足が発生しています。
若年労働力の減少とともに、製造現場では高齢化が進み、技能承継が難しくなっています。

製造業の就業者数は過去20年間で約157万人減少しており※、その影響は企業の生産性や競争力に直結しています。
※厚生労働省「2022年版 ものづくり白書

設備投資の不足

2020年からの新型コロナウイルスの影響は大きく、多くの企業が設備投資を先送りしてきました。
特に、中小製造業においては無形固定資産への投資が不足しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や業務効率化が遅れています。

これによって生産性向上が見込めず、長期的な競争力の低下を招く可能性があります。

技術承継

先述したように、労働力人口の減少に伴う人材不足により、計画的なOJT(On-the-Job Training)やOFF-JT(Off-the-Job Training)が進まず、技術者の育成が遅れている実態もあります。
技術の承継ができなければ、製造業の競争力は次第に低下していってしまいます。

製造業のM&A市場の現状

人材の確保や技術承継の問題等、製造業の課題を解決するためにはM&Aは効果的な選択肢の1つです。
ここからは製造業におけるM&A市場の現状について、詳しく見ていきましょう。

市場規模とその推移

日本におけるM&A市場は、過去10年間で着実に成長してきています。
2023年の製造業を対象にしたM&A件数は240件で、過去10年間で最高件数を更新、取引総額も2018年についで2位でした。
※参照:M&Aオンライン
これには、以下のように様々な要因が絡み合っていると考えられます。

グローバル市場での競争激化

グローバル市場における競争が激化する中で、日本企業は競争力を強化するために海外企業とのM&Aを積極的に進めています。
大手企業を中心に、海外の製造メーカーをM&Aする事例は少なくありません。

事業承継問題の顕在化

少子高齢化による後継者不足が深刻化し、事業承継の手段としてM&Aが選ばれるケースが増えています。
家族や従業員の中に適切な後継者が見つからず、第三者に会社を継いでもらうことを検討する経営者は少なくありません。

買い手企業の動向について

製造業のM&A市場において、主要な買い手は大手製造業や多国籍企業です。
これらの企業は、自社の競争力を高めるために積極的にM&Aを活用しています。

大手製造企業

大手製造企業は、技術力の強化や市場シェアの拡大を目的として、国内外の企業を積極的に買収しています。
例えば、事業成熟度の高い中小メーカーを、同じ分野の大手メーカーが買収し、製品ラインの拡充や製品開発強化を図ることなどがよくあるM&Aのパターンとして挙げられます。
また、大手が異分野メーカーを買収し、事業領域を拡大する戦略をとることも少なくありません。

多国籍企業

外資系企業も日本市場においてM&Aを活発に展開しています。
特に、IT技術や先端技術を持つ日本企業をターゲットにすることで、自社の技術力を強化し、グローバル市場での競争力を高めることを狙っています。

製造業M&Aの主な目的とメリット

製造業におけるM&Aの課題や現状についてここまで見てきましたが、製造業におけるM&Aの主な目的とそれに伴うメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
以下でより詳しく解説していきます。

  • 技術と人材の確保
  • 事業拡大と市場シェアの増大
  • 事業承継と後継者問題の解決

技術と人材の確保

M&Aで企業を買収することができれば、すでに技術が習熟している人材や優れた生産技術をすぐに入手することが可能です。

技術の確保

製造業において他社との差別化要因や強みを獲得するためには、最新の技術を取り入れることが不可欠です。
M&Aを通じて、企業は他社の先進技術を取り込むことが可能です。

例えば、ある企業が特定の技術分野で優れた特許を持っている場合、その企業を買収することで、自社の製品やサービスにその技術を活用することができます。
これにより、研究開発のコストと時間を大幅に削減し、市場での競争優位性を確保することができます。

人材の確保

M&A における他社の経営資源の獲得は、技術面だけではなく、人材確保においても大きな効力を発揮します。
高度な技術を有する企業を買収したとしても、その技術を使いこなす熟練した人材も同様に重要です。

製造業において、専門的な知識と経験を持つ人材を育てるためには多くの教育コストがかかるでしょう。
しかし、M&Aにより即戦力の熟練人材を獲得できれば、自社の技術力を強化し、製品の品質向上や新製品の開発を促進することができます。

事業拡大と市場シェア拡大

自社で既に運営している事業や、その事業と関連性の高い分野の事業を運営している企業を買収できれば、新規事業への参入や市場拡大をスピーディーに実現することができます。

事業領域の拡大

M&Aは、企業が新たな事業領域にスピーディーかつ大胆に進出できる手段の1つです。
例えば、ある企業が自動車部品の製造に特化している場合、関連する電子部品メーカーを買収することで、製品ラインアップを拡充し、メーカーからのニーズに応える幅を広げることができます(このようなM&Aを水平統合と言います)。

このように、M&Aは企業が多角化戦略を進める上で重要な役割を果たします。

市場シェアの拡大

M&Aは、市場における競争を優位に進め、市場シェアを獲得するための強力な手段です。
競合企業を買収することができれば、業界内での市場シェアを拡大し、地位を一気に強化することができます。
さらに、買収先の既存の顧客基盤や販売ネットワークを活用することでさらなるシナジー効果(相乗効果)が生まれ、買収以前の2社の合計シェア以上にシェアを拡大できるかもしれません。

事業承継と後継者問題の解決

かつては親族や従業員に受け継がれてきた企業も、後継者となる人材を確保することが非常に困難になってきているため、M&Aによる承継を選択をする経営者が増えています。

事業承継の円滑化

少子高齢化により、多くの中小企業が後継者不足に悩まされています。
事業承継がうまくいかないと、企業は廃業や縮小のリスクに直面します。

M&Aを活用することで、後継者を見つけられなかった場合でも買収企業が新たな経営者として事業を引き継いで廃業を防ぐことが可能です。
従業員の雇用を守り、顧客へのサービス提供を維持することもできます。

経営の安定化

後継者問題を解決するだけでなく、M&Aは企業の経営を安定させるための手段としても有効です。
例えば、これまでオーナー社長によってブラックボックスとされてきた予算管理や経営資源配分、重要な経営判断などに関して、より最適な判断を下せるようになるかもしれません。

買収企業の経営資源やノウハウを活用できるようになることで、経営の効率化やコスト削減を図ることができます。
一方で、買い手企業が売り手企業の風土や文化を理解しきれていなければ、従業員からの反発を招き、かえって経営を不安定化させてしまうリスクがあることも留意しておきましょう。

製造業M&Aの事例3選

ここからは製造業のM&Aにおける主要な事例について解説していきます。

  • 日本電産(現 ニデック)によるOKK(現 ニデックオーケーケー)の買収
  • テクノホライゾン・ホールディングスによるブルービジョンの買収
  • 東海カーボンによるCOBEXの買収

日本電産(現 ニデック)によるOKK(現 ニデックオーケーケー)の買収

日本電産は2022年2月にOKKのM&Aを実施しました。
これは、OKKが日本電産に対して、第三者割当増資を行いOKKの発行済み株式の約66%を、買収価格約54億7895万円で取得するという形で実施されました。
また、2023年3月1日には日本電産が株式交換によってOKKを完全子会社化しています。

背景と目的

日本電産は、世界的なモーター製造企業として知られていますが、近年は事業の多角化を図るために積極的なM&Aを行ってきました。
OKKは工作機械の製造において高い技術力を持つ企業であり、この買収により日本電産は工作機械分野での競争力を強化しています。

買収の効果・成果

日本電産は、21年8月に三菱重工工作機械(現日本電産マシンツール)を完全子会社化し、工作機械業界に参入しています。
これに加えて、更にOKKの技術とノウハウを取り込むことで、自社の製品ラインアップを拡充し、工作機械市場における地位を確立しました。
さらに、技術の相乗効果により、新製品の開発が促進され、利益増加につながりました。
また、OKKの既存の顧客基盤を活用することで、新たな市場への迅速な進出を実現しています。

テクノホライゾン・ホールディングスによるブルービジョンの買収

テクノホライゾン・ホールディングスは、2020年5月に連結子会社である株式会社タイテックが、株式会社ブルービジョンの発行株式の内、1,460株(81.11%) を取得することについて決議したことを発表しています。取得価額や取得日は非公表です。

背景と目的

テクノホライゾン・ホールディングスは、精密機器や電子部品の製造を行う企業です。
ブルービジョンは、画像処理技術に強みを持つ企業であり、この買収によりテクノホライゾンは画像処理技術を自社の製品に取り入れることを目指しました。

まさに、自社製品の磨き上げの為の買収であったといえます。

買収の効果・成果

ブルービジョンの高度な画像処理技術を取り込むことで、テクノホライゾンは自社の製品の付加価値を高めることができました。
また、ブルービジョンの技術を活用することで、新たな市場セグメントにも進出することが可能となったのです。

東海カーボンによるCOBEXの買収

東海カーボンは、2019年6月にドイツの炭素黒鉛製品メーカーであるCOBEX HoldCo GmbHの全株式を取得し子会社化しています。

背景と目的

東海カーボンは、カーボン製品やグラファイト電極の製造を手掛ける企業です。
COBEXは、炭素およびグラファイト製品の製造において高い技術力を持つドイツ企業であり、この買収は海外においてシェアを持つ同業を買収することにより、世界市場進出を目指したM&Aとなりました。

買収の効果・成果

東海カーボンは、COBEXの先進的な炭素およびグラファイト技術を取り込むことで、製品ラインアップを拡充し競争力を強化することに成功。
また、COBEXの既存の顧客基盤を活用することで、グローバル市場での地位を一層強固にしました。

さらに、グローバルな生産拠点の確保により、安定した供給体制を構築することができました。

製造業M&Aを成功させるためのポイント

製造業におけるM&Aを成功させるためには、計画的なアプローチが不可欠です。
以下では特に重要と言われる3項目について詳しく解説していきます。

  • 綿密なデューデリジェンスを実施する
  • サプライチェーンの全体を把握する
  • 専門家のアドバイスを受ける

綿密なデューデリジェンスを実施する

デューデリジェンス(Due Diligence)は、M&Aのプロセスにおいて対象企業の財務状況や事業内容、法的リスクなどを詳細に調査・分析することを指します。
M&Aの成功を左右する非常に重要なステップの1つです。
一口にデューデリジェンスと言っても、財務面、法務面、組織面等、様々な側面から企業の状態や抱えるリスクについて評価をおこなっていきます。
製造業に限った話ではありませんが、買い手企業が売り手企業の実態を確実に把握し、リスクを低減するためのアプローチをとることがM&Aの成功には不可欠です。

サプライチェーンの全体を把握する

製造業においては、サプライチェーンが企業の生産活動の根幹を成しています。
サプライチェーンの全体像を把握することで、買収後のスムーズな統合と生産効率の向上を図ることが重要です。

主要なサプライヤー、物流プロセス、在庫管理、製品の流通ルートなどを把握することで、供給の安定性とコスト構造を評価しましょう。
サプライチェーンの調査により、潜在的なリスクを特定し、適切なリスク管理策を講じることができます。

例えば、特定のサプライヤーに依存している場合、代替サプライヤーの確保や在庫の適切な管理が必要です。
財務諸表から見えてこない部分もしっかりと把握しておくことが必要です。

専門家のアドバイスを受ける

M&Aは非常に複雑なプロセスであり、財務、法務、税務、労務、技術など、さまざまな専門知識が必要です。
専門家のアドバイスを受けることで、M&Aプロセス全体をスムーズに進めることができます。
相談先としては下記機関があげられます。

  • 事業承継の専門機関
  • 税理士・公認会計士
  • 弁護士・司法書士
  • 金融機関
  • 商工会議所
  • M&Aの仲介業者
  • 事業承継・引継ぎ支援センター

普段から懇意にしている金融機関や、税理士、弁護士の先生に相談することもできますが、M&Aや事業承継を専門に取り扱っている支援機関にセカンドオピニオンとして相談をしてみることも、失敗しないM&Aの為には重要です。
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製造業のM&Aはまずは相談先選びから

実際にM&Aに興味があるという経営者の方でも、何から手を付けていいのか分からないという方も多いはずです。

そういった場合は、まずは実績ある専門家から話を聞いてみることをおすすめします。
多くの支援機関が初回無料で相談にのってくれるため、普段から関わっている金融機関や税理士に加えて、専門的な経験やノウハウを有している支援機関に話を聞いてみましょう。

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