日本の企業のほとんどが中小企業であり、非上場株式を保有しています。
会社の将来を考えた時に、株式を譲渡して会社を売却することを検討する経営者の方も多いと思いますが、非上場株式を譲渡できるのか気になる方もいるでしょう。
本記事では、非上場株式を譲渡する方法や手続きの流れについて詳しく解説します。
株価算定方法や税金についても紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
非上場株式とは?
非上場株式とは、証券取引所に上場していない会社の株式のことを指します。
上場株式は市場で自由に取引きできるのに対し、非上場株式は上場していないため市場に公開されることもなく、自由に取引きすることができません。
非上場株式と似ている言葉に、「非公開株式」というものがあり、混同してしまいがちですが、厳密にいえばこの2つは定義が違います。
非公開株式とは、会社法上で規定されている譲渡制限付株式のことで、会社の許可なく株式の譲渡をすることができない株式のことです。
厳密には定義が異なる両者ですが、日本のほとんどの会社が中小企業であり、簡単に株式を譲渡されると困るため、譲渡制限付株式を発行して上場しない企業がほとんどです。
そのため、日本の会社ではほとんどの場合「非公開株式=非上場株式」が成り立ちます。
非上場株式の譲渡は可能!
非上場株式は証券取引所に上場しておらず、自由に取引きすることができないため譲渡できないと思われがちです。
しかし、基本的には非上場株式も譲渡することは可能です。
近年、M&Aの市場で非上場株式の譲渡による事業承継が増加傾向にあります。
その主な理由として、深刻な経営者の高齢化や後継者不足などの経営課題を解決するということが挙げられます。
現在の日本は、超高齢化社会を迎え多くの企業が後継者不足により廃業・倒産の危機に直面すると予測されています。
このような課題が深刻化するにつれて、事業の存続が危ぶまれるということで非上場株式を譲渡してM&Aを実施する企業が増加しているということです。
非上場株式を譲渡するメリット
非上場株式を譲渡することには、以下のメリットがあります。
- 多額の売却益を得られる可能性がある
- 相続よりも節税できる可能性がある
- 事業承継問題を解決できる
多額の売却益を得られる可能性がある
非上場株式を売却することで、多額の売却益を得ることができる可能性があります。
非上場株式は市場で取引きされないので、評価額が明確に定められていません。
そのため、一般的な株価よりも高い評価が付けられるケースもあるので、多額の資金を獲得できるでしょう。
株式譲渡によって得られた資金は、新規事業の立ち上げや既存事業への投資、老後の資金などに充てることができます。
株式を譲渡して引退を考えている場合、引退後の生活に資金面で大きな安心をもたらしてくれるでしょう。
相続よりも節税できる可能性がある
非上場株式を譲渡する際は、売却益に対して税金が発生します。
しかし、株式を相続するよりも課される税金を安く抑えることができる可能性があります。
相続税の場合、最大で55%の税金を支払わなければなりません。
一方で、株式譲渡に課される税金は、売却益に対して20.315%です。
ただし、株式の評価額が低いときには相続税率の方が低くなる点や、税引後の手残資金にも相続税がかかる点には注意が必要です。
税金に関する詳しい情報は、後ほど解説します。
事業承継問題を解決できる
冒頭でも説明した通り、非上場株式の株式譲渡は、事業承継問題を解決する手段として活用されるケースが増えています。
全株式数の過半数を取得できれば、譲受人は経営権を握ることができ、会社を引き継ぐことが可能です。
近年は、経営者が親族に会社を継がせる親族内承継を選択する経営者が少なくなっており、外部の優秀な経営者に会社を任せることを選択する経営者も多くいます。
M&Aで会社を売却する方法として、株式譲渡はよく活用されるスキームの1つです。
非上場株式を譲渡する際の手続きの流れ
非上場株式を売却する際は、一般的に以下の流れで手続きを進めます。
- 株式を集約する
- 買い手候補を見つける
- 買い手候補と交渉・合意をする
- 株式の譲渡承認を請求する
- 株式の譲渡承認決議を採る
- 株式譲渡契約書を交わして売買代金の決済をする
- 株主名簿を書き換える
1.株式を集約する
株式譲渡によって会社の売却を進める際、一般的に買い手は株式を100%取得することを目指します。
売り手企業で株主が複数いる場合、少数株主が保有する株式を事前に集約しておいた方が、スムーズに手続きを進められるでしょう。
もし株式を集約することに時間がかかれば、その後のスケジュールにも大きな影響を与えてしまいます。
しっかりと計画を立てて、万全な準備をしておきましょう。
2.買い手候補を見つける
株式を譲渡するにあたって、株式を売却する買い手候補を探す必要があります。
売却先を検討する際は、自社の将来を任せられるかどうか、継続的な成長が見込めそうかどうかなど、売却後の会社のことをじっくり考えましょう。
自社だけで買い手候補を見つけることが難しい場合、専門家や仲介業者に依頼して見つけてもらうという手段もあります。
3.買い手候補と交渉・合意をする
買い手候補が見つかり、ある程度絞り込めたらいよいよ直接接触して交渉を進めます。
売却条件や従業員・取引先の引き継ぎに関する内容など、様々な条件を擦り合わせていきます。
交渉を進める中で、お互いに売買のリスクを明らかにするためデューデリジェンスと呼ばれる事前調査を実施することになるでしょう。
デューデリジェンスで発覚した問題などについては、最終的な契約書に織り込まれ、条件や売却金額に影響を与える可能性があります。
4.株式の譲渡承認を請求する
冒頭で説明した通り、非上場株式のほとんどは非公開株式と呼ばれるもので、株式に譲渡制限が付されています。
譲渡制限株式を譲渡する場合、株式の譲渡承認という手続きを行わなければなりません。
譲渡契約成立前に譲渡承認請求を行う際には、株主である売り手が譲渡承認請求書を作成し、会社に提出することが一般的です。
株式譲渡承認請求書は、非常に重要な書類になるので税理士などの専門家からアドバイスを得て作成すると良いでしょう。
5.株式の譲渡承認決議を採る
株式の譲渡承認請求書を受け取った売り手企業は、承認決議を採ります。
承認決議は基本的に株主総会を行いますが、取締役会が設置されている非上場企業では取締役会が決議を採ります。
決議によって株式譲渡が承認されれば、第三者に株式を売却することが可能になります。
承認・不承認問わず、株式の譲渡承認請求があった日から2週間以内に結果を株主に通知しなかった場合、株式譲渡を承認したものとみなされるため注意しましょう。
6.株式譲渡契約書を交わして売買代金の決済をする
株式の譲渡承認請求が承認されれば、株式譲渡契約書を交わして株式譲渡を実施します。
そして、買い手は対価を支払い、株式譲渡が成立するという流れです。
7.株主名簿を書き換える
株式譲渡が実施された場合、最終的に株主名簿の書き換えが必要です。
多くの非上場企業では、株券を発行せず株主名簿によって株主を管理しています。
株主名簿の書き換えが完了すれば、正式に譲受人が株主となって株式譲渡の全ての手続きが完了ということになります。
非上場株式の株価算定方法
非上場株式は市場で取引きされていないため、株価が明確には定まっていません。
しかし、株式譲渡において株価は大きな意味を持つため、算定方法が非常に重要です。
非上場企業の株価の算定方法はいくつかあるので、その代表的なものを3つご紹介します。
DCF法
DCF法とは、ディスカウント・キャッシュフロー法と呼ばれ、企業の将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業の価値を算定する方法です。
具体的には、企業が将来生み出すであろうキャッシュフローを一定の期間にわたって予測し、それらを現在価値に割り引きます。
DCF法は、企業の収益力やリスクを詳細に反映できるため、投資判断において非常に有用な手法とされています。
ただし、将来のキャッシュフローの予測や適切な割引率の設定が難しいため、慎重な分析が必要です。
類似会社比較法
類似会社比較法とは、マルチプル法とも呼ばれ、同業種や同規模の上場企業の評価指標を用いて非上場企業の株価を算定する方法です。
類似会社比較法では、類似する上場企業の株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、EV/EBITDAなどの評価指標を基に、自社の財務指標に適用して株価を算出します。
類似会社比較法は、市場での相対的な評価を反映できるため、実際の取引価格に近い株価を算出しやすい点が利点です。
ただし、適切な比較対象の選定や市場環境の違いを考慮する必要があるため、慎重な分析が求められます。
時価純資産法
時価純資産法は、企業の資産と負債を時価で評価し、その差額である純資産を基に企業価値を算定する方法です。
この方法では、まず企業の全資産を市場価値に基づいて再評価し、負債も同様に時価で評価します。
次に、時価で評価された総資産から総負債を差し引いて純資産を算出し、純資産額を株式数で割ることで、一株当たりの価値を求めます。
時価純資産法は、資産の実際の市場価値を反映するため、企業の現実的な財務状況を示すことができます。
しかし、将来の収益力や成長性を考慮しないため、成長企業や収益性の高い企業の評価には不向きです。
資産の時価評価には専門的な知識が必要であり、慎重な評価が求められます。
非上場株式を譲渡した際の税金
株式を譲渡した際に得られる譲渡益には、税金が課されます。
課される税金は、株式を譲渡したのが個人の場合と法人の場合で異なるので、それぞれ詳しく解説します。
個人が譲渡するケース
個人株主が非上場株式を譲渡した場合、売却益に対して所得税、住民税、復興特別所得税が課されます。
所得税は通常、所得の増加に伴い税率が上がる累進課税制度で計算されますが、株式譲渡の場合、一律15%で統一されています。
所得税、住民税、復興特別所得税で課される税率は、それぞれ以下の通りです。
税金の種類 | 税率 |
所得税 | 15% |
住民税 | 5% |
復興特別所得税 | 所得税の2.1%(0.315%) |
合計すると、売却益に対して20.315%の税金が課されます。
法人が譲渡するケース
法人の場合、株式の譲渡益は法人の所得として扱われ、法人税等(法人税、事業税、住民税)が課されます。
法人税の税率は23.2%ですが、企業規模や所得に応じて軽減税率が適用される可能性があります。
法人税に加え、住民税や事業税などを含めた実効税率は、中小企業で約30%、大企業で約35%程度となります。
確定申告の方法と時期
税金を納めるためには、確定申告をしなければなりません。
確定申告について、個人と法人では時期が異なります。
まず、個人の場合は所得税が確定申告の対象となります。
原則として、所得が発生した翌年の2月16日~3月15日が確定申告の時期となっているため、事前に準備をして確実に税金を納めるようにしましょう。
法人の場合、法人税が確定申告の対象です。
確定申告の時期は企業ごとに異なりますが、原則として決算日から2ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。
みなし譲渡所得やみなし贈与の発生に注意
非上場株式は、基本的に当事者同士で取引きされるため、極端なことをいえば当事者同士で譲渡価額を決めることが可能です。
しかし、時価よりも著しく低額(時価の1/2未満)、または無償で譲渡した場合、みなし譲渡所得やみなし贈与が発生するかもしれません。
どのように課税されるかは、売り手・買い手が個人・法人のどちらかによって異なるので、以下で詳しく説明します。
売り手が個人、買い手が個人のケース
個人間の譲渡では、売り手は譲渡金額で株式を譲渡したとして所得が計算されます。
時価の1/2未満で譲渡が成立しても、取得価額より高く譲渡できたのであれば、譲渡による損はありません。
一方で、買い手に対しては個別の事情を検討したうえで、贈与税が課される可能性が出てきます。
売り手が個人、買い手が法人のケース
個人から法人へ株式を譲渡した場合、低額譲渡に該当するかどうかで売り手にみなし譲渡所得課税が発生するかどうかが異なります。
低額譲渡(時価の1/2未満)であれば、時価と取得金額との差額にみなし譲渡所得課税が課されます。
一方で、法人としては時価での取引きを前提としているため、時価と譲渡金額との差額が受贈益として、課税の対象になります。
売り手が法人、買い手が個人のケース
法人から個人への売却では、時価で譲渡したと考えるため、時価と取得価額との差額が課税の対象です。
一方で、買い手は時価と譲渡価格との差額に対して、譲渡所得税とは別の所得税が課されます。
買い手との間に委任・雇用関係があれば役員賞与や給与に該当し、委任・雇用関係がない場合は一時所得として扱われるという点に注意しなければなりません。
売り手が法人、買い手が法人のケース
売り手・買い手共に法人の場合、時価と取得価額との差額に対して法人税が課されます。
その上で、時価と譲渡価額との差額は寄付金として、損金算入限度額までは損金不算入の対象とすることが可能です。
一方で、買い手には時価と譲渡金額との差額は受贈益として課税されることになります。
非上場株式の譲渡は専門家に相談を
非上場株式は、譲渡制限が設けられていることがほとんどですが、必要な手続きをすることで基本的には譲渡することが可能です。
後継者問題に頭を悩ませている経営者の方にとって、事業を存続させる解決策となる可能性があるため、ぜひご検討ください。
しかし、譲渡額の算出や税務面など、専門的な知識が多く必要となります。
トラブルを回避し、円滑に手続きを進めるためには専門家へ協力を依頼することをおすすめします。
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