資本提携は、企業間が協力関係を結ぶ際に選ばれる方法のひとつですが、必ずしも良い結果になるとは限りません。
経営者は資本提携に対する理解を深め、メリットやデメリットも知ったうえで、自社にとって適切な選択をする必要があります。
本記事では、資本提携の概要と、混同されがちな業務提携やM&Aとの違いについて解説しています。
資本提携の進め方もまとめているので、資本提携を成功に導くため、ぜひ最後までご覧ください。
資本提携とは
資本提携とは、複数の企業がそれぞれの株式を保有し合う、または一方が提携先の株式を取得するなどして、資本面での協力関係を築くことを指します。
資本提携の目的は多岐にわたり、主に以下のような理由が挙げられます。
- 経営資源の共有
- 競争力の強化
- 経営リスクの分散
- 資本基盤の安定
このように戦略的な提携を意図するケースだけでなく、単に友好的な関係を維持するために、持ち株関係を構築するパターンも見受けられるのが特徴です。
仕組み
資本提携は、企業がお互いの株式を保有し合うか、一方が他方の株式を取得することで成立するのが一般的です。
経営権に影響を与えないよう定款の変更や組織再編などの特別決議を単独で否決できない1/3未満の出資割合に抑えるのが一般的ですが、子会社化するような深い資本関係を築くこともあります。
一般的に、企業の独立性が保たれない提携関係を資本提携とはいいません。
しかし、資本提携の範囲は明確に定義されているわけではないため、経営権が動くような場合でも資本提携と表現されることがあります。
業務提携との違い
資本提携と業務提携は、いずれも企業間の協力関係を築く手段ですが、その性質には明らかな違いがあります。
業務提携では資本のやり取りがなく、技術開発やマーケティング活動など、業務面での協力を目的とした提携になります。
たとえば、新商品を共同開発したり、販売網を共有したりするのが業務提携の典型的な例です。
業務提携が協力関係の幅広さや柔軟性を重視するのに対して、資本提携では資本面での安定性や長期的な関与を重視します。
M&Aとの違い
M&A(合併・買収)も資本提携と同じく、企業間の関係を強化する手段ですが、その目的と影響の範囲には大きな違いがあります。
M&Aは、一方の企業が他方を買収して経営権を掌握するため、買収された企業は独立性を失って買収企業に統合されるか、消滅することも少なくありません。
反対に資本提携では、双方が独立した経営を続ける中で協力関係を築き、共存し互いに成長していくことが重視されます。
資本提携のパターン
資本提携は、株式譲渡または第三者割当増資契約によって実行されます。
それぞれのメリットデメリットがあるので、確認しておきましょう。
株式譲渡
株式譲渡は、資本提携の一環として、企業が保有する株式を他の企業や個人に売却することを指し、以下3つの方法で行われます。
方法 | 概要 |
相対取引 | 株主から直接株式を買い取る方法で、上場していない中小企業などで行われることが多い。 |
市場買付 | 市場で上場企業の株式を入手する方法になるが、総数5%以上の株式を取得した場合には、報告書を提出する必要がある。 |
公開買付(TOB) | 取得する株式の数、価格を公表したうえで株式を買い付ける方法。上場企業の株式を多く集めるために用いられる。 |
株式譲渡は市場における株式の流動性を利用することで、スピーディーに実施できる点がメリットです。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、企業が新たに発行する株式を特定の第三者(企業や投資家)に割り当てることで、資本を増強する資本提携の一形態です。
この方法は、既存の株主以外に新株を発行することで、企業は迅速に資金調達ができ、特定のパートナー企業や投資家に対して経営への関与を許す手段としても用いられます。
企業が成長戦略の一環として新規事業の展開や設備投資、研究開発資金の調達などを目的に行うことが一般的で、非上場企業の資金調達に用いられることが多い方法です。
資本提携のメリット
企業間の協力関係を構築し、長期的な経営の安定を図れる点が最大のメリットです。
経営面でさまざまな協力が可能になり、お互いの強みを活かした共同開発や、新市場への進出も少ないリスクで実施できます。
持ち株比率を抑えることでそれぞれの企業が独立性を保てるため、必要以上の干渉を受ける心配もありません。
提携によって財務基盤が強化されることで信用も改善され、資金調達能力の向上が期待できるでしょう。
資本提携は、企業間でのリスク分散を可能にし、双方が持続的な成長を遂げるための重要な手段となります。
資本提携のデメリット
提携企業間での経営方針や戦略の不一致が生じた場合、対立が起こり、提携関係が破綻するリスクがあります。
株式を保有し合うことで経営の自由度が制限される可能性があり、迅速な意思決定が難しくなることも考えられるでしょう。
方向性が一致しないことで、期待していたシナジー効果が得られないケースも珍しくありません。
さらに、提携先企業が経営不振に陥ってしまえば、その影響が自社にも波及し、財務リスクが増大する可能性もあります。
こうしたデメリットを回避するためには、提携の目的や条件を明確にし、双方の利益がバランス良く保たれるようにすることが重要です。
資本提携の進め方
資本提携では、契約の締結だけでなく、自社の課題に対する目的の設定、提携先企業の選定などが重要なプロセスになります。
- 資本提携の目的の明確化
- 資本提携先になる企業の選定
- 出資比率、提携範囲などの決定
- 資本提携契約の締結
資本提携の目的の明確化
企業は、資本提携を通じて何を達成したいのかという具体的な目標を設定する必要があります。
資本提携の目的としては、新規市場への進出、技術開発の促進、資金調達の強化などが上げられるでしょう。
これらの目的を達成する手段として、本当に資本提携以外に方法がないのか、しっかり検討することが大切です。
目的を明確にすることで、提携先企業との交渉や提携内容の調整がスムーズに進み、双方にとって有益なパートナーシップを構築しやすくなります。
資本提携先になる企業の選定
資本提携を成功させるためには、適切な提携先企業を選ぶことが重要です。
候補企業の財務状況、技術力、経営理念、成長の可能性などを総合的に評価してください。
また、提携によって得られるシナジー効果や、自社の戦略目標達成にどの程度寄与するかも考慮する必要があります。
複数の候補企業を比較検討し、最も適したパートナーを見つけ出すことが求められるでしょう。
状況によっては専門企業のアドバイスを受けるなど、選定プロセスには十分な時間とリソースを投入する必要があります。
出資比率、提携範囲などの決定
出資比率や提携範囲は、とくに慎重に決定すべき項目です。
出資比率は企業間の経営権や影響力に直結するため、双方が納得できる比率を設定しましょう。
また、提携範囲に関しては、具体的にどの事業領域で協力するのか、技術の共有や共同開発の範囲、販売チャネルの統合など、細部にわたって合意を形成します。
それぞれの要素を明確にしておくことで、実行フェーズでの混乱や摩擦が防げるでしょう。
資本提携契約の締結
契約書には、一般的に以下のような項目について記載します。
- 契約の目的
- 概要(企業の名称や所在地など)
- 提携期間
- 業務内容、提携範囲
- 秘密保持 など
企業間の経営権や株主権の扱いについては、将来的な紛争を避けるために詳細に取り決めることが重要です。
提携を成功させるためには、双方の企業が合意した内容を遵守することが不可欠であるため、契約内容には実行可能な具体的な条項を盛り込むことが求められます。
資本提携はメリット・デメリットを理解して進めましょう
資本提携には、他社から資金面での協力を得ながらも企業の独立性を維持できるというメリットがあります。
ただし、持株比率や契約内容が適切でない場合は、経営、戦略に干渉される可能性があるため注意が必要です。
資本提携のメリット・デメリットを理解し、自社の経営課題の解決に向けて必要だと判断すれば計画を立てて手続きを開始しましょう。
資本提携を万全の体制で進めるためには、高度な専門知識が必要です。
適宜、専門家に相談するなどして慎重に手続きを進めることをおすすめします。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。