経営環境の変化が著しい近年では、主力事業のみに注力せず、事業を多角化して新規事業へ参入することを検討している企業が増えています。
そして、多角化経営の1つに、「コングロマリット」と呼ばれるものがあります。

本記事では、コングロマリットとはどのような経営形態なのか、そのメリットやデメリット、成功のポイントなどを詳しく解説します。

  1. コングロマリットとは?
  2. コングロマリットの具体的な企業例
  3. コングロマリットのメリット
  4. コングロマリットのデメリット
  5. コングロマリットを形成する3つの手法
  6. コングロマリット型M&Aの成功のポイント
  7. コングロマリットを形成してシナジー効果を生み出す

コングロマリットとは?

コングロマリットとは、複数の異なる業種や産業において事業展開をしている企業や企業グループのことです。
様々な事業を展開することで、経営リスクを分散させ、変化の激しい経営環境に対応することができます。

さらに、複数事業が互いにシナジー効果を生み出すことで、大きな利益をもたらすことが可能です。
リスクマネジメントや競争力強化の観点から、近年は高い関心が向けられています。

コングロマリットの目的

コングロマリットの主な目的は、異なる業種に進出することで事業リスクを分散し、安定した収益を確保することです。
また、各事業間でシナジー効果を生み出し、資源の効率的な活用や経営の多角化を図ることで、競争力を強化し、中長期的な成長を実現します。

2000年代以前は、多くの企業がリスク分散や成長のために多角化戦略を採用し、コングロマリットが盛んに形成されました。
そして現代では、上記の目的に加え、急成長を遂げたりグローバル化を果たしたりする目的で、異業種の企業を買収・合併してコングロマリットを形成する例が増えています。
このように、異業種の企業を買収・合併してコングロマリットを形成することを、「コングロマリット型M&A」と呼びます。

コングロマリットとコンツェルンの違い

コングロマリットと混同しやすい企業形態に、「コンツェルン」というものがあります。
コンツェルンとは、持株会社を設立して子会社群・孫会社群を形成し、グループで市場を独占することを目的とした企業形態です。

コングロマリットとコンツェルンの違いは、目的にあります。
コングロマリットは事業の多角化を目指すことが主な目的ですが、コンツェルンは市場を支配・独占することが主な目的です。

日本でいえば、戦前にあった「財閥」がコンツェルンに該当しますが、戦後にGHQによって解体されています。

コングロマリットの具体的な企業例

日本のコングロマリット企業の例をいくつかご紹介します。
以下の企業は、日本のコングロマリット企業の代表的な例です。

  • 三菱グループ
  • ソニーグループ
  • 楽天グループ

三菱グループ

三菱グループは、金融、商社、重工業、化学、エネルギー、自動車、電機、食品、情報通信など、非常に多岐にわたる業種で事業を展開しています。
これにより、経済の変動や市場のリスクに対する耐性が強化されており、安定した経営基盤を持っています。

日本には様々なコングロマリット企業がありますが、三菱グループの規模は突出しており、日本最大のコングロマリット企業といえるでしょう。

ソニーグループ

ソニーグループは、ハードウェア事業から、ゲーム、音楽、映画といったエンターテインメント、さらには金融、半導体など、幅広い分野に事業を多角化しています。
ソニーグループの特徴としては、異なる事業分野で高いシナジー効果を生み出して成長を続けている点にあります。

例えば、ゲームや映画、音楽といったエンターテインメント分野でのコンテンツ制作と、その配信・販売インフラを持つことによる相乗効果があります。
さらに、これらの多様な事業をグローバルに展開しており、各国市場での競争力を強化しています。
特にゲームとエンターテインメント分野では、世界的な影響力を持っています。

楽天グループ

楽天グループは、EC事業を核にしつつ、金融、通信、デジタルコンテンツ、スポーツなど、幅広い分野に事業を拡大しています。
これにより、異なる収益源を持ち、経済的なリスクを分散しています。

楽天グループ最大の特徴として、多角化した事業によって「楽天経済圏」と呼ばれるエコシステムを構築していることです。
楽天経済圏とは、楽天グループが提供する多岐にわたるサービスやプラットフォームを利用することで、ポイント還元やサービスの連携など、様々なメリットを享受できる仕組みのことを指します。

楽天経済圏を構築することで、ユーザーが楽天のサービスを使うほど、さらなる利便性を享受できる仕組みを提供しており、これによってグループ全体の収益向上を図っています。

コングロマリットのメリット

コングロマリットを形成することには、主に以下のメリットがあります。

  • 経営基盤を強化できる
  • シナジー効果が得られる
  • 低リスクで新規事業に参入できる

経営基盤を強化できる

コングロマリットを形成することで、異なる事業分野からの収益があるため、季節的な需要変動や市場の変化による収益の不安定さを補うことが可能です。
これにより、年間を通じて安定したキャッシュフローを確保でき、企業全体の財務基盤が強化されるでしょう。

また、異なる業種や事業分野にわたる企業を統合することで、特定の業界や市場のリスクに対する依存度を下げることができます。
1つの事業が不調でも、他の事業が好調であれば、全体としての経営が安定します。

シナジー効果が得られる

コングロマリットを形成し、グループ内の異なる事業間で、リソースやノウハウの共有を行うことで、効率性を向上させ、コスト削減や新たなビジネスチャンスを創出できます。
資源の共有と効率化が実現できるだけでなく、異なる事業の製品やサービスを相互に販売することで、売上を拡大することができます。

さらに、コングロマリット内の各事業が共通のブランドを使用することで、ブランド認知度が向上し、顧客の信頼を得やすくなります。
強力なブランド力は、全体の競争力を高め、各事業の市場でのプレゼンスを強化する効果があります。

なお、コングロマリットを形成してシナジー効果を発揮することで企業価値が高まる状態を、「コングロマリット・プレミアム」と呼びます。

低リスクで新規事業に参入できる

コングロマリットの形成により、既存のリソースやブランド力を活用することで、新規事業に低リスクで参入することが可能になります。
さらに、資本力やリスク分散効果により、新規事業の失敗リスクを軽減しつつ、成長機会を追求できるため、コングロマリットは新規事業展開の有効な戦略となり得ます。

また、コングロマリット内で多様な業界経験や市場調査のノウハウが蓄積されているため、新規事業参入時の市場分析やリスク評価が精緻に行えます。
これにより、失敗のリスクを低減し、成功の可能性を高めることができます。

コングロマリットのデメリット

コングロマリットを形成することには、多くのメリットがある一方で、以下のデメリットが存在することも念頭におかなければなりません。

  • 経営が複雑化する
  • 企業価値が低下するリスクがある
  • ガバナンスの低下を招くリスクがある

経営が複雑化する

コングロマリットを形成することで、複数の異なる業種や事業分野を統合して運営するため、全体の経営管理が複雑になります。
各事業の市場動向や経営課題が異なるため、統一的な戦略の策定や実行が難しくなるでしょう。

さらに、異なる事業間での調整やシナジー効果を生み出すための取り組みが必要となり、組織内での調整コストが増加します。
これにより、経営のスピードが遅くなったり、効率性が低下するリスクがあります。

企業価値が低下するリスクがある

事業が多角化することで、人材や資金、時間などの経営資源が分散され、各事業に十分なリソースを集中できない可能性があります。
異なる業種に進出することで、各事業に対する専門性が低下し、市場での競争力が弱まるリスクもあるでしょう。

また、シナジー効果を期待して事業を統合することが多いですが、実際には想定していたほどシナジー効果が発揮されないケースもあります。
シナジーが期待通りに生まれない場合、全体の収益性が低下して複数の事業が共倒れしてしまうかもしれません。

このように、コングロマリットによって企業としての価値が低下してしまう状態を、「コングロマリット・ディスカウント」と呼びます。

ガバナンスの低下を招くリスクがある

コングロマリット内で事業が多岐にわたると、取締役会や監査役が各事業の詳細にまで目を行き届かせるのが難しくなるでしょう。
複数の事業を統括する経営陣が、それぞれの事業に十分な時間やリソースを割けない場合、監視機能が弱まり、ガバナンスが低下することがあります。

ガバナンスが低下すると、不正行為や品質低下という企業全体に大きな影響を及ぼす問題を発生させてしまうリスクが高まります。
ガバナンスの低下を防ぐためには、専門委員会を設置したり内部監査を強化したりして、十分な対策を講じることが必要です。

コングロマリットを形成する3つの手法

コングロマリットを形成する際は、主に以下の3つのスキームが用いられます。

  • 資本提携
  • 買収
  • 合併

資本提携

資本提携とは、経営資源の共有や競争力の強化を目的に、複数の企業が資本面で協力関係を築くスキームです。
企業としての独立性は保ちつつも、資本面で企業間の関係を強固にし、戦略的な協力が可能になります。

企業としての独立性を保つため、譲渡する株式は発行済み株式総数の1/3未満に抑えることが一般的です。
三菱グループや三井グループが、資本提携によってコングロマリットを形成しています。

買収

買収とは、企業の株式を取得して経営権を獲得し、子会社化するスキームです。
買収では株式を100%取得するケースが一般的なので、資本提携に比べて資本の結びつきがより強固になります。

例を挙げると、ソニーグループは音楽や映画などのエンターテイメント分野に進出するため、積極的に買収を行ってコングロマリットを形成しました。

合併

合併とは、複数の企業を1つの企業に統合するスキームです。
合併には吸収合併と新設合併の2種類があり、吸収合併では1つの法人格が残るのに対して、新設合併では全ての法人格が消滅して新しい法人を設立することになります。

日立グループは、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、複数の企業を合併・吸収し、現在のコングロマリットとしての姿を形成しました。

コングロマリット型M&Aの成功のポイント

M&Aによってコングロマリットを形成する際は、以下のポイントを押さえて成功を目指しましょう。

  • 統合の目的と戦略を明確にする
  • 具体的な計画を定める
  • 慎重にリスク管理する
  • シナジー効果の追求と評価をする

統合の目的と戦略を明確にする

コングロマリットを成功させるためには、まず統合する目的を明確に定めましょう。
目的が明確に定まっていなければ、戦略的で合理的な選択をすることが難しく、統合後に十分な効果を発揮できなくなります。

そして、目的を果たすための戦略も慎重に検討して明確にしておく必要があります。
適切な戦略を定めておくことで、M&Aをスムーズに進めることができるとともに、統合後にシナジー効果を生みやすくなります。

具体的な計画を定める

コングロマリット型M&Aを成功させるためには、事前に詳細な計画を立てることが不可欠です。
これには、明確な目的と戦略の設定、リスク管理、統合計画(PMI)、人材と文化の統合、コミュニケーション戦略、財務計画など、複数の要素が含まれます。

これらの計画がしっかりと策定され、実行されることで、M&Aの成功確率が大きく向上し、持続可能な成長を実現することが可能になります。

慎重にリスク管理する

コングロマリット型M&Aを成功させるためには、慎重なリスク管理が求められます。
異業種間の統合には予期せぬリスクが多く、文化の違いや経営統合の複雑さ、シナジー効果の不確実性など、さまざまなリスクが存在します。

これらのリスクを事前に特定し、適切な対応策を準備することで、M&Aの成功率を高めることができるでしょう。

シナジー効果の追求と評価をする

M&Aが成立したからといって、成功したとは必ずしも言い切れません。
統合の目的や戦略を達成し、狙い通りのシナジー効果が生み出せているのかを追求し、必要に応じて修正・改善を行うことが重要です。

評価を怠ってしまうと、気付かぬうちに水面下で問題が大きくなっていき、気付いたときには大きな問題に発展してしまっている可能性があります。
このようなリスクを回避し、統合による効果を最大限高めるためにも、統合後のパフォーマンスを追求することは欠かせません。

コングロマリットを形成してシナジー効果を生み出す

コングロマリットを形成することで、低リスクかつ効率的に事業の多角化を図ることができ、経営リスクを分散することも可能です。
コングロマリットが成功すれば、主力事業だけでなく様々な事業で売上を創出したり、既存事業とシナジー効果を生み出したりして、経営基盤をより強固なものにできます。

しかし、経営が複雑化したり、期待通りのシナジー効果が得られなかったりするリスクも考えられるため、慎重に検討する必要があります。
コングロマリットを目指すM&Aの実行には、高度な専門知識が必要になるだけでなく、中長期的な経営戦略との整合性も求められるため、専門家へ相談することをおすすめします。

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