IT業界におけるM&Aは、急速な技術革新やグローバルな競争環境において、重要な成長戦略の一つです。
市場シェアの拡大や新しい技術の取得、優秀な人材の確保を目的に、多くの企業がM&Aを活用しています。

しかし、その一方で、売却タイミングや従業員のモチベーション維持、企業文化の統合など、課題も少なくありません。
本記事では、IT業界におけるM&Aの動向、そしてそれによるメリットとデメリットを詳しく解説します。

  1. IT業界とは
  2. IT業界の課題と動向
  3. IT企業のM&Aにおけるメリット・デメリット
  4. IT事業の種類とM&Aの事例
  5. IT業界におけるM&Aの注意点
  6. IT業界におけるM&A仲介会社の選び方
  7. IT業界におけるM&Aはスピード感を持って臨む

IT業界とは


IT業界とは、情報技術(Information Technology)の分野に関わるビジネスや、サービスを提供する業界を指します。
この業界の分野は、次のように多岐にわたるのが特徴です。

  • コンピュータのハードウェアやソフトウェアの開発
  • ネットワークの構築・管理
  • データベースの運用
  • クラウドサービス
  • AIやビッグデータ解析
  • セキュリティ対策 など

IT業界は技術革新が速く、企業は新しい技術やサービスに対応するため、絶えず変化を求められています。
また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によって製造業や金融業など他業界との連携も強化され、現代社会の基盤を支える重要な役割を果たしています。

IT業界の課題と動向

IT業界は、デジタル化の進展によって需要が急速に拡大しています。それに伴い、次のような課題も顕在化しています。

  • 需要の拡大
  • 深刻な人材不足
  • 経営陣の高齢化
  • 海外進出の必要性

需要の拡大

デジタル化の加速により、IT事業の需要は急速に拡大しています。

クラウドコンピューティング、AI、IoT(モノのインターネット)などの技術は、今やさまざまな産業に欠かせません。
多くの企業は、効率化やコスト削減のためにIT投資を行っています。

IT需要に伴い、国内のM&Aも増加しています。
事業拡大や新規市場への進出、技術の取り込みなどが主な目的です。
また、革新力を高めるためのスタートアップ企業の買収や、成長の鈍化を補うための異業種間のM&Aなども活発化しています。

深刻な人材不足

需要の拡大に対し、IT業界では深刻な人材不足も課題となっています。

とくに、AIやデータ解析、サイバーセキュリティなど高度な技術に精通した専門人材が不足しており、企業は採用や育成に苦慮しています。
また少子高齢化が進む中、企業全体の人材不足にも直面しており、この問題解決のためにM&Aを活用する企業も少なくありません。

即戦力や高度な専門スキルを持つ人材を確保するために、関連企業を買収するケースが増加しています。
M&Aにより、新たな人材と技術を一括で獲得できるメリットもあるため、これは効果的な戦略といえるでしょう。

経営陣の高齢化

日本をはじめ、各国でもIT企業の経営陣の高齢化が進行中です。

とくに中小企業では、新しい技術やグローバルな動向に適応するスピードが遅れるリスクが懸念されており、若い世代のリーダーシップ育成が急務とされています。
このような経営陣の高齢化も、日本におけるM&Aを推進する大きな要因です。

さまざまな業界で後継者不足が問題になっており、経営者が引退する際に企業を他社に売却するケースが増えています。
これにより、事業の継続性を確保しつつ企業価値を高められるため、M&Aは事業承継の有効な手段として注目されています。

海外進出の必要性

国内市場が成熟する中、IT企業でも海外進出の必要性が増しています。

しかし、海外市場は競争が激化しており、現地の文化や法律に適応する戦略がなくては実現が困難です。
また、グローバルな視点での経営や、技術力の強化ができなければ成功はかなわないでしょう。

近年、国内では、海外企業とのM&Aが増加傾向にあります。
とくにアジアや北米市場への進出を目的とした戦略的M&Aは、現地での事業基盤を速やかに構築し、グローバルな競争力を高める手段として活用されています。

海外進出は単なる市場拡大だけでなく、新たな技術やノウハウの獲得、海外人材の確保といった面でも重要です。

IT企業のM&Aにおけるメリット・デメリット


ここでは、IT業界におけるM&Aの、買い手と売り手それぞれのメリットとデメリットを詳しく解説します。
利点だけでなく、リスクも把握しておくことで、M&Aの失敗を避けることが可能です。

買い手側のメリット

IT企業におけるM&Aの買い手側のメリットは、短期間での事業拡大や新技術の獲得が可能になる点です。
自社での開発には時間やコストがかかりますが、M&Aによって既存の技術や市場シェアを取り込めば、スピーディーに競争力を強化できます。

また、買収企業の人材や顧客基盤を一括で取得できるため、高度な専門スキルを持つ人材が不足している場合にも大きな効果があるでしょう。

買い手側のデメリット

買収後の統合がスムーズに進まない場合、企業文化や経営方針の違いから、従業員のモチベーション低下や離職が発生する可能性があります。
とくにIT業界では、技術者の離職リスクが高いため、買収の目的が損なわれる可能性も念頭に置かなければなりません。

このほか、買収に伴う高額なコストや負債の引き受け、さらには市場や顧客の反応が予想以上に悪い場合などは、買収が失敗に終わるリスクもあります。
M&A後のトラブルを避けるため、事前の調査や計画を念入りに行いましょう。

売り手側のメリット

売り手側にとってのメリットは、経営上のリスクを軽減しつつ、事業の価値を最大化できる点です。
とくに、後継者問題や成長の停滞に直面している場合は、M&Aを通じて事業を継続させることができます。

また、買収企業による資金やリソースの投入により、より大きな規模の事業や成長機会を得られることもあるでしょう。
IT業界では、スタートアップが大手企業に買収されることで、新技術がさらに広がる可能性も高まります。

売り手側のデメリット

売り手側にもいくつかのデメリットがあります。

まず、買収後には、経営方針や文化の統合に伴う変化が発生するかもしれません。
また、買収価格が予想より低く評価されたり、M&Aプロセス自体が長期化したりすることで、負担が増大するリスクもあります。

さらに中小企業の経営者にとっては、事業のアイデンティティや従業員の雇用継続に対する懸念が残る場合も多いでしょう。
経営者が売却後の統合プロセスに関与し続けるケースもあり、その場合には、身動きが制限されることになります。

IT事業の種類とM&Aの事例


IT業界には、次のようにさまざまな分野があり、それぞれの戦略でM&Aが活発に行われています。

  • システムエンジニアリングサービス(SES)
  • アプリ開発
  • WEBサービス
  • クラウドサービス
  • AI・IoT

ここでは、各分野の特徴とそれに伴うM&Aの事例を紹介します。

SES

SES(システムエンジニアリングサービス)は、エンジニアの技術力や労働力を提供するサービスです。
主にシステム開発や運用保守のために人材を提供するサービスのため、人材派遣と似た形式ですが、SESは特定の業務委託に基づいて契約を交わします。

一般的に需要が高いのは、ソフトウェア開発のほか、ネットワークインフラの構築や保守分野です。

M&Aの事例として、2020年のデータセクションとFabeeeの資本業務提携が挙げられます。
これは、AI事業を強化するほか、エンジニアリソースの確保や採用強化を目的として行われています。

アプリ開発

アプリ開発事業は、スマートフォンやタブレット向けのアプリケーションを企画・設計・開発する事業です。
消費者向けのエンターテイメントアプリやビジネス向けの生産性向上アプリなど、幅広い分野で急成長しています。

日本国内でもスタートアップ企業が多数存在しており、とくにゲームアプリ市場は活発です。

M&Aの事例では、2020年メルペイによるOrigamiの子会社化などが挙げられます。
統合後、激化するスマホ決済市場の中で、それぞれの強みを活かした事業を行っています。

WEBサービス

WEBサービスは、インターネットを通じてユーザーに提供されるオンラインサービスの総称です。
Eコマース、SNS、検索エンジン、クラウド型ソフトウェアなど多岐にわたる分野が存在し、広告やサブスクリプションモデルで収益を上げるビジネスが多いのも特徴です。

WebサービスのM&A事例として、2019年のZホールディングス(ヤフー)とZOZOの資本業務提携が挙げられます。
これにより、国内でのWEBサービス領域のシェア拡大と新たな事業展開が進められ、競争力が強化されました。

動画配信サービス

動画配信サービスは、インターネット経由で映像コンテンツを提供する事業で、NetflixやYouTubeなどのストリーミングサービスが代表的です。
日本でもHuluやAbemaTV、Amazonプライムビデオなど、多くのサービスが急成長しています。

動画配信はサブスクリプションモデルを採用することが多く、安定した収益源となります。

M&Aの事例としては、2020年にソニーがアメリカのCrunchyrollを買収しました。
これはアニメ市場での影響力拡大を狙ったもので、ソニーはこれにより、アニメコンテンツの世界的な流通を強化しています。

クラウドサービス

クラウドサービスは、インターネットを通じてソフトウェアやアプリケーションを提供するサービスです。
AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudが代表的な例で、企業は自社でハードウェアを保有することなく、必要なリソースをオンデマンドで利用できるのが特徴です。

M&Aの事例では、2019年のマネーフォワードによるスマートキャンプの子会社化が挙げられます。
これは、成長戦略として、IPOではなくM&Aを選んだ事例です。

これにより、マネーフォワードはSaaSマーケティング領域に進出し、既存のバックオフィスSaaS事業と連携させることでさらなる事業成長を目指しています。

AIやIoT

AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)は、現在のIT業界で最も注目される分野の一つです。
AIは機械学習や自動化技術を活用して、データ解析や意思決定を自動化し、IoTはインターネットに接続されたデバイス間の通信を可能にします。

これにより、スマートシティや自動運転、工場の自動化など、幅広い応用が進んでいます。

積極的にM&Aが行われる分野であり、2021年にはルネサスエレクトロニクスによる米Dialog社の子会社化などが話題になりました。
この統合では、IoT、産業、自動車分野などでのソリューション拡大を目指すとしています。

IT業界におけるM&Aの注意点


IT業界におけるM&Aは、戦略的な成長手段として多くの企業が採用していますが、成功にはいくつかの重要な注意点があります。
技術革新やトレンドの移り変わりが早いIT業界では、明確な目的を持ち、適切なタイミングでM&Aを行うことが大切です。

また、統合における従業員のモチベーション維持や、仲介会社からのサポートもM&Aを成功させる鍵になります。
以下の点に注意して慎重に手続きを進めましょう。

  • 目的を明確にする
  • 売るタイミングを逃さない
  • エンジニアのスキルを確認する
  • 従業員のモチベーションを保つ
  • 仲介会社を慎重に選ぶ

目的を明確にする

IT業界でのM&Aにおいて、目的を明確にすることは成功の鍵です。
成長戦略として技術の取得や新市場への進出を目指すのか、あるいは競争力の強化やコスト削減が目的なのか、具体的なビジョンを設定する必要があります。

M&Aの目的が曖昧な場合、統合後に方向性が定まらず、期待したシナジー効果が得られないリスクが高まります。
適切な計画を立て、目的達成に向けた戦略を明確にすることが重要です。

売るタイミングを逃さない

M&Aでは、市場の状況や業界トレンド、自社における成長ステージを見極め、最も価値が高い時点で売却することが成功につながります。

売却のタイミングを見誤ると、会社の価値が下がったり、競争環境の変化により買い手が見つかりにくくなったりするリスクが発生します。
市場の動向を常に把握し、迅速に判断しましょう。

エンジニアのスキルを確認する

IT企業のM&Aでは、買収する企業のエンジニアのスキルが重要な要素です。
買収後にシステムやサービスの統合を成功させるには、高い技術力とプロジェクト管理能力が欠かせません。

とくにAIやクラウド、セキュリティなどの専門スキルを持つ人材の確保は、買収の成否を左右するでしょう。
エンジニアの技術力や経験を正確に評価し、M&A後に即戦力として活躍できるかどうかを慎重に確認することが求められます。

従業員のモチベーションを保つ

M&Aによる企業の統合には、従業員のモチベーションに大きく影響を与えかねません。
統合後には、新しい体制や文化への適応が求められるため、エンジニアなどの重要な人材が離職するリスクが高まります。

このような事態を避けるため、適切なコミュニケーションをとり、統合後のビジョンや役割を明確に伝えることが重要です。
従業員の不安を軽減するほか、透明性のあるリーダーシップが成功の鍵となるでしょう。

仲介会社を慎重に選ぶ

仲介会社を選ぶ際は、専門知識と豊富な経験を持つ、信頼できるパートナーを見つけることが重要です。
IT業界は技術的に複雑な分野であり、適切な仲介者がいないと取引きがスムーズに進まない可能性があります。

また、企業価値の適切な評価や、買収プロセスの調整など、専門的なアドバイスが必要になることも少なくありません。
過去の実績や業界知識を基に、信頼できる仲介会社を選定しましょう。

IT業界におけるM&A仲介会社の選び方


IT業界のM&Aには、複雑なプロセスに対応できる仲介会社を選ぶ必要があります。
実績やサポート体制を確認し、信頼できるパートナーを見つけましょう。

また、サービス内容や料金を把握し、予算に合った仲介会社を選ぶことも大切です。

IT業界のM&A実績が豊富かどうか

仲介会社を選ぶ際には、IT業界でのM&A実績が豊富かどうかを意識しましょう。
IT分野は、技術や市場の動きが非常に早いため、業界特有の知識と経験を持つ仲介会社でなければ、適切なアドバイスが難しくなります。

過去の成功事例や、同業他社の取引実績を確認し、業界ならではの要件に対応できるのか見極めることが重要です。

料金が明瞭かどうか

成功報酬型や固定報酬型など、仲介会社によって料金体系が異なりますが、まず契約前に詳細な費用を確認しておくことが大切です。

隠れた手数料がないか、追加費用などの金額が明示されているかどうかをしっかり確認してください。
また、料金に見合ったサービスが提供されるかもあわせて評価し、予算に応じた仲介会社を選びましょう。

サポート体制が整っているか

M&Aのプロセスは複雑で時間がかかるため、サポート体制が充実している仲介会社を選ぶことが大切です。
技術評価や法的な手続き、企業統合の計画など、各ステップに専門的なアドバイスを提供できる体制が整っているか確認しておきましょう。

また、M&A後の統合プロセスにおいても、従業員やシステムの統合がスムーズに進むように支援してくれる会社が理想です。
迅速で継続的なサポートが提供されるかどうかも、選定の重要なポイントになります。

IT業界におけるM&Aはスピード感を持って臨む

IT業界は、技術革新が速く競争も激化しているため、タイミングを逃すと市場機会を失いかねません。
そのためM&Aにおいても、迅速な意思決定が求められます。従業員のモチベーションを維持しつつ、スムーズに統合プロセスを進めましょう。

また、スピード感を持ってM&Aに臨むためには、信頼できるパートナーが必要です。
豊富な実績があり、責任を持ってサポートしてくれる仲介会社を探すことが成功のポイントになります。

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