2006年5月に施行された会社法によって、有限会社の新たな設立はできなくなりましたが、それ以前に設立された有限会社を現在も継続している企業もあります。
有限会社の経営者の中には、このまま有限会社として続けていくべきか、株式会社へ組織変更するべきか迷っている方もいるでしょう。
本記事では、有限会社から株式会社に変更することのメリットやデメリット、変更する際の手続きについて詳しく解説します。
有限会社と株式会社の違い

有限会社のままでいるか、株式会社へ組織変更するかを判断するためには、両者にどのような違いがあるかを理解しておく必要があります。
比較項目 | 有限会社 | 株式会社 |
最低資本金 | 300万円 | 1円 |
役員の任期 | 定めなし | 最長10年 |
取締役会の設置 | 不可能 | 可能 |
決算公告義務 | なし | 必須 |
上場 | 不可能 | 可能 |
株式の譲渡制限 | 制限あり | 定款の定めが必要 |
出資者の呼称 | 社員 | 株主 |
主に上記のような違いがあり、両者を比較した際にはそれぞれにメリット・デメリットが存在します。
有限会社のまま存続するかどうかを判断するためには、上記の違いをしっかり理解し、自社の課題を解決するためにはどちらの方が適してるかを、慎重に検討することが重要です。
有限会社から株式会社へ変更するメリット

有限会社から株式会社へ変更することには、主に以下のようなメリットがあります。
- 資金調達の幅が広がる
- 社会的な信用力が向上する
- 事業規模の拡大に対応できる
資金調達の幅が広がる
株式会社では、株式を発行することで外部の投資家や事業パートナーから出資を募ることが可能です。
これにより、自己資金や銀行融資に依存せず、多様な資金調達手段を活用できます。
また、株式の売却や増資を通じて、事業拡大や新規プロジェクトへの資金を効率的に確保することが可能です。
そのため、柔軟で迅速な資金調達が実現し、成長フェーズに合わせた経営が行いやすくなります。
社会的な信用力が向上する
株式会社は、有限会社に比べて規模が大きく安定した企業という印象を与えやすいため、取引先や顧客からの信頼が高まりやすいです。
株式を発行できる仕組みや透明性の高いガバナンス体制が整えられることで、投資家や金融機関からも信頼を得やすくなるでしょう。
さらに、官公庁や大手企業との取引では、株式会社であることが条件となる場合もあるため、新たなビジネスチャンスが広がります。
このように、株式会社への変更は企業イメージの向上とともに、取引きや提携の可能性を増やす効果が期待できます。
事業規模の拡大に対応できる
株式会社は出資者数や資本金の制限がなく、株式を発行して外部から資金を調達できるため、大規模なプロジェクトや新規事業への投資が可能です。
さらに、取締役会や監査役の設置によるガバナンスの強化が可能で、組織運営が複雑化しても対応できる仕組みが整っています。
これらの特徴により、成長フェーズに合わせて柔軟に経営戦略を展開し、事業規模の拡大に対応できるようになります。
有限会社から株式会社へ変更するデメリット
有限会社から株式会社へ変更することには、以下のデメリットが存在します。
- 経営の柔軟性が失われる
- 運営コストが増加する
- 役員の任期が有限になる
経営の柔軟性が失われる
有限会社から株式会社に変更すると、一部で経営の柔軟性が失われる可能性があります。
株式会社では株主総会や取締役会の設置が求められる場合があり、重要な意思決定に時間がかかるケースが増えるでしょう。
さらに、ガバナンス強化や透明性確保のため、法令遵守や情報開示が求められ、業務の煩雑化や負担増加につながることがあります。
運営コストが増加する
有限会社から株式会社に変更すると、会社の運営コストが増加する可能性が高いです。
株式会社では株主総会や取締役会の開催が求められる場合があり、その運営に必要な準備や報酬が発生します。
また、株式発行や登記変更などの手続きに伴う初期費用も必要です。
さらに、監査役の設置や財務報告の作成などが求められる場合があり、専門家のサポートを依頼する費用が発生するでしょう。
役員の任期が有限になる
有限会社では役員の任期がなく、再任の手続きが不要です。
一方、株式会社では、原則として取締役が2年、監査役が4年と任期が定められています。
役員の任期が有限になることで、任期満了ごとに再任や変更の登記手続きが必要となり、時間やコストが発生する点がデメリットです。
さらに、登記手続きが遅れたり忘れたりすると、法的なペナルティを受けるリスクや会社の信用低下につながる可能性もあります。
株式会社に変更することでできるようになること

有限会社から株式会社に変更することで、様々な経営判断が行えるようになります。
新たにできるようになることは、主に以下の通りです。
- 株式公開(上場)
- M&A
株式公開(上場)
有限会社のすべての株式は譲渡制限株式のため、上場することはできません。
しかし、株式会社では株式を発行し、それを金融商品取引所に公開することが可能です。
これにより、大規模な資金調達や企業ブランドの向上が図れます。
M&A
有限会社のままでも会社を売却することは可能ですが、譲渡制限株式のため、会社の承認を得なければなりません。
さらに、合併する際は存続会社になることが認められず、消滅会社になるか株式会社への商号変更が必要です。
株式会社に変更することで、上記のような問題が発生せず、柔軟かつスムーズなM&Aを実施できるようになります。
株式会社から有限会社に戻すことはできる?
結論から申し上げると、有限会社から株式会社へ変更したあと、再び有限会社に戻すことはできません。
日本では2006年の新会社法施行により、有限会社は新規設立ができなくなりました。
既存の有限会社は「特例有限会社」として存続が認められていますが、一度株式会社に変更すると、有限会社という会社形態に戻ることは法律上不可能です。
そのため、有限会社特有のメリットを活かしたまま経営を継続させたい場合、株式会社への変更は慎重に検討する必要があります。
有限会社から株式会社へ変更する手続き

有限会社から株式会社へ変更する際は、以下の流れで手続きを進めます。
- 定款変更
- 登記申請書の作成
- 登記申請
まずは、現行の有限会社の定款を、株式会社のものに変更します。
定款を変更する場合は、株主総会の特別決議で承認を得る必要があります。
定款変更が承認されれば、株主総会の議事録を作成して2週間以内に登記申請をしなければなりません。
登記申請には、「特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書」と「特例有限会社の商号変更による解散登記申請書」という書類が必要です。
書類の準備が完了したら、管轄の法務局に書類を提出して登記申請を行います。
登記申請の際、登録免許税として最低でも6万円以上かかるでしょう。
株式会社への変更は専門家へ相談を
有限会社から株式会社に変更することには、社会的信用力が向上したり、事業規模の拡大に貢献できたりと様々なメリットがあります。
さらに、株式公開(上場)が可能になったり、M&Aの際に柔軟でスムーズな対応ができたりして、事業運営の幅も広がるでしょう。
しかし、経営の柔軟性が失われたり、役員の任期が有限になったりと、デメリットも同時に存在します。
一度株式会社に変更すると、有限会社に戻すことができなくなるため、慎重な判断が求められます。
有限会社のまま継続するか、株式会社へ変更するか迷っている方は、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
中長期的な事業計画を立てて、未来を見据えた判断をしましょう。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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