故人の遺産を相続する際は、基本的に遺言に従って遺産を分割します。
一方で遺言が残されていない場合は、遺産分割協議を行うことによって、相続する遺産の割合や、相続方法を決定することが一般的です。
そんな遺産分割協議を行う際は、遺産分割や相続のことをある程度知っておく必要があります。
何の知識もないまま話し合いを始めると、詳細が決まらないまま時間だけが過ぎていったり、親族内で揉め事に発展することにもなりかねません。
遺産分割協議には全員の合意が必要
遺産分割協議を行う上で、まず注意しなければならない点は、相続人全員の合意がなければ、協議の結果は無効になってしまうということです。
そのため、不在者や協議内容に納得できない人が一人でもいると協議は意味をなさず、行方不明者や隠し子が存在する場合も、同様に無効になってしまうということに注意しなければなりません。
遺産分割協議の流れ・手順
それでは遺産分割協議の流れを解説します。
相続人の確定
まずは戸籍謄本や除籍謄本を調査し、誰が相続人に該当するのかを確定する必要があります。
調査をせずとも親族内で把握されていることがほとんどですが、隠し子が存在したり、養子縁組が成立している場合など、稀にですが例外もあります。
相続財産の確定
仮に遺言書が残っていたとしても、そこに全遺産の相続先が記されているとは限らないため、相続財産調査を行う必要があります。
自宅や金庫にある、被相続人の財産状況がわかる資料を調査したのち、それぞれの関係機関に問い合わせます。
手間や時間を要するため、早めに調査に取り掛かる必要があります。
財産目録の作成
全ての相続財産を一覧にした表を財産目録と呼びます。
必ずしも作成しなければならないという義務はありませんが、財産を明確にすることで、遺産分割協議や各手続きをスムーズに取り行うことができるため、作成をおすすめします。
遺産分割協議の実施
相続人と相続財産の整理が付いたところで、遺産分割協議を行います。
どこで、どのように協議するかといった決まりはありませんが、前述したように、相続人全員の合意が必要です。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議を経て、その結果を遺産分割協議書としてまとめます。
協議書は相続手続きの際にも必要になりますし、作成しておくことで後々になって揉めることを回避できることもあります。
また、相続人全員の実印による押印と、印鑑証明が必要になるということを留意しておきましょう。
遺言がある場合の遺産分割協議
遺言が残されており、かつ何の不備や問題もなければ、基本的にはその内容に沿って遺産分割されることになります。
しかし、必ずしも相続人が遺言に納得できるとは限りません。
そのような場合にも遺産分割協議を行うことができますが、以下の条件が必要となります。
遺言で遺産分割協議が禁止されていない
そもそも民法では、「被相続人が遺言で禁じた場合を除き、協議によって遺産を分割することができる」と定められています。
逆に言えば、遺言で禁止されている場合は遺産分割協議を取り行うことができないということになります。
相続人と受遺者全員の合意
遺言が残されている場合でも、相続人全員の合意が必要であることは変わりません。
さらに、遺言に相続人以外の人物、あるいは団体に財産を遺贈する旨が記述されている場合は、手順が複雑化します。
相続人全員に加え、その遺贈の受遺者の合意も必要となり、場合によっては財産を受け取る権利を放棄してもらわなければなりません。
遺言執行者の合意
遺言執行者が選定されている場合は、その人の合意も必要です。
遺言執行者とは、その名の通り、遺言に記された内容を執行するために選ばれた人物のこと。
相続に関しても強い権限を持っているため、無視して遺産分割内容を変更することはできません。
不動産の遺産分割方法
不動産のような相続が複雑な遺産の分割方法について解説します。
現物分割
財産をそのまま相続する方法が現物分割です。
例えば、不動産は長男、現金は次男といったように、各財産をそのまま相続します。
公平性に欠ける恐れがありますが、手続きが比較的スムーズで、実際にも多く採用される相続方法です。
代償分割
仮に主要な遺産が不動産のみだとすると、平等に相続することは難しいですし、共有名義で所有するにもいくつかの弊害が生まれます。
そこで、誰か一人だけが相続する代わりに、他の相続人に対して代償財産を支払う方法を代償分割と呼びます。
例えば、2人兄弟で長男が2,000万円相当の価値がある不動産を相続する場合、長男は次男に1,000万円の債務を負います。
こうすることで相続の複雑化を避け、公平性も保つことができます。
換価分割
換価分割は、例えば不動産を売却してしまうことで現金化し、それを相続人で分割して相続するという手法です。
現金化するというハードルはあるものの、最も公平に遺産を分割することができる手法です。
共有分割
上記のどれにも落ち着かない場合は、共有分割によって遺産を共有する手法があります。
しかし、共有するということは実質の管理義務や使用権などの問題でトラブルに発展するケースが多いため、可能な限り他の相続方法を選択し、共有関係を持たないことが望ましいと言えます。
遺産分割の注意点
遺産分割時の注意点を解説します。
スムーズに相続するため、以下の点を理解しておきましょう。
遺産分割後に遺言が見つかった場合
発見されたタイミングに関わらず、原則として遺言は優先されます。
つまり、既に遺産分割協議を終え、遺産分割された後でも効果を発揮するということであり、内容によっては遺産分割をやり直す必要がある場合もあります。
債務・借金があった場合
被相続人に債務や借金があった場合、そのようなマイナス分も全て相続人が相続分に応じて引き継ぐことになります。
遺産分割協議によって特定の相続人が債務を引き受けるように取り決めることも可能ですが、注意すべきは協議書の内容は債権者には関係ないということ。
債権者の承諾を得て免責的債務引受の手続きを経ない限り、仮に債務を引き受けた相続人の返済が滞った場合には、他の相続人が返済を請け負わなければなりません。
相続人の中に未成年者がいる場合
相続人に未成年者が含まれる場合は珍しくありませんが、未成年者は遺産分割協議に参加することができません。
そのような場合は、基本的に親権者が代理人となって協議に参加することになります。
ただし、親権者も相続人に含まれている場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てをする必要があり、選任された特別代理人が、代わりに遺産分割協議に参加することになります。
相続人の中に行方不明者がいる場合
例え行方不明者が含まれる場合でも、相続人全員の合意がなければ遺産分割協議は無効になってしまいますが、失踪宣告を申請すれば、行方不明者は一定条件下に死亡したとみなされます。
※生存が発覚した場合は失踪宣告の取消が可能です。
そうすることで協議を行うことができますが、別の方法として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てを請求するという方法もあります。
依頼費用はかかりますが、公平な立場の人物に管理してもらえるというメリットがあります。
相続人の中から遺言執行者が選任された場合
遺言執行者は未成年者と破産者以外であれば誰でもなれる資格があるため、相続人の中から選任されても法律上は問題ありません。
しかし、遺言執行者に指定された相続人は、他の相続人より強い権利を持つことが実情であり、遺産分割の割合も多い傾向にあるため、何かとトラブルが発生しがちです。
後から遺言執行者を解任・辞任する方法もありますが、特別な理由がない限り、相続人からは選ばないことが無難です。
遺産分割を一定期間禁止にすることも可能
- 被相続人の遺言による禁止
- 相続人同士の合意による禁止
- 家庭裁判所による禁止
上記のいずれかの方法により、遺産分割を最長5年間禁止することが可能です。
それによって適切な時期に遺産分割をできるといったメリットがありますが、例えば以下のような状況において有効とされます。
- 被相続人が亡くなったショックが大きく、冷静な思考が難しい
- 遺産の規模が大きく、相続財産調査に時間がかかる
- 相続人である未成年者があと少しで成人する
もし5年経過した時点でも期間が不足しているということであれば、そこからさらに5年延長することが可能な場合もあります。
ただし、遺産分割に関係なく、相続税申告は変わらず10カ月以内に行わなければなりません。
協議がまとまらない場合は調停・審判に移る
遺産分割協議によって話がまとまらない場合の対処法を解説します。
遺産分割調停
遺産分割協議を行っても相続人全員が納得できる結果が出ない場合、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することができます。
相続人の事情や希望、被相続人との関係性、遺産の価値などを踏まえ、裁判官又は家事調停官が妥当な解決策を提案したり、助言を与えるなどして、再度相続人同士で話し合うことになります。
遺産分割審判
遺産分割調停でも折り合いが付かなかった場合は、自動的に遺産分割審判が開始されます。
裁判官があらゆる資料や事情を考慮して、遺産分割の審判を下しますが、こちらは強制力を伴った決定であり、相続人は必ず従わなければなりません。
相続人が納得できない結果になる可能性もあるため、あくまで最終手段として捉え、極力自主的な話し合いで解決することが望ましいです。
公平な遺産分割でトラブルを回避しよう!
遺産分割協議について、ご理解いただけたでしょうか。
相続の手順自体も単純ではありませんが、相続人同士で決めなければならないことが非常に多く、仕組みを良く理解しておかないと、親族間でトラブルに発展してしまうこともあります。
場合によっては家庭裁判所や相続のプロのような第三者機関の判断を仰ぐことも有効です。
事業承継M&Aパートナーズでは無料相談も承っておりますので、疑問や不安がある方は、お気軽にお問い合わせください。
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