文字通り、他人から土地を借り、その土地に建物を建てられる権利を借地権と呼びます。
あくまで所有権は地主にあるため、土地に建物を建てる際には様々な制限がありますが、購入するより安く土地を利用し始めることが可能で、税金を支払う必要もありません。

ただ、貸借人である被相続人が亡くなり、その借地権を相続する際に気を付けなければならないことは、借地権にも相続税が課せられるということです。
今回のコラムでは、借地権の特徴や相続に関する注意点などを解説するので、ご自身やご両親が土地を借りられているという方はご参考になさってください。

  1. 借地権と所有権の違い
  2. 新借地権と旧借地権の違い
  3. 借地権の種類と相続税評価額
  4. 借地権を相続する際の選択肢と注意
  5. 地主とのコミュニケーションが大切

借地権と所有権の違い

まずは、借地権と所有権の違いについて解説いたします。

明確な違いの一つは負担する費用で、所有権の場合は、一度土地を購入してしまえば、その土地は自分の所有物になります。
固定資産税や都市計画税などは課せられるものの、その他の支払義務は特に発しません。

一方で借地権の場合、毎月の土地代はもちろん、保証金・権利金・更新料など、地主に対して定期的な支払いが発生します。
負担が分散されるため、比較的リーズナブルにマイホームなどを建てることが可能ですが、長期間利用し続けるとなると、反対に支払総額が高くなってしまう場合もあります。

また、もう一つの違いは土地に関する権利の違いです。
所有権があれば基本的にどのような取扱いも可能ですが、借地権は利用幅に制限があり、家の建替えや賃貸マンションの経営などを行う際には、地主の許可が必要になります。

新借地権と旧借地権の違い

借地法自体は1921年に制定されましたが、1992年にはそれまでの欠点を踏まえ、借地借家法が制定されました。
それを機に、1992年以前に契約された場合は旧借地権、1992年以降は新借地権と区別されるようになりました。

新・旧借地権は、借地契約における更新に関して大きな違いがあります。

旧借地権では、借地契約期間が終了した際、貸借人が望めば契約を更新することが可能で、基本的に地主はそれを拒否することができませんでした。
そのため貸借人は半永久的にその土地を借り続けることが可能で、貸借人に有利な制度であったと言えます。

一方で新借地権では、支払いが滞ったなどの明確な理由があれば、地主は契約更新を拒否することが可能になったため、土地を返却してもらいやすくなりました。
つまり、新しい借地法は地主に有利な制度であると言えます。

ただし、1992年以前に旧借地権で契約が締結されているケースにおいては、更新しても新借地権に変更することができません。
正確には、地主と貸借人、両者の合意があれば変更することは可能なのですが、基本的に貸借人にとってはデメリットしかないため、新借地権に切り替えることは現実的に難しいということです。

借地権の種類と相続税評価額

次に借地権に関わる相続税について解説していきますが、1992年の改定以降、借地権は普通借地権と定期借地権に区別されることになりました。
相続税評価額の算出方法も異なるため、それぞれ解説していきます。

普通借地権の評価額算出方法

普通借地権では、貸借人や建築物に特に問題がない限り、半永久的に契約を更新し続けていくことができます。
契約期間は初回は30年以上、2回目は20年、3回目以降は10年となります。

ただし、以下のようなことが発生した場合は、地主は契約の更新を拒否することができます。
この点が旧借地権との大きな違いです。

  • 地代の支払いが滞った
  • 地主の許可なく建築物の建替えを行った
  • 地主の許可なく事業目的で土地を使用した
  • 建築物の老朽化

そして、普通借地権の相続税評価額は以下のように算出することができます。

相続税評価額=自用地の評価額×借地権割合

自用地の評価額は、国税庁が定めた路線価(1㎡当たりの土地の価値)に面積をかけたもの。
借地権割合も同様に国税庁が定めた数値で、都市部は高く、地方は低い傾向にあります。

例えば路線価が10万円、面積が200㎡、借地権割合が60%だとすると、その借地権の相続税評価額は以下のようになります。

10万円(路線価)×200㎡(土地面積)×60%(借地権割合)=1,200万円

定期借地権の評価額算出方法

定期借地権では、取り決めた契約期間が終了した際、契約を更新することができません。
土地を更地にする、地主が建築物を買い取るなど、契約内容によって形は異なりますが、土地を返還するということは変わりません。

定期借地権の相続税評価額は以下のように算出することができます。

相続税評価額=自用地の評価額×(A÷B)×(C÷D)

A:貸借人の経済的利益の総額
B:土地の通常の取引価額
C:土地の残存期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率
D:契約期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率

上記の通り、定期借地権の評価額の算出方法は普通借地権と比較しても非常に複雑であり、どうしても専門知識が必要になります。
もし定期借地権の相続税評価額を知りたい場合は、専門家に依頼することをおすすめします。

借地権を相続する際の選択肢と注意

それでは借地権の相続に関して、より詳しく解説していきます。
ただ貸借人を変更するというだけでなく、他にもいくつか選択肢があるため、注意点と一緒に紹介いたします。

建物土地を残す場合

そのままの状態で住み始める

まずは借地権の名義を変更し、亡くなった親の代わりに、その家に住み始めるという選択肢です。
被相続人が亡くなったことを地主に伝え、先に名義変更を行っておくことで、その後の支払いや契約更新がスムーズになります。
また、建物の名義を変えるための登記変更も必要ですが、こちらは手続きが複雑であるため、専門家に依頼することが無難です。

リフォーム・増築をして住み始める

リフォームや増築をしてからその家に住み始めるという選択肢もあります。
親が亡くなってしまったことをきっかけに、子どもが実家に住み始めるということ自体は珍しくありませんが、それを機にリフォームをすることも多いです。

その場合、借地権や建物の名義変更に注意することはもちろんですが、リフォームにあたって地主の許可を得ることを忘れないようにしましょう。
通常、借りている土地で建物の改装を行う場合は、地主の承諾を得ることが必須であり、承諾料を支払うことが一般的です。

底地を購入する

長くその土地に住み続けるということであれば、地主と交渉し、借りている底地を購入してしまうという手段もあります。
買い取ってしまえば毎月土地代を支払う必要もなくなり、契約更新や地主の承諾を得るといった諸手続きも省略することができます。

ただ、売買契約を締結するにあたっても相応の手間が必要です。
適切な取引価格を算出するために専門家の協力が不可欠である上、そもそも地主が購入に応じてくれるかという問題もあります。

建物土地を残さない場合

借地権を売却する

その家に誰も住まなくなるという可能性もあります。
そんな時、借地権の買取を希望する第三者が見つかれば、自宅と併せて売却するという選択肢もありますが、その場合も地主の承諾が必要だということに注意してください。

また、そのような第三者が見つからない場合には、地主に買い戻してもらうことも考えられます。

ただ、買取価格には明確な相場はありませんし、その都度価値は変動します。
費用は掛かりますが、スムーズに売却するために不動産会社を仲介するという手段もあります。

地主とのコミュニケーションが大切

今回のコラムでは借地権の相続について解説いたしましたが、ご理解いただけたでしょうか。
通常の土地と比較して、借地権の相続は複雑であることが多く、地主の承諾などが必要になる場面も多々あるため、可能な限り地主とコミュニケーションを取ることが大切です。

地主との関係が険悪だと、相続の際にも思うように手続きが進められないということが起こりうるため、もしご自身が貸借人だという方は、相続人となるご家族のためにも今のうちから地主の方と良好な関係を築き、相続に向けて準備しておくことをおすすめします。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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