債務超過とはどんな状態?
財務諸表において、負債総額が資産総額を上回っている状態を「債務超過」と呼びます。
言い換えると「会社のすべての資産を負債の返済に充てても、負債を返済しきれない状態」ですが、このような苦しい経営状況の会社でも事業承継は可能なのでしょうか。
引退を考える代表は何らかの形で企業を手放すことになりますが、その企業が債務超過であることによって悪影響を受けるのであれば、早めに対策を取らなければいけません。
今回のコラムでは、企業が債務超過である場合の事業承継について解説いたします。
債務超過と赤字は違う?
本題に入る前に、「債務超過」と混同されがちな「赤字」との違いについて解説いたします。
負債が資産を上回っている状態を「債務超過」と呼ぶことに対し、「赤字」は損益計算書において、支出が収入を上回っている状態です。
似たような意味合いではありますが、例え赤字だからといって債務超過であるとは限りません。
どちらも経営状況を改善する必要がある点は同じですが、厳密には異なる状態を指します。
債務超過の企業は事業承継できる?
結論からお伝えすると、債務超過の企業でも事業承継することは可能です。
ただし、表面的には債務超過の企業の価値はマイナスであり、事業承継をするということは後継者に倒産のリスクや、大きな借金を負わせるということです。
そのため、後継者を見つけることは決して容易ではないということを留意しておきましょう。
ちなみに債務超過でも事業承継ができる企業は、価値が高い「のれん」を有している場合が多いです。
「のれん」とは財務諸表に反映されない収益力のことであり、具体的にはブランド力・技術力・人材などの目に見えない資産が挙げられます。
つまり、経営状態が芳しくない企業でも、長年培ってきたブランドがあったり、優秀な従業員が在籍していたりすると、その点を評価してくれる後継者が見つかり、事業承継が成功する可能性があります。
そのような「のれん」はM&Aによって「シナジー効果」を生み出す可能性も高いです。
シナジー効果とは、複数の企業が共同し一つになることで得られる相乗効果のことで、それを見出した企業が買い手となり、M&Aが成立する場合もあります。
債務超過企業を事業承継するために重要なこと
債務超過の企業でも事業承継できる可能性はありますが、それに向けて優先的に行うべきことは、以下の2点です。
- 債務超過を解消する
- 資産と負債を明確にする
それぞれの重要な点を解説いたします。
債務超過を解消する
債務超過の企業において、最優先事項とも言えることはその債務を解消することです。
経営状態を改善し、利益が増えればそれが一番ですが、他にも以下のような解決手段があります。
債務免除を受ける
中小企業においては、代表が企業に対して個人的に資金を貸し付けている場合が珍しくありません。
そのような場合においては、「債務免除」を受ける、つまり債務そのものを消滅させるという手法が考えられます。
それによる貸付人のメリットは、個人の資産が減るということです。
貸付人が企業に融資をしている「貸付金」にも相続税は発生しますが、債務免除をすることによって、経営者は資産を減らすことができ節税効果を得ながら、企業の経営状態を改善することができます。
ただし、債務免除を受けた場合に注意すべき点は、消滅した債務の分は「債務免除益」という利益として計上されることです。
債務免除によって業績が黒字になった場合は、法人税が課されるということを覚えておく必要があります。
遊休資産を売却する
「遊休資産」とは、企業が事業目的で購入したにもかかわらず、稼働していない資産のことです。
所有していても特に利益を生み出すことはないため、将来的に活用する予定もないのであれば、売却して返済に充てるという選択肢もあります。
債務を株式に転換する
債務を株式として転換することで、返済義務を解消するという手段もあります。
これを「DES(デット・エクイティ・スワップ)」と呼び、債務を消滅させることができます。
注意点は株主の持株比率が大幅に変動してしまう可能性があるということです。
株式の数によっては、経営における債権者の権限が大きくなり過ぎてしまうことも考えられます。
資産と負債を明確にする
債務超過であるかどうかに限らず、資産と負債をきちんと整理しておくことが大切です。
特に中小企業においては、企業の資産と個人の資産が明確に区別されていないケースが珍しくありません。
スムーズな事業承継を行うためにも、財務諸表の詳細はもちろん、簿外債務になっているものがないかも確認しておきましょう。
債務超過企業の事業承継は分社化という選択肢もある
債務超過の企業を事業承継するには、分社化を活用するという選択肢があります。
企業によっては複数の事業を手がけていることも珍しくありませんが、そのうち収益が高い事業のみを分社化によって切り離すことで、財務状況を改善するという手法です。
例えば企業の資産が4,000万円、負債が6,000万円である場合、新設する企業に4,000万円ずつの資産・負債を持たせて分社化することで、プラスマイナスゼロの財務状況を作り出すことができます。
後継者が見つかりやすくなるだけでなく、新しく融資を受け、事業資金を確保できる可能性が高まります。
一方、もともとの企業には2,000万円の負債が残ったままの状態です。
そちらに関しては個人資産で返済する、あるいは法人の破産手続きをするといった手段がありますが、細心の注意を払うべきは、「濫用的会社分割」とみなされないようにするという点です。
分社化によって負債のみが残った法人は返済能力がなく、破産手続きをすることでその返済義務を解消することができますが、その際、債権者は分社化の無効を訴えることができます。
近年問題視されている事項の一つであるため、分社化を検討する際は必ず専門家に相談し、リスクの少ない事業承継方法を選択しなければいけません。
事業承継しない場合の対処法
もし事業の後継者が見つからず、会社も負債を抱えたまま代表者が亡くなってしまうと、相続人には少なからず負担がかかってしまいます。
場合によっては多額の借金を引き継ぐことにもなってしまうため、債務超過の企業を承継せずに済む方法を解説します。
事業を廃業する
事業承継を行わない場合における選択肢の一つは、事業を廃業するということです。
債務超過であっても、それ以上業績が悪化する前に、自主的に事業活動を停止することで、相続人が抱える負担を最小限に留めます。
ただ、廃業する場合はその事業が法人か個人事業かによって手続きの内容が異なります。
法人(株式会社)の場合は、相続人の独断で廃業を決定できるとは限りません。
株主総会を開催し、出席した株主が有する議決権の3分の2以上の賛成を集める必要があります。
それにあたり、まずは被相続人が所有していた株式の数を確認します。
それが全体の3分の2以上であれば、相続人の意思で廃業するかどうかを決定できますが、不足している場合は、前述した通り、他の株主の賛成を必要数集めた上で廃業手続きを行わなければいけません。
一方で個人事業の場合は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出する必要があります。
また、被相続人が亡くなった場合は、「個人事業者の死亡届出書」も速やかに提出するようにしましょう。
その他には、廃業する年の翌年3月15日までに「青色申告の取りやめ届出書」も提出します。
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相続放棄する
会社以外の全ての財産を含めても負債額が上回っていた場合は、相続放棄するという選択肢があります。
相続放棄は被相続人が残した一切の財産の相続権を放棄することで、例え莫大な借金があったとしても、その返済義務を引き継ぐ必要がなくなります。
ただ、相続放棄を選択すると、他の相続人にしわ寄せがいくということを覚えておかなければいけません。
例えば3人の相続人のうち2人が相続放棄した場合、残りの1人が全ての負債を引き継ぐことになります。
そのため相続人全員で相続放棄するというように足並みを揃えることが望ましいですが、もしそれが難しい場合、安易に相続放棄を選択すると、家族内に軋轢が生まれる恐れがあります。
生前贈与した後に相続放棄する
相続放棄をすることで負債の返済義務がなくなることは喜ばしいことですが、代わりにプラスの財産も引き継ぐことはできなくなってしまいます。
そこで考えられる選択肢は、プラス財産は生前贈与で受け取り、負債などのマイナス財産は相続放棄によって帳消しにするということです。
このような方法であれば、負債を引き継ぐことなく、プラスの財産を受け取ることができますが、債権者に贈与の取消を請求されるリスクがあることを理解しておかなければいけません。
相続人に財産が生前贈与されていたにも関わらず、相続放棄によって返済義務が解消されてしまった場合、債権者は生前贈与の取消を請求する権利があり、これを「詐害行為取消権」と言います。
適用されると、財産は一旦債務者(被相続人)の元に戻ることになり、結果的に債務の返済に当てられることになります。
ただし、債権者がこの詐害行為取消権を主張するにはいくつか条件や制限があり、例えば被相続人が債務超過であることを相続人が知らなかった場合には認められません。
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債務超過企業はより早めの事業承継準備が必要!
企業が債務超過である場合の事業承継について解説いたしましたが、ご理解いただけたでしょうか。
この場合の事業承継は決して容易ではありませんが、しっかりと対策を取れば不可能ではありません。
ただ、企業によって選択肢は多岐に渡り、結論を導き出すことは非常に難しいです。
通常の企業と比べても早めに準備に取り掛かる必要があるため、ぜひ事業承継M&Aパートナーズにお問い合わせください。
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