第三者機関に自社の企業を売却する「M&A」の件数は年々増加していますが、ニュースなどで取り上げられるのは大企業のM&Aばかりです。
そのような状況から「中小企業でもM&Aは可能なのか」と疑問を抱く経営者は少なくありませんが、結論からお伝えすると、中小企業でもM&Aは可能です。

ただ、大企業と比較すると、中小企業のM&Aには多くの課題があり、スムーズに成立させるのは簡単なことではありません。
今回のコラムでは、中小企業のM&Aについて詳しく解説していきます。

  1. 中小企業でもM&Aを選択する企業が増加中
  2. M&Aのメリット・デメリット
  3. 中小企業のM&Aの問題点・大企業との違い
  4. 中小企業のM&Aを成功させるポイント
  5. より良い企業にすることがM&A成功のポイント

中小企業でもM&Aを選択する企業が増加中

一般的に、事業承継の手法としては以下の3種類が挙げられます。

  • 親族内承継
  • 親族外承継
  • M&A

この中で最も大きな割合を占める手法は、経営者の子どもや孫に後を継がせる「親族内承継」です。
ただ、年々後継者問題が深刻化している現代の日本社会において、その件数は徐々に減少してきています。

一方、増加傾向にあるのが「M&A」です。


参照リンク:株式会社レコフ

グラフを見て分かる通り、M&Aの総件数は徐々に増加しています。
2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、一時落ち込みを見せましたが、2021年には4,280件と過去最多を更新しました。

M&Aのメリット・デメリット

M&Aのメリットとデメリットを解説します。

M&Aのメリット

  • 後継者問題を解決できる
  • 従業員の雇用を守ることができる
  • 債務の個人保証を解除できる
  • 現金・株式を得られる
  • 比較的承継期間が短い

上記の通り、M&Aのメリットはいくつか挙げられますが、この中でM&Aの件数が増加している大きな理由の一つは、必要な期間が他の事業承継と比べて短いということです。


参照リンク:2021年版「中小企業白書」

上のグラフは、事業承継に要する期間を手法別に表しています。
「M&A・その他」の場合、半分近い45.5%が半年未満で事業承継を完了していますが、「親族内承継」や「親族外承継」と比較してもより短期間で済ませていることがわかります。

M&Aのデメリット

  • 承継期間が長くなる場合がある
  • 希望金額で売却できない場合がある
  • 従業員の雇用条件が悪化する場合がある
  • 顧客や取引先の信用を裏切る場合がある

一方、M&Aには以上のようなデメリットもあります。

M&Aで買い手企業と素早くマッチングすることができれば、短期間で事業承継を完了させることができますが、反対に、マッチングしない限りはいつまでも事業承継できません。
結局何年も掛かってしまう恐れがあります。

もう一つの大きなデメリットは、売り手と買い手で提示する取引金額にギャップが生じやすく、希望する金額で売却できるとは限らないということです。
スムーズに交渉を進めるには、M&Aの専門機関に仲介してもらい、客観的に判断してもらうことが大切です。

中小企業のM&Aの問題点・大企業との違い

大企業と比較すると、中小企業がスムーズにM&Aを成立させられる可能性は低いです。
その原因や課題点を解説します。

買い手企業が見つかりにくい

M&Aで他社を買収する主な目的は事業の拡大であるため、業績が優れ、人材や設備が揃っている企業は非常にマッチングしやすい傾向にあります。
ただ、従業員が少ない中小規模を買収しても、大幅に事業を拡大させることは難しいため、なかなか買い手企業が現れず、マッチングに時間が掛かってしまう傾向にあります。

買い手企業が詳細な情報を入手しにくい

M&Aで他社を買収、合併するには多額のコストが掛かり、買い手企業は大きなリスクを抱えることになります。
そのリスクを少しでも軽減するためには、売り手企業のことを深く理解することが大切ですが、中小企業のほとんどは非上場企業です。
つまり、詳細な情報を入手することが困難ということであり、買い手企業がなかなか見つからない原因の一つになっています。

専門機関に支払う報酬の負担が大きい

買い手企業が見つかりにくい中小企業が素早くM&Aを成立させるためには、M&Aの専門機関や仲介業者を活用することが有効です。
しかし、それらの機関に支払う報酬額が大きいということが、ハードルの一つになっています。

実際に支払う費用は企業の規模やサービス内容によって異なりますが、一般的な額や内訳は以下のようになっています。

  • 事前相談料:無料~1万円
  • 着手金:無料~100万円
  • 月額報酬(リテイナーフィー):30万~200万円
  • 中間報酬:成功報酬の10~20%
  • デューデリジェンス(調査)費用:50万円~
  • 成功報酬:取引金額の1~5%

取引金額の算出が困難である

企業の評価額を算出する方法はいくつかありますが、業績や資産は企業によって全く異なり、M&Aの取引金額に明確な相場というものはありません。

上場企業であれば、公開されている株価から、類似企業の事例を参考に取引金額を計算することが可能ですが、非上場の中小企業の場合はその手法を取ることができません。
情報が限られており、正確な評価額を算出することが困難であることもデメリットの一つです。

マイナスイメージを持たれていることがある

以前より普及してきているとはいえ、M&Aは比較的新しい事業承継方法です。
都市部の大企業であればともかく、地方の中小企業がM&Aを選択することにマイナスイメージを抱いている人はいまだ少なくありません。

特に長年家族経営で持続してきた企業に関しては、そのギャップがより大きい傾向にあり、顧客や取引先の信頼を欠いてしまう恐れがあります。

簿外債務・偶発債務が発覚する恐れがある

譲渡される企業に対して行われる事前調査を「デューデリジェンス」と呼び、M&Aを進める上で欠かすことができません。
調査内容は財務、法務、事業と多方面に渡りますが、その中で簿外債務や偶発債務が発覚し、企業の評価額が下がってしまう恐れがあります。

ただ、後々そのような債務が発覚すると、契約違反とみなされてしまう可能性があるため、隠れていた債務が事前に発覚することは、一概に悪いこととは言えません。

中小企業のM&Aを成功させるポイント

大企業と比較し、中小企業のM&Aを成功させることが難しいということをおわかりいただけたでしょうか。
以下を実施することで、M&Aの成功率を上げることができます。

適切な専門機関に相談する

買い手企業の選出、デューデリジェンス、各種手続きなど、M&Aには様々なハードルがありますが、それら全てを自分自身でこなすことは非常に困難です。
場合によっては専門家の知識やコネクションが必須になることも珍しくないため、まずは適切な専門機関に相談することをおすすめします。
支払う報酬は決して安くありませんが、スムーズに事業承継を済ませるための必要資金だと言えます。

経営状況を改善する

事業規模や従業員数に関わらず、マッチングしやすい企業の共通点は経営状況が良好であることです。
業績が優れてるほど需要は高くなり、買い手企業が見つかりやすいだけでなく、取引金額も高くなります。
もし現状の経営状況が芳しくないようであれば、問題点を抽出し、改善に努めましょう。

「のれん」を確立させる

「のれん」とは、人材、ブランド、ノウハウ、人脈といった目に見えない資産価値を指します。
数値化することが難しいため、単純な純資産には含まれませんが、他社にない「のれん」を有している企業は、買収することで大きなシナジー効果を発揮することが期待できます。

ちなみに、取引金額を算出する際には「のれん」もしっかりと評価額に含めることが可能です。
ただし、算出方法によって異なるため、専門機関に相談し、適切な算出方法を選択しましょう。

より良い企業にすることがM&A成功のポイント

中小企業のM&Aについて解説しましたが、ご参考いただけたでしょうか。
M&Aを活用すると素早く事業承継を完了させ、現金や株式を手に入れることが可能ですが、中小企業にとっては大きなハードルがいくつもあります。
しかし、それらを乗り越えることは決して不可能ではないため、専門機関にも相談しつつ、理想的なM&Aを実現させましょう。

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