1. 後継者不在!医療法人における事業承継(医療承継)の現状
  2. 経過措置型医療法人(出資持分あり)の事業承継
  3. 出資持分のない医療法人の事業承継
  4. 医療法人の事業承継 まとめ

後継者不在!医療法人における事業承継(医療承継)の現状

医療法人経営者の約3人に1人は70代!

近年、日本全体で事業承継についての関心が高まっており、その必要性が至る所で訴えられています。
それは地域で重要な役割を果たしている医療施設においても例外ではなく、医療法人における事業承継は「医業承継」や「医療承継」と呼ばれ、浸透してきています。

※参照 全国社長年齢分析/医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

帝国データバンクが行った「全国社長年齢分析」によると、全国の社長の平均年齢は60.1歳であり、年代別では「60代」が最多の27.3%、続いて「50代」が26.9%、「70代」が20.3%という結果でした。

一方で、厚生労働省が2018年に公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、病院の開設者又は法人の代表者の平均年齢は64.3歳でした。
全国の社長の平均年齢である60.1歳と比較しても分かるように、医療業界は経営者の高齢化が特に進んでいる傾向にあることがわかります。

また、医療業界における経営者の年代別の分布は「60代」が35.7%、「70代」31.0%であり、「70代」の医療業界の経営者においては全業種の「70代」の20.3%と比べて10%もの差があるという結果が出ています。

医療業界における高齢化は、他の業界と比べても深刻であると言えるでしょう。

医療法人では後継者不在が当たり前の現状

経営者の高齢化率だけでなく、後継者不在率においても医療業界は他業種と比べて高い数値になっています。

帝国データバンクが2019年に行った「全国企業〈後継者不在率〉動向調査」によると、全国の経営者の後継者不在率は65.1%であるのに対して、業種別で見た時の「病院・医療」業界における後継者不在率は73.6%とかなり高い数値を示しています。

このような状況下で、近年では、第三者に医療法人を譲渡するといった第三者承継(M&A)を選択するケースが浸透してきています。

経過措置型医療法人(出資持分あり)の事業承継

次に、医療法人における事業承継の具体的な方法について解説していきます。

医療法人における事業承継では、出資持分がある経過措置型医療法人とその他の出資持分のない医療法人とで、分けて取り扱う必要があります。
日本全体では、出資持分のある医療法人の方が多く、全体の約72%を占めています。

医療法人における出資持分は、法人に金銭等の出資を行った者が持ち、経済的価値を有する財産権を指します。

経過措置型医療法人とは

出資持分がある現在の経過措置型医療法人は、平成19年4月1日以降は設立できません。

経過措置型医療法人では、医療法人に出資した者が、その医療法人の財産権を有しています。
出資者は、会社解散の際の残余財産分配や退社した際の請求で、会社の財産から出資した割合に応じて払い戻しが受けられます。

出資持分ありの医療法人の中には、出資者が会社からの払戻しを受ける際、自身が出資した額を払戻し額の上限とする、出資限度額医療法人という法人もあります。

経過措置型医療法人の事業承継では、

  • 親族内承継
  • 第三者承継(M&A)

という2つのスキームが考えられます。

親族内承継のスキーム

理事長が自身の子供を後継者として引き継いだり、後継者が自身の親族である場合は、

  • 出資持分の移転による承継
  • 出資持分の払戻しによる承継

という方法が主に選択されています。

出資持分の移転による親族内承継

出資持分を親族に移転する際は、譲渡・贈与・相続といった方法のいずれかがとられます。

出資持分を移転することは、一般的な株式会社でいう株式を移転する事と似ていますが、本質的には異なるため注意が必要です。

医療法人における出資持分は、あくまで払戻請求権や残余財産分配請求権といった財産権しか有していません。
そのため、出資持分を移転しただけでは事業承継が完了したことにはならないのです。

医療法人において、株式会社での株主に該当するのは社員です。
株式会社では、株主であるためには株式を保有している必要がありますが、医療法人における社員は必ずしも出資持分を保有している必要性はありません。
したがって出資持分を移転したからといって必ずしも社員が入れ替わるわけではないのです。

つまり、医療法人における事業承継では、財産権を移転するという意味合いで出資持分の移転を行い、実質的な経営権の移転を行うために社員の入替えを行う必要があります。

出資持分の払戻しによる親族内承継

出資持分の払戻しによる事業承継では、医療法人の承継を行う前理事長が退社し、それに伴い出資持分の払戻しを受けた上で、後継者が入社するという手法をとります。
この場合でも実質的な経営権を移転するためには社員の入替えを行う必要があります。

親族内承継での税金

前述のように、親族内承継で出資持分を移転する際は、譲渡・贈与・相続といった方法が考えられます。

出資持分を譲渡する際には、譲渡する者に譲渡価額と帳簿価額との差額に対して譲渡所得税というものが課されます。

また、出資持分を贈与もしくは相続する際には承継を受ける親族に対して贈与税や相続税が課されます。

出資持分の払戻しによる事業承継では、出資持分を移転する際とは異なり、譲渡所得税や相続税、贈与税はかかりません。
しかし譲渡者には生じた利益に対して総合課税の配当所得が課税されます。

第三者承継(M&A)のスキーム

第三者承継の場合でも、親族内承継と同様に出資持分の移転による承継と出資持分の払戻しによる承継を行うことができます。第三者承継の場合ではそれに付け加えて、

  • 合併
  • 事業譲渡

といった方法があります。

合併

合併は、2つ以上の医療法人が契約に基づいて一つの医療法人になることを指します。

具体的な合併の方法としては、

  • 吸収合併
  • 新設合併

という2種類が存在します。

吸収合併とは、合併後に消滅する被合併法人の権利義務の全てを存続する医療法人が承継するというものです。

一方で、新設合併とは、合併の際に新たに医療法人を設立し、被合併法人の権利義務の全てを承継させるというものです。

合併をする際は、以下の手続きにより行われます。

  1. 合併決議・認可(吸収合併契約もしくは新設合併契約の締結)
  2. 各都道府県知事に合併の認可申請
  3. 債権者の保護(財産目録及び貸借対照表の作成等)
  4. 権利義務の承継
  5. 合併の効力の発生(合併の登記)

(参照:厚生労働省 医療法人の合併及び分割について)

合併の際に注意しなければいけない点があります。
それは、合併後の医療法人は基本的に出資持分のない医療法人になるという点です。ただし、出資持分のある社団医療法人同士の合併などの一部の例外は除きます。

また、合併の手続きでは、都道府県知事の認可が必要であるなど、比較的手続きが煩雑になり、時間がかかるという点を留意する必要があります。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社が営んでいる事業の一部、またはその全てを他の会社に譲渡することを指します。

医療法人の事業譲渡について、医療法上に特別な規定はありません。
通常の会社法の規定をもとに、権利の移転手続きを行なっていきます。

医療法人の事業の一部を譲渡する場合は、事業譲渡誓約書において、どのような権利や義務を譲渡対象とするか明確にしなければいけません。

出資持分のない医療法人の事業承継

出資持分のない医療法人とは

出資持分のない医療法人とは、出資者に財産権がない法人のことです。

出資持分のない医療法人では、設立時に拠出金という形で出資されます。
また、解散時に残余財産が設立時の拠出金以上であった場合でも、拠出金を上限とした額までしか受け取ることができません。

例えば、拠出金100万円で設立し、解散時には会社に純資産として5000万円あったとします。
その場合でも、拠出金として出した100万円は拠出者のものですが、余った4900万円は国に寄付することになります。

退職金を用いての事業承継

出資持分のない医療法人では、出資持分を譲渡するという形では、事業承継ができません。また合併での事業承継も選択できません。

そのため、基本的に出資持分のない医療法人の事業承継では、現理事長が退職する際に、退職金という形で医療法人からお金を引き出し、後継者に事業承継を行うケースが多いです。

しかし、税務上、退職金の金額には上限があります。
そのため、退職金を上限まで設定した上で、まだ希望の譲渡金に達しなければ、前理事長には、顧問などにポストを変えて在籍してもらい、希望の金額に達するまで働いてもらうという方法などがあります。

医療法人の事業承継 まとめ

医療法人の事業承継では、医療機器などの設備だけでなく、そこで働く従業員や、利用していただいている患者様を引き継ぐことになる場合が多いです。

事業承継により従業員や患者様へ与える影響を最小限にするためにも、前もって計画をたて、着実に手続きを行なっていくことが大切です。

また、医療法人の事業承継は株式会社などの一般的な法人とは異なる点が多く、取り扱う際には専門的な知識が必要になります。

名古屋事業承継センターでは、これまで病医院の開業、経営、承継支援を700件以上実施しており、専門的な知識を持つスタッフが多数在籍しております。

医療法人の事業承継でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。