株式会社の基本的な原則として「所有と経営の分離」があります。
会社を所有する者と、会社を実際に動かし経営する者を分離することを指しており、「出資と経営の分離」とも呼ばれています。
今回は所有と経営の分離のメリット・デメリットや、実現する方法まで詳細に解説いたします。
所有と経営の分離とは
所有と経営の分離とは、会社の所有者と経営者を分離する仕組みのことを言います。
この場合での会社の所有者とは株主であり、経営者は取締役などを指します。
日本に多く存在する中小企業においては、会社の代表取締役が大多数の株式を保有しているケースが多く、株式会社の原則とは逆になっています。
所有と経営の分離のメリット
能力を最大化できる
会社の業績を最大化させるためには、高い資金力と経営能力が必要になりますが、その両方を備えた人材はそう多くありません。
会社の所有と経営の分離を行うことで、潤沢な資金と高い経営能力を両立しやすくなります。
資金調達がしやすい
会社で事業を発展させていくために、資金は必要不可欠です。
所有と経営の分離が行われている会社はそうでない会社と比較して、資金調達がしやすい傾向があります。
会社の所有者と経営者が一致している状態を保つためには、一定割合の株式を保有しなければならず、株式発行による資金調達が難しい状態になります。
しかし、所有者と経営者が分離していれば、その点を気にせず資金調達をすることができます。
コーポレートガバナンスの向上
所有と経営の分離は、コーポレートガバナンスの強化にも繋がります。
コーポレートガバナンスは企業にとって、利害関係者の利益を守るために重要なことであり、上場企業のような規模や影響力が大きい会社には必要不可欠な取組みです。
株主が自身の利益を守るために、経営を監視することで、決算書の書換えや違法な証券取引などの不祥事を防ぐことができます。
しかし、日本の中小企業では社長が過半数の株式を保有している場合が多く、株主による経営陣への監視体制がなされていない場合があります。
企業の認知度が高いほど、不祥事が起きた際のダメージは大きくなります。
そのため非上場であっても会社の規模が大きくなるにつれて、コーポレートガバナンスの必要性は増していきます。
逆にコーポレートガバナンスが導入されることで信頼性が向上し、金融機関から融資を受けやすくなるなどのメリットもあります。
株主への利益
株主のメリットは、
- インカムゲイン
- キャピタルゲイン
の二つを得られることです。
インカムゲインは定期的に受け取れる配当のことを指し、キャピタルゲインは株式などの資産を売却した際に得られる利益を指します。
株主にとって、この二つを得られることは大きなメリットだと言えます。
所有と経営の分離のデメリット
会社のスピード感の低下
中小企業の強みとして、会社や市場の状況に合わせて柔軟に対応するスピードの早さが挙げられます。
しかし、会社の所有と経営が分離すると、重要な意思決定に時間が掛かり、業務進行に支障をきたす恐れがあります。
経営者のモチベーションの低下
会社の所有と経営が分離され、経営者が株式を所有していない場合、いくら会社の価値を向上させても利益として役員報酬しか得ることができません。
そのため、構造として経営者のモチベーションが上がりにくいものになってしまいます。
会社のトップとして従業員を率いる経営者のモチベーションが低ければ、会社全体のモチベーションの低下を招く恐れがあります。
事業承継後の会社の業績を落とさないためにも、株式の一部を後継者に保有させるなどのインセンティブを与え、モチベーションの低下を防ぎましょう。
所有と経営を分離する方法
持株会社の設立
持株会社は事業の支配を目的に、子会社の株式を100%保有する会社のことを指します。
株式の所有者は持株会社、経営は子会社とすることで、所有と経営の分離を実現させることができます。
一般的に持株会社は、各子会社の株式を保有し、全体の経営戦略を立てたり、意思決定をする役割があります。
持株会社は、
- 事業持株会社
- 純粋持株会社
の2種類に分類することができます。
事業持株会社
事業持株会社とは、子会社を支配するだけでなく、別事業も行っている持株会社を意味します。
持株会社になった後も従来の事業を継続する場合、このような形態をとることが多いです。
純粋持株会社
持株会社設立による所有と経営の分離は、基本的にこの純粋持株会社の設立を指します。
支配する子会社の配当のみを収入とし、別事業を行うことはありません。
株式公開(IPO)
株式公開(IPO)という方法を用いて、所有と経営の分離を行う方法も存在します。
株式公開とは、会社の株式を証券取引所に新規上場させることを指します。
株式公開を行うことで、自由に株式が売買できるようになります。新規で株式を発行したり、保有する株式を売却することで市場からの多額の資金調達を期待できます。
しかし、株式公開には関連当事者取引の見直しや関係会社再編の資料作成など、多くの準備期間やコストが必要となり、難易度も高いです。
会社法上の公開会社と非公開会社の違い
会社法では、発行する全株式に譲渡制限規定を設けている会社を非公開会社とし、1株でも自由に譲渡できる規定を設けている会社を公開会社としています。
株式公開(IPO)は、会社法上の公開会社となることを前提としています。
公開会社と非公開会社には、譲渡制限の有無の他にも、下記のような違いがあります。
- 役員任期
- 設置機関
- 発行可能株式総数
公開会社の場合、会社法に定められている任期を伸長することはできませんが、非公開会社では定款にて10年まで伸長することができます。
設置機関に関しても公開会社の場合、取締役会と監査役を必ず設置しなければいけませんが、非公開会社は取締役が一名の機関設計でも問題ありません。
公開会社は既に発行している株式の4倍を超えて株式数を設定することができません。
一方、非公開会社では自由に設定できます。
会社の所有と経営の分離が適しているケース
会社の所有と経営の分離にはメリット・デメリットがあるため、適しているケースと適していないケースも存在します。
以下のようなケースでは、会社の所有と経営の分離が適しているでしょう。
- 経営リスクを分散させたい場合
- 事業の多様化・多角化を図りたい場合
- 事業承継が難しい場合
経営リスクを分散させたい場合
会社の所有と経営の分離をすることで、経営者は経営することに集中できます。
特定の業界や分野において高い専門性を持つ人を経営者に起用することで、経営の質を向上させることができるでしょう。
また、ホールディングス化によって所有と経営を分離すれば、それぞれ専門性の高い事業ごとに独立した子会社を設立して、経営リスクを分散させることが可能です。
規模の大きな会社が1つの母体しかない場合、一部の事業で大きな問題を起こせば会社全体の経営に影響を与えるリスクがありますが、ホールディングス化すればそのリスクはほとんどありません。
事業の多様化・多角化を図りたい場合
事業を多様化・多角化することで収益の幅が広がり、企業としての価値を高めることができますが、同時に各分野において高い専門性が必要になるでしょう。
多岐に渡る事業を、会社の所有者が全て管理・経営することは難しく、専門性も失われる可能性があります。
そのため、会社の所有と経営を分離して、多様化する事業の経営はその分野において高い専門性を有する人材に託すことが望ましいです。
そうすることで、高い専門性を有しながらも幅広い事業を運営することができ、企業としての価値をさらに高めることができるでしょう。
事業承継が難しい場合
親族による親族内承継や従業員による親族外承継などが困難な場合、廃業か外部への事業承継のどちらかを選択しなければなりません。
廃業を選択した場合、従業員は職を失うことになり、これまで関係を築いてきた取引先にも大きな影響を与えてしまいます。
さらに、廃業する場合は手間や費用がかかります。
外部に事業承継することができれば、事業や従業員、顧客や取引先などこれまで築いてきた財産を引き継ぐことができ、経営者も売却益を得ることが可能です。
外部に事業承継する場合、株式を譲渡することで事業承継が成立し、会社の所有と経営を分離することができます。
事業承継後は、これまでと違う立場で自社と関わることができるということも大きなメリットです。
所有と経営の分離 まとめ
今回は、会社の所有と経営の分離について解説いたしました。
会社の所有と経営の分離を行うことで、
- 能力を最大化できる
- 資金を調達しやすい
- コーポレートガバナンスを向上できる
- 株主が利益を得られる
の四つのメリットがある一方で、
- 会社のスピード感の低下
- 経営者のモチベーションの低下
といったデメリットもあります。
実際に会社の所有と経営の分離に取り組む際は、
- 持株会社(純粋持株会社)の設立
- 株式公開(IPO)
といった手法があります。自社の状況に合わせて手法を検討しましょう。
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