ホールディングス化は持株会社化とも呼ばれ、事業規模の拡大や、経営状況の変化に伴う組織再編に用いられるケースが多いです。
様々なメリットがあるものの、そのフローは単純に親会社を設立するというだけでなく、いくつものパターンに分かれます。

そのため、会社によって適切なホールディングス化の内容は異なります。
今回のコラムでホールディングス化の基本的な知識や、各パターンの特徴を解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

  1. ホールディングス化とは
  2. 持株会社の種類
  3. ホールディングス化が増加している理由
  4. ホールディングス化のメリット・デメリット
  5. 事業承継に有効な理由
  6. ホールディングス化の手法
  7. ホールディングス化でスムーズに事業承継を

ホールディングス化とは

「ホールディングス」とは、株式を所有し、子会社を支配する親会社、つまり持株会社のことを指します。
経営や管理を統一し、グループ全体でスムーズな動きを実現することが主な役割です。
冒頭で解説した通りいくつかのパターンがあり、例えば、新しく持株会社を設立する場合もあれば、既存の会社を親会社と子会社に分割する場合もあります。

持株会社の種類

持株会社は事業持株会社と純粋持株会社の2種類に分けられます。

事業持株会社

子会社の株式を所有するだけではなく、自身も何らかの事業を営む持株会社のことを事業持株会社と呼びます。
例えば、株式交換を用いて既存の会社をホールディングス化する場合、持株会社もそれまで通り事業を継続することになるので、一般的には事業持株会社になります。

純粋持株会社

純粋持株会社は子会社の株式の保有のみを目的とした持株会社です。
事業持株会社とは違い、自社事業を営むことはなく、売上は子会社からの配当のみということになります。
持株会社としてグループ全体をコントロールする役割はあるものの、明確に管理業務などを行っている場合は事業持株会社に該当します。

ホールディングス化が増加している理由

近年、ホールディングス化の件数は徐々に増加していますが、理由の1つがホールディングス化によってスムーズなM&Aを実現できるということです。

2012年頃の景気好転を機に、あらゆる企業はさらなる成長を求められるようになりました。
新規事業の進出や人員増員を図る企業も多くありましたが、M&Aで他社を買収すればより効率的に事業規模を拡大できることから、ホールディングス化の件数も伸びてきています。

ちなみに、以前は独占禁止法により、純粋持株会社の設立は禁止されていました。

特定の企業に支配力が集中することを避けるためでしたが、実際は従業員解雇を促進したり、新規事業の進出を抑制するなどの悪影響を与えていたことから、1997年に解禁。
以降は企業を発展させる上で有効な手段の1つになっています。

ホールディングス化のメリット・デメリット

ホールディングス化には多くのメリットがありますが、反対にデメリットもあります。
ホールディングス化を検討する場合、まずそれらを把握するところから始めましょう。

ホールディングス化のメリット

まずホールディングス化することには以下のようなメリットがあります。

  • 意思伝達が円滑になる
  • リスクヘッジができる
  • 人事制度の幅が広がる
  • M&Aに対応しやすい
  • 事業承継に活用できる

意思伝達が円滑になる

持株会社が子会社を支配する構図では、自然とトップダウンのマネジメントスタイルになり、グループ全体の経営方針は持株会社が決定することになります。
複数の企業が存在している場合でも、全体の構図が並列ではなく垂直になることで、組織の下層まで素早く意思伝達できるようになります。

リスクヘッジができる

リスクヘッジができるという点もホールディングス化のメリットです。
複数事業が1つの企業に集約されていると、仮に大きな損害が出たり、不祥事が発生した場合に、企業全体がダメージを受け、全ての事業がストップしてしまう恐れがあります。

一方でホールディングス化によって各事業ごとに複数の企業が存在する形態だと、何かあった際に大きな損害を受けるのは、当該の子会社と支配元である持株会社のみです。
損害そのものを打ち消すわけではありませんが、他事業への影響を最小限に留めることができます。

人事制度の幅が広がる

ホールディングス化によって複数の会社ができると、各会社ごとに経営者や代表者といった役職を新設することになります。
人事制度の幅が広がり、以下のような利点が生まれます。

  • 従業員のモチベーションが上がる
  • 中小企業に多い家族経営を抜け出せる
  • キャリアの制限による離職率の上昇を防げる

また、同時に勤務形態の幅も広がるため、出勤時間や出勤日数に融通が利くようになり、一人ひとりに合ったワークスタイルを構築しやすくなります。

M&Aに対応しやすい

ホールディングス化を行っている会社はすでに事業ごとに会社を分ける体制が整っているため、M&Aで会社を買収したとしても大きな影響がありません。
買収した会社をそのままの形で取り込みやすくなっています。

また、自社がM&Aで事業を手放したいときも、事業ごとに会社が分かれているため、譲渡したい事業を切り離しやすいこともメリットともいえます。

加えて、持株会社が大株主となることで、実質的に外部からの敵対的買収が不可能になります。

以上から、ホールディングス化とM&Aの相性の良さがうかがえます。

事業承継に活用できる

ホールディングス化は将来的な事業承継の対策としても活用できます。
企業にとっていくつものメリットをもたらすので、詳しくは後述いたします。

ホールディングス化のデメリット

一方でホールディングス化には、以下のようなデメリットがあることも留意しておきましょう。

  • 管理コストが増大する
  • 各事業間に隔たりが生まれる
  • 税金が発生する
  • 借入金が発生する

管理コストが増大する

ホールディングス化に伴って会社の数が増加すると、その分経理や財務などのバックオフィス業務の量が増え、従業員を補充する必要性も出てくるでしょう。
同時に税務業務も増大し、税理士に支払う報酬も増額する必要があるため、トータルの管理コストが高くなる傾向にあります。

事業間に隔たりが生まれる

一般的に会社分割には各部署がそれぞれの業務に集中できるようになるというメリットがありますが、上手く管理しないと各部門の間に隔たりが生まれてしまいます。
コミュニケーションが減少して業務効率が落ちてしまうだけでなく、他事業に対して批判的な意見を持ってしまうセクショナリズムに発展してしまう恐れがあります。

税金が発生する

持株会社を事業承継する場合、先代の経営者には譲渡所得税が課せられる場合があります。
譲渡所得税とは、譲渡時の株式の金額が取得時を上回った場合に課せられる税金です。
譲渡金額から取得金額を差し引いた譲渡益に対して約20%の納税義務が発生します。

借入金が発生する

ホールディングス化の手法によっては、持株会社は多額の融資を受けて、子会社の株式を買い取る必要があります。
当然負債を抱えることになるため、通常は経営状況が良く、潤沢な資金があるタイミングでホールディングス化することが望ましいです。

事業承継に有効な理由

一般的にホールディングス化の特徴は上記した通りですが、次に事業承継におけるメリットについて、詳しく解説していきます。
将来的に事業承継を行う時のために、以下の効果があることを理解しておきましょう。

  • 株式の分散を回避できる
  • 節税対策になる
  • スムーズな事業承継が可能になる
  • 先代経営者が現金を獲得できる

株式の分散を回避できる

一般的に、複数の会社の事業承継を行う際には、株式が分散してしまう恐れがあるという点に注意する必要があります。
後継者の持株比率が不十分だと、思うように会社の指揮を執ることができず、経営そのものの安定性を欠いてしまいます。

しかし、ホールディングス化すると、各子会社の株式は持株会社が所有することになり、株式の分散を回避することができます。
後継者は持株会社を経由して経営方針を取り決めることで、実施的にグループ全体の経営権を掌握することになります。

節税対策になる

持株会社が子会社の株式を買い取るために融資を受けると、それによって発生する借入金と子会社の株式が相殺されます。
持株会社そのものの株価が抑えられ、後継者に課せられる相続税や贈与税が減額されることになります。

先代経営者に約20%の譲渡益課税が課せられるものの、後継者に課せられる相続税や贈与税の最高税率が55%であることを考慮すると、節税対策として活用できる可能性が高いです。

スムーズな事業承継が可能になる

スムーズな事業承継が可能になるということもホールディングス化の大きなメリットだと言えるでしょう。
仮に複数の会社を経営している場合、一つひとつの株式や経営権を全て後継者に引き継ぐのは極めて困難です。

ホールディングス化をしている場合、持株会社のみを引き継ぎさえすれば自動的に全ての事業を引き継ぐことになるため、事業承継にかかる時間や手間を大幅に省略できます。

M&Aも同様で、

  • デューデリジェンス
  • 売却価格の決定
  • 買い手企業との交渉

上記のような一つひとつの手順を迅速に進めることができます。

先代経営者が現金を獲得できる

ホールディングス化を行うということは、持株会社が先代経営者から株式を買い取るということであり、先代経営者はその価値に該当する現金を獲得することができます。

先代経営者の財産が株式のままだと、後継者以外の相続人の遺留分を満たすため、別途現金を用意しなくてはいけません。
ホールディングス化によってあらかじめ現金化しておけば、相続時に余計な手間が必要になることがなくなり、相続争いも回避できます。

遺留分の計算方法を解説!具体的な遺留分対策とは?

遺留分とは、一定の相続人に最低限取得できる財産を保証される遺産取得分のことです。 例えば、被相続人が遺産の全て…

ホールディングス化の手法

ホールディングス化は主に以下の4つの手法に分類されます。

  • 株式移転方式
  • 株式交換方式
  • 株式譲渡(売買)方式
  • 会社分割方式(抜け殻方式)

株式移転方式

株式移転方式は持株会社となる会社を新たに設立し、既存の会社を子会社として傘下に加える手法です。
事業は持株会社と子会社で分担することになりますが、基本的には大幅に運営形態が変わることはなく、資金調達も必要ありません。
スピーディーにホールディングス化できることから、多くの組織再編に用いられています。

株式交換方式

株式交換方式も基本的には資本を調達することなくホールディングス化できる手法です。
複数の会社が存在する場合において、いずれかが持株会社に、残りは子会社になり、その株式を持株会社が所有します。

それぞれの株主はもともと所有していた株式を交換することになり、他の手法と比較して自由度が高いという特徴があります。
また、株式だけでなく現金も交換の対象として選択することが可能です。

株式譲渡(売買)方式

株式譲渡(売買)方式はM&Aに用いられることが多く、売り手企業の株主は買い手企業に株式を譲渡し、現金を取得することができます。
株式交換方式との違いは、株主の合意を得て、株式譲渡契約を締結する必要があることで、全ての手続きを完了させるまでに時間がかかってしまう傾向にあります。
一方で株式交換方式の場合、3分の2以上の株式を確保することができれば、子会社として素早く支配下に置くことができます。

会社分割方式(抜け殻方式)

会社分割方式は持株会社を設立し、既存の会社を子会社として支配する手法です。
株式移転方式との違いは、既存の事業はそのまま子会社が行うという点で、構図を見ると持株会社がまるで抜け殻のようになっていることから、抜け殻方式とも呼ばれています。
また、この場合の持株会社は自社事業を営まないため、基本的には純粋持株会社になります。

ホールディングス化でスムーズに事業承継を

ホールディングス化は会社をさらに発展させるために有効な手段の1つですが、メリットだけでなく、デメリットもあります。
リスクを最小限に抑えるためにも、まずは十分な資金を調達しましょう。

今回のコラムでホールディングス化の基本的な知識を紹介いたしましたが、実際にどのような手法が適切かを見極める際には、専門家に依頼するのもおすすめです。

事業承継M&Aパートナーズでは、事業承継に特化した組織再編やホールディングス化を全面的にサポートいたします。
株価算定のシミュレーションも無料で承っているので、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。