M&Aは大企業が行うものという認識が強く、中小企業にはあまり縁のないことだと思われていましたが、近年は中小企業でも事業承継の一つの手法として活用され始めています。

今回はM&Aで実施される手続きのケースごとに、対象となる税金や効果的な節税対策を中心に解説いたします。
M&Aにおける税務は複雑ですが、しっかりと理解することで安心して手続きを進めることができます。
是非最後までご覧ください。

  1. M&Aでの税金の基礎知識
  2. 株式譲渡の税金
  3. 事業譲渡の税金
  4. 組織再編の税金
  5. M&Aで活用できる節税対策
  6. 企業の状況に合わせた節税対策が重要

M&Aでの税金の基礎知識

前提として、個人に課される税金と法人に課される税金は全く異なります。
そして、どのようなスキームでM&Aを実施するかによっても課される税金は変わってきます。

個人の所得に対しての課税の分類

個人の所得は、

  • 総合課税
  • 分離課税

の2種類の課税方法に分けられ、それぞれで異なる扱い方がされます。

総合課税に分類される所得と課税方式

個人の所得で総合課税の対象となるのは以下の7つです。

  • 給与所得
  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 配当所得
  • 一時所得
  • 譲渡所得(ゴルフ会員権等)
  • 雑所得

総合課税では上記7つの所得を合算し、控除額を差し引いた金額に対し所得税率をかけて算出する方式が用いられます。
税率には、所得が多くなるほど納税額が高くなる累進課税方式が採用されています。

分離課税に分類される所得と課税方式

分離課税の対象となるのは、以下の4つです。

  • 利子所得
  • 譲渡所得(株式・土地・建物等の売却)
  • 退職所得
  • 山林所得

分離課税は、名前の通り総合課税とは切り離され、それぞれの所得区分ごとに定められた固定税率によって税金額を算出します。

総合課税、分離課税の両方に譲渡所得が記されていますが、どのようなものを譲渡し、所得を得たのかで分類が異なるので注意が必要です。

法人の所得と税金の種類

法人の所得は、個人の所得と違い、細かく分類されることはありません。
法人税の算出方法を簡単に表すと「所得×税率」となります。

算出方法自体は単純ですが、所得は会社の儲けを表す利益とは異なるため、その点に注意する必要があります。

所得は会社の益金から損金を差し引いたものになります。
益金や損金の対象に関しては税法で定める通りに分類し、計算する必要があるため、士業などの専門家のサポートを受けることをおすすめします。

株式譲渡の税金

中小企業のM&Aの際は、株式譲渡のスキームで行われることが多いです。
株式譲渡は、譲渡側の株式を譲受側の企業に対して、譲渡するという方式で実行されます。

個人の株式譲渡での税金

個人が所有する株式を譲渡した際の税金は、譲渡所得(譲渡所得-(取得費+譲渡費用))×20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で算出することができます。

法人の株式譲渡での税金

法人が株式を譲渡した際に課される法人税は、本業での利益と株式譲渡益の合計した所得の33.58%※として算出することができます。
(※外形標準課税不適用法人かつ標準税率の場合の実効税率)

株式譲渡の税金に関する注意点

基本的に株式譲渡でM&Aを行った場合、売却益を得る譲渡側の個人・企業に対してのみ税金が課されますが、非常に安い価格での株式譲渡とみなされた場合、譲受企業に対して法人税が課される恐れがあるので注意が必要です。

事業譲渡の税金

事業譲渡も中小企業のM&Aの際にはよく用いられるスキームで、会社全体ではなく一部の事業を譲渡するという点が株式譲渡とは異なります。

事業譲渡で取引きを行う当事者は会社同士のため、基本的に課税対象は法人となり、譲渡側と譲受側の企業で課される税金が異なります。

譲渡企業に課される税金

譲渡企業には、事業の売却によって得た譲渡益に対して法人税が課されます。
法人税は、株式譲渡の際と同様に、本業での所得と事業売却損益(事業譲渡金額−譲渡資産・譲渡負債の簿価)を合算した額の33.58%として算出されます。

譲受企業に課される税金

買い手である譲受企業に対しては、消費税の負担が生じる可能性があります。
譲渡対象資産に消費税の対象となる営業権や有形固定資産(課税資産)が含まれていた場合、課税資産の対価の額の10%が消費税として算出されます。

組織再編の税金

合併や会社分割は組織再編として位置付けられるため、一定の要件を満たすことで減免措置を受けられる可能性があります。

享受できる優遇措置は、譲渡側から譲受側へ移動する資産が簿価として計算されることにより、譲渡益が生じず、課税対象とならないというものです。

税制において優遇措置を受けるためには、適格組織再編として認められる必要があります。

M&Aで活用できる節税対策

  • 役員退職慰労金を活用する
  • 資産を選別して売却する
  • 株式譲渡ではなく第三者割当増資を行う
  • 売却益を経費で相殺する

役員退職慰労金を活用する

役員退職慰労金の活用は主に株式譲渡でのM&Aで実施可能な節税対策です。
M&Aで発生した譲渡価格の一部を退職金として受け取ることで譲渡側の税金負担を軽減することができます。

退職金の活用は節税対策の面では譲渡企業にメリットがありますが、退職金の分だけ買収資金が削減されるため、譲受企業にもメリットがあります。

資産を選別して売却する

買い手側からのニーズが高い資産に絞って、売却することも節税対策になります。
買収金額に応じて譲渡企業が負担する税金は高くなるため、不必要な資産を引継ぎ対象から除外し、あえて買収金額を下げることで税金による負担を軽減することができます。

株式譲渡ではなく第三者割当増資を行う

株式譲渡の代わりに第三者割当増資でのM&Aを行うことで、税金の発生を抑えることができます。

売り手側の企業が第三者割当増資を行い、買い手企業に50%超えの株式割合を取得させることで、実質的に経営権を受け渡すことができます。

そのため、第三者割当増資を行えば、両者に対して課税が発生することはありません。
しかし、M&A後も譲渡企業側が株主として残るなど、株式譲渡とは異なる点に注意する必要があります。

売却益を経費で相殺する

上述のように、法人税での課税は本業などで得た全損益を合算した金額が対象となるので、のれん償却などの経費で売却益を相殺させることで全体の税金額を減額させることができます。

しかし、この節税対策は法人のみ実施できるため注意しましょう。

企業の状況に合わせた節税対策が重要

今回は、個人と法人での所得や税金の違いや、M&Aスキーム別での税金の違い、節税対策について解説いたしました。

コラムをご覧いただいても分かるように、M&Aに関連する税務はとても難しく、どのような節税対策をとるべきかを判断することはとても難しいです。

名古屋事業承継センターでは、その企業の状況に合わせた最適な事業承継のプランを提案させていただいております。
M&Aだけでなく、様々な事業承継施策にも対応しておりますので、お気軽に無料相談をご利用ください。

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