事業承継を実施する際には、対象となる会社の状況に合わせて様々なスキームが検討されますが、そのうちの一つとして種類株式の活用があります。

適切に種類株式を活用することで、事業承継をスムーズに進めることができ、経営者と会社を引き継ぐ後継者の両者が満足のいく結果を期待できます。
今回のコラムでは、9つに分類される種類株式についてや、その活用方法に至るまで詳細に解説いたします。

  1. 種類株式とは
  2. 9つの種類株式
  3. 種類株式を複数同時に発行することも可能
  4. 事業承継での種類株式の活用方法
  5. 種類株式の導入手続き
  6. 種類株式を活用して事業承継を成功させる

種類株式とは

会社法にて「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」(会社法109条1項)と定められており、1株における権利は平等だとされています。

しかし、株式会社では定款にて内容の異なる株式を発行することが可能だと会社法で定められており、そのような株式を種類株式と呼びます。
種類株式を所有している株主に関しては、他の通常の株式を持つ株主とは異なる処遇を受けることができます。

9つの種類株式

種類株式は以下の9つに分類することができます。

  • 譲渡制限株式
  • 取得請求権付株式
  • 取得条項付株式
  • 全部取得条項付株式
  • 剰余金の配当規定付株式
  • 残余財産の配当規定付株式
  • 議決権制限株式
  • 拒否権付株式
  • 役員選任解任権付株式

譲渡制限株式

株式は自由に譲渡できることが原則として定められています(会社法127条)が、定款にて譲渡制限が定められた株式を譲渡制限株式と呼びます。
その株式においては譲渡する際に、会社の承認が必要になります。

譲渡制限株式を定めることで、株式の保有者が誰になるか管理しやすくなるため、経営陣にとって好ましくない者が株主になることを防ぐことが可能になり、安定した経営に繋がります。

譲渡制限株式は、種類株式の中でも一般的であり、多くの中小企業にて導入されています。

取得請求権付株式

取得請求権付株式とは、株主が会社に対して保有している株式の買取りを請求できる権利の付いた株式を指します。

会社が取得請求権付株式を取得する際には、該当する株主に対して取得の対価を交付する必要があります。
この対価としては、金銭、他の株式、新株予約権や社債などがあります。

株式の対価を予め定め、その買取りを会社が保証することで、株主にとっては投資のリスクを軽減することができ、会社側は比較的容易に資金調達をすることが可能になります。

取得条項付株式

取得条項付株式とは、会社側がその株式を強制的に株主から取得できるという内容が定められた種類株式のことを指します。

取得請求権付株式に対し、取得条項付株式では会社側を優遇した種類株式となっています。

この種類株式を発行することで、意図しない者に株式を相続させることを防ぐことが可能です。

全部取得条項付株式

取得条項付株式の中で、対象となる全ての株式を会社が保有できるものを全部取得条項付株式と呼びます。

この種類株式を発行することで経営権の集中をしやすくすることができます。
しかし、取得の際には株主総会による特別決議を得る必要があるため注意が必要です。

剰余金の配当規定付株式

会社の剰余金の配当に関して、出資比率とは異なるような優劣が規定されている株式を指します。
配当優先株式はその名の通り、他の株式よりも優先的に配当を受け取ることが可能です。一方で、配当において劣後される配当劣後株式もあります。

残余財産の配当規定付株式

残余財産における優先・劣後株式も存在します。
株式を発行した会社が清算の際、残余財産の分配において優先もしくは劣後される旨が記された株式です。

議決権制限株式

一定、もしくは全ての事項で株主総会での議決権を行使できないという内容を定めた株式のことを議決権制限株式といいます。
また、全ての事項で議決権が行使できない株式は、完全無議決権株式とも呼ばれています。

拒否権付株式

拒否権付株式は、文字通り株主総会や取締役会で、重要な議案における否決権を有した株式のことを指します。

実際には、株主総会や取締役会の際に、通常の決議に加えて、拒否権付株主で構成された種類株主総会での決議を必要とする旨が当株式には記されています。

また、この種類株式は敵対的な買収を防ぐ効果もあり、黄金株とも呼ばれています。

役員選任解任権付株式

役員選任解任権付株式は該当する種類株主で構成される種類株主総会で、取締役及び監査役を選任・解任することができる株式のことを指します。

種類株式を複数同時に発行することも可能

種類株式は複数を組み合わせて発行することができます。
例えば、議決権制限株式を配当による利益にのみ興味があり、経営権には興味がない株主に対して配当優先株式と組み合わせて付与することで、経営陣は決定権を強化でき、株主も利益を得やすくすることができます。

また、拒否権付株式についても、経営陣以外の第三者に流出してしまうと経営に多大な影響を及ぼす恐れがあるため、譲渡制限規定を同時に株式に付与する場合があります。

種類株式を上手く組み合わせて活用することで、スムーズな事業承継に繋げることができます。

事業承継での種類株式の活用方法

分散した株式の集約

自社株式が分散してしまうと、事業承継後の経営での意思決定に支障をきたす恐れがあります。
また、自社株式が分散しているがために、株主からM&Aなどの理解が得られず、スムーズに事業承継できないというケースも考えられます。
このように分散した株式を集約させる必要がある際に、種類株式の活用が効果的です。

具体的には、全部取得条項付株式を発行することで、分散した株式(議決権)を集約することが可能です。
しかし、全部取得条項付株式を発行する際には反対株主による株式の買取り請求権が発生することがあるため注意が必要です。

従業員持株会の活用

会社の従業員に対して株式を取得させることによって、

  • 従業員のモチベーションの向上
  • 自社株価低下による事業承継対策

が期待できます。

経営者にとって従業員に会社の議決権を渡すことは、ハードルが高く、従業員側も株式の取得は議決権の確保ではなく、配当、売却益などの利益面を期待しているケースが多いです。

そのため、配当優先株式と議決権制限株式を組み合わせた「配当優先無議決権株式」を従業員へ取得させる方法が有効です。

配当優先無議決権株式の発行により、発行済株式数が増加し、1株あたりの株価が下がることで事業承継時の負担を軽減することができます。

事業承継時の遺留分トラブルの防止

経営者の所有する株式を複数人いる相続人の内の1人に集中させたい場合、議決権制限株式や完全無議決権株式を活用することで遺留分トラブルを防ぐことができます。

具体的には、相続前に議決権制限株式や完全無議決権株式を後継者以外の相続人に取得させ、後継者には普通株式を取得させることで遺留分トラブルを防ぎつつ議決権を集中させることができます。

遺留分とは、法定相続人に対して保障される最低限の遺産取得割合のことを指しています。
相続人であるのに十分な遺産を受け取ることができなかった場合に、相続人は最低限の遺産を求めることができます。

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種類株式の導入手続き

種類株式を発行するためには、種類株式の発行数や内容などを定款に記し、登記する必要があると会社法にて定められています。
定款を変更する必要がある場合は、株主総会の特別決議が必要になります。

また、既に種類株式を発行している場合は、新規で種類株式を発行することが既存の種類株主の損害に繋がる可能性があるため、種類株主総会の決議も必要になります。

種類株式を活用して事業承継を成功させる

今回のコラムでは、9つに分類される種類株式についてや、その活用方法を解説しました。
種類株式を活用することで、分散した自社株式の集約や事業承継時の遺留分トラブルの防止などの効果を期待することができます。

事業承継M&Aパートナーズでは、会社の状況に合わせて、種類株式の活用をはじめとした事業承継対策を実施しております。事業承継でお困りの際は、一度名古屋事業承継の無料相談をご利用ください。

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