企業の成長や生産性を向上させる上で、M&Aという選択はとても有効です。
また、企業の成長のためだけでなく、経営者の高齢化による事業承継の手段としても多く活用されています。
しかし、M&Aは必ず成功するという保証があるわけではなく、一定のリスクもあります。
政府は、M&Aでのリスクを減税という形で緩和させるために、中小企業を対象としたM&A減税措置を2021年から開始しました。
M&A減税措置の目的
M&A減税措置に関して説明する前に、そもそもなぜこのような税制改正が行われたのかについて、簡単に解説いたします。
M&A減税措置が採られている主な目的は、
- 中小企業の生産性向上
- 事業承継の推進
- コロナ禍における事業転換の推進
中小企業の生産性向上
買い手と売り手の強みを最大限に活かすことで、M&A後のシナジー効果を期待することができ、生産性の向上を図ることができます。
また、通常であれば時間をかけなければ得られない技術、ブランドイメージや人材も、M&Aすることで短期間で獲得することが可能です。
減税措置によって、障害の一つでもあった税金負担を軽減させることで、M&Aを推進させ、中小企業全体の生産性を向上させる目的があります。
事業承継の推進
M&A減税措置が採られた目的には、事業承継の推進という側面もあります。
現在、日本全体で経営者の高齢化が問題となっています。
政府はM&A減税措置などのサポートを拡充し、事業承継をしやすい環境を整えることで、日本の経済力を向上させることに尽力しています。
コロナ禍における事業転換の推進
新型コロナウイルスは日本の中小企業に対しても大きな影響を及ぼしており、業務の大幅な転換が迫られているケースも多くなっています。
M&Aを上手く活用することで、スムーズな事業転換が実現するため、政府は減税措置などを行い、M&Aをしやすい環境づくりに努めています。
M&A減税措置とは
M&A減税措置とは、中小企業のM&Aを活発化させることを主目的として、政府が2021年に新設した施策です。
M&A後の買い手側のリスクを軽減する内容になっています。
M&A減税措置には主に以下の3つがあります。
- 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
- 雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
- 準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
設備投資減税(中小企業経営強化税制)
設備投資減税とは
設備投資減税は、M&Aの効果を高めるために設備投資を行った際に適用される減税措置を指しています。
具体的には、設備投資に対して、
- 設備投資費用の全額即時償却
- 設備投資額の10%もしくは7%の税額控除
(※税額控除は基本的に10%ですが、資本金が3000万円超1億円以下の中小企業に関しては7%となっています。)
のいずれかを選択することができます。
M&Aでは買い手側と売り手側という別々の企業を統合させ、より生産性の高い企業へと向上させる必要があります。
その準備としての設備投資は必要不可欠となります。
しかし、中小企業にとってはM&Aでの多額の買収費用に加えて、設備投資のためにお金をかけることは大きなリスクに繋がるため、M&Aに踏み出せない企業が多く存在していました。
設備投資減税はそのようなM&Aでの設備投資の負担を軽減させることで、中小企業でのM&Aを推進させる効果が期待されています。
設備投資費用の全額即時償却か投資額の10%(資本金が3000万円超1億円以下の中小企業に関しては7%)の税額控除のどちらが節税効果が大きいかは、その会社の状況によって異なります。
M&Aに精通する税理士など、専門家へ相談しながら手続きを進めることをおすすめします。
設備投資減税の適用要件
設備投資減税の適用を受けるためには主に以下の3つを満たす必要があります。
- 経営力向上計画を提出し、認定を既に得ていること
- 青色申告をしている中小企業であること
- 中小企業経営強化税制の適用範囲での設備投資を行っていること
設備投資減税の適用を受けるためには、事前に経営力向上計画の作成、提出を行い、認定を受けておく必要があります。
この手続きは複雑な作業が多く、時間を要する場合もあるため注意が必要です。
経営力向上計画の申請方法など詳細については、コラムの後半にて解説いたします。
雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
雇用確保を促す税制とは
雇用確保を促す税制は、M&Aの際の従業員の雇用条件の維持、あるいは向上を目的として設けられた制度です。
具体的には、
- 通常措置
- 上乗せ措置
の2種類の措置があります。
通常措置は、M&Aに伴って給与等の支給額が前年比で1.5%以上引き上がった場合、その増加額の15%が税額控除されます。
上乗せ措置では、給与等の支給額が前年比で2.5%以上引き上がった場合、その増加額の25%の税額控除が受けられます。
雇用確保を促す税制の適用要件
雇用確保を促す税制の適用要件は、通常措置と上乗せ措置では異なるので注意が必要です。
通常措置では、
- 青色申告をしている中小企業であること
上乗せ措置では、
- 青色申告をしている中小企業であること
- 経営力向上計画を提出し、認定を既に得ていること
- 教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加していること
通常措置では、適用要件に含まれていませんが、上乗せ措置では教育訓練費に関する要件が含まれています。
M&Aに伴って新たに必要となる知識や技術を従業員に習得させるために、セミナーを開くなど、一定の訓練費をかける必要があります。
準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
準備金の積立とは
準備金の積立を行うことで、M&A後に発生し得る簿外債務や偶発債務というリスクに備えることができます。
株式譲渡によってM&Aを行う際に、株式の取得価額の70%以下を準備金として積み立てた場合、積立金額を損金算入できます。
準備金を据え置ける期間は5年間であり、その期間中に簿外債務や偶発債務が発生した場合は、そこから取り崩すことが可能になります。
準備金の積立の適用要件
準備金の積立の適用を受けるためには、
- 経営力向上計画を提出し、認定を既に得ていること
- 株式譲渡によるM&Aを実施していること
経営力向上計画には、事業承継等事前調査に関する事項が記載されている必要があるため注意しましょう。
事業承継等事前調査は、M&Aでの買い手側が売り手側に対して行う、財務や法務に関する状況を調査することを指しています。
経営力向上計画の申請方法
経営力向上計画の申請書様式は、中小企業庁のホームページからダウンロードが可能で、「経営力向上計画申請プラットフォーム」にて申請できます。
経営力向上計画申請は、認定までおおよそ30日程と、多くの日数を要する場合もあるので注意しましょう。
提出書類に不備があった場合などは更に認定まで時間がかかる可能性もあるため、余裕を持って申請手続きを行うことが大切です。
減税措置の活用でM&Aの効果を高めよう
M&A減税措置をうまく活用することで、税負担を減らし、M&Aによるリスクを軽減させることにも繋がります。
ただ、減税措置によって必要な手続きや適用要件は異なるため、より効果的に減税措置を活用するには専門家へ相談することをおすすめします。
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※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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