開業資金や会社の資本が不足しているときに助けになってくれる役員借入金。
利息がかからないなどのメリットも多く、ついつい積み重ねてしまっている会社も多いかもしれません。

しかし、役員借入金の積み重ねは、後々大きな被害を招く可能性もあります。
本記事で役員借入金が及ぼし得る影響をしっかりと把握し、ご自身の会社が抱える役員借入金との関わり方を見直してみてください。

  1. 役員借入金とは
  2. 役員借入金を利用するメリット
  3. 役員借入金を利用するデメリット
  4. 役員借入金を解消する方法
  5. まとめ

役員借入金とは

役員借入金とは、社長などの役員が会社に貸し付けた金銭のことを言います。
資金が少ない中小企業などが開業の段階や会社が資本不足に陥っているときに、一時的に資本を立て替える場合に用いられます。

決算書においては短期借入金に含めて計上されます。

役員借入金を利用するメリット

役員借入金には活用するメリットが何点かありますので、一つずつ説明していきます。

  • 利息や返済期限がない
  • 優遇税制のメリットを受けられる
  • 節税効果がある

利息や返済期限がない

役員借入金の利息は任意ですので、貸し付けた役員の同意があれば利息ゼロで資金の調達ができ、法律上も問題がありません。

他の借入金だと返済期限があり、期限を守れない場合、社会的な信用を大きく失う可能性があります。
その一方で、役員借入金には返済期限がなく、資金繰りがうまくいっているタイミングでの返済が可能ですので、融通が利きやすいです。

優遇税制のメリットを受けられる

税金は資本金の額に応じて設定されており、特に資本金が1,000万円未満の場合は優遇税制の恩恵を大きく受けられます。
恩恵が大きいことの証拠に、2018年に法務省が公開しているデータによると、2018年における新設会社(株式会社)の約92%が資本金を1,000万円未満に抑えています。

役員借入金で資本を増やしても、借入金は他人資本であるため資本金には計上されず、どれだけ役員借入金を増やしたとしても優遇税制のメリットを享受できます。

節税効果がある

役員が会社にお金を入れる方法として、その対価として新株を取得する「増資」があります。
増資後に会社から役員が金銭を受け取る場合、通常、その名目は役員報酬となり、会社にとっての費用となります。
その報酬に対しては、源泉所得税や社会保険料がかかってきてしまいます。

一方、役員借入金として会社にお金を入れた後に、会社がその役員へ金銭を支払うのは、借入金の返済という形になります。
借入金の返済であれば、会社の利益に影響を与えず、税金や社会保険料もかかってこないため、節税効果を得ることができます。

役員借入金を利用するデメリット

メリットもありますが、デメリットも多いのが役員借入金の怖いところです。
円滑な役員借入金の運用のためにも、しっかりとデメリットを把握しておきましょう。

  • 債務超過の可能性がある
  • 金融機関の評価が下がる
  • 取締役会の承認が必要になる(取締役会設置会社の場合)
  • 役員が亡くなったとき多額の相続税がかかる

債務超過の可能性がある

役員借入金を多く計上している企業というのは、業績が好調で運転資金が必要というよりは、赤字が続いていたり、銀行からの資金調達が困難になっているケースが多いことが考えられます。

役員借入金は会社にとっては負債ですので、増えれば増えるほど資産よりも負債が多くなってしまい、債務超過になってしまうリスクがあります。
場合によっては会社を清算しなければならない状況にもなりかねません。

役員借入金を増やす際には資産との兼ね合いに注意しましょう。

金融機関の評価が下がる

役員借入金は債務ですので、貸借対照表にも記載されます。
また、役員借入金が多いと、銀行が重視する値である自己資本比率が低くなってしまいます。

銀行は自己資本比率が低い企業や債務超過になっている企業を安全性の低い企業と判断するため、銀行からの資金調達が難しくなってしまいます。
そのため、資金調達のためにまた役員借入金を増やしてしまうという負のスパイラルに陥ってしまう可能性もあり、非常に危険です。

役員会の承認が必要になる

役員借入金で利子や担保を設定する際は利益相反取引(会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図るような取引)に該当するため、取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)での承認が必要になります。

知らないところで高い利率を設定されてしまったり、会社の所有物を担保として利用されることを防ぐためです。

利子や担保を設定する場合は、取締役会に出席した取締役の過半数の承認が必要です。
なお、貸付けを行う取締役本人は、特別利害関係人に該当するため、議決に加わることができません。

ただし、無利息・無担保の役員借入金の場合は取締役会(又は株主総会)の承認は必要ありません。

役員が亡くなったとき多額の相続税がかかる

会社に役員借入金としてお金を貸し付けている役員が亡くなった場合、役員の貸付金債権は相続財産とみなされ、相続税が課税されます。

例えば、社長が会社に1億円の役員借入金を貸し付けていて、会社から返済される前に亡くなってしまった場合、相続財産に1億円の貸付金債権が含まれます。
そのため、相続した人は1億円にかかる相続税を支払わなければなりません。

何年、何十年と会社経営をしていた場合、役員借入金が数億円に及ぶことも少なくありません。
そうなると相続税が膨大な金額になってしまい、支払いが困難になってしまいます。
会社が債務超過の状態というだけでは相続税の課税対象からは外れないため、生前に役員借入金を整理することを推奨します。

役員借入金を解消する方法

ここからは具体的に役員借入金を減らす方法を紹介していきます。

  • 債務免除
  • 暦年贈与
  • DES
  • 役員報酬の減額
  • 生命保険の活用
  • 代物弁済

債務免除

債務免除とは会社が役員借入金の貸付人に頼んで返済を免除してもらうことです。

債務免除を行うと、決算書上では役員借入金が減り、その分債務免除益が発生し、利益剰余金が増加することになります。

ただし、債務免除益は利益ですので、法人税がかかってきます。
そのため、借りている額が多いほど法人税負担が大きくなってしまいます。

ただし、会社に繰越欠損金があり、免除してもらった役員借入金の額が繰越欠損金よりも少ない場合は税金が発生しません。繰越欠損金を活用できる場合には、債務免除も検討してみましょう。

暦年贈与

暦年贈与は贈与財産を減らす方法の一つで、年間110万円までは贈与税がかかることなく贈与ができる方法です。

例えば、祖父である社長が5人の孫に10年間、100万円ずつ暦年贈与を行った場合、10年間で5,000万円の財産を贈与によって非課税で孫に移すことが可能です。
渡す人数や年数を増やすことで多額の財産を移せます。

ただし、この方法では後継者に役員借入金が移動しただけで、解消したわけではありません。相続税の課税対象が先延ばしになっただけですので、のちに対策が必要になってきます。

※なお、毎年決まった金額を贈与すると定期贈与とみなされ、年間110万円以下の贈与であっても贈与税が課税される場合がありますので注意が必要です。

DES

DESとはDebt Equity Swapの略で、「債務(Debt:デット)を株式(Equity:エクイティ)と交換(Swap:スワップ)する方法」です。
債権者が抱える債権を現物出資することで株式などの出資に変え、債務を減少させる方法になります。

DESにより負債が減って資本が増えるので、役員借入金の解消だけでなく、自己資本比率の改善も図ることができ、外部からの安全性の評価も高くなります。

ただし、資本金が増えすぎると税金の負担が増えたり、債務消滅益やみなし贈与が発生する可能性もあるため、注意が必要です。

役員報酬の減額

役員借入金が増えてしまう原因として、会社の資本に対して役員報酬が高すぎるという問題が挙げられます。
役員報酬を減額し、その分のお金で役員借入金の返済を行いましょう。

ただし、役員報酬の額を変更できるのは、原則事業年度開始から3か月以内とされています。
新しい事業年度が開始してから3か月以内に定時株主総会を開催し、そこで役員報酬の変更について決議をとることで変更が可能になります。

また、役員報酬という会社の経費が減るので、会社の利益が増え、法人税が増えてしまう点には注意です。

生命保険の活用

生命保険の解約返戻金を使って役員借入金を減らすこともできます。

終身保険のような積立型の生命保険は解約返戻金が大きくなる傾向があり、貯蓄型でない定期保険でも契約期間が長ければ解約返戻金が大きくなります。
生命保険料を損金に計上しながら解約返戻金を簿外に貯めていき、その貯まった資金で役員に借入金を返済するという方法です。

代物弁済

代物弁済とは、役員の承諾を得て現金以外のもので役員借入金を返済することです。
会社が保有している自己株式、不動産といった資産を差し出すことで役員借入金を相殺します。

のちに税務調査などで代物弁済にあてたものの時価総額などが問われる場合がありますので、会社にとって都合のいい取引きではなく、客観的に公正と思われる取引きをしましょう。

また代物弁済はタイミングが重要です。

現金の代わりに差し出す資産の時価が役員借入金を上回る場合、その差額は税務上、役員に対して給与を支払ったという扱いになります。
そして役員に対する給与は、原則として、事業年度を通じて毎月同額である必要があるため、その超えた部分は損金不算入となり、法人税の課税対象になります。
一方、役員が退職するタイミングで役員借入金を上回る時価の資産で代物弁済を行う場合、その差額は、税務上、退職金を支払ったという扱いになります。
退職金であれば、不相当に高額でない限り損金算入になり、課税対象から外れる可能性があります。

このようにタイミングによって税務上の影響が異なるので、細心の注意をしましょう。

まとめ

役員借入金はメリットもありますが、把握しておくべきデメリットやリスクがたくさんあります。

使い方によっては会社や事業の成長に繋がりますが、安易に利用していると取り返しのつかない状況に追い込まれてしまう可能性があります。

ご自身の会社が現在どのくらいの役員借入金を抱えているのか、役員借入金をどのように活用しているのかを見直し、将来に悪影響をもたらすリスクを減らしておきましょう。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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