M&Aの手段の一つにMBO(マネジメント・バイアウト)というものがあります。
MBOには様々なメリットがあり、活かし方次第ではそれ以前よりも円滑な運営ができ、経営者の理想の会社を手に入れられるかもしれません。
本記事でMBOとは何なのか、どんなメリットがあるのかを理解し、経営戦略の一つとして効果的に用いられるようにしておきましょう。

  1. MBOとは
  2. MBOの目的
  3. MBOの手続きの流れ
  4. MBOのメリット
  5. MBOのデメリット
  6. MBOにより自由な経営を実現

MBOとは

MBOとはManagement Buyout(マネジメント・バイアウト)の略称です。
意味としては、会社の現経営陣が自社の株式や一部の事業を買い取って独立することを指します。

近年MBOが増えてきていますが、会社の規模によってその理由は異なります。

大企業の場合、高度経済成長期からバブル経済にかけて企業を多角化を行い規模を大きくしてきました。
しかし、バブル崩壊の不景気により資金効率を向上させるため、本業とシナジー効果の弱い事業を分割する方法としてMBOが選ばれるようになりました。

一方、中小企業では「後継者問題の解決」のためにMBOが行われることもあります。
MBOはM&Aとくらべると知名度は高くありませんが、後継者問題を解消しながら企業理念の維持も図れる事業承継手法です。
そのため、中小企業の経営者もMBOの大枠を理解しておくことをおすすめします。

MBOの目的

ここからはMBOを行う目的としてよく挙げられるものを解説いたします。

  • 特定の株主からの脱却
  • 経営体制の見直し
  • 上場廃止

特定の株主からの脱却

短期的な利益を追及したり、経営権を強引に握ろうとする株主の存在は、企業にとって大きな脅威となり、スムーズな経営を阻む要因となります。
株式会社は株主の利益の最大化に努める義務があるため、株主の意見を無視するわけにはいきません。

また、会社の経営方針も投資家や株主からの要求を受けながら決定するので、株主が大勢いると意思決定に多くの時間がかかってしまいます。

そこでMBOの実施により経営権を集中させて、長期的な視点で経営戦略を立てることが可能になります。

経営体制の見直し

ある事業について経営自体に問題はないものの、本業とのシナジー効果が弱く、本業の資金繰りに悪影響を及ぼす場合があります。

その際に、MBOを実施することで得られた資金やその他の経営リソースを本業に集中させることで本業の改善を図ることができます。

以上のように経営体制を見直すことで、資金効率を向上させることができます。

上場廃止

上場廃止を目的としてMBOを実施するケースもあります。

上場は知名度や信頼性の面で高く評価されるというメリットがあります。
その一方で、上場を継続するためのコストや社会的な責任があったり、TOB(Take Over Bid:テイク・オーバー・ビッド ※株式公開買付け)で他社に買収されるリスクがあります。

上場を廃止するには自社株式を全部取得する必要があり、時間と費用がかかってしまいますが、長期的に見ると大きな負担の軽減に繋がります。

MBOの手続きの流れ

MBOを実施するにはいくつかの手続きを経る必要があります。
計画は綿密に、慎重に行いましょう。

  1. SPC(特別目的会社)の設立
  2. 資金調達
  3. SPCによる対象企業の株式買取り
  4. SPCと対象企業の合併

SPC(特別目的会社)の設立

MBOの際にはまず、SPC(Special Purpose Company)という会社を設立します。
SPCは特別目的会社を指し、MBOの場合、株式の買取りという目的のために設立される会社です。

対象会社の株式を買い取って保有する受け皿となる役割を果たします。

資金調達

株式の買取りのための資金をSPCが調達します。
自己資本だけで足りない場合は金融機関から融資を受けるのが一般的です。
調達先として銀行の他、投資ファンドやビジネスローン、日本政策金融公庫などが挙げられます。

株式を全て買い取るためには多額の資金が必要であるため容易な工程ではなく、計画性をもって取り組むべきです。

SPCによる対象企業の株式買取り

資金調達ができたら、SPCが対象企業の株式を買い取ります。

株式の価額の算出には専門的な知識が必要になりますので、無理をせず専門家を頼るのも良いでしょう。

SPCと対象企業の合併

最後にSPCを消滅会社、対象会社を存続会社として両会社を合併させ、対象会社の支配株主となることでMBOが完了します。

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MBOのメリット

MBOにはメリットがたくさんありますので、一つずつ説明していきます。

  • 意思決定スピードが迅速になる
  • 従業員の理解を得やすい
  • 買収リスクを回避できる
  • 情報流出のリスクがない
  • 組織構造を維持できる

意思決定スピードが迅速になる

大きなメリットとして、企業の意思決定が速くなることが挙げられます。

企業の最終的な意思決定については株主総会で決議を得る必要があります。
しかし、株主総会を周知させ、実施するまでにはある程度時間がかかってしまいます。
特に株主が多い大企業や上場会社の場合は時間を要することが多いです。

そこでMBOを行うことで自社の経営陣が大株主となり、重要な判断が必要になる際も経営陣が中心となって話を進めることができます。
そのため、迅速な意思決定が可能になります。

グローバル化の進む現代のビジネスにおいては意思決定のスピードが鍵を握ります。
日本企業は海外企業よりも意思決定に時間がかかってしまい、後れをとることも多いと言われています。

迅速な意思決定を可能にすることで海外の企業に負けない企業を目指しましょう。

従業員の理解を得やすい

通常のM&Aに比べ、従業員の理解を得やすいのも大きなメリットです。

他のM&Aだと第三者が経営権を握ることになり、従来の考え方や経営方針との違いに従業員が反発し、上手くいかないことも少なくありません。
しかしMBOであれば、今までの経営陣がそのまま引き続き経営を担うため、従業員の納得感も大きいでしょう。

また、経営陣は会社の内部事情も把握できているので、従業員への説明などのMBOのプロセスもスムーズに進めることができます。

買収リスクを回避できる

株式を上場していたり、独立している会社で将来性のある事業を行っていたりすると、常に敵対的買収のリスクがあります。

しかし、MBOによって全ての株式を経営陣が保有し大株主となっているため、買収のリスクを回避することができ、安心して経営を行うことができます。

情報流出のリスクがない

株式を上場していると、ディスクロージャー(企業の情報開示)などにより自社についての様々な情報を株主等に公開する必要があります。

株主総会でも会社の企業秘密やノウハウに関する情報を開示する可能性もあります。

秘密保持契約を結んでいたとしても、情報が流出するリスクがないとは言えません。
また、情報を開示している人数が多ければ多いほど情報漏洩の可能性は高まります。

しかし、MBOの実施により、上で挙げたような情報開示の義務はほとんど無くなりますので、情報漏洩のリスクを減らすことができます。

組織構造を維持できる

他の種類のM&Aのように第三者が経営権を握ったとしても、長きにわたって作られた企業風土や従業員に関する情報を完全に把握することは容易ではありません。

一方で、MBOを行えばそれまで長く会社に貢献してきた経営陣が自社を引き継ぎ、事業や従業員の雇用もそのまま継続するため、従業員にとってほとんど変化はありません。

従業員を不安にさせることなく、MBO後も安定した経営ができるでしょう。

MBOのデメリット

デメリットもしっかり把握して、リスクの少ないMBOを実行しましょう。

  • 株主と対立する可能性がある
  • 資金調達がしづらくなる
  • 経営の監視機能が減少する
  • 財務状況が悪化する可能性がある

株主と対立する可能性がある

MBOを実施する際に、経営陣はできる限り安値で株式を買い取りたいと考える一方、既存株主はできる限り高く売ろうとします。
ここで双方の利益が相反し、MBOを行いたい経営陣と既存株主との対立が生じてしまいます。

会社に将来性を感じている株主ほど簡単には株式売却に応じず、MBOを断念せざるを得ない可能性も出てきます。

対処方法としてスクイーズアウトという方法があります。
少数株主から強制的に株式を獲得できる一方、少数株主の訴訟も多く、裁判を引き起こすリスクもありますのでご注意ください。

資金調達がしづらくなる

経営において基本的な資金調達の方法は、借入金または株式からのものになります。
しかし、MBOにより上場を廃止すると、株式による資金調達ができなくなります。

MBOの実施の際には、MBO後の資金確保の見通しをきちんと立てることが重要です。

経営の監視機能が減少する

株主会社では株主総会を行うことで経営を監視しています。
しかし、MBO実施後は自社の経営陣が支配株主となるため、経営の透明性がなくなってしまいます。

一度間違った方向に行くと修正にも時間を要する可能性もあるため、監視機能が減少する分、不正行為に対する意識をしっかり持ち、健全な経営体質を維持しましょう。

財務状況が悪化する可能性がある

MBOを実施した際には、対象会社が金融機関に対する債務を全て負うことになります。

MBOでは経営体制や従業員などに関して大きな変化がありません。
MBO後の経営改革等が上手くいかないと、金融機関に対する巨額の債務に対処しきれなくなり、最悪倒産に追い込まれる事態も考えられます。

MBO後も財務状況はきちんと把握し、債務に悩まされることがないようにしましょう。

MBOにより自由な経営を実現

MBOの活用により、事業内容や企業風土、従業員の雇用の維持を図りながら、理想的な経営の実現を目指すことができます。

MBOにおいては資金の面や既存株主との対立がネックになってきますが、念入りに計画を立てることで成功を収めましょう。

また、MBOでは経営者の交代があるため、事業承継の手段にもなり得ます。
MBOによる事業承継は後継者問題の解決に繋がるというメリットもあるので、ぜひご検討ください。

名古屋事業承継センターではMBOなどのM&Aや事業承継に関するご相談を承っておりますので、気軽にご連絡ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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