コロナ禍により事業が悪化した影響で経営の見通しが立たなくなったり、後継者が見つからず廃業を選ぶしかないと悩んでいる経営者は増えてきています。
そんな経営者を救う手段として、事業再生があります。

事業再生といっても種類は多いのですが、今回はそのうちの1つである再生型M&Aについて触れていきます。

もう一度再起したいという経営者の方に、再生型M&Aのメリットから具体的な流れまで解説いたします。

  1. 再生型M&Aとは?
  2. 再生型M&Aのメリット・デメリット
  3. 再生型M&Aの手法
  4. 再生型M&Aの流れ
  5. 再生型M&Aを最大限に活用しよう

再生型M&Aとは?

再生型M&Aとは、買収先企業が経営上の困難に直面し、再生の必要性がある場合に行われるM&Aのことを指します。
買収することによって、買収元企業が買収先企業の経営を再建し、成長を促進することを目的としています。

経営不振に悩んでいる企業が、債務整理や事業整理にM&Aを用いることで企業再生を図ります。

一般的に事業再生は以下の手法のいずれかで行われます。

  • 自力再生:第三者からの資金援助等に頼らずに、不採算事業からの撤退や経営革新等によって、事業を再生させる手法
  • 私的整理:債務整理に必要な法的手続きを行わずに、債権者との交渉によって債務を整理する方法
  • 法的整理:会社更生法、民事再生法などの法的手続きを行い、債務を整理を法的に整理し、再生に向けた土台を整える手法
  • 第三者支援による再生:第三者から支援を受けることで事業再生を行います。具体的には、不採算事業の売却やM&Aによる事業承継等が挙げられます。

上記の内、第三者支援による再生の一種が再生型M&Aとなります。

一般的なM&Aでは、買い手企業・売り手企業・M&A会社の3者が関わりますが、再生型M&Aではその3者に債権者が加わってくる点が大きな特徴の1つです。

基本的に再生型M&Aの対象となる会社は、債務超過や経営利益が赤字、銀行借入れの返済が滞っているなどの業績不良に陥っている会社です。
そのため、金融機関をはじめとする債権者との交渉もM&Aのプロセスに入ってきます。

再生型M&Aのメリット・デメリット

再生型M&Aのメリット

  • スポンサー企業からの援助を受けられる
  • 従業員の雇用維持や取引先の維持を図ることができる

再生型M&Aでは再生支援をしてくれるスポンサーを探すことが第一歩です。
債務超過になっていたり、赤字の会社であっても、その企業独自のノウハウや技術があれば、業績不振の場合でもスポンサーを見つけることができる可能性はあります。

買い手を見つけるハードルは高いですが、そのようなスポンサーから資金援助を受けたり、経営資源の活用をすることで、効率的な事業再建が可能になります。
加えて、M&Aによるシナジー効果も期待できます。
これらは他社の協力があるからこそのメリットです。

また、事業を存続できるので、従業員の雇用や取引先も維持でき、技術やノウハウを喪失する可能性も低くなります。

再生型M&Aのデメリット

  • 困難が伴う、かつ、ある程度の資金が必要になる
  • 多くの手間と時間がかかる
  • 経営者にとってはシビアな選択となる

再生型M&Aは非常に困難な手法であり、通常のM&Aよりも高度な知識が必要になります。
そのため、基本的に専門家のサポートが必須であり、専門家に対する報酬を支払うための資金の準備をしておくべきです。

また、即座に最適な買い手企業が見つかるとは言い切れません。
手法ごとに手続きも様々で、取引きが複雑になればかかる手間と時間も膨大なものになってしまいます。

さらに、再生型M&Aは通常のM&Aのように、引退しながら現金をもらえる魅力的なスキームではないことを理解しなければいけません。
自己破産しなくて済む代わりに、個人資産は全て債務の返済に差し出すというケースも少なくないです。

しかし、長期的に考えると、再生型M&Aには時間と資金面のデメリットを超えるメリットが存在しますので、活用の可能性は大いにあると言えるでしょう。

再生型M&Aの手法

再生型M&Aには多くの手法が存在しますので、それぞれの特徴を把握しておきましょう。

  • 企業再生方式
  • 事業譲渡方式
  • 会社分割方式
  • 第二会社方式

企業再生方式

企業再生方式は、会社の法人格を維持しながら採算事業を中心に企業再生を目指す方法で、スポンサー企業の子会社として再生をしていきます。

企業再生方式は会社の法人格を維持するので、再生型M&Aの方法の中で唯一、私的再生手続きで行うことができる手法です。

事業譲渡方式

事業譲渡方式は、事業実態を別の法人格に移して、採算事業部門を中心に事業の維持・再建を図る方法です。
債務者企業は事業譲渡で調達した資金を元手に清算を行い、採算事業はスポンサー企業の一部門として再建していくことになります。

大きな特徴として、採算事業と不採算事業を切り離せることが挙げられます。
収益性が高い事業があっても、不採算事業に足を引っ張られて赤字経営になってしまっている企業も少なくありません。
不採算事業を清算することで企業再生が実現するケースも多いです。

さらに、採算部門のみの譲渡により簿外債務のリスクが無くなり、リストラ等の手間も省け、早期の再建が実現可能です。
その上、特別清算手続きにするなど工夫を行えば、倒産の認知拡大も避けることができます。

ただし、取引先との契約の承継、行政の許認可の取得、譲渡資産についての登記等の事務手続きにかかる時間や多額の費用が必要となる点は注意です。

会社分割方式

会社分割方式は、採算事業のみを別会社に移転させて、不採算事業は債権者の協力を得ながら再建を目指す方法です。
不採算事業の立て直しを目指しますが、現実的には再建が難しく、最終的には清算することも多くなります。

会社分割方式では、会社分割により維持・再建をしようとしている対象事業を倒産処理手続きから切り離せるため、早期の事業再建が可能です。

また、採算事業を引き継いだ新設会社は過大な債務や簿外債務などの負担がなく、簿外債務についても分割契約書の記載を工夫することでリスクを軽減できるため、スポンサー企業からの潤沢な資金を確保しやすくなります。

会社分割は事業譲渡と異なり、個々に権利義務の移転をする必要がなく、包括的に移転が可能なので、承継にかかる手続きが比較的容易になるのも大きなメリットと言えます。

ただし、会社の新設に際して登記や公告等に費用がかかったり、緊急性の高い企業再生には向いていないことも理解しておきましょう。

第二会社方式

第二会社方式とは、採算事業のみを他の会社(第二会社)に移転し、不採算事業を旧会社に残した状態で法人格を消滅させる手法になります。
不採算事業が残された旧企業は、遊休資産の売却などで精算します。

第二会社方式では採算事業の資産・負債に限定して第二会社に移転できるため、偶発債務といった不良債権リスクの遮断が可能です。
そのため、第二会社の出資者からの協力を得やすい環境をスムーズに構築できます。

また、第二会社に事業が譲渡・移転され、債務者企業が清算されるので、債権者は債権放棄の手続きが不要になり、早期に無税償却することも可能になります。

一方、デメリットもいくつか存在します。
新たな会社が事業を開始するので、事業運営の許認可を再取得しなければなりません。
万が一取得できなかった場合は、事前に見込んでいた収益が得られず、事業再開ができなくなるリスクが発生します。

加えて、資金調達が大きな課題になります。
第二会社方式で事業を継続するには当面の資金準備が必要ですが、経営が悪化している企業に対して金融機関は融資を渋ります。
どのように資金を調達するかが第二会社方式を活用する場合の鍵となってくるでしょう。

再生型M&Aの流れ

再生型M&Aの手続きの流れを大まかに説明していきます。

  1. M&Aの専門家への相談
  2. 再生型M&Aの計画作成
  3. 金融機関との交渉
  4. スポンサーの選定
  5. 基本合意書の締結
  6. デューデリジェンスの実施
  7. 最終契約書の締結
  8. クロージング

1.M&Aの専門家への相談

再生型M&Aには高度な知識が必要となりますので、専門家のサポートを受けながら進めるのが一般的です。

M&A仲介会社にはM&Aに特化している専門家が多いので、会社の状況に応じた手法を選ぶことができます。

2.再生型M&Aの計画作成

採算事業と不採算事業の割り出しや再生型M&Aに用いる手法の確定などを行い、実現可能な計画を作成します。

スポンサー企業や金融機関へ提出する必要がありますので、協力を得るためにも具体的な計画書を作る必要があります。

3.金融機関との交渉

金融機関に計画資料を提出します。
借入金の返済計画に無理がないかなど、金融機関の意向を確認しながら再生計画の微調整を行います。

手法によっては、債権者は全ての債権を回収できないことを前提にM&Aを進める必要があります。
債権者との交渉でいかに合意を得るかが重要です。

4.スポンサーの選定

再生型M&Aの実行には多額の資金が必要となるので、実行前にスポンサーを見つけましょう。
透明性や公平性のあるスポンサーを見つけると、債権者からの同意も得られやすいです。

5.基本合意書の締結

スポンサーの選定後、基本合意書の締結に移ります。
M&Aの交渉内容の整理や締結後のスケジュール確認が主な内容となっており、法的拘束力はありません。

この時点でスポンサーとの独占交渉権が有効となるので、他社との交渉は行えなくなります。

6.デューデリジェンスの実施

提出された企業再生の計画が実現可能かどうかをデューデリジェンスにより調査します。

特に簿外債務の有無が重要になります。
企業再生後に簿外債務が発覚すると大きな支障となるので、抱えている債務はしっかり洗い出しましょう。

7.最終契約書の締結

デューデリジェンスで問題が見つからなかった場合、最終契約書を締結します。
全条項で法的な拘束力が生じるため、契約書の締結で再生型M&Aが成約となります。

8.クロージング

M&A対象の引渡しと取得対価の支払いを行うクロージングを実施します。
クロージングをもって、再生型M&Aも完了となります。

再生型M&Aを最大限に活用しよう

優秀な人材や社会に大きな貢献をしている事業を抱えてはいるものの、経営が上手くいかず廃業を選択してしまう中小企業が増えてきています。

再生型M&Aは社会にプラスの影響を与え続ける中小企業の存続の危機を救う方法になり得ます。

名古屋事業承継センターはM&Aに関するご相談をいつでも承っております。
気軽にご連絡ください。

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