近年、多くの企業が悩まされている後継者問題を解決する手段として事業承継ファンドが注目されています。

事業承継ファンドの活用は、社外人材への承継が増えてきている中で、「なかなか後継者が見つからない」、また、「M&Aにより買収を望んでいるが、買い手が見つからない」という方におすすめの手法になります。

本記事では事業承継ファンドのメリット・デメリットから事業承継の流れまで解説し、よくあるQ&Aにもお答えしていきます。

  1. 事業承継ファンドとは?
  2. 事業承継ファンドが有効な場合
  3. 事業承継ファンドの種類
  4. 事業承継ファンドのメリット
  5. 事業承継ファンドのデメリット
  6. 事業承継ファンド活用の流れ
  7. 事業承継ファンドに関するQ&A
  8. まとめ

事業承継ファンドとは?

事業承継ファンドは、近年の後継者不在の中小企業増加に伴って注目されるようになりました。

事業承継ファンドの仕組みを以下で簡単に説明します。

  1. 投資家から資金を集め、集めた資金を元手に後継者不足に悩む企業の株式を買い取る。
  2. 株式を買い取った後、経営支援をすることで対象企業の企業価値を向上させ、数年後にM&Aを実施して売却益を獲得する。
  3. 売却益を投資家に再分配する。

以上が事業承継ファンドの大まかな仕組みになります。

事業承継ファンドとM&Aの違い

事業承継ファンドは、株式を取得した対象企業の企業価値向上が目的です。この時、ファンドが持つ経営資源を用いて経営サポートをおこなっていきます。

一方で、M&Aにおいて株式を取得する企業は、企業価値向上だけでなく、グループとしての多角化、人材の確保、技術やノウハウの獲得などを通して、全体としてシナジー効果を生じさせることを目的としています。

また、事業承継ファンドは、投資家から資金を調達しますが、M&Aは買収元企業が自己資金や借入資金を活用して、買収企業を買収する点も異なります。

事業承継ファンドが有効な場合

この章では、どのような場合に事業承継ファンドが効果を発揮するのかを説明していきます。

  • 後継者に関する問題を抱えている場合
  • 企業の成長を支援してもらいたい場合

後継者に関する問題を抱えている場合

事業承継ファンドの投資対象は後継者不足の中小企業です。
対象企業の株式を事業承継ファンドが買い取ることで、事業承継ファンドが新たなオーナーとなり、後継者問題の解決に向かいます。

事業承継ファンドの幅広いネットワークを活用すれば、対象企業にとって最適な人材を後継者に任命できる可能性も高くなります。

また、親族や社内に後継者候補がいるものの、資金力や経営のスキルに不安な部分があり、まだ後継するのが難しいという場面が考えられます。

そこで、一時的に事業承継ファンドの出資金や実績を有する人材を利用して、その間に後継者候補の教育等を実施します。
そして、最終的に彼らに引き継ぐという流れでの事業承継が可能になります。

以上のように様々なアプローチで後継者問題を解決できます。

企業の成長を支援してもらいたい場合

事業承継ファンドのサポートは後継者問題対策だけではありません。

事業承継ファンドは対象企業の経営に積極的に関与します。
バックオフィス業務を含めて中長期的な視点から課題抽出を行い、課題解決に向けたアドバイスを提供してくれます。

また、対象企業独自の力では実現が難しかった販路の拡大や事業資金の調達が容易になるため、企業としての成長を大きく促進してもらえます。

ただし、事業承継ファンドに依存するのではなく、従業員一人一人が自立して会社の成長に取り組めるような環境づくりをすることが大切です。

事業承継ファンドの種類

この章では代表的な事業承継ファンドを一つずつ紹介いたします。

  • 中小企業基盤整備機構(中小機構)
  • 日本投資ファンド
  • PE(プライベート・エクイティ)ファンド
  • SBI地域事業承継ファンド

中小企業基盤整備機構(中小機構)

経済産業省傘下の独立行政法人である中小企業基盤整備機構は、公的機関として後継者の育成・販路拡大・事業承継など、中小企業の課題に幅広く経営支援を行っています。

民間の事業承継ファンドに比べて、公的な視点からのアドバイスが受けやすい点が特徴です。

利益追求型のファンドではないので、短期間の投資で無理のある企業成長を図ることはほとんどありません。

支援対象の幅の広さから、相談先の候補として最も多く挙げられています。

日本投資ファンド

日本投資ファンドは、日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立した事業承継ファンドです。

日本M&Aセンターの様々な事業承継・投資を手掛けた実績と、日本政策投資銀行の投融資ノウハウの共有により、柔軟にサポートをしてくれます。

また中小機構と同じく公的な要素を持っているので、支援対象のハードルも比較的低くなっています。

PE(プライベート・エクイティ)ファンド

PE(プライベート・エクイティ:Private Equity)ファンドは、投資家から集めた資金を元に、対象企業の未公開株を取得した上で経営に関わり、企業価値を高めた後に売却して収益を図るファンドになります。

PEファンドの大きな特徴は、社員の自立を促し、オーナー経営から組織経営に移行するサポートを得意としている点です。

また、PEファンドが企業成長にかける平均期間は3〜5年と言われており、基本的に高成長が見込まれる企業に対して優先的に支援を行う傾向があります。

SBI地域事業承継ファンド

SBI地域事業承継ファンドは、SBIホールディングス株式会社の傘下で事業承継ファンドを運営している投資ファンドです。
2019年に新設されたばかりなので、比較的新しいファンドになります。

地域創生の一環として、後継者問題を抱える日本の中小企業への投資を目的としています。
小規模な会社にも手を差し伸べる点が他のファンドと異なる部分であり、今後のサービスの充実に期待されている事業承継ファンドです。

地方銀行の事業承継ファンド

近年は、事業承継ファンドを設立する地方銀行が増加してきています。
地域の中小企業が廃業すればそれは地方銀行にとっても大きなダメージとなるため、地方銀行自らがファンドとなって、地域の中小企業の経営支援を行うことを目的としています。

地方銀行による資金提供ではありますが、融資とは異なり、継続的な経営支援を受けることができます。

事業承継ファンドのメリット

事業承継ファンドのメリットをそれぞれ説明していきます。

  • 事業承継に経営者の意図を反映させやすい
  • 会社の理念や文化・風土を維持できる
  • 経営者の負担が減る

事業承継に経営者の意図を反映させやすい

事業承継ファンドによる事業承継の最大のメリットは、経営者の意図に沿った事業承継の実現が可能な点です。

事業承継ファンドは豊富なノウハウを活用しながら後継者の選定や育成をサポートしてくれます。
また、後継者を育成する上で、対象企業のコンセプトや特徴、会社の状況を考慮してくれるため、経営者の意図がしっかりと反映された事業承継が実現しやすくなります。

会社の理念や文化・風土を維持できる

事業承継ファンドでは、企業の理念や文化、風土を維持しながら経営支援や事業承継を行ってくれます。

M&Aによる事業承継だと、事業承継後に企業風土などが合わず、従業員が流出してしまうリスクが懸念されますが、事業承継ファンドではその心配が少ないです。

経営者は愛着のある会社の理念や風土を変化させることなく存続でき、経営者が代わることによる従業員への影響も最小限に抑えられます。

経営者の負担が減る

経営者は会社の経営状態だけでなく、従業員の雇用など会社のあらゆる事柄を一人で背負わなければなりません。
また、万が一、事業承継が失敗したときを考える必要もあり、その不安で事業承継のみでも大きな精神的負担があります。

そこで事業承継に関してだけではなく、対象企業の経営上のパートナーとして事業承継ファンドの力を借りられるのは大きなメリットと言えます。

事業承継ファンドのサポートは経営者のあらゆる負担を大きく減らしてくれます。

事業承継ファンドのデメリット

魅力的なメリットを持つ反面、気を付けるべき点もありますので、デメリットも把握した上で事業承継ファンドを活用しましょう。

  • 支援が受けられない可能性がある
  • 事業承継ファンドの選び方が難しい

支援が受けられない可能性がある

経営支援を行ってくれるのが事業承継ファンドですが、対象企業の経営状況次第では利用を断られてしまう可能性もあります。

財務状況が悪化しすぎていると支援計画の策定が難しく、改善の望みがないという判断を下されます。

ファンドにもよりますが、基本的に事業承継ファンドの目的は利益を出すことにありますので、事業承継計画策定の際は支援が受けられないケースの想定も必要でしょう。

事業承継ファンドの選び方が難しい

事業承継ファンドも種類がたくさんあります。
ファンドによって事業承継の経験の数、持ち合わせるノウハウやネットワークにも違いがあり、自社に適したファンド探しに時間がかかってしまうというデメリットが挙げられます。

自社が求める支援内容に対応できないファンドを選んでしまうと、事業承継が失敗してしまう可能性も高くなってしまいます。

どの事業承継ファンドを頼るかは慎重に考えるべきです。
ファンドの見極めにあたっては以下のような観点が挙げられますので、ぜひ参考にしてみてください。

  • これまでの投資実績はどうか
  • これまでのExit(投資後のバトンタッチ)の実績はどうか
  • 事業承継ファンドの出資者は誰か
  • 事業承継ファンドの投資方針や理念に共感できるか
  • 自社の企業価値の向上に貢献してくれそうか
  • 自社との相性は良さそうか

事業承継ファンド活用の流れ

事業承継ファンド利用の際は、流れを把握しておくことが重要です。
具体的な手続きは事業承継ファンドによって異なりますが、一般的な流れは以下のようになります。

  1. 事業承継ファンドに問い合わせ
  2. 事業承継ファンドと秘密保持契約の締結・財務情報等の開示
  3. 事業承継ファンドと基本合意書の締結
  4. 事業承継ファンドと条件のすり合わせ
  5. デューデリジェンスの実施
  6. 譲渡契約の締結
  7. 事業承継ファンドによる経営支援
  8. ファンド側が保有する株式の売却・売却益獲得

M&Aの手続きの流れとそれほど変わりませんが、部分的に異なるところもあるため注意しましょう。

事業承継ファンドに関するQ&A

ここでは事業承継ファンドに関してよくある質問に答えていきます。

  • 事業承継ファンドの手数料や費用は?
  • 企業価値の評価方法は?
  • 事業承継ファンドの活用を知らせるタイミングは?

事業承継ファンドの手数料や費用は?

事業承継ファンドに対して手数料や費用は発生しません。
ファンドは企業価値を高め、株式を売却することで利益を得ることを目的としていますので、売買の過程で対象企業に費用を請求することはまずありません。

ただし、売買の仲介をアドバイザー等に依頼した場合には、アドバイザーへの仲介手数料が発生してしまうので注意してください。

企業価値の評価方法は?

基本的に企業の収益力とその実績、現預金と借入れがどれくらいあるのかといった財務状況等をベースに算定します。
一般的に自社が抱える事業の収益力に基づく算定が多く用いられますが、細かい算定基準は企業ごとに異なります。

ただ、現実とあまりにかけ離れた価格で合意してしまうと、今後残された社員にとってはその価格から企業価値を向上させていかなければならず、過度な負担を負わせる可能性があります。

企業価値の交渉も事業承継の成功には非常に重要です。

事業承継ファンドの活用を知らせるタイミングは?

従業員への通知のタイミングは、自社株式の売買の完了後に速やかに行う場合が多いです。
ただし、役員クラスの従業員にはそれよりも早い段階で通知することもあります。

幹部社員などの社内で重要な役割を果たす従業員に疎外感を与えないように配慮しましょう。

まとめ

後継者問題に頭を抱える中小企業の経営者にとって、事業承継ファンドは非常に有効な選択肢です。

事業承継ファンドを活用すれば経営者の負担が大きく減り、ファンドと二人三脚でより効率的な選択をすることが可能になります。

しかし、デメリットも兼ね備えていますので、しっかりとポイントを押さえ、自社に適した事業承継ファンドの活用で事業承継を成功させましょう。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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