業績の拡大や経営のスマート化を行いたいときに用いられる手法が組織再編です。
組織再編は目的だけでなく手法も多種多様で、自社に合った組織再編の方法がわからず悩んでしまう経営者も少なくありません。

そこで本記事では組織再編の基本的な説明をはじめ、手法それぞれの特徴を詳しく解説いたします。

要点を押さえ、会社にとっても従業員にとっても有益な組織再編を実現しましょう。

  1. 組織再編とは
  2. 組織再編の目的
  3. 組織再編の手法
  4. まとめ

組織再編とは

組織再編とは、会社の組織・形態を大きく変更し、新たに編成し直すことを言います。
前述の通り、様々な経営課題を解決するために用いられる手法です。

組織再編と似た言葉に組織変更がありますが、組織変更は法人格の同一性を維持しつつ、一つの法人が実施します。

一方で、組織再編は複数の会社を一つにしたり、会社の事業を他社に譲渡したりするため、組織変更と組織再編では関わる法人格の数に違いがあるということになります。

全く異なるものなので、間違えないようにしましょう。

組織再編の目的

組織再編の目的は主に以下の2つが挙げられます。

  • 事業の拡大と縮小
  • グループ企業管理の効率化

事業の拡大と縮小

組織再編では、他社から経営権を取得して事業の拡大をしたり、反対に不採算事業からの撤退や他社への事業譲渡により事業縮小を行います。

事業拡大や事業縮小を目的とした組織再編は、結果的に競争力の向上に繋がります。

グループ企業管理の効率化

事業が成長し、グループ企業の数が増加すると、その分管理コストや時間も増えてしまいます。
重複する業務や事業を整理したり減らしたりすることで、グループ全体の管理工数の削減・効率化を図ることができます。

組織再編の手法

組織再編の主な方法は以下の6つになります。

  • 吸収合併
  • 新設合併
  • 吸収分割
  • 新設分割
  • 株式交換
  • 株式移転

それぞれメリット・デメリットと手続きの流れを詳しく解説いたします。

吸収合併

2つ以上の会社が契約により1つの会社になることを合併と言います。
合併の中でも、合併の対象となる会社のうち1つの会社がそのまま存続し、それ以外の会社が消滅する形をとるものを吸収合併と呼びます。

消滅する会社の資産や負債などの権利義務は合併後存続する会社が承継します(許認可については、その根拠法の規定に従います。)。
そういった権利義務の承継を目的に吸収合併を選ぶケースが多いです。

メリット・デメリット

吸収合併のメリットとしては以下のような点が挙げられます。

  • 権利義務の包括的承継ができる
  • 雇用環境が維持しやすい
  • 統合効果を早期に実現できる

吸収合併では一つ一つを個別に承継する必要がないため、吸収する側は細かい手間を省くことができ、消滅会社側も負債を存続会社に引き継いでもらえます。
以上のような権利義務の包括的承継によるメリットがまず挙げられます。

また、吸収合併後も親・子会社の区別がないため、誰にも引け目を感じさせずに組織再編を行えます。

さらに、合併の効力発生後からすぐに一つの法人格で事業が継続されますので、様々な統合効果を早期に実現できます。

一方、デメリットは以下の通りです。

  • 現場の負担が大きい
  • 取引縮小の可能性がある
  • 必要手続きが多い

吸収合併の効力発生日までにPMI(買収後の経営統合作業)を完了させる必要がありますが、合併契約締結から効力発生日までの短い期間で行わなければなりません。
PMIの現場担当者の負担が大きくなりますので、担当者のケアが大切になります。

また、必要な手続きが比較的多く、一つでも怠ってしまうと効力が無効になってしまう点もデメリットとして挙げられます。

手続きの流れ

吸収合併の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 交渉の準備
  2. 合併契約の締結
  3. 合併契約に関する書面の事前備置き
  4. 株主総会における承認決議
  5. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  6. 債権者に対する官報公告および格別の催告等
  7. 吸収合併の効力発生
  8. 吸収合併に関する書面等の本店備置き
  9. 登記

新設合併

吸収合併と違い、合併前の会社は全て消滅し、それと同時に新設会社を設立する方法が新設合併です。

消滅会社が持っていた株式や事業用資産、従業員との雇用契約や取引先などは全て新設会社に引き継がれます。

メリット・デメリット

新設合併のメリットは以下の通りです。

  • 統合によるシナジー効果を得られる
  • 事業規模が拡大できる
  • 対等な立場での合併ができる

複数の企業が一つの法人になることで、ブランド力の強化や共同開発による技術力の向上などのシナジー効果が期待できます。

また、取引先や顧客の増加、生産規模の拡大による売上増加や自社にない設備の獲得により競争力を高めることで、業界に高い参入障壁を築くことも可能です。

新設合併では全ての会社が消滅するため、吸収合併よりも対等な立場でのM&Aをしている印象が強くなり、周りからの評価も高くなります。

一方、デメリットもあります。

  • 手続きに手間がかかる
  • 会社設立のコストがかかる
  • PMIの負担が大きい

吸収合併に比べると、会社を新規で設立しなければならない分、煩雑な手続きが多くなってしまいます。

また、全ての会社を消滅させ、新たな会社の設立・登記などをしなければいけないため、会社設立に関する費用がかかってしまいます。

加えて、対等合併であるがゆえに、ルールの策定にも非常に手間と時間がかかり、PMIの負担が大きくなります。

手続きの流れ

新設合併の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 交渉の準備
  2. 合併契約の締結
  3. 合併契約に関する書面の事前備置き
  4. 株主総会における承認決議
  5. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  6. 債権者に対する官報公告および格別の催告等
  7. 新設合併の登記=効力発生
  8. 吸収合併に関する書面等の本店備置き

吸収分割

会社が持っている事業の一部を他の会社に承継させることを会社分割と言い、既存の会社に事業を承継させる方法を吸収分割と呼びます。

吸収分割のスキームでは事業を譲り渡す側の会社を分割会社と言います。

吸収分割の主な目的はグループの再編です。
親会社が子会社に主要事業を引き継ぐことで、各子会社を管理する体制に持っていきます。

メリット・デメリット

吸収分割のメリットは以下のようなものが挙げられます。

  • 不採算事業を切り離せる
  • 少ない資金で実行できる
  • 従業員の同意が不要である

収益性が低かったり、今後の成長が見込めない事業を吸収分割により切り離すことで経営の効率化を図ることができます。

また、承継会社は事業承継の対価として分割会社に対して株式の発行を選択すると、多額の現金を用意する必要がなくなり、資金調達についての心配が要りません。

さらに、吸収分割は包括承継であるため、移籍させる従業員の同意が不要です。
ただし、労働契約承継法に基づいた手続きをしないと、分割そのものが無効になってしまいますので、注意してください。

次に吸収分割のデメリットです。

  • スケールメリットが減る
  • 株価や株主構成が変化する可能性がある

事業を切り離すことになり会社全体の規模は縮小するため、スケールメリットは減少します。

また、承継会社が上場企業の場合、吸収分割の対価として株式の発行を選択すると、一株当たりの利益が減少し、株価が下落するリスクが生じてしまいます。
同時に株主構成も変化し、新しい株主に敵対的な人物がいると、分割後の業務に支障が出る可能性もありますので気を付けましょう。

手続きの流れ

吸収分割の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 吸収分割契約の締結
  2. 分割会社と承継会社に事前開示書類を備置き
  3. 労働者への事前通知
  4. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  5. 債権者保護手続き
  6. 株主総会の特別決議
  7. 分割会社と承継会社に事後開示書類を備置き
  8. 登記

新設分割

新設分割では新しく会社を設立し、そこに既存事業を移転する会社分割のことを言います。

多くの場合、事業の分社化による経営のスリム化や倒産リスクの分散のために用いられます。

メリット・デメリット

まずは新設分割のメリットを説明します。

  • 柔軟な組織再編・M&Aが可能になる
  • 権利義務の引継ぎが容易である
  • 資産の含み益に課税されない

新設分割では特定の事業のみを切り出して新会社に移転したり、複数の事業を組み合わせて1社にまとめたりが比較的容易であるため、事業の組み合わせを柔軟に検討できます。

また、分割事業に含まれる権利義務をまとめて承継ができるため、細かい移転手続きが不要で、一部の業種を除いて許認可の引継ぎも可能です。

さらに、会社が所有する不動産や証券等の資産において、価格の変動によって生まれる帳簿上に表れない利益である含み益は、適格分割を行うことで課税されないというメリットもあります。

次にデメリットを説明します。

  • 複雑な手続きが必要である
  • 偶発債務を引き継ぐ恐れがある

新設分割では、株主総会などの会社法に基づく手続きと、従業員の権利を保護するための手続きといった労働契約承継法に基づく手続きが必要です。

また、対象事業に偶発債務が含まれているとそのまま新設会社に引き継がれてしまうため、事前の洗い出しが重要になってきます。

手続きの流れ

新設分割の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 新設分割計画の作成
  2. 分割会社に事前開示書類を備置き
  3. 労働者への事前通知
  4. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  5. 債権者保護手続き
  6. 株主総会の特別決議
  7. 新設分割の登記=効力発生
  8. 分割会社と新設会社に事後開示書類を備置き

株式交換

株式交換とは、会社の発行済み株式の全てを親会社となる既存の会社に取得させることで、完全な親子会社関係を構築する手法です。

株式交換後に対象会社を完全支配し、経営の意思決定を完全にコントロールすることができます。

主にグループ企業同士の連携を強化するために行われます。

メリット・デメリット

株式交換のメリットは以下のようになります。

  • 少数株主を強制的に排除できる
  • 買収資金が不要である
  • スムーズな経営統合ができる

株式交換では株主総会の特別決議で承認を受けさえすれば、反対株主の株式も強制的に買い取ることができるので、反対株主への対処が比較的楽になります。

また、株式交換の対価を買い手企業の新株または自己株式とすれば買収資金を用意する必要がなくなるほか、売り手企業が別に存在するため緩やかな経営統合ができます。

一方、デメリットは以下の通りです。

  • 株主総会の特別決議に時間も費用もかかる
  • 株価の下落リスクがある

前述の株主総会の特別決議には、まず開催にあたって招集を通知しなければなりません。
また、議決権の過半数を有する株主の出席、かつ、出席した株主の議決権の三分の二以上の同意が必要となり、費用も時間もかかってしまいます。

加えて、新株を発行して対価とする場合、買い手企業の株式数が増加し、各株主の持ち分比率が下がります。
その結果、株主総会での影響力と配当金の額が減少し、市場評価が下がることで株価が下落する可能性があります。

手続きの流れ

株式交換の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 株式交換契約締結
  2. 完全子会社と完全親会社に事前開示書類を備置き
  3. 株主総会での交換承認決議
  4. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  5. 効力発生
  6. 完全子会社と完全親会社に事後開示書類を備置き
  7. 登記

株式移転

株式移転とは、1つまたは2つ以上の株式会社がその発行済み株式の全てを新たに設立する株式会社に取得させる方法です。

株式交換と違うのは親会社を新設する点で、昨今よく見られるホールディングス(純粋持株会社)の設立に使われる手法となります。

メリット・デメリット

株式移転のメリットは以下の通りです。

  • 債権者保護の手続きが不要である
  • 買収資金が不要である
  • 法人格が別である

株式移転は株主の構成を変えることに留まり、財産が移転しないため、基本的に債権者保護の手続きが要りません。

また、買い手企業が買収の対価として新株発行をすれば買収資金の準備をしなくて済みます。

さらに、株式移転後も子会社は別法人として存在するため、経営統合を焦る必要がなく、より緩やかな統合が可能です。

一方で、デメリットは以下になります。

  • 手続きに手間がかかる
  • 株価の下落リスクがある

会社を新規で設立しなければならない分、煩雑な手続きが多くなってしまいます。
株主総会の承認や会社新設などの手続きがあるため、最終契約日から効力発生日まで数か月かかることもあります。

また、会社数が増加するため管理コストが増加し、利益減少に影響してしまい、株価が落ちてしまうリスクが出てきてしまうのもデメリットと言えるでしょう。

手続きの流れ

株式移転の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 株式移転計画書の作成
  2. 完全子会社と完全親会社に事前開示書類を備置き
  3. 株主総会での移転承認決議
  4. 反対株主・新株予約権者への通知または公告
  5. 株式移転の登記=効力発生
  6. 完全子会社と完全親会社に事後開示書類を備置き

まとめ

組織再編の代表的な手法を詳しく解説いたしました。
会社によって適した方法はそれぞれです。
本記事を参考に、最大限会社を成長させる組織再編が実現できるように各手法のメリット・デメリットを理解しておきましょう。

また、名古屋事業承継センターでは組織再編を用いた経営のスマート化、最適な事業承継を支援しています。
何かお困りごとがありましたら、気軽にご連絡ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。