休眠会社とは、何らかの理由により事業を継続できないと判断して、一時的に活動を停止している会社の状態を指します。
ただし、経営がうまくいっていないからといって安直に会社の休眠を選択するのはおすすめできません。
会社を休眠させる以外の選択肢を検討することも必要です。
本記事では休眠会社はもちろん、それ以外の選択肢についても説明していきます。
事業の停止を考えている経営者は、比較検討したうえで休眠会社を選択し、その良い面を活用していきましょう。
休眠会社とは?
休眠会社とは、「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの」と、会社法第472条1項に定められています。
一般的には、ある程度の期間、事業活動を行っていない会社という広い意味で使われています。
最後の登記から12年経っていない場合でも、経営者の判断で税務署に休業の届出を提出すれば、会社を休眠状態にすることができます。
会社を休眠させる理由
休眠会社を選択する一般的な理由は以下の通りです。
- 経営者の病気、事故、高齢化
- 事業の再生に向けた時間の確保
- 廃業の準備
経営者自身の原因や企業の将来性を考えて決断するケースもあります。
解散や廃業との違い
解散や廃業との違いが分からない経営者も多いのではないでしょうか。
ここで違いを整理しておきます。
まず、解散とは、廃業の手続きを開始するためのスタート地点です。
資金繰りや業績の悪化、後継者不在などが理由で解散となります。
解散は廃業のプロセスの一部だと覚えておきましょう。
よく間違えられるのは廃業と休眠です。
異なる点を以下の表にまとめておきます。
廃業 | 休眠 | |
会社の存続 | 会社が消滅するため、事業の再生は不可能。 | 会社は存続するため、事業の再生が可能。 |
期間中の手続き | 不要。 | 毎年の税務申告や役員の変更登記等の手続きが必要。 |
費用 | 解散や清算の手続きに登記費用が発生。 | 不要。 |
以上のように異なる点が多く、特に廃業と休眠は分かりにくいので、語句の意味を理解しておきましょう。
休眠会社のメリット・デメリットは?
休眠会社はメリットとデメリットを兼ね備えています。
どちらも把握しておくことで、休眠会社を活用するか否かの判断に役立てましょう。
休眠会社のメリット
手続きが簡単で、いつでも事業を再開できる
会社を休眠させるための手続きは、税務署や市区町村役場などへ休眠のための届出書類を提出するだけなので、非常に簡単です。
以下に提出先と提出書類をまとめておきます。
提出先 | 主な提出書類 |
管轄税務署 | 異動届出書(休業の旨を記載) 給与支払事務所棟の廃止届出書 |
都道府県・市区町村(都税事務所) | 異動届出書(休業の旨を記載) |
管轄年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届 |
労働基準監督署 | 労働保険確定保険料申告書 |
公共職業安定所(ハローワーク) | 雇用保険適用事業所廃止届 |
また、事業の再開がいつでも可能であることも大きなメリットといえます。
再開時は再開届(異動届出書)を税務署、都道府県税務署、市区町村役場へ提出するだけで手続きは終了です。
再開の許認可の取得も不要なので、他のことに時間をあてることができます。
廃業にかかる費用を回避できる
仮に廃業するとなった場合、以下の費用がかかります。
- 会社の解散登記:3万円程度
- 清算人の選任登記:9,000円程度
- 清算後の清算結了登記:2,000円程度
- 官報公告費用:3~4万円
- 税理士や司法書士への報酬(解散・清算手続きを依頼した場合):数十万円
しかし、会社を休眠すれば上記の費用が一切かかりません。
法人税・消費税は課税されない
会社を休眠すれば事業活動が停止するため、法人税や法人事業税、消費税の支払いが生じません。
法人税は会社が事業活動を通して得た所得に対して課税される税金、消費税は商品やサービスの提供時に課税される税金なので、休眠会社には課税がされません。
住民税の均等割が免除される可能性がある
法人住民税の均等割は、会社がいくら利益をあげているかに関わらず、毎年7万円が課せられます。
しかし、自治体によっては休眠会社の法人住民税の納付を免除しています。
あらかじめ確認しておきましょう。
休眠会社のデメリット
みなし解散になる可能性がある
先述の通り、最後に登記を行ってから12年経過した株式会社は休眠会社となりますが、同時に「みなし解散」の対象にもなります。
法務大臣による「みなし解散」公告から2ヶ月以内に、まだ事業の廃止はしていないことを届出で法務局に提出して、役員変更などの必要な登記を行えば、「みなし解散」は回避できます。
その一連の流れを行わなかった場合、会社を清算しなければならなくなります。
確実に届出を提出しましょう。
会社の維持費用がかかる
事業を停止してもかかる費用があります。
代表されるのが、固定資産税の支払いや毎月の家賃(賃貸の場合)です。
継続的に払わなければいけない費用があることは忘れないようにしましょう。
毎年税務報告をしなければならない
休眠会社といっても会社は存続しているため、確定申告が必要です。
休眠中は事業を停止しているため、当該税金がかからず、無申告でも問題ないと考えている方もいるかもしれません。
しかし、2期連続で確定申告を行わない場合は、2期目以降の青色申告の承認が取り消されてしまいます。
青色申告は多くのメリットが得られる制度ですので、休眠中でも確定申告を提出することをおすすめします。
役員登記変更の必要がある
株式会社において、役員の任期は最長で10年です。
会社が休眠していたとしても任期は増えていきます。
役員が任期満了を迎えてから2週間以内に役員登記の変更が必要です。
登記を怠ると、100万円以下の過料が課せられてしまいます。
会社を休眠させる前に、役員の残りの任期を確認しておきましょう。
休眠するか?廃業するか?判断ポイントは?
メリットやデメリットが理解できても尚、休眠した方がいいのか、廃業した方がいいのか、悩まれる経営者も多いのではないでしょうか。
次で紹介する判断のポイントを参考に比較検討してみてください。
- 廃業コストと維持コストの比較
- 休眠会社を復活させる時のメリットとデメリットの比較
- 後継者や買い手の存在
廃業コストと維持コストの比較
廃業にかかるコストと休眠して会社を維持するコストを比較しましょう。
単純にお金だけで比べたら維持コストの方が安いと考える方も多いかもしれませんが、時間や手間、後に待つ定期的な支払いや心理的な負担といった目に見えないコストも存在します。
廃業か休眠かの判断は、目に見えるお金だけではなく休眠後の会社の維持に関わるコストも含めて考えるべきでしょう。
休眠会社を復活させる時のメリットとデメリットの比較
廃業するか休眠するかの判断の際には、休眠した先の未来を考える必要があります。
会社の休眠を選んでいる時点で、事業を再開させる可能性が少なからずあるはずです。
せっかく休眠しても再開後に上手くいかないのであれば、あまり休眠する意味がありません。
休眠会社を復活させることのメリットとデメリットを比較することが大切です。
後ほど詳しく説明いたします。
後継者や買い手の存在
会社に後継者候補や、会社を買い取ってくれる相手がいるかどうかも廃業か休眠かの判断に大きく関わってきます。
後継者がいるのであれば、休眠している間に引継ぎを行うことができるので、事業の再開もスムーズにいく可能性が高く、休眠をおすすめします。
また、会社の財務状態が良いのであれば、M&Aで買い取ってもらえる可能性もあるので、休眠会社にしておくことのメリットが享受できます。
M&Aに関しては、買い手企業のことも考えるべきなので、休眠会社のM&Aについても後ほど解説いたします。
休眠会社を復活させることのメリット・デメリットは?
廃業か休眠かの判断に確実に役立てるべき情報です。
事前に目を通しておきましょう。
休眠会社を復活させるメリット
繰越欠損金が利用できる
事業がうまくいかないことを理由に休眠を選択した会社であれば、繰越欠損金(税務上の赤字)が溜まっている可能性があります。
繰越欠損金の特徴として10年間持ち越すことができるという点が挙げられます。
そのため、溜まっている繰越欠損金を事業再開後の黒字と相殺できるというわけです。
欠損金を黒字と相殺すると利益に対する法人税等が減少するため、節税の観点からも有効な手段だといえます。
ただし、繰越欠損金の利用は休眠後も申告書を提出し続けていることが条件になります。
休眠後の税務申告が行われていないと繰越欠損金が消えてしまうので、注意が必要です。
信用や許認可を引き継ぐことができる
休眠会社を復活させても社名や口座は変わらず、それまで積み上げてきた実績や信用をそのまま受け継ぐことができます。
休眠している事実を公告する義務もなく、対外的には設立時から続いている会社だと見えます。
そのため、長期的に会社運営ができているという点で、事業再開後に獲得した取引先からも信用が得やすくなります。
加えて、許認可も引き継ぐことができるため、不要な手間を省くことが可能です。
役員借入金を利用できる
休眠前に、赤字補填のために役員が会社に運転資金を貸し付けているケースがあります。
その場合、役員借入金という負債が計上されていますが、休眠して事業を再開した後の利益を役員借入金の返済にあてることで、税金や保険料も発生せず、節税効果を得られます。
資金の回収を無課税で行うことができるのです。
休眠会社を復活させるデメリット
過去の税金の滞納により信用が低下している可能性がある
税金の滞納や申告の遅滞など、過去に瑕疵があると、その悪いイメージも引き継ぐことになります。
あまりにも瑕疵が多いようだと、金融機関や取引先の信頼度は低下しています。
その場合、休眠して再開しても融資や協力が得られず、事業がうまくいかない可能性があるため、休眠がベストな選択肢とは言えないかもしれません。
復活後に労力がかかる可能性がある
休眠時に税金の支払いを行っていない場合、廃業して会社を設立するよりも、休眠して復活する方が労力がかかる場合があります。
上でも触れましたが、休眠中も必要書類の提出や該当する税金の納付が必要になります。
しかし、納付を失念した場合、復活後に払っていなかった分の税金の納付を要求される可能性があります。
休眠中に必要な手続きを怠ってしまうと、いざ事業を再開したときに思わぬトラブルが発生してしまいます。
事業を復活させたい方は気を付けましょう。
届出の効力が失われている可能性がある
事業を行う際に必要な許認可や届出は、一度提出すれば永年有効であるものと、事業の活動実態をもって有効とされるものと2種類あります。
会社の決算において繰越欠損金の利用や特別償却の採用など、法人税の計算に有利になる計算手段は休眠中も申請を行うことで可能になります。
申請を怠ると、休眠前に活用していた制度を利用できなくなり、届出の効力が保てなくなってしまいます。
ひとつ上の項目と合わせても、休眠後も手続きに対して意識を向けていないと、休眠明けに思わぬデメリットの影響を受けてしまうでしょう。
休眠会社をM&Aするメリット・デメリット
廃業か休眠かを判断する際に「買い手がいるか」という項目を検討すべきだとお伝えしました。
本章では、休眠することを選び、買収してもらうかどうかで悩んだ際に検討すべき情報である「休眠会社をM&Aすることのメリットとデメリット」をまとめておきます。
買い手・売り手、両者の観点から休眠会社のM&Aをみることで、売り手となったときの動き方を考えてみましょう。
売り手企業のメリット・デメリット
まずは売り手企業のメリットです。
- 廃業に必要な費用や時間を削減できる
- 高値で譲渡ができる
- 税金対策に繋がる
廃業せずに済むので、その分の費用を削減できるのはもちろんのこと、許認可を取得している休眠会社は高く評価される可能性があり、高値で売ることができます。
一方で、デメリットとしては、譲渡後に簿外債務が見つかった場合、損害賠償請求や違約金が発生する可能性があることが挙げられます。
財務状況を慎重に調べて、未然にリスクを回避しておきましょう。
買い手企業のメリット・デメリット
次は買い手についてです。
まずはメリットから説明します。
- 社会的な信頼度が上がる
- 許認可を取得する時間・手間が省ける
- 資本金が不要である
社歴が長い会社は、社会から価値が高い会社だと評価されているので、買収することができれば買い手企業の信頼度を向上させることができます。
また、許認可を持つ休眠会社を引き継ぐことで、許認可を取る面倒な手間を省くことが可能です。
そのうえ、資本金がなくても、高い資本金を所有する休眠会社を買収することができるので、買収のハードルも下がります。
次にデメリットです。
- 休眠会社の慎重な選定が必要である
- 休眠会社の買取手続きが必要である
休眠会社が簿外債務を抱えていたり、金融機関のブラックリストに載っていると、買収後に大きな損失となる可能性があり、慎重な選定が必要になります。
慎重な選定の後も、買取りの手続きをしなければならず、時間も労力もかかってしまうのが休眠会社をM&Aする際のデメリットです。
以上より、売り手のメリットとデメリットの比較はもちろん、買い手企業にはM&Aのメリットをアピールすることが必要だといえます。
加えて、M&Aのデメリットをいかに減らせるかも買収してもらえるかどうかに関わってきます。
それらを踏まえたうえでM&Aという手段が有効かどうかを判断しましょう。
休眠会社の制度を上手く利用しましょう
会社を休眠することは、経営状況を回復させたり、経営者の状態を元に戻したりと、活用の仕方によっては会社を良い方向に導いてくれます。
しかし、休眠会社を活用する際のデメリットを把握せずに選択することは非常に危険です。
短期的ではなく、中長期的な視点で休眠という選択肢を検討し、経営状態の回復を図りましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは、M&Aに関するご相談を承っております。
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