近年、会社の事業拡大や売却を目的として増えてきているM&A。
そのスキームの一つにTOBというものがあります。
TOBは有名な手法になってきているものの、実際どのように行われているのか、そのメリットやデメリットについて詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、TOBについてM&Aによる買収を考えている企業の視点で掘り下げて説明します。
TOBの実行を検討する際は、本記事をぜひ参考にしてみてください。
TOBとは
TOBとは、Take-Over-Bid(テイク・オーバー・ビッド)の略で、株式公開買付けのことを指します。
対象企業の株式を保有する不特定多数の株主に対して、事前に買付期間・買付価格・買付予定の株式数を公告し、応募してくれた株主から直接株式を買い取ります。
このとき、証券取引所は経由しません。
TOBにおける買付価格は市場の取引価格よりも高く設定されることがほとんどで、この上乗せ分をプレミアムと呼びます。
TOBには友好的TOB(対象企業の了承を得て行われるTOB)と敵対的TOB(対象企業の了承を得ずに行われるTOB)の2種類があり、日本で行われるTOBのほとんどが友好的TOBです。
ではTOBはどういった目的で行われているのでしょうか。
次章で説明していきます。
なぜTOBを行うのか
TOBは主に上場企業を対象に行われる傾向にあります。
具体的にどんな目的があるのでしょうか。
- 経営権を獲得するため
- 事業を拡大するため
- 敵対的買収を回避するため
経営権を獲得するため
TOBの主な目的は経営権の獲得や子会社化です。
対象会社の株式を買い取ることで、対象企業の経営に関与しやすくなります。
持株比率によって対象企業への影響力は変わってきます。
持株比率 | 獲得権利 |
100% | 完全子会社化できる |
2/3以上 | 株主総会の特別決議を単独で成立させられる |
50%超 | 株主総会の普通決議を単独で成立させられる |
1/3超 | 株主総会の特別決議を単独で阻止できる |
また、株式については大きなお金が動いたり、特定の株主が優遇されたりといった状況が予想されるため、金融商品取引法で以下のルールが定められています。
- 5%ルール:証券取引所外での買付けで株式の保有割合が5%を超えるケースでは、TOBを実施しなければならない
- 1/3ルール:買付後の株式の保有割合が1/3を超える場合には、TOBを実施しなければならない
※1/3ルールが免除されるケースもあり
事業を拡大するため
TOBで対象企業を傘下に収めることで、既存事業と対象企業の事業間でシナジーが起こる可能性があります。
違う業界の会社を買収することで事業にも幅が出てきます。
基本的に上場企業が対象になるため、TOBでは大きな事業拡大が期待できるでしょう。
敵対的買収を回避するため
敵対的TOBを行おうとしたときに、対象企業やその取引先もTOBを仕掛けてくるというケースは珍しくありません。
例として、取引先が敵対的TOBの対象になったときに、その企業を守るために友好的TOBを行うという場合が挙げられます。
そのため、敵対的TOBを行う際は対象企業だけでなく、その取引先や関係する企業にも目を光らせて、対策を練っておく必要があるといえます。
TOBのメリット
本章ではTOBをするメリットを説明いたします。
- 大量の株式を一気に買える
- 株価変動の影響を受けない
- 競争力強化と信用性向上を図ることができる
- スケジュールを管理できる
大量の株式を一気に買える
TOBでは証券取引所外で取引きを行うことになるため、一度に大量の株式を買い集めることができます。
そのため、経営権の取得を目指すうえでも一定数の株式を獲得しやすく、買い集める時間も減らすことが可能です。
また、取引市場での株式の取引きはキャンセルがききません。
その一方、TOBでは募集株式数の上限・下限の設定が可能であるため、株主からの応募数が目標株式数に達しなかった場合はキャンセルができます。
そのため、効率的な株式の取得が可能になります。
株価変動の影響を受けない
TOBはあらかじめ公開した価格で株式を買付けるため、市場変動の影響を受けません。
通常の取引市場を通じて買付ける場合だと株価の変動によって費用や時間が予想以上にかかってしまう場合がありますが、TOBではその心配が不要です。
計画通りに株式の買付けができるのも大きなメリットといえます。
競争力強化と信用性向上を図ることができる
TOBの目的でも触れたように、TOBでは上場企業を対象に行うことが多いため、事業同士のシナジーや事業領域の拡大を図ることができ、競争力強化に繋がります。
また、株式をそれだけ購入できる資金力があると判断されるため、周りからの信用を得ることもできます。
企業活動において大きな要素である競争力とステークホルダーからの信用を両方手に入れられるのは、TOBの大きなメリットだといえるでしょう。
スケジュールを管理できる
市場での取引だと、どのくらいの期間で目標が達成できるのか予測が難しいうえ、大量に買い付けると株価が予想以上に上がる可能性もあります。
一方、TOBの場合は期間を定めて行うので、スケジュール管理が容易になり、費用にも見通しがつきやすく、無駄な出費を防ぐことができます。
TOBのデメリット
TOBにはデメリットもあります。
メリットだけでなくデメリットも把握したうえでTOBの実行を決断しましょう。
- 失敗するリスクがある
- 多くの買取準備資金が必要である
- 企業価値が担保されない
失敗するリスクがある
TOBは常に失敗するリスクがあることを忘れてはいけません。
特に敵対的TOBを行う場合は、対象企業やその取引先が防衛策をとってくるため、TOBが成功しない可能性があります。
友好的TOBであったとしても、競合企業が介入してきてうまくTOBが進まないというケースも考えられます。
どのようなTOBを行うにしても油断はできません。
多くの買取準備資金が必要である
TOBでは取引市場外で直接株主から株式を買い取りますが、その価格が市場価格よりも高く設定されていないと株主は株式を売ってくれません。
株主はプレミアムに魅了されて株式を売るからです。
株主が納得してくれるだけのプレミアムを支払える資金力がないと、TOBの成功は難しいでしょう。
企業価値が担保されない
TOBは株式の取引価格や取引期間の設定ができるものの、買付けが終わってからも対象企業の企業価値がそのままである保証はありません。
企業価値は常に変動し続けます。
TOBをすることによって対象企業の優秀な従業員が離職したり、取引先が離れたりといった事象により、企業価値が低下することも考えられます。
対象企業の業界における立ち位置や、どんな人材を保有しているのかなども調査しておきましょう。
対象企業株主はどう動く?
TOBをするとなったときに、対象企業の株主全員が応じるわけではありません。
ではどんな動きをとる可能性があるのでしょうか。
- TOBに応じる
- 取引市場で株式を売却する
- 株式を保持し続ける
TOBに応じる
まずはTOBに応じる株主についてです。
プレミアムは市場価格よりも30%〜40%上乗せするイメージで考えておきましょう。
TOBに応じてくれる場合には売買手数料はかからないので、コスト面でも助かります。
取引市場で株式を売却する
TOBに応じない株主の中には、取引市場で株式を売却する人もいます。
一般的にTOBが公開されると市場価格もプレミアムのついた株式と同じくらいの価格まで値上がりする傾向があり、市場で売却しても十分な利益が得られます。
取引市場ではキャンセルができないため、確実に株式を売却したい株主は取引市場での売却を優先する可能性があります。
株式を保持し続ける
TOBに応じず、株式を保有し続ける株主もいます。
株主が株式を購入した時の価格よりもTOB時の価格の方が低い場合は、TOBで株式を売っても損をしてしまうので、売却に応じないでしょう。
また買い手企業が上場廃止になったときに行われるスクイーズアウトでは、買取価格で株式を売却することになります。
そのため、上記の条件の株主の場合、保有を選択するのは自然だといえます。
TOBに株主が応じなかった2つのパターンにとるべき対応については、過去のコラムにまとめていますので、そちらをご覧ください。
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TOBの手続きの流れ
TOBの手続きの流れは、他のM&Aの手法とは大きく異なります。
TOBの手続きの流れについて、書類の提出を中心にまとめたので、参考にしてください。
- 開始広告
- 公開買付届出書の提出
- 意見表明報告書の提出
- 対質問回答報告書の提出
- 公開買付撤回届出書の提出(TOBを中止したい場合のみ)
- 公開買付報告書の提出
- TOB完了
公開買付届出書の提出を行った時点から公開買付け期間の開始となり、株主からの売付けが始まり、公開買付報告書の提出をもってTOBは完了します。
流れに出てきた資料は、全て内閣総理大臣へ提出が必要であることも覚えておきましょう。
TOBをする際に必要な情報は?
様々な情報をもとに戦略的にTOBを行わなければ、成功は難しいかもしれません。
以下がTOBを実行する際に必要な情報の代表例です。
- 対象企業の株主構成
- 対象企業の株式の取引市場価格
- 対象企業の財務状況
- 対象企業のビジネスモデルと競合状況
- 類似事例
対象企業の株主構成や株価の取引市場価格が必要なのは、言わずもがなです。
これらがないと買付価格の設定ができません。
また、対象会社に対する疑義を残したまま子会社化を実現してしまうと、後から問題が顕在化して買い手企業の信頼を大きく損ねる可能性があります。
そのため、デューデリジェンスを行ったり、企業のIRを見たりすることで企業の財務状況を把握し、TOB後に問題が生じるリスクを防ぎましょう。
本当にTOBすべき企業かを判断する際に、対象企業のビジネスモデルや競合企業の情報も役立つでしょう。
何事も先人の知恵は活かすべきです。
自社のTOBと類似した過去の事例を参考にすることも、TOBの成功には重要になってきます。
情報を駆使して、少しでもTOBの成功確率を上げましょう。
TOBのメリットを最大限に活用しよう
TOBについて幅広く解説いたしました。
TOBは成功すれば、競争力や信頼性の面で大きなメリットを得ることができます。
ただし、上場企業が対象企業になることがほとんどで動く金額が大きいため、慎重に動きましょう。
どれだけ入念に情報収集をしたり、戦略を練っても不安が解消されない場合もありますよね。
そんなときは専門家への相談をおすすめします。
事業承継M&AパートナーズではTOBを含むM&Aに関するご相談を無料で承っております。
気軽にご連絡ください。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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