「法人化をして後悔した」
という声を聞いたことはありませんか。
個人事業主が事業を拡大させていく中で考えるのが「法人化(法人成り)」についてです。
法人化をした方が良いのか、このまま個人事業主として継続した方が良いのかを悩むタイミングが出てくるでしょう。
考えなしに法人化を選んでしまうと、予想以上にデメリットが多かったなんてことも珍しくありません。
本記事を参考に、自身の事業を法人化すべきかを慎重に検討してみましょう。
個人事業主が法人化(法人成り)するメリット
個人事業主の法人化には多くのメリットが存在します。
- 社会的信用が高まる
- 決算期を都合に合わせて設定できる
- 社会保険に加入できる
- 節税効果を得られる
社会的信用が高まる
個人事業主と比べて、法人は社会的な信頼が高いです。
法人化するためにはある程度の資金が必要で、定款の作成や登記といった手続きに時間を割かなければなりません。
時間と労力を割いて法人を設立することは、それだけ事業に真剣に取り組んでいると評価され、社会から信頼を得られます。
社会的な信用が高まれば、補助金や助成金の申請だけでなく、金融機関などからの借入れの審査も通りやすくなります。
登記が公開されることで取引先の信用も高まり、事業の発展や拡大に繋がりやすくなるともいえるでしょう。
決算期を都合に合わせて設定できる
法人化すると決算期を会社の都合に合わせて設定できます。
個人事業主の場合、決算日が12月31日だったり、確定申告や納税の日程が定められていたりと、自身の都合で設定することができません。
しかし、法人化すれば繁忙期に決算や納税の手続きを避けることが可能です。
煩雑な手続きが事業の妨げとなることを防いでくれるのは、大きなメリットといえるでしょう。
社会保険に加入できる
社会保険に加入できるようになることもメリットの1つです。
個人事業主のときに支払う国民健康保険よりも費用はかかりますが、社会保険に含まれる厚生年金は、国民健康保険に含まれる国民年金よりも金額が高く、老後の備えになります。
福利厚生の充実は優秀な人材の確保にも繋がり、間接的に事業や会社の発展にも寄与するかもしれません。
節税効果を得られる
法人化の一番大きなメリットは節税効果です。
4つの側面から税負担を軽減することを期待できます。
- 給与所得控除が活用できる
- 従業員の退職金が損金として認識される
- 赤字の繰越し期間を延長できる
- 課税事業者になるタイミングを遅らせることができる
1つ目は、給与所得控除の活用です。
個人事業の場合、事業利益の全てが課税対象になります。
一方、法人化すれば経営者の所得は役員報酬のみになるだけでなく、給与所得控除の分だけ所得として計算される金額を減らすことができるため、税負担を軽くすることが可能です。
2つ目は、従業員の退職金が損金として認められること。
個人事業の場合は退職金を必要経費にできませんが、法人であれば退職金も損金として計上され、法人所得を減額できるため、節税に繋がります。
3つ目は、赤字を最長10年間繰り越せることです。
個人事業の場合、繰越損失は3年間しか持ち越せませんが、法人であれば最長で10年間持ち越すことができます。
大きな赤字を出した翌年度以降に大幅な黒字を出して法人税が多くかかってしまうときに赤字を繰り越すことにより、税額を低く抑えることが可能です。
4つ目は、消費税の課税事業者になるタイミングを遅らせることができること。
2年前の課税売上高、もしくは前年の1~6月の課税売上高が1,000万円を超えると、課税事業者となり消費税の納税義務が課されます。
しかし、個人事業主として消費税の課税事業者となるタイミングで法人化すれば、法人設立の1期目は課税売上高はゼロです。
設立2年目も前年6か月の課税売上高が1,000万円を超えていなければ、免税事業者となります。
以上のように、様々な観点から節税の効果が期待できるでしょう。
法人化(法人成り)が後悔するといわれている理由とは?
たくさんのメリットがある法人化ですが、一定の割合で後悔したという声があがってきます。
本章では考えられる理由を説明していきます。
- 思っていたよりも節税ができない
- 自由にお金が使えなくなる
- 管理すべきことが多くなる
- 責任が増す
- 赤字なのに納税義務がある
- 費用がかかる
思っていたよりも節税ができない
法人化のメリットとして大きく取り上げた節税効果ですが、思っていたより節税できなかったというケースが多く見られます。
法人化することで売上も利益も上がっていくと見込んでいたけれども、予想に反して落ちてしまったという場合には、期待していたほどの税負担の軽減は実現しないでしょう。
個人事業主の所得税・住民税が所得に応じて15%〜55%の税率で計算される一方で、法人の場合、約22%~39%の法人税等が課税されます。
よって、法人化後の所得によっては個人事業の方が税額が低いというケースもあり得るのです。
自由にお金が使えなくなる
個人事業主は事業で稼いだお金を自由に使うことができますが、法人化してしまうとそうはいきません。
売上は会社のものですので、勝手に使うと横領や税務上のトラブルに発展する可能性があります。
どうしても会社のお金を使いたい場合は、役員報酬や賞与といった形で個人の収入にする必要があります。
役員貸付金として会社からお金を借りるという手もありますが、利息分も返済しなければなりません。
お金を自由に使えない不自由さがゆえに、法人化を後悔する経営者も多いです。
管理すべきことが多くなる
法人化すると、個人事業主の頃に比べて手続きが煩雑化します。
役員の任期・辞任・就任は法に沿って対応しなければならず、書類の提出や手続きは期限を守って慎重に行わなければなりません。
決算報告書や法人税申告書などの書類作成にも時間とコストがかかり、定款の変更にもその都度対応する必要があります。
予想以上に管理すべきことが多く、「これだったら時間を本業に充てた方が効率的だった」と後悔する可能性は否定できません。
責任が増す
法人化して経営を任される立場になると、事業を成功させながら、従業員の生活も守らなければならず、その責任の重さに気を病んでしまう方もいます。
法人化すると個人事業主のときのように自分のペースで物事を進めることが難しくなります。
気楽に自由に働きたいという方には、法人化は向いていない可能性があるでしょう。
赤字なのに納税義務がある
個人事業主の場合、赤字であれば所得税と住民税はかかりません。
しかし、法人であれば赤字であっても住民税の納税義務は発生します。
法人が納めるべき法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2つに分類されます。
赤字の場合、法人税割は発生しませんが、均等割は法人の規模に応じて課税がされるため、少なくとも7万円程度の納税が必要になってきます。
小規模な法人ほど痛手となる可能性があるため、法人化前に検討すべき項目です。
費用がかかる
法人化は様々な面で費用がかかります。
法人化するうえで避けられないのが社会保険料と人件費の負担。
事業を拡大すればするほど、この2つの費用はかさんでいき、そこを想定して予算を組んでおかないと資金繰りを圧迫しかねません。
他にも法人の設立には収入印紙代や登録免許税などの費用もかかります。
さらに、法人は廃業にもお金がかかってしまいます。
資金に余裕を持った状態で法人化を進める必要があるといえるでしょう。
法人化(法人成り)にかかる費用
株式会社の設立を想定した費用を以下にまとめておきます。
参考までにご覧ください。
会社設立にかかる費用
- 収入印紙代:4万円
- 定款の認証手数料:3~5万円
- 謄本の発行手数料:約2千円
- 登録免許税:15万円
株式会社の維持にかかる費用
株式会社は設立だけでなく、維持するためにも以下の費用がかかります。
- 住民税:約7万円
- 法人税:課税所得×税率
- 専門家への報酬:3~5万円/月
- 社会保険料:社員の給料の15%/月(社員1人あたり)
その他の維持費
他にも以下の費用がかかります。
- 事務所の賃貸料
- 事務所の光熱費
- 在庫管理費
- 社員への給与
- 社員の福利厚生費
- 税理士、社労士等に対する顧問報酬
法人化(法人成り)すべきタイミングはいつ?
個人事業主はいつ法人化をするのが最善なのでしょうか。
代表的なのは以下のタイミングです。
- 2年前の売上が1,000万円を超えたとき
- 前年の1~6月の売上が1,000万円を超えたとき
- 資金調達をしたいとき
2年前の売上が1,000万円を超えたとき
事業所得としての売上が1,000万円を超えたときは法人に切り替えるのが良いでしょう。
個人事業主も法人も、2年前の年間売上が1,000万円を超えると消費税を支払わなければなりません。
しかし、個人事業主が法人化すると、課税事業者になるタイミングを2年遅らせることができます。
法人を設立した1期目と2期目は2年前の売上が存在せず、消費税の納税義務が免除されるためです。
ただし、以下の条件を満たす必要があるため注意しましょう。
- 法人設立2年目まで、資本金が1,000万円未満であること
- 法人設立2年目について、以下のどちらかの条件を満たしていること
・事業開始後1期目の前半6か月における課税売上高が1,000万円以下であること
・事業開始後1期目の前半6か月における給与支払総額が1,000万円以下であること
前年の1~6月の売上が1,000万円を超えたとき
2年前の売上が1,000万円以下であっても、前年の1~6月の売上が1,000万円を超える、かつ人件費(役員報酬を含む)が1,000万円を超えた場合はその年から課税義務が発生します。
ただし、どちらか一方の条件のみ満たしている場合は、消費税の納税義務はありません。
2つの条件を満たしてしまった場合は、法人化の際に3月決算の会社を9月1日に設立して、1期目を7か月間にすることで、消費税の納税を2期免除してもらえます。
資金調達をしたいとき
個人事業主はどうしても法人に比べると社会的信用が低い傾向があります。
法人としか取引きをしないという企業も少なくありません。
そのため、金融機関からの借入れや外部からの出資を受けることが難しいです。
法人化することで社会的信用を高め、外部からの資金調達をしやすくすることにより、事業拡大を図ることができます。
法人化(法人成り)を後悔しないために事前にしっかり準備しましょう
法人化にはメリットがたくさんありますが、なんとなく行ってしまうと、かえって損をして、法人化を後悔することになってしまいます。
事業の現状を把握し、本当に法人化が最適な選択なのか、法人化すべきタイミングはいつなのかなどを様々な角度から慎重に検討しましょう。
困ったときは専門家へ相談することをおすすめします。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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