昨今働き方が多様化し、フリーランスを選択する方が増えてきています。
同時に、企業とフリーランスが提携して仕事を進める形も多くなってきています。
しかし、フリーランスが弱い立場になることが多く、「急に契約が終わった」「聞いていた話と作業内容が違う」など、多くのフリーランスから不満の声が挙がっています。
そんな状況を改善すべく制定されたのが「フリーランス新法」です。
本記事ではフリーランス新法の具体的な内容を中心に解説いたします。
企業とフリーランスが健全な関係を築くために、企業はどう対応していくべきかを考えてみましょう。
フリーランス新法とは
フリーランス新法とは、フリーランスが働きやすい環境を整えるために制定された、業務委託の遵守事項などを定める法律です。
2023年(令和5年)2月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」として閣議決定され、2023年(令和5年)4月28日に成立、2023年(令和5年)5月12日に公布されました。
施行日はまだ定まっていませんが、施行は法案の公布から最長で1年半後のため、2024年(令和6年)11月までには施行されると考えておくのが良いでしょう。
それまでに企業はフリーランス新法への対応をしなければなりません。
フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。
特定受託事業者とは、業務委託をされる側で、従業員を雇用しない人のことを指します。
一方で、フリーランスに業務委託を行う側で、常時従業員を雇用している事業者を「特定業務委託事業者」と呼びます。
ただし、ここでの従業員には、人を雇用している場合でも短期間の一時的な雇用をされている方は含まれません。
フリーランス新法が制定された背景
日本では、企業による雇用を前提に労働、雇用、社会保障に関する政策が作られてきました。
そのため、個人で働くフリーランスの働きやすさを守る体制が十分に整っておらず、フリーランスは企業と取引きを行う上で弱い立場に置かれることが多いというのが現状です。
内閣官房日本経済再生総合事務局が令和2年5月に発表した「フリーランス実態調査結果」では、約4割のフリーランスが取引先とのトラブルを経験していることがわかっています。
トラブルを防ぐために仲介事業者を利用しても、2割の方がトラブルを経験しているのです。
さらに、トラブルが生じたときに取引先と交渉せずに受け入れたフリーランスは約2割におよび、自ら取引きを中止したフリーランスも1割います。
「受け入れないと今後の活動に支障をきたす」という理由で、そういった選択をとることが多いこともこの調査でわかっています。
では、フリーランスと企業との間で具体的にどういったトラブルが起きているのでしょうか。
企業とフリーランスでよく起こるトラブル
企業とフリーランスの間で生じるトラブルで代表的なものは以下の通りです。
- 報酬の未払い
- 仕事が急にキャンセルになる
- 担当業務の幅が変わる
報酬の未払い
最も多いトラブルが報酬の未払いに関するトラブルです。
依頼された成果物を納品したのにも関わらず、入金がされないという事態です。
ただの入金漏れであれば問題ありませんが、何かと理由を付けてどんどん先延ばしにされてしまうケースが散見されます。
納品後に「自社の方向性と違う」と減額をされてしまう場合もあるようです。
先ほどの内閣官房日本経済再生総合事務局の調査でも、トラブル内容の上位は報酬に関するものが占めています。
フリーランスの報酬に関しては大きな問題があるといえるでしょう。
仕事が急にキャンセルになる
自分で仕事をとってこなければならないフリーランスにとって急に仕事がなくなってしまうことは収入が大きく減ることに繋がり、生活に支障をきたす可能性があります。
大きい仕事に向けた準備やスケジュールの確保をしていたにも関わらず、急にキャンセルされると予定を大きく変えなければならない事態になりかねません。
急に連絡が途絶えることも多く、納品をしてから音信不通になってしまうという悪質な事例も挙がってきています。
担当業務の幅が変わる
担当業務の範囲が打合せで聞いていたものと違うというのもよくあるケース。
打合せで話していなかった内容が当然のように追加されたり、大きな修正を何度も繰り返されたりすると、仕事量が想定よりも膨れ上がってしまいます。
フリーランスという立場上、追加でお願いされた内容を断るのが難しく、一度了承してしまうと、企業側は「この人はお願いしても大丈夫だ」と注文を繰り返すようになります。
はっきり断れない立場の弱さを利用して、想定以上の仕事を頼むような企業に頭を抱えるフリーランスの方は多くいます。
フリーランス新法の内容
不遇なフリーランスの現状を変えるべく制定された「フリーランス新法」の具体的な内容を解説していきます。
- 取引条件の明示
- 報酬の未払い禁止
- フリーランスの利益を損なう行為の禁止
- 募集状況の的確な表示
- 育児介護等と業務の両立への配慮
- ハラスメント対策の体制整備
- 中途解約等の事前予告
- 上記を違反した場合の罰則
取引条件の明示
業務委託事業者が特定受託事業者に対して業務委託をした際には、業務内容や報酬額、支払期日に関して、書面やメールなどの電磁的方法で明示することを義務付けています。
フリーランスが契約を書面で表示してほしいと希望すれば、企業側は遅滞なく書面を交付しなければなりません。
これにより契約後に不当な扱いを受けて訴えるときに証拠として契約書を提示することができます。
この義務に関しては、「特定業務委託事業者」ではなく、「業務委託事業者」が対象なので、従業員を雇用していない事業者にも課されます。
報酬の未払い禁止
フリーランス新法では、報酬の支払いを義務付けています。
特定業務委託事業者は、検品の有無を問わず、発注した物品などを受領した日から起算して60日以内に報酬を支払わなければなりません。
また、特定の場合、以下のように支払期日が設定されます。
- 当事者間で支払期日を定めていなかった場合:成果物を実際に受領した日
- あらかじめ設定した支払期日が物品等を受領した日から起算して60日を超えている場合:物品等を受領した日から起算して59日目
2の状況が複雑なので例を挙げます。
物品等の受領が3月31日、あらかじめ設定していた支払期日が8月31日に設定されているとすると、規定されている受領日から60日以内に報酬が支払われません。
この場合、フリーランス新法が適用されると、支払期日は物品等の受領日である3月31日から起算して59日目である5月29日に法定されます。
他にも、業務委託が再委託の場合、特定受託事業者が報酬の支払いを受けた日から30日以内に支払いを完了する必要があります。
以下の図を参考に、複雑な状況におけるフリーランス新法の影響についても理解しておきましょう。
フリーランスの利益を損なう行為の禁止
フリーランスと企業の取引きにおいて、フリーランスの利益を損なう以下の7つの行為を禁止しています。
- フリーランス側の責めに帰すべき理由のない成果物の受領拒否
- フリーランス側の責めに帰すべき理由のない報酬の減額
- フリーランス側の責めに帰すべき理由のない成果物などの返品
- 相場に比べて著しく低い報酬の不当な決定
- 正当な理由のない指定商品の購入または役務の利用の強制
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- フリーランス側の責めに帰すべき理由のない給付内容の変更、またはやり直しの要請
上で挙げた企業とフリーランスのトラブルを網羅的に防ぐような内容になっています。
募集状況の的確な表示
新聞や雑誌といった広告や文書に掲載された取引条件と実際のものが異なることで、特定受託事業者であるフリーランスが被害を被る可能性があります。
企業とフリーランスの間で取引条件に関するトラブルが生じたり、フリーランスがより条件の良い取引きを行う機会を失ってしまったりすることが考えられます。
そこで、特定業務委託事業者である企業に対して、広告や文書で募集情報を提供するときは、以下の2つのことを義務付けています。
- 虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない
- 正確かつ最新の内容に保たなければならない
意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示したり、既に募集を終了した広告などを削除しなかったりすることを違反とし、フリーランスが利益を損なうことを防ぎます。
育児介護等と業務の両立への配慮
ワークライフバランスを重視したいフリーランスもいます。
フリーランス新法では、継続的業務委託(政令で定める期間以上の期間行う業務委託)について、フリーランスからの申し出に応じ、育児介護等と業務を両立できるよう配慮することが義務付けられました。
妊婦検診のための時間を確保するために終業時間を短くしたり、オンライン業務を可能にしたりすることで、フリーランスのワークライフバランスを尊重する必要があります。
ハラスメント対策の体制整備
社内の従業員はもちろん、フリーランスなどの特定受託事業者に対してもハラスメント対策を行わなくてはなりません。
ハラスメントは就業環境の悪化、心身の不調、事業の中断・撤退を引き起こす可能性があります。
ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することだけでなく、フリーランスがハラスメントについて相談等を行ったことを理由とした不利益な扱いも禁止されています。
中途解約等の事前予告
企業側から急に契約の中途解除や不更新を言い渡されてしまったフリーランスが困ってしまうという状況も珍しくありません。
そんな状況を防ぐために、フリーランス新法では、少なくとも30日前までにその旨をフリーランスに予告しなければならないことを義務付けています。
また、予告の日から契約満了までにフリーランスが契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、これを開示しなければならない旨も示されています。
上記を違反した場合の罰則
フリーランスに業務を委託する企業がフリーランス新法に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、または厚生労働大臣により助言や指導、報告徴収や立ち入り検査などが行われます。
命令違反や検査拒否などがあれば、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
また、フリーランス新法における罰金に適用されるのは法人両罰規定なので、違反者本人だけでなく、その雇用主も罰則の対象となります。
企業が行うべき準備とは
フリーランスと提携している企業は多くの項目について見直しが必要です。
フリーランス新法が施行される前に、以下の項目について準備を進めておきましょう。
- 契約書の雛型や支払いサイトを見直す
- フリーランスと業務内容を確認する
- フリーランス新法に関わるマニュアルを作成し配布する
- ハラスメントを相談できる体制を整える
契約書の雛型や支払いサイトを見直す
フリーランス新法によって、業務委託時には納品物の内容、報酬額、支払期日などの事項を書面等によって明示する義務が発生します。
今まで契約時に提示していた書面を見直し、必要項目を明示できているか確認しておきましょう。
明示できていない場合、今後発行する書面等に明記するように雛型を整えておく必要があります。
また、フリーランスに報酬を支払うためのサイトも見直しておきましょう。
報酬の支払い期日が明確に定められたため、納品を受けた日から60日以内で支払日を設定する必要があります。
フリーランスと業務内容を確認する
現段階で、フリーランスと企業との間で契約内容の齟齬がないかを確認しておくと安心です。
もし現段階で違反となる行為を行っていた場合、フリーランス新法が施行されてからは罰金が生じ、企業の印象も悪くなってしまいます。
フリーランス新法の発令を機にフリーランスと契約した業務内容を見直し、後になってフリーランスとトラブルを生じさせないようにしましょう。
フリーランス新法に関わるマニュアルを作成し配布する
フリーランスと関わるのは経営者だけではありません。
従業員もやり取りを行うでしょう。
そこで、フリーランス新法に関するマニュアルを作成し、従業員に配布することでフリーランス新法を周知させる取組みを行うことをおすすめします。
経営者自身が気を付けていても、やり取りを行う従業員がフリーランス新法を把握できていなければ、問題が起こるリスクは防げません。
社内周知を徹底しましょう。
ハラスメントを相談できる体制を整える
2020年(令和2年)6月1日にパワハラ防止法が施行され、厚生労働省はガイドラインでハラスメント相談窓口を設置するよう規定を明記しています。
よって現在、全ての企業においてハラスメント対策として相談窓口が設置されています。
その窓口をフリーランスも使えるようにしましょう。
契約時の書面などに相談窓口の情報も記載しておくなど、確実に周知できるような対応を検討しておくことをおすすめします。
フリーランスと健全な関係を築こう
働き方が多様化していく現代において、フリーランスの数も増えていくことでしょう。
すると企業とフリーランスが手を取り合う機会も増えていく可能性があります。
両者が気持ち良く働ける環境づくりをすることで、健全な経営を持続させていきましょう。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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