企業が資金を調達する方法は様々で、その1つに特別目的会社(SPC)を活用する方法があります。
しかし、特別目的会社(SPC)とはどういうものなのか、どのようなメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、特別目的会社について詳しく解説します。
設立条件やスキーム、メリット・デメリットなどわかりやすく解説するので、ぜひ最後までご覧ください。

  1. 特別目的会社(SPC)とは?
  2. SPC法とは?
  3. 特別目的会社(SPC)を設立するメリット
  4. 特別目的会社(SPC)を設立するデメリット
  5. 特別目的会社(SPC)の設立条件と手続き
  6. 特別目的会社(SPC)を設立するスキーム
  7. M&Aにおける特別目的会社(SPC)の活用方法
  8. 必要に応じて特別目的会社(SPC)を活用しましょう

特別目的会社(SPC)とは?


特別目的会社とは、特定の事業を営むために設立された会社のことです。

「Special Purpose Company」を略してSPCと呼ばれます。(以下、SPCと表記)

資金調達や債券の発行、投資家への配当などの目的で設立されることが多く、SPCを設立することは経営戦略において有効的な手段です。

日本では、1998年(平成10年)6月に成立した「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(通称:旧SPC法)によって、SPCを設立できるようになりました。
2000年(平成12年)に改正され、「資産の流動化に関する法律」と名称を変更し、SPC法と呼ばれています。
SPC法については、次章で詳しく解説します。

SPCは会社が持つ資産を所持するための貯蔵庫の役割を果たすためのもので、利益を追求する事業活動ができません。
いわゆる、ペーパーカンパニーの一種です。

SPCは「会社」と名付けられていますが、SPC法に基づいて設立されたSPCは、会社法上の会社とは異なります。
通常の会社とは異なる点が多いので、理解しておきましょう。

SPC法とは?

SPC法とは、先述の通り「資産の流動化に関する法律」のことであり、資産の有効活用や多様な金融商品の開発に当たって重要な役割を果たす法律として制定されています。

1998年(平成10年)に制定された旧SPC法は、金融機関が抱える膨大な不良債権を処理する策としての側面が強く、活用するための要件が厳しいという声が挙がっていました。
そこで、対象資産を拡大したり、特定資本金額を引き下げたりすることで使いやすくしたものが現在のSPC法です。

SPC法について詳しく知りたい方は、法令検索サイト「e-Gov法令検索」をご覧ください。

特別目的会社(SPC)を設立するメリット


SPCを設立する主なメリットは、以下の4つです。

  • 資金調達がしやすい
  • 資産を守ることができる
  • 資産のオフバランス化ができる
  • 節税対策ができる

資金調達がしやすい

SPCを設立する最大のメリットは、資金調達がしやすくなることです。
SPCは特定の資産を保有しており、その資産を担保にすることで金融機関から融資を受けることができます。

さらに、SPCでは投資家の投資を募ることも容易にできます。
SPCは不動産開発業でよく活用されており、SPCによって不動産を証券化して有価証券を発行すれば、投資額を小口化することが可能です。

不動産開発は、有望案件であっても投資額が高額になるため、投資できる投資家は限られてしまいます。
しかし、不動産を証券化して投資額を小口化することで投資家は投資しやすくなり、投資を募ることが容易になるということです。

資産を守ることができる

SPCが保有する資産は、親会社から独立したものであり、親会社が負債を抱えていたとしてもSPCが保有する資産価値に影響はありません。
仮に親会社が倒産したとしても、SPCが保有する資産は差押さえの対象にはならないため、資産を守ることが可能です。

親会社と資産を隔離することによって、金融機関や投資家は親会社の信用評価を気にすることなく、SPCが生み出す収益のみを対象として融資判断をすることができます。
これにより、先述した資金調達がしやすいというメリットにも繋がります。

資産のオフバランス化ができる

資産のオフバランス化とは、資産や負債を貸借対照表(バランスシート)に計上しない状態にすることです。
貸借対照表は企業が保有する資産や抱えている負債の状況が記載されており、財政状況を表す重要な役割を果たします。

例えば、不動産開発業が大規模な不動産開発を進める際、最初に莫大な負債を抱えるケースは珍しくありません。
その負債がそのまま計上されれば、負債比率が著しく上昇し、財務状況が悪化します。

SPCを持たない場合、不動産を売却することで財務状況は改善できますが、そうなれば所有している不動産を手放さなければなりません。
しかし、SPCがあれば不動産をSPCに売却し、負債はSPC側で計上すれば親会社の財務状況から負債をオフバランス化することが可能です。
なおかつ、SPCを通じて不動産の権利を保持できます。

節税対策ができる

SPCは通常の会社よりも税負担を軽減できるため、税務上の観点から利用されることもあります。

通常の会社では投資家への配当金を損金に計上できません。
しかし、SPCであれば投資家への配当金を損金算入することができるため、収益を配当金に充てれば、法人税を控除することが可能です。

他の節税対策として、SPCをタックスヘイブンに設立するという手段が挙げられます。
タックスヘイブンとは、法人税が免除されたり、税率が低かったりする租税回避地のことで、アジアでは香港やシンガポールなどが有名です。

タックスヘイブンにSPCを設立して親会社の売上をSPCへ移すことで、日本で法人税を納めるよりも節税することができます。
このような節税対策を行っている企業は多くあります。

特別目的会社(SPC)を設立するデメリット


経営においてメリットの多いSPCですが、以下のデメリットも存在します。

  • コストと手間がかかる
  • 悪用できる可能性がある

コストと手間がかかる

SPCの設立は、通常の会社よりも設立手続きや運用の仕方が煩雑なため、コストや手間がかかります。

SPCを設立する際は税理士や弁護士、司法書士など様々な専門家に業務を依頼する必要があり、時間もかかってしまうでしょう。
業務を依頼する際は、まとまった報酬の支払いも発生します。

SPCを設立する場合は、かけるコストや手間に見合う利益が得られるか十分に検討することが大切です。

悪用できる可能性がある

SPCは資産の貯蔵庫であるため、悪用できる可能性が十分にあります。

親会社が抱えている負債や不良債権など、不都合な資産を全てSPCに移してしまえば、親会社の財務状況を良く見せることができます。

資産のオフバランス化ができる点は大きなメリットでもありますが、過去にはSPCを悪用して粉飾決算を行った事例もあるため、正しく運用する体制を整備しなければなりません。
悪用できる余地があるということを理解したうえで、健全な運営を心がけてください。

なお、粉飾決算を行った場合は、民事上の損害賠償責任だけでなく、特別背任罪等の刑事責任を負う場合もありえるので、覚えておきましょう。

特別目的会社(SPC)の設立条件と手続き

SPCは、SPC法に基づいて設立する場合と、会社法に基づいて設立する場合があります。
SPC法と会社法では設立するための条件が異なるので、注意しましょう。

SPC法による設立 会社法による設立
資本金 10万円以上 1円以上
内閣総理大臣への届出 必要 不要
登録免許税 3万円 株式会社:最低15万円
合同会社:最低6万円
(資本金による)
定款印紙 必要 書面:必要
電子定款:不要
必要な役員 取締役1人
監査役1人
株式会社:取締役1人
合同会社:社員1人
資産流動化計画の提出 必要 不要
業務開始届出の提出 必要 不要

SPC法に基づいてSPCを設立する場合、資本金や登録免許税の金額が異なるだけでなく、資産流動化計画や業務開始届出を提出する必要があります。

会社法に基づく場合、株式会社として設立するよりも合同会社として設立する方がコストや手間を省けるため、合同会社としてSPCを設立するケースが多いです。

特別目的会社(SPC)を設立するスキーム


SPCを設立するスキームには、主に以下の3つがあります。

  • GK-TKスキーム
  • TMKスキーム
  • REITスキーム

GK-TKスキーム

GK-TKは、合同会社(Godo Kaisha)と匿名組合(Tokumei Kumiai)を組み合わせてそれぞれの頭文字をとった略称です。

投資家から匿名組合出資を募ったり、金融機関から借入れして調達した資金で信託の受益権を取得する不動産証券化の仕組みとなっています。

SPCとして会社法上の合同会社を設立するため、比較的容易な手続きで設立することができたり、管理コストが低かったりするので、最も多く利用されるスキームです。

TMKスキーム

TMKは、特定目的会社(Tokutei Mokuteki Kaisha)の頭文字をとった略称であり、SPC法に規定されている法人のことです。

特定目的会社が資産流動化計画に基づき、金融機関や投資家から資金調達し、不動産や信託の受益権などの資産を取得します。

その取得した資産から得た収益で返済や配当を行う仕組みです。

TMKスキームは税法上の優遇措置を受けることができますが、業務を開始するまでのプロセスが煩雑であり、管理コストが多くかかる点がデメリットです。

そのため、不動産の証券化を目的としたSPCの設立の場合、TMKスキームが利用されることは少なくなっています。

REITスキーム

REITは、不動産投資信託(Real Estate Investment Trust)の頭文字をとった略称です。

投資法人・投資信託に関する法律に基づいてREIT(投資法人)を設立し、金融機関や投資家から資金を集めて運用する仕組みになっています。

REITスキームは収益性の高い不動産の運用に適したスキームなので、不動産形成・再生事業として活用されることが多いです。

M&Aにおける特別目的会社(SPC)の活用方法

SPCは増資目的だけでなく、M&Aでも活用することができます。

一般的に、M&Aで企業を買収するためには多額の資金が必要です。

そこで、SPCを設立して金融機関から融資を受け、LBO(レバレッジド・バイアウト)を利用して企業を買収するという手法があります。

LBOは、買い手企業が売り手企業の資産やキャッシュフローを担保にして資金を調達し、その資金で企業を買収するM&Aの手法です。

自社より資本金の多い会社を買収できるという特徴があります。

SPCを設立してLBOを実行する流れは、以下のようになります。

  1. SPCを設立
  2. 金融機関から資金を調達
  3. 売り手企業を買収(SPCによる株式取得)
  4. 買収した企業をSPCと合併
  5. 金融機関に返済

銀行にとってLBOはリスクが高いので、金利が高めに設定されるケースが多いため注意が必要です。

一方で、SPC自体は原則として倒産しないことや、親会社の財務状況の影響を受けないことから、銀行側は融資がしやすいという側面もあります。

必要に応じて特別目的会社(SPC)を活用しましょう

SPCについて詳しく解説してきました。

SPCは資産を所持するための貯蔵庫の役割を果たし、資金調達がしやすかったり、資産を守ることができたりと様々なメリットがあります。

しかし、手間やコストがかかったり、悪用できる可能性があったりと、デメリットもあるため、かけるコストやリスクに見合った収益を確保できるかを検討する必要があります。

SPCを設立する際は、専門家に相談してサポートを受けながら手続きを進めることを推奨します。事業承継M&Aパートナーズでは、経験豊富なプロフェッショナルがSPCの設立を丁寧にサポートします。

SPCの設立やM&Aに関するご相談があれば、ぜひ事業承継M&Aパートナーズまでお問い合わせください。初回相談は無料です。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。

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