経営者だけでなく、会社で働く従業員も知っておくべき項目である「インサイダー取引」。
インサイダー取引は金融商品取引法で禁止されており、もしインサイダー取引を行った場合、厳しい罰則を受けることになります。
自社が不利益を被らないためにも、インサイダー取引の実情を知り、対策を練っておくことが大切です。
本記事では、インサイダー取引について幅広く解説しております。
健全な経営にぜひお役立てください。
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、公式に発表していない重要な情報が漏洩した状態で行われる、株式や新株予約権証券などの売買を指します。
非公開の情報を知っている一部だけに有利な取引きが行われることとなり、何も知らない一般消費者との公平性が損なわれます。
インサイダー取引が横行してしてしまうと、証券市場への信頼が失われ、投資家が疑心暗鬼になり、日本の株式市場への投資を控えてしまうかもしれません。
このような事態を未然に防ぐために、金融商品取引法によってインサイダー取引は禁止されています。
インサイダー取引を引き起こすとどんな影響がある?
実際にインサイダー取引を行った場合、どのような影響が出るのでしょうか。
大きな影響は以下の3つです。
- 信頼性の低下
- 株価の急落
- 経営陣の交代
信頼性の低下
インサイダー取引が発覚した場合、取引きを行った企業とその経営陣への信頼性が著しく低下する可能性があります。
企業は投資家や株主、取引先、顧客といったステークホルダーの支えがあって経営を保つことができます。
しかし、インサイダー取引により企業への信頼が損なわれれば、長期的に築いてきたステークホルダーとの関係性も一瞬で崩れ、経営もうまくいかなくなるでしょう。
インサイダー取引によって失った信頼を回復するには膨大な時間が必要です。
株価の急落
インサイダー取引が明るみに出れば、株価の急落は避けられません。
株価が低下すれば、株式による資金調達がしづらくなるだけでなく、業績不振を疑う銀行も融資を渋るようになります。
会社にお金が入ってこない状態では、経営が不安定になってしまうでしょう。
経営陣の交代
インサイダー取引が発覚すれば、関与した従業員の解雇だけでなく、経営陣の交代に繋がる可能性も。
幹部レベルの従業員がいなくなってしまうと、また一から経営幹部の組織体制を整える必要が出てきます。
幹部候補人材を見つけるのにはある程度の時間と費用がかかってしまい、その間経営が滞ってしまう可能性があります。
インサイダー取引規制の対象者
インサイダー取引規制の対象は、以下の通りです。
- 会社関係者
- 公開買付者等関係者
- 第一次情報受領者
会社関係者と公開買付者等関係者は該当者が多いので、以下の表にまとめておきます。
取引規制の対象 | 該当者 |
会社関係者 | ・上場会社等の役員、代理人、使用人、その他の従業者 ・上場会社等の議決権の3/100以上の株式を保有する株主など ・上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者 ・上場会社等の取引先やその役員など ・上記いずれかに該当しなくなってから1年以内の者(元会社関係者) |
公開買付者等関係者 | ・公開買付者等の役員、代理人、使用人、その他の従業者 ・公開買付者等の議決権の3/100以上の株式を保有する株主など ・公開買付者等に対する法令に基づく権限を有する者 ・公開買付者等の取引先やその役員など ・上記いずれかに該当しなくなってから6か月以内の者 |
第一次情報受領者とは、会社関係者又は公開買付者等関係者から、直接インサイダー取引規制の対象となる情報の伝達を受けた者を指します。
会社関係者や公開買付者等関係者の知人や親族が想定されます。
インサイダー取引において注意が必要なのが、第二次情報受領者以降は該当しないということです。
あまりインサイダー取引規制の範囲を制限してしまうと、投資家の行動を萎縮させてしまうためです。
インサイダー取引の対象となるインサイダー情報とは?
インサイダー取引かどうかの判断には、その情報が「重要事実」に当てはまるかどうかがポイントであり、重要事実に該当する情報を「インサイダー情報」と呼びます。
インサイダー情報にはいくつか種類があるので、以下の表を参考に確認してみてください。
インサイダー情報 (重要事実) |
特徴 | 該当する内容 |
決定事実 | 会社が「行うことを決定したこと」、または「行わないことを決定したこと」。 | 新株発行、資本金の減少、自己株式取得、株式分割、合併、剰余金の配当、事業譲渡、業務提携など |
発生事実 | 会社の意思なく起こってしまったこと。 | 災害による損失、主要株主の異動、上場廃止など |
決算情報 | 公表された直近の予想値と、新たな予想値との差異が生じた事実。 | 業績予想、経常利益・純利益・剰余金などの配当予想の修正など |
バスケット条項 | 決定事実、発生事実、決算情報に該当しないが、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの。 | 企業の運営、業務、財産に関する重要な事実 |
子会社を持っている場合、子会社についての重要事実もインサイダー取引の対象になるため、注意が必要です。
インサイダー取引規制に違反した場合の罰則は?
インサイダー取引を行った場合、具体的にどのような罰則が与えられるのでしょうか。
大きく分けると以下の2種類になります。
- 課徴金納付命令
- 刑事罰
課徴金納付命令
課徴金納付命令が金融庁から発せられた場合、制裁として課徴金を納付しなければなりません。
課徴金納付命令の対象となるのは、自分、または第一次情報受領者がインサイダー取引規制に違反する「売買等」を行ったときです。
誰が実際に売買等を行ったかで課徴金の額が異なります。
自らがインサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合、以下の金額が課徴金額となります。
インサイダー取引の内容 | 課徴金額 |
自己の計算による場合(※1) | 獲得した利益又は回避した損失の金額 |
他人の計算による場合(※2) | 投資運用業者であれば運用報酬の3倍、それ以外であれば受け取った対価相当額 |
※1:企業の内部情報を持っている個人または組織がその情報を利用して、取引きを自ら行う場合
※2:内部情報を持っている者が外部の他人にその情報を漏洩して、他人が取引きを行うことで利益を得る場合
第一次情報受領者が、インサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合は、以下の金額の支払いが課されます。
インサイダー取引の内容 | 課徴金額 |
情報伝達が、売買等の媒介・取次ぎ・代理業の一環として行われた場合 | 受け取った手数料等の3倍 |
情報伝達が、有価証券の募集・売出し等の取扱業の一環として行われた場合 | 受け取った手数料等の3倍(有価証券の引受けも行っている場合、引受対価の1/2を加算) |
それ以外の場合 | 第一次情報受領者が得た利得相当額の1/2 |
刑事罰
インサイダー取引を行った場合、以下の刑事罰が課される可能性があります。
インサイダー取引の内容 | 刑事罰 |
自らインサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合 | 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金 |
インサイダー情報を違法に伝達した先の他人が、インサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合 | 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金 |
法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が、上記のいずれかの罰則規定に該当する場合 | 法人にも5億円以下の罰金 |
インサイダー取引の事例
過去にも日本ではインサイダー取引が起きており、大きな問題となっています。
具体的な事例をみることで、インサイダー取引についての理解を深めましょう。
- 村上ファンド事件
- 経済産業省審議官のインサイダー取引事件
- ドン・キホーテ前社長のインサイダー取引事件
村上ファンド事件
国内で起きたインサイダー取引でもっとも有名と言っても過言ではない事件が村上ファンド事件です。
2006年、村上ファンドに属する村上世彰氏はニッポン放送の株式を大量に保有していました。
しかし、ある日堀江貴文氏が率いるライブドアがニッポン放送の株を大量購入するという情報をライブドアの従業員から公表前に聞き、ニッポン放送の株価高騰を知ったうえで株を売却しました。
この件で村上氏は起訴され、懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、加えて追徴金約11億4,900万円を課せられました。
また、村上ファンド中核のMACアセットマネジメントについては、罰金2億円が課せられました。
経済産業省審議官のインサイダー取引事件
2009年に経済産業省幹部が国内の半導体会社を利用してインサイダー取引を行いました。
公表前の半導体会社の合併計画や再建策をもとに、妻の証券口座を利用して株を購入後、株価上昇後に市場で株を売却し、約230万円の利益を得ました。
幹部に対して、懲役1年6か月、進行猶予3年、罰金100万円、追徴金約1,000万円が課されています。
ドン・キホーテ前社長のインサイダー取引事件
ドン・キホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の前社長である大原孝治氏は、ユニーファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)によるドン・キホーテの株のTOB実施をめぐって事件を起こしました。
TOB実施の公表前に、知人に利益を獲得させるために、自社株の購入を促しました。
本件では大原氏は経済的な利益を得ていませんが、取引推奨行為は違法に当たるということで、事件発生後の翌年2019年にグループ内の全役職から退くこととなりました。
インサイダー情報における「公表」の定義
インサイダー取引において、「公表」のタイミングも重要です。
公表が行われていれば、インサイダー情報に該当するような情報を利用して利益を得たとしても、何の問題もありません。
「公表」とは、以下のいずれかの措置がとられたことを意味します。
- 上場会社の代表取締役等またはそれに類する者が、重要事実について、定められている2つ以上の報道機関に公開してから、12時間以上の周知期間が経過すること
- 上場会社等が上場する金融商品取引所等に対して重要事実を通知し、金融商品取引所において内閣府令で定める電磁的方法により公衆の縦覧に供されること
- 重要事実に係る事項が記載された「有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、その他訂正報告書等」が公衆の縦覧に供されること
上記からもわかる通り、インサイダー情報に該当するような重要な情報は公開されてすぐ利用して良いわけではありません。
公表の定義を理解したうえで、慎重に取引きを行いましょう。
インサイダー取引を未然に防ぐ方法
インサイダー取引は全てのステークホルダーに大きな影響を与えます。
「悪気はないけど起こしてしまった」では済みません。
事前に対策を行うことで、インサイダー取引が生じる可能性を少しでも減らしておきましょう。
- 個人によるインサイダー取引の防止
- 組織によるインサイダー取引の防止
個人によるインサイダー取引の防止
従業員や役員といった個人が情報を漏洩することの対策として、まずは社員研修の実施が挙げられます。
社員研修によって、金融商品取引法のルールについて認識してもらい、インサイダー取引の回避意識を持ってもらいましょう。
また、会社の事前承認を必要とする旨の規定やインサイダー取引を行わないことについての誓約書の提出もおすすめです。
個人での株式取引によるインサイダー取引を未然に防止してくれます。
組織によるインサイダー取引の防止
従業員個人だけでなく、組織的な不正を防ぐことも大切です。
そのために、監査人を雇い、定期的な内部監査を実施することをおすすめします。
第三者による公正的な監査は、インサイダー取引の防止に大きく役立つでしょう。
匿名通報制度を導入することも、組織的な不正を告発するハードルを下げることができるため、インサイダー取引の未然防止策になります。
健全な経営を常に意識しましょう
インサイダー取引は全て「情報」をもとに行われます。
規模が大きな企業になればなるほど、会社を経営するうえで取り扱う情報の量は多くなり、周囲に与える影響が大きくなっていきます。
重要な情報が流出してしまえば、会社がなくなってしまうかもしれないという危機感を持つことが重要です。
徹底的な情報管理をすることで、会社の未来を守りましょう。
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