代表取締役の経営に頭を悩ませる経営幹部や従業員も少なくないでしょう。
代表取締役にその座を降りてもらうための手法の1つが「代表取締役の解任」です。
ただし、代表取締役を解任させるまでの手続きは煩雑で、入念な準備をしておかないと失敗に終わってしまいます。
本記事では、代表取締役の解任の具体的な方法や流れだけでなく、解任を成功させるために押さえておくべきポイントを詳しく解説いたします。
解任と解職の違い
従業員が代表取締役を交代させる方法として、代表取締役の「解任」と「解職」の2つがあります。
この2つの方法は混同されやすいため、本章で違いを理解しておきましょう。
代表取締役の「解職」は、代表取締役の代表権のみを失わせ、役のない平取締役の地位に降格させることを指します。
一方、代表取締役の「解任」では、代表取締役の代表権とともに取締役の地位も失わせることができます。
つまり、解任と解職では代表取締役が取締役としての地位を失うか否かが異なるということです。
本記事では、代表取締役から取締役の地位までも失わせる解任について解説していきます。
代表取締役を解任させる2つの方法
代表取締役を解任させる方法は以下の2つです。
- 株主総会の普通決議によって解任する
- 裁判所に解任の訴えを提訴する
一般的には、「株主総会の普通決議によって解任する」方法が用いられることが多いため、まずはこちらの手法について説明していきます。
株主総会の普通決議による解任の流れ
株主総会の普通決議による解任は、以下の4工程で行われます。
- 取締役会を招集する
- 取締役会を開き、臨時株主総会の開催を決議する
- 臨時株主総会を招集する
- 臨時株主総会を開き、代表取締役の解任の決議をする
1.取締役会を招集する
代表取締役を解任するためには、株主総会で「解任の決議」を成立させることがゴールとなります。
臨時株主総会を開催するために、まずは取締役会を招集しましょう。
取締役であれば誰でも招集できるため、まずは招集手続きを行う取締役を決定します。
ただし、定款で取締役会を招集する取締役が定められている場合は、定款に従いましょう。
招集通知には取締役会の開催日時と場所を記載し、原則として、取締役会を開催する日の1週間前までに解任の対象となる代表取締役を含んだ取締役全員に招集通知を発送してください。
招集通知を送った証拠が残るように、メールや手紙で発送することをおすすめします。
2.取締役会を開き、臨時株主総会の開催を決議する
招集が終わったら、取締役会を開き、臨時株主総会の開催を決議しなければいけません。
まず、出席している取締役が定足数に達しているかどうかを確認します。
取締役会に出席する取締役の人数が定足数に足りていない場合、取締役会は成立しません。
会社法上、取締役会の定足数は議決に加わることのできる取締役の過半数と定義されています。
過半数という定義が少しわかりにくいという方は、以下の例を参考にしてください。
取締役が4人の場合:定足数は半数(2人)より多い人数であるため、過半数は3人以上
オンラインでの参加が、出席として認められる点にも注意しましょう。
定足数以上の取締役が出席していることを確認できたら、臨時株主総会の開催を決議します。
出席者の過半数の賛成があれば、決議は成立します。
取締役会に欠席した取締役は、数に含めないように注意しましょう。
決議の成立後、取締役会議事録を作成します。
取締役会議事録は、代表取締役の解任をするうえで、会社法に基づいた瑕疵の無い手続きを行った証拠になるため、正確、かつ迅速に作成しましょう。
3.臨時株主総会を招集する
臨時株主総会の招集については、取締役会の招集と似た工程が多いです。
招集自体はどの取締役が行っても構いませんが、定款に招集する取締役が定められている場合は定款に従います。
原則として、株主総会開催日の2週間前までに、書面による招集通知の送付を行ってください。
4.臨時株主総会を開き、取締役の解任の決議をする
取締役会同様、臨時株主総会の開催にも定足数があります。
しかし、取締役会とは異なり、株主総会の定足数は、原則として、「議決権を行使できる株主の議決権の過半数」です。
例えば、株主が3人(A、B、C)がいて、株主Aの議決権が100個、株主Bの議決権が300個、株主Cの議決権が600個だとします。
すると株主の議決権は全部で1,000個となり、過半数は501個です。
そのため、株主Cが欠席した場合、株主AとBの議決権の合計は400個なので、株主総会は成立しません。
出席している株主の人数が過半数を超えていても、議決権が足りていないと株主総会を開催できない点に注意してください。
株主総会が開催できることを確認したら、株主総会で代表取締役の解任を決議します。
決議には「株主総会に出席した株主の議決権の過半数の賛成」が必要です。
議決権の過半数を超えた賛成が確認できたら、解任の決議は成立となります。
決議成立後は株主総会議事録を作成してください。
以上が、株主総会の普通決議による解任の流れです。
裁判所に解任の訴えを提訴するケースとは?
代表取締役を解任するためのもう1つの方法が、「株主によって裁判所に代表取締役の解任の訴えを起こす」というものです。
代表取締役の職務執行について、不正行為や、法令や定款を違反する行為があったにもかかわらず、代表取締役の解任議案が株主総会で否決される場合があります。
そこで、総議決権又は発行済株式総数の3%以上にあたる株式を、訴えを提起する6か月前から保有している株主に対して、裁判所に対して訴えを起こす権利が与えられています。(非公開会社の場合、6か月前からの株式保有は不要です。)
裁判で株主が勝利すれば、代表取締役を解任することが可能です。
ただし、この方法による解任の場合、代表取締役だけでなく、会社も被告として裁判に対応しなければならない点は覚えておきましょう。
代表取締役を解任するための事前準備
代表取締役の解任を成功させるためには、事前準備が必要不可欠です。
以下の2点のポイントは押さえておきましょう。
- 賛成派の取締役や株主とコンタクトをとる
- 解任に「正当な理由」があるかどうか確認しておく
賛成派の取締役や株主とコンタクトをとる
解任に対して賛成を示してくれている取締役や、株主と事前にコンタクトをとっておきましょう。
前述の通り、代表取締役を解任するためには一定数の賛成が必要です。
取締役会や株主総会を開いても決議が成立しなければ、せっかくかけた費用や時間が無駄になってしまいます。
早めに連絡をとっておき、賛成派の人数をある程度確保しておきましょう。
賛成派の人数が確保できたら、取締役会や株主総会のリハーサルを行い、当日の流れを把握しておいてもらうことも大切です。
代表取締役本人や反対派の人に悟られないように動くようにしましょう。
解任に「正当な理由」があるかどうか確認しておく
代表取締役の解任を求める際に正当な理由がない場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
東京地裁は、代表取締役について以下のようなケースに該当する場合、解任が正当だと認められると言及しています。
- 職務執行上の法令・定款違反行為
- 心身の故障
- 職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)
一方、以下のような理由は正当な理由とは認められにくいです。
- 単に従業員と代表の折り合いが悪くなった
- 株主との信頼関係を喪失した
- 経営判断上の単純なミスや失敗があった
正当な理由については明確な定義が存在しないため、一概にこのケースは認められるというものはありません。
自社のケースが正当な理由として認められるのかわからないという方は、弁護士に相談してみる、または、地方裁判所の過去の事例を参考に見ておくと良いでしょう。
代表取締役解任後に行うこと
代表取締役解任前の準備も大切ですが、解任後にも行うことがいくつかあります。
- 代表取締役の解任を登記する
- 解任した代表取締役に解任通知を送る
- 解任した代表取締役に退職金を支払う
代表取締役の解任を登記する
解任の決議から2週間以内に登記変更を行う必要があります。
なるべく早く登記変更を行わないと、代表取締役の解任が否定されてしまう恐れが出てきてしまいます。
法務局に登記申請書を迅速に提出しましょう。
登記申請書のフォーマットは法務局のWebサイトを参考にしてみてください。
登記申請書を提出する際、株主総会議事録と株主リスト、弁護士や司法書士といった代理人に手続きを依頼した場合は委任状も合わせて法務局に提出しなければなりません。
解任した代表取締役に解任通知を送る
代表取締役を解任した旨を通知する解任通知を代表取締役に送付しましょう。
法律上、解任通知の送付は義務ではありませんが、解任の決議に代表が欠席していた場合、解任の事実を知らない可能性が出てきます。
解任通知を送ることで、当該取締役が引続き代表取締役として行動するリスクを避けることができます。
証拠が残る書面やメールの形で送付すると良いでしょう。
解任した代表取締役に退職金を支払う
代表取締役の退職金の支払いが株主総会決議で承認されている場合、退職金の支払いをする必要があります。
承認していない場合は支払いは不要なので、会社側から働きかけることは何もありません。
予想される代表取締役の動きとは?
解任されるとわかった代表取締役は黙ってはいません。
考えられる代表取締役の動きを事前に把握しておくことで、対策を打ちましょう。
予想される動きは以下の通りです。
- 取締役会や株主総会での多数派工作
- 損害賠償請求
取締役会や株主総会での多数派工作
解任されそうな代表取締役は、取締役や株主に対して決議に賛成しないように多数派工作を試みるでしょう。
代表取締役の多数派工作に対しては、解任手続きを悟られないことが一番の対策になります。
以下のような方法がおすすめです。
- 取締役会の招集通知に議題を記載しない(株主総会の招集通知には、議題を記載する必要があります。)
- 代表取締役よりも先に過半数の議決権について委任状を集める
場合によっては、取締役会や株主総会の決議について拒否権を行使できる拒否権付き株式(黄金株)を持っている株主が存在します。
黄金株主に決議を反対されてしまうと解任が不成立となってしまうため、黄金株主を味方につけておくことも忘れてはいけません。
損害賠償請求
前述の通り、代表取締役の解任について正当な理由が無かった場合、損害賠償請求を受けてしまう可能性があります。
請求額は
- 解任した代表取締役の残りの任期分の役員報酬
- 解任した代表取締役が任期満了まで務めたと仮定した場合の退職金
の合計となり、高額な賠償額になる恐れも。
解任を考えているのであれば、正当な理由とともに、会社や従業員への実害が生じたことを示す証拠の収集と、代表取締役の主張に対する反論をしっかり準備しておきましょう。
代表取締役とトラブルを起こさないためには?
「代表取締役を解任したいけれど、トラブルは起こしたくない」という方は以下の2つの選択肢を検討してみましょう。
- 代表取締役の任期満了を待つ
- 代表取締役の辞任を促す
任期満了を待ち、再任しないという手段をとれば、会社が損害賠償請求を負うことはありません。
代表取締役本人が辞任の意思を示しさえすれば、解任の手続きは不要です。
いきなり解任に向けて動き出すのではなく、代表が自発的に辞任するように働きかけられないかも検討してみてください。
代表取締役の解任を検討の際は事業承継M&Aパートナーズにご相談を
代表取締役を解任するというのは、多大な労力を要します。
少しでもミスがあればトラブルに発展する可能性が大いにあり、慎重に進めなければなりません。
本記事で紹介したポイントを押さえ、入念な準備を行い、代表取締役の解任を成功させましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは、会社の代表を変更する際に必要な後継者選びや定款変更などのサポートを行っております。
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