会社の経営をしていれば、事業が行き詰ったり、後継者不在などを理由に解散や清算を余儀なくされることもあるでしょう。
しかし、解散や清算のプロセスには、知っておかなければいけない税金事情が沢山あり、適切に対処しないと予期せぬトラブルに見舞われることもあります。
本記事では、会社の解散・清算時に必要な手続きと、具体的にかかる税金について詳しく解説します。
会社の解散や清算を検討している方、または既にその手続きを進めている方は、ぜひご一読ください。
そもそも、「清算とは?廃業や解散との違いは何?」という方は下記の記事をご確認ください。
具体的な清算のプロセスや必要な手続きについて解説しています。
廃業と清算、倒産、破産、解散などの違いは?意味や手続きの流れも解説
近年、経営者の高齢化と後継者不在の状況が原因でより一層件数が増えている「廃業」。 帝国データバンクの調査でも、…
会社解散・清算時にかかる税金の種類
会社の解散・清算時にはさまざまな税金が発生してきます。
通常の会社運営では発生しない株主との金銭のやりとり等が発生することで、通常とは異なる税金の知識が必要になります。
また、会社の解散・清算を検討する会社では売上が発生しないことも多いため、税金は必要ではないと思われる方も多いですが、通常通り税金の計算が必要です。
以下、解散・清算時における税金について詳しく見ていきましょう。
- 法人税・地方税
- 消費税
- 所得税・源泉徴収税
- 固定資産税
- その他の税金(登録免許税など)
法人税・地方税
会社が解散する際には、通常の事業年度と同様に法人税・地方税の申告が必要です。
解散事業年度は、解散の日の属する事業年度開始の日から解散の日までの期間が一つの事業年度となります。
この期間中に利益が発生していれば、通常通り法人税の申告手続きが必要です。
また、解散の日の翌日から清算事務年度となり、残余財産が確定するまでの期間、1年ごとに税務申告が必要です。
清算事業年度中に収入が発生した場合、その収入に対しても法人税が課されます。
例えば、清算期間中に不動産や設備を簿価以上の価格で売却した場合、その売却益に法人税がかかります。
消費税
消費税も法人税同様、解散事業年度及び清算事業年度において課税事業者に該当する場合、消費税の申告・納税が必要です。
解散期間中・清算期間中に発生する売上に対して消費税が課税されるので注意が必要です。
例えば、建物や設備の売却は消費税の課税対象となります。
注意が必要なのは、土地の売却は非課税である一方で、建物の売却は課税対象となる点です。
清算時には建物や設備を売却する場合がほとんどですが、消費税の納税義務が発生するということをしっかり覚えておきましょう。
所得税・源泉徴収税
会社の解散・清算後に残った「残余財産」を個人株主に分配する際には、所得税が発生する場合があります。
具体的には、清算法人の資本金等の額を超える部分の金額で残余財産が分配される場合は、その部分については、剰余金の配当とみなされ(みなし配当)、配当所得として総合課税の対象となり、配当控除が適用されます。
また、配当の支払額は、清算法人で源泉徴収が行われ、残りが株主に支払われるという形です。
現行の税法では、上場株式の税率は15.315%、非上場株式や大口株主の場合は20.42%の源泉所得税※が徴収されます。(※2024年6月時点)
今回は、株式の譲渡損益に関する論点は省略します。
固定資産税
解散・清算する年度において、会社が保有する不動産などの固定資産には、通常通り固定資産税が課されます。
解散・清算の過程では、不動産を売却する場合も多いですが、固定資産税はその年の1月1日に所有者として、固定資産課税台帳に登録されている方が納めなくてはならない税金です。
通例では、売買契約を結ぶときに、日割りで売主と買主で税額を按分しますが、あくまでも納税義務者は売主であることは変わらないため、注意しましょう。
その他の税金(登録免許税など)
会社解散・清算手続きには、登録免許税などの費用もかかります。
例えば、解散及び清算人選任の登記や清算結了登記を行う際には、それぞれ39,000円と2,000円の登録免許税が必要です。
また、税金ではありませんが、債権者への催告を行うために官報公告を掲載する場合、その費用も発生します。
その他、必要書類の発行費用や専門家への依頼費用も考慮しておきましょう。
残余財産の分配と税金
所得税・源泉徴収税の項目で簡単に残余財産についてご説明しましたが、会社の清算時には、余ったお金や資産の分配と税金についてが争点になることが多いです。
そのため、ここからはより詳しく、残余財産の扱いについて解説していきます。
残余財産の確定と分配手続き
解散と清算の手続きが進む中で、債務の整理が完了した後、会社に残る財産を「残余財産」と呼びます。
残余財産は以下の手順で分配されます。
- 株式会社の解散の決定
- 清算人の就任・選任
- 財産目録及び貸借対照表の作成
- 清算人による現務の結了
- 債権者保護手続き
- 債権の取立てと債務の弁済
- 分配可能財産の確定分配
①株式会社の解散の決定
一定の事由が生じた事により、株式会社は解散をします。
株式会社は、株主総会の特別決議によりいつでも解散することができます。
②清算人の就任・選任
清算をする株式会社の清算人には、定款で定める者又は株主総会の決議によって選任された者がある場合を除いて、取締役が就任します。
③財産目録及び貸借対照表の作成
就任・選任した清算人は、すみやかに解散前の業務を終わらせる必要があります。
具体的には、取引先との取引を解約したり、会社の資産を換価したり、従業員との労働契約を解消したりすることです。
④清算人による現務の結了
解散後、清算期間における所得についても税務申告が必要です。
清算事業年度の確定申告は、清算が完了するまでの期間にわたって行われます。
⑤債権者保護手続き
株式会社の解散の決定された場合、債権者に対して、債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、個別に催告をしなければなりません。
⑥債権の取立てと債務の弁済
清算人は会社の未収債権を取り立て、債務を弁済します。
債権の取り立てが完了した後、会社の負債を全て支払い、債権者への義務を果たします。
⑦分配可能財産の確定分配
全ての債務支払いが完了した後、残った財産を分配可能な財産として確定します。
①残余財産の種類、②株主に対する残余財産の割り当てに関する事項を清算人の決定によって定めます。
現金だけでなく、会社の資産(不動産や株式など)も分配対象となります。
上記決定内容に従って、実際の株主に対し残余財産を分配します。
残余財産分配に関する注意点
残余財産を分配する際は、会社法や税法に基づく適切な手続きを遵守するようにしましょう。
株主総会での決議や法務局への登記手続きなど、法的な要件を満たすことが重要です。
解散時、清算時、残余財産確定時の税務申告の処理や税金の未納があると、追徴課税が課されることもあります。
十分に税務的なリスクがあることを把握しておきましょう。
不安な場合は、税理士などの専門家を活用し、適切なアドバイスを受けるようにしてください。
複雑な手続きをスムーズに進め、リスクを最小限に抑えることができます。
税金の節税方法とポイント
どんな経営者の方でも、出ていくお金は抑えたいと考えるものです。
会社の解散・清算時には、様々な税金が発生しますが、適切な節税対策を講じることで税負担を軽減することが可能です。
ここからは、主要な節税方法とそのポイントについて解説します。
これらの対策を活用することで、会社解散・清算時の税金を最小限に抑えることができます。
役員退職慰労金の活用
節税方法の一つとして、役員退職慰労金の活用があります。
個人株主が残余財産の分配により金銭等の交付を受けた場合、清算法人の資本金等の額を超える部分についてはみなし配当として総合課税の対象となりますが、役員退職慰労金を支給することにより、税率の差を利用した節税を行うことが可能です。
ただし、高額すぎる退職慰労金は不当な節税とみなされる可能性があるため、適正な範囲内で設定しなければなりません。
欠損金の繰戻し還付の請求
中小企業の場合、欠損金の繰戻し還付を請求することができます。
これは、青色申告書を提出する中小企業者が、ある事業年度で生じた欠損金を前事業年度に繰り戻して法人税の還付を受ける制度です。
この制度を活用することで、解散・清算時に赤字が出ている場合、前期に納税した法人税の全部または一部の還付を請求することができ、税負担を軽減することができます。
ただし、資本金が1億円を超える法人や特定の条件に該当する法人は対象外となります。
その他の節税対策と注意点
その他の節税対策として、期限切れ欠損金の利用や、簡易課税制度の活用などがあげられます。
税務にあまり明るくない方にとっては耳慣れないものが多く、利用するハードルが高いと感じる方も多いため、詳しくは、税理士や公認会計士と相談することをおすすめします。
解散・清算時の税金の基本を抑えよう
会社の解散・清算に関する、税金に関してここまで詳しく解説しましたが、基本的な原則を理解すれば、そこまで難しいことではありません。
ポイントは、解散・清算時も通常どおり確定申告が必要な点と、残余財産に関しては、資本金を超える部分は課税対象になるということです。
正しい知識を得た上で、適切な税務処理を行うようにしましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは、税務や事業承継、M&Aに精通した専門のコンサルタントが多数在籍しているので、何かお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
初回相談は無料です。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。