不採算事業の整理や事業の選択と集中を図るため、M&Aの手法の1つである事業譲渡を活用する企業が増えています。
しかし、事業譲渡は取締役の決断だけで実行できるわけではなく、株主総会を開催して株主の賛同を得なければなりません。

本記事では、事業譲渡で株主総会が必要になる条件や開催の流れ、注意点などを詳しく解説します。

  1. 事業譲渡では株主総会の特別決議が必要
  2. 事業譲渡で株主総会が必要になる条件
  3. 事業譲渡で株主総会が不要になる条件
  4. 株主が1人の場合はどうする?
  5. 株主総会が必要なのに開催しないとどうなる?
  6. 事業譲渡における株主総会の開催の流れ
  7. 株主総会の議事録に記録する内容
  8. 専門家協力のもと事業譲渡を進めましょう

事業譲渡では株主総会の特別決議が必要

冒頭でも述べた通り、事業譲渡において事業の一部または全部を他社へ譲渡する場合、原則として株主総会を開催して株主から賛同を得る必要があります。
株主総会には、普通決議・特別決議・特殊決議の3つの決議方法があり、事業譲渡の場合は特別決議をとらなければなりません。

特別決議とは、通常の議案よりも重要度が高く、株主に及ぼす影響が大きい事項について決議を採る場合に用いられる決議方法です。
定款の定めがある場合を除き、議決権を行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成をもって決議されます。

ただし、全ての事業譲渡において株主総会が必要になるわけではありません。
例外的に株主総会の開催が不要となる事業譲渡もありますので、詳しくは後ほど解説します。

なお、特別決議について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

M&Aに必要な株主総会の特別決議とは?決議事項や要件など詳しく解説

会社の重要事項を決定する場である株主総会ですが、決議事項によって決議方法がそれぞれ分かれています。 その中の1…

事業譲渡で株主総会が必要になる条件

事業譲渡で株主総会が必要になるのは、譲渡側の企業だけではありません。
譲渡側と譲受側、それぞれの立場で株主総会が必要になる条件を解説します。

譲渡側企業の場合

譲渡側の企業が事業譲渡で株主総会を開催しなければならないのは、主に以下の3つのケースです。

  • 事業の全部を譲渡する場合
  • 事業の重要な一部を譲渡する場合
  • 子会社の株式を譲渡する場合

事業譲渡では、事業の一部または全部を譲渡することが可能です。
しかし、全ての事業を譲渡する場合は株主総会を開催しなければなりません。

一部だけを譲渡する場合でも、その対象事業が会社において重要な事業であれば株主総会を開催する必要があります。
重要な事業とは、従業員数や売上などの量的な面と、ブランド力やイメージなどの質的な面から判断されます。

いずれの場合も会社や株主に与える影響が多大なので、株主総会で賛同を得なければ実行できないと会社法で定められています。

また、事業譲渡によって子会社の株式を譲渡し、それによって議決権が過半数に満たなくなる場合も、株主総会を開催しなければなりません。
議決権の過半数に満たなくなるということは、支配関係が解消され、子会社ではなくなってしまうということです。

子会社との支配関係を解消するということは、子会社の事業を譲渡したのと実質的に同様の影響があるため、平成26年改正により、事業譲渡と同様の規律が設けられました。

譲受側企業の場合

事業譲渡で他社の事業を譲り受ける場合、以下のケースでは株主総会を開催する必要があります。

  • 事業の全部を譲受する場合
  • 一定数以上の株主が反対した場合

規模に関わらず、他社の事業の全部を譲受する場合は株主総会が必要です。
一部の事業を譲受する場合、原則として譲受側企業は株主総会の開催は必要ありません。

しかし、一定数の株主が反対した場合は一部の事業を譲受する場合でも株主総会を開催しなければなりません。
一定数の株主とは、原則として、総株主の議決権の1/6超を有する株主のことを指します。

事業譲渡で株主総会が不要になる条件

全ての事業譲渡において株主総会が必要になるわけでなないので、譲渡側・譲受側のそれぞれの立場で株主総会が不要になる条件を解説します。

譲渡側企業の場合

譲渡側企業は、原則として株主総会の開催が必要になりますが、例外として以下のケースでは株主総会が必要ありません。

  • 譲渡する資産が少ない場合
  • 譲渡先が特別支配会社の場合

事業譲渡によって譲渡する資産が総資産の1/5以下の場合、株主総会は不要です。
譲渡資産の価額は、時価ではなく簿価で算出します。

また、譲渡先企業が特別支配会社の場合、「略式事業譲渡等」に該当するため株主総会は必要ありません。
特別支配会社とは、株式の90%以上を保有している親会社のことです。

譲受側企業の場合

譲受側の企業の場合、基本的には株主総会が必要になる条件に該当していない場合、株主総会を開催する必要がありません。
そのため、事業の一部を譲受するときや、事業の全部を譲受する場合で交付する対価が純資産の1/5以下のときは、株主総会が不要です。

ただし、後者の場合において一定数の株主(原則として、総株主の議決権の1/6超を有する株主)が反対したときは、株主総会の特別決議が必要であることを覚えておきましょう。

株主が1人の場合はどうする?

多くの中小企業では複数の株主が存在せず、経営者が自社株式を100%保有しているというケースも多いでしょう。
そのような場合、「みなし決議・報告」という制度を利用して、書面上で形式的な株主総会を開催します。

通常、株主総会を開催する場合は、「株主招集通知」「株主総会の開催」「株主総会の報告」が必要ですが、これらを省略することができます。
つまり、議事録を作成して保存しておくことで、法的な要件を満たすことが可能なのです。

株主が複数いる場合でも、株主が少数だったり株主との関係が良好だったりして、事前に株主全員の同意がある場合も同様に、実質的な株主総会を省略することができます。

株主総会が必要なのに開催しないとどうなる?

株主総会の開催が必要な条件に該当する事業譲渡の際に、株主総会を開催しなかった場合、その事業譲渡が正しい手順を踏んでいないとして事業譲渡が無効になるリスクがあります。
事業譲渡が無効になってしまうと、譲渡先との契約が無効化されるだけでなく、信用の失墜、さらには損害賠償請求が起きるかもしれません。

取締役が株主総会の開催義務を怠った場合、任務懈怠責任が問われる可能性があり、多額の損害賠償責任を負うリスクがあります。
任務懈怠責任とは、会社役員が職務を適切に遂行しなかったために会社や株主に損害が生じた際、損害賠償の責任を負うことです。

周囲へ多大な影響を及ぼすだけでなく、自社にとっても大きなリスクを負うことになるので、株主総会が必要なケースでは必ず開催しましょう。

事業譲渡における株主総会の開催の流れ

事業譲渡における株主総会は、以下の流れで開催します。

  1. 取締役会で決議をとる
  2. 事業譲渡契約を締結する
  3. 公正取引委員会へ届出を提出する
  4. 株主へ通知または公告する
  5. 株主総会で特別決議をとる
  6. 株主総会の議事録を作成する

取締役会で決議をとる

取締役会を設置している会社では、取締役会を開催して事業譲渡を決定する決議を採ります。
取締役会を設置していない会社で取締役が2人以上いる場合、過半数の賛成で決定することが可能です。

事業譲渡契約を締結する

取締役会で決議が完了したら、譲渡側と譲受側で事業譲渡契約を締結します。
事業譲渡契約だけでは効力が発生せず、所定の手続きや期間を経た後に効力を発揮します。

公正取引委員会へ届出をする

一定の規模がある会社の場合、独占禁止法に基づき公正取引委員会への届出が必要です。
届出書には取引の詳細、関係企業の財務情報、市場への影響などの情報を記載します。

届出を受理してから30日間の審査期間を経て、審査が通ってから事業譲渡が可能になります。

株主へ通知または公告する

事業譲渡契約の効力が発生する20日前までに、株主等へ事業譲渡する旨を通知または公告する必要があります。

株主総会で特別決議をとる

株主総会が必要な場合は、株主を招集して株主総会を開催します。
特別決議を採り、可決されれば事業譲渡を実行することが可能です。

株主総会の議事録を作成する

株主総会では、議事録を作成して保存しておくことが会社法で定められています。
株主総会を開催した日から10年間保存しなければなりません。

議事録に記録しなければならない内容も定められていますので、次章で詳しく解説します。

株主総会の議事録に記録する内容

会社法では、株主総会の議事録には以下の内容を記載していかなければならないと定められています。

  • 開催日時
  • 開催場所
  • 議長および議事録作成者の氏名
  • 出席株主の氏名および出席株数
  • 議案の内容と採決の結果
  • 総会で述べられた内容の要約

上記のような内容を、できるだけ具体的に正確に記録しなければなりません。
事業譲渡における株主総会は通常の株主総会とは内容が違うので、議事録には事業譲渡契約書を添付するのが一般的です。

議事録は株主総会が終了した直後に作成し、株主だけでなく債権者などの第三者から閲覧を要求された際は応じなければなりません。

専門家協力のもと事業譲渡を進めましょう

事業譲渡における株主総会の開催について、詳しく解説しました。

譲渡側企業は基本的に株主総会を開催して特別決議を採る必要がありますが、譲渡する資産が少ない場合や特別支配関係会社に譲渡する場合は不要になります。
譲受側としては、基本的には株主総会を開く必要がなく、事業の全部を譲受する場合や一定数の株主が反対した場合は、例外として株主総会を開催しなければなりません。

株主総会が必要なのにも関わらず開催しなかった場合は、事業譲渡が無効となり、信用の失墜や損害賠償請求などの大きなリスクを負うことになります。
このようなリスクを極力避けるためにも、事業譲渡やM&Aは専門家へ協力を依頼して手続きを進めることをおすすめします。

事業承継M&Aパートナーズでは、事業譲渡をはじめ様々な事業承継・M&Aの手続きをサポートいたします。
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