デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資や不動産売買、M&Aにおいて買収先の価値を測り、リスクがないかを調査することです。DDと略されることもあります。
日本語に訳すと「適当な(相当な)調査」です。
本記事では、主にM&Aにおけるデューデリジェンスについて解説します。
M&Aにおけるデューデリジェンスとは?
譲受(買い手)企業が、候補である譲渡(売り手)企業に対し、経営や財務、法務上のリスクがないかあらゆる観点から調査を行い、企業価値を測るものです。
M&A規模が小さい場合も、デューデリジェンスは実施されます。
デューデリジェンスの目的
改めてデューデリジェンスの目的は以下の通りです。
- リスク抽出
- 買収金額の妥当性
- M&A後のシナジー効果
デューデリジェンスは、M&Aにおける譲受企業と譲渡企業の情報の差を埋めていく重要な調査です。
企業価値を計り、買収金額の妥当性を確認することはもちろん、重大なリスクが隠れていないかを調査します。
明るみに出ていない多額の負債を抱えていた場合、買収金額以上の負担を抱えるリスクも潜んでいます。
財務や事業に関するリスクだけではありません。
労務やその会社が持っているITシステムに関すること、環境問題との関わりにもリスクは潜んでいます。それらがいずれ大きな負債とならないようにしっかり調査しておくべきでしょう。
また、統合後にシナジー効果を最大限発揮するための調査といった側面もあります。
M&Aにおけるデューデリジェンスはどのタイミングで行われる?
解説にあたって、まずはM&Aの流れを見ていきます。
一般的なM&Aの流れ
- 【STEP.1】目的や方向性を明確にする
- 【STEP.2】仲介会社や専門機関、専門家へ相談
- 【STEP.3】交渉をはじめる
- 【STEP.4】基本合意の締結を行う
- 【STEP.5】デューデリジェンスの実施
- 【STEP.6】最終条件の交渉、最終契約の締結
上記の通り、デューデリジェンスは基本合意の後に行われるため、最終交渉前の重要なファクターとなります。
ここで譲渡企業に重大な問題や瑕疵があった場合は、ディールブレイク(※)してしまう可能性もあります。
M&Aにおいては、取引の途中で、なんらかの要因によって取引を中止することを指します。
M&Aにおけるデューデリジェンスの種類は?
細分化するとさまざまですが、主たる種類をご紹介します。
事業デューデリジェンス
経営や事業、将来的なキャッシュフローなど、多岐にわたって詳細に調査します。
事業デューデリジェンスで得られた情報を、財務デューデリジェンスや他の分野のデューデリジェンスに活かすこともあります。
また、買収後の事業計画にも必要と言えるでしょう。
以下は、分析例です。
外部環境分析
企業を取り巻く様々な外部的要因を調査することを言います。
外部環境分析は、企業がコントロールできない領域を指します。内容は以下の通りです。
- 法律改正や規制など【政治的要因】
- 人口増減や教育の変革など【社会的要因】
- 技術の革新や新技術の誕生など【技術的要因】
- 景気動向、それに伴う金利、物価、雇用問題など【経済的要因】
内部環境分析
企業の経営資源の分析です。
経営資源とは、ヒト・モノ・カネ・サービス・ノウハウなどさまざまです。
競合に対し、どこか差別化できているのか、何が脅威なのかを細かく分析し、企業が扱う事業の分析を行います。
マーケット分析
ビジネスやサービス、商品が業界やマーケットの中でどの立ち位置にいるのか、商品力やサービス力について分析します。
さまざまな観点からマーケット分析を行い、今後の利益の見通しや将来性について確認します。
他にもマーケティングの観点から細かく洗い出しを行い、M&A後のシナジー効果や、割くべきリソースなどを検討・算出します。
財務デューデリジェンス
重要度が高いとされているのが、財務デューデリジェンスです。
名前の通り、財務・会計に対して行う調査と評価を指します。
調査例は以下の通りです。
- 過去、現在の財政状況
- 実態純資産
- 損益状況の推移
- 資金状況
財務デューデリジェンスと会計監査は何が違う?
財務デューデリジェンスとよく比較される会計監査ですが、これは全く別物です。
会計監査
会計監査とは、上場企業が開示する決算書や会計情報が適切かを調査することです。
会計監査の目的は「資本主義市場の発展」です。
投資家は会計情報を基に投資を行うため、これに誤りがあってはいけません。
上場企業は、会計監査を受ける義務があります。この会計監査がなければ、投資家は株式投資を安心して行えないからです。
会計監査は、手続き・基準共に法律で定められています。これに則り、会計監査は行われます。
会計監査に対し財務デューデリジェンスとは
財務デューデリジェンスは、私的な調査です。
組織や個人の要望によって行われるため、決まった基準やひな形はありません。
デューデリジェンスの依頼人(この場合、譲受企業)のニーズによって異なります。
税務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスと同じ印象を受けますが、こちらは譲渡企業が過去に申告漏れや税務処理に誤りがないかを調査することです。
財務におけるリスクは
- 法人税
- 事業税
- 消費税
- 事業所税
- 償却資産税
など、多くの税目に潜んでいます。
譲受企業として最も避けたいリスクは、譲受後に発覚した場合、譲受企業に支払い義務が発生してしまうケースです。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、主に法令違反などがないかを調査します。
法律・契約に関する事項、過去の裁判や紛争に関する事項などです。
業務に対し、法令を遵守しているかはもちろん、会社法や労働に関する法令についても調査されます。
他には下請法(下請代金支払遅延等防止法)や個人情報保護法なども確認します。
労務デューデリジェンス
近年、重視されているのが労務に関するリスクです。
「ブラック企業」「働き方改革」と言った言葉がメディアでも良く見聞きするようになりました。
働き手は企業にとって最も大事な財産です。
労務トラブルが多いと将来的に大きな損害を被る可能性や、企業価値を下げてしまうこともあります。
調査例は以下の通りです。
- 残業代の未払い
- セクハラ、パワハラなどの過去事例
- 元従業員による損害賠償請求がないか
- 長時間労働、サービス残業のまん延
例えば労務に関して過去に隠ぺいの事実があった・不当解雇や配置転換などがある場合、後々の損害賠償請求のリスクも孕んでいます。
最近は法令を遵守していない企業がSNSやインターネットの書き込みで炎上するケースも珍しくありません。
その時に大きな問題となっていなくとも、細かに過去の労務トラブルについて調査し、リスクについて把握しておく必要があります。
環境デューデリジェンス
土壌汚染や地下水汚染など、環境に対するリスクを調査します。
今後のリスクがないかなども重要なポイントとなっています。
土壌汚染や地下水汚染などは浄化するのに膨大な費用がかかるため、大きな損害を被る可能性が高いとされています。
地域住民からの訴訟問題に発展すると金銭的な面ではなく、企業価値を大きく損なうことも。
環境デューデリジェンスは製造業を主としている企業や工場を有している企業に対しては、かなり重要度が高いとされています。
また、環境に対して重大な法令違反を犯した場合は業務命令などにより工場や現場の操業が強制的に停止されるケースもあります。
ITデューデリジェンス
対象企業の持つITやシステム環境を監査、調査することです。
保有しているITシステムの保守、運用状況に加え、ITの統制状況や投資状況を調査することで、M&A後に想定外のITコストが発生するリスクを回避し、ITシステムの統合を行う上での課題を抽出します。
M&Aにおけるデューデリジェンスの進め方と流れ
では、実際にデューデリジェンスがどのように進められるかを解説します。
デューデリジェンスのポイントは?
デューデリジェンスは、基本的に譲受企業が行うため、譲受企業視点の記載となります。
- 対象企業を本当に買収して良いのか? という最終確認
- 買収価格の妥当性
- 取引条件の妥当性
- 買収前・買収後の対応すべきことの確認
これらを確実に行うためのオペレーション例を次章で確認していきましょう。
デューデリジェンスの進め方!
【1】デューデリジェンスチームを構築
社内の体制構築
経験者や有識者、また資格所有者を集め、対象企業に対し適切な調査を行えるチームを構築します。
専門家への依頼
専門家はデューデリジェンスを行う分野によって異なります。
- 税理士
- 公認会計士
- 監査法人
- 弁護士
- 経営コンサルタント
これらの職に就くすべての人が、デューデリジェンスを得意としているわけではありません。
分野に応じて、デューデリジェンス実績豊富な専門会社、専門家へ依頼しましょう。
【2】デューデリジェンスに必要な資料の開示要請
資料の分析を行うにあたり、必要な資料を取り寄せます。
多種多様な資料を要するため、譲渡企業にとっては、大きな負荷がかかります。
デューデリジェンスに必要な資料一覧(例)
- 決算書及び確定申告書
- 試算表
- 定款
- 商業登録簿謄本
- 中・長期計画
- 株主名簿
- 意思決定機関記録(株式総会や取締会議の議事録など)
- 不動産登記簿謄本
- 固定資産課税台帳及び納税証明書
- 不動産売買契約・不動産賃貸契約書
- 会社組織図
- 雇用資料(従業員名簿、就業規則、雇用契約書など)
- 取引契約書
- 知的財産資料
- 訴訟・紛争資料
- 行政許認可、行政指導その他行政関連資料
あくまで一例です。
調査する分野によって異なります。
【3】資料を分析する
開示された資料を元にリスクを換算します。問題分析、またM&A後のシナジー効果についてもここで分析されることが多いです。最終契約書を作成する際に大きく影響します。
【4】現地調査・マネジメントインタビュー
資料の分析を行った後は、現地調査を行い、事前開示が不可能な資料の閲覧、現地の様子、さらにマネジメントインタビューを実施します。
マネジメントインタビューとは?
マジメントインタビューとは、対象企業の経営陣や取締役に対しインタビューを行うことです。
資料では知り得ない企業に対する疑問点や、経営陣の考える課題、企業の雰囲気などを理解するために行われます。
最大の目標は、開示されて資料に書いてないことを引き出すことです。
聞き手は、インタビュー対象者に対して十分な配慮と本音を引き出すために、よく準備して臨みましょう。
【5】結果を最終契約書に反映させる
デューデリジェンスの結果は、M&Aの最終交渉、最終契約書に反映させます。基本合意の内容から、取引価格・交渉内容の修正を行い、最終交渉を経て、M&Aの契約完了となります。
容認できないリスクがあった場合は、ここでディールブレイクしてしまうケースもあります。
M&Aの譲渡価格はどうやって決まる?算出方法を解説
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の頭文字をとったワードで…
デューデリジェンスの結果はM&A後の経営に活かすことも!
デューデリジェンスはリスク抽出や最終交渉のためだけに行うものではありません。M&A後、シナジー効果を最大に発揮させるための材料を集める目的も含まれます。
事業承継M&Aパートナーズでは「税務デューデリジェンス」「財務デューデリジェンス」「労務デューデリジェンス」について承っております。
お気軽にお問い合わせください。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。