後継者問題が年々深刻化するに伴い、事業承継に真剣に取り組み始める経営者の方が急増しています。
今回のコラムでは、各事業承継のメリットとデメリットなど、役立つ情報を実際にあった相談事例とともにご紹介します。
事業承継の主な選択肢と相談事例
一言に事業承継と表しても様々な種類があります。
主な選択肢を、それぞれのメリット・デメリットとともに紹介します。
親族内承継
親族内承継とは、事業を子ども・孫・甥・姪といった、親族に引き継ぐ方法です。
親族内承継のメリット
- 早期から後継者として教育・準備することができるため、スムーズに引き継ぎができる
- 親族ということで従業員・顧客・関係者などから信頼を得やすい
- 承継手段の選択肢が多い
親族内承継のデメリット
- 親族内にめぼしい後継者が見つからない可能性がある
- 相続問題など、親族内でトラブルを引き起こす可能性がある
- 親族という理由で承継しても、能力的に不足している可能性がある
親族内承継の流れ
専門家に相談
- 親族関係の把握
- 株主構成・名義株式の有無の把握
- 後継者の確定
- 無料株価シミュレーション
承継プラン検討
- 贈与計画の策定
- 特例承継計画の策定
- 事業承継税制(納税猶予)適用の検討
- 遺留分算定
スキーム実行
- 組織再編
- 特例承継計画の確認申請
- 株価評価
- 民法特例(除外合意・固定合意)の活用
- 贈与税申告
事後支援
- 相続対策
- 遺言作成
- 相談対応
親族内承継の相談事例
企業概要
- 業種:製造業
- 創業:40年前
- 資本金:3000万円
- 従業員数:50名
相談内容
およそ30年前に父親から事業を引き継ぎ、製造業を営むAさんは、年齢が60歳を過ぎたということもあって事業承継を検討し始めました。
跡継ぎは35歳の長男で、既にAさんの会社に10年以上勤めています。
他の従業員からの信頼も厚く、長男自身も後継にあたって十分な能力と意思を備えているため、事業承継はスムーズに進むと思われていましたが、いざ株式の相続税を計算してみると、その納税額は予想以上の大きさでした。
解決策
Aさんは専門家の提案を受け、事業承継税制を活用することにしました。
税金の納税期間猶予が適用され、最終的には納税免除が適用されることが想定されます。
非常に複雑な制度ではありますが、専門家のサポートもあって申請は承認され、今後も定期報告を行っていくことになりました。
親族外承継(社内承継)
もともと企業に所属している従業員の中から、親族内承継とは反対に、親族以外の人間を後継者として選出する方法を親族外承継と呼びます。
親族外承継のメリット
- 親族内に後継者が見つからない場合でも、ふさわしい人間に事業を承継できる
- 既に企業に精通しており、周囲からの信頼もある人間に事業を承継できる
親族外承継のデメリット
- 適切な能力を持った後継者が見つからない可能性がある
- 他の従業員が不満を抱く可能性がある
- 後継者に株式の買取余力がない場合がある
- 会社の債務に現経営者の個人保証が付いている場合、その引き継ぎが問題となる場合がある。
親族外承継の流れ
専門家に相談
- 株主構成・名義株式の有無の把握
- 後継者の検討
- 無料株価シミュレーション
承継プラン検討
- 財務デューデリジェンス
- 贈与計画の策定
- 資金調達方法の検討
- 事業承継税制適用の検討
スキーム実行
- 持株会社の設立
- 株価評価
- 先代経営者の譲渡所得税申告
- 贈与税申告
- 資金調達支援
- 特例承継計画の確認申請
事後支援
- 戦略的定款変更
- 納税猶予継続届出書の提出
- 先代経営者の相続対策
親族外承継の相談事例
企業概要
- 業種:卸売業
- 創業:30年前
- 資本金:2000万円
- 従業員数:20名
相談内容
30年前に卸売業を創業し、これまで必死に運営してきたBさんは、高齢ということもあってか近頃心身ともに衰えを感じてきました。
Bさんには二人の娘がいますが、どちらも県外に嫁ぎ、少なくとも会社を後継する意思はないようです。
そのことから、社内役員の中から後継者を選ぶことにしましたが、Bさんも厚い信頼を寄せるCさんを候補として選出。
Cさん本人も会社を継ぐ意思は申し分ないのですが、会社の借り入れの個人保証を、BさんからCさんに変更できないという問題が発生しました。
解決策
保証はあくまで個人にかけられるものなので、事業承継にあたり、金融機関が前経営者の保証解除を了承しない場合があります。
ただし、それだと事業承継をスムーズに行うことができないため、保証契約の解除を求める経営者保証ガイドラインが定められています。
専門家に相談した結果、まずはその経営者保証ガイドラインに沿って、財務基盤などの強化に取り組むことに。
Bさんの個人保証の解除に応じてもらうよう、金融機関に働きかける方針をとることになり、その後無事に事業を引き継ぐことができました。
M&A(社外承継)
M&Aは親族や社内の人間ではなく、社外の人間、あるいは企業に事業を承継させる方法です。
買収や合併のことを指します。
M&Aのメリット
- 後継者候補の幅が大きく広がる
- 従業員の雇用を守ることができる
- 現金か株式が手に入る
- 企業の事業拡大・発展に繋がる
M&Aのデメリット
- 譲受け企業がなかなか見つからない可能性がある
- 希望金額通りに売却できない可能性がある
- 従業員が不満を抱く可能性がある
- 経営権限がなくなる・小さくなる
M&Aの流れ
専門家に相談
- 目的の明確化
- 株価シミュレーション
企画
- 財務デューデリジェンス
- 贈与計画の策定
- 資金調達方法の検討
- 事業承継税制適用の検討
マッチング
- トップ面談
- 意向表明書の提出
- 基本合意書の締結
契約
- PMI開始
M&Aの相談事例
企業概要
- 業種:サービス業
- 創業:10年前
- 資本金:5000万円
- 従業員数:30名
相談内容
10年前に一大奮起し、ベンチャー企業を設立した40代後半のDさん。
先日一人娘が就職して身軽になったということで、セミリタイアをし、地元で妻と農業を営むことにしました。
しかし、それにあたって悩むのは会社をどうするのかということです。
社内にめぼしい後継者が見つからないため、事業の売却を検討していますが、会社には強い愛着がありますし、これまで尽くしてくれた従業員の雇用を疎かにするわけにはいきません。
解決策
専門家に相談した結果、M&Aを行うことを決意し、自分の希望や条件を定めた後に売却先企業の候補を選出します。
緻密な面談を重ねて、その候補の中でも特に経営方針に共感し、従業員の雇用も保証してくれる企業に売却することが決定しました。
また、専門家のアドバイスもあり、将来的な見込み利益も企業価値として正当に評価してもらうことに。
金額面でも満足できる条件で契約することに成功し、セミリタイアをしても十分な生活を送っていける資金を獲得することができました。
廃業
廃業とは、原因や経緯は特に問わず、事業を辞め、企業としての活動を停止することを指します。
廃業のメリット
- 経営者という責任から解放される
- 各種税金の支払いなどがなくなる
- 倒産と比較してデメリットが小さい
廃業のデメリット
- 企業価値や資産が全てなくなる
- 従業員が失業する
- 数十万円の手続き費用がかかる(費用は企業によって異なる)
- 再起する際は許認可等を全て取り直す必要がある
廃業の流れ
廃業準備
- 営業終了日の決定
- 株主総会にて3分の2以上の承認
- 清算人の選任
- 清算人選任登記
- 解散登記
清算
- 債権の取立
- 決算書類の作成・承認
- 廃業・解散の届け出
- 解散公告・催告
- 清算人による清算
- 残余財産の分配
申告・登記
- 解散確定申告
- 清算確定申告
- 清算決算報告書の作成、承認
- 清算結了登記
事業承継の失敗事例
そろそろ引退を考えるも、後継者不足のためM&Aを検討し始めるEさん。
当初は専門家に依頼しようと考えていましたが、手数料が予想より高く、自力で株式譲渡を実行することにしました。
知人の経営者たちに良い売却先がないか尋ね回ってみると、半年後、知人の一人に紹介してもらったFさんから買収の提案を受けます。
二人とも専門知識はありませんでしたが、M&Aガイドラインを基になんとか書類作成や手続きを済ませ、Eさんは株式の譲渡代金を手にすることができました。
しかし、取引完了からしばらくして、Fさんから「未払残業代などの簿外債務が見つかった」と連絡が入ります。
専門家によるデューデリジェンスが未済だったため、このような見落としが後々になって判明することになり、結局Eさんは損害賠償請求をされてしまいました。
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事業承継税制とは?
通常、事業承継をする際、後継者には贈与税や相続税がかかります。
その納税額は決して小さいものではありませんが、事業承継税制はその納税を猶予し、将来的には免除することを想定する制度です。
主なメリットやデメリットは以下の通りです。
事業承継税制のメリット
- 相続税や贈与税を支払わなくてよい
- 株価対策に向けて利益を圧縮する必要がない
事業承継税制のデメリット
- 猶予期間が極めて長期間に及ぶ
- 納税猶予が取消になると利子税も支払う必要がある
- 事業承継税制に精通した税理士が少ない
上記の中で気を付けなければならないことは、「納税猶予が取消になると利子税も支払う必要がある」という点です。
後継者が代表ではなくなった、廃業することになった、定期報告を怠ったなど、取消になる理由はいくつかありますが、やむを得ないケースを除き、基本的には本来の納税額+利子税を支払わなければならないということを理解しておく必要があります。
特に猶予適用から5年間は毎年継続届出書を提出する必要がありますが、非常に複雑であるため、精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。
また、もう一つの注意点として、事業承継税制の適用を受けるには令和6年3月令和8年3月31日(※)までに特例承継計画(承継後5年間の事業計画書等)を都道府県知事に提出しなければなりません。
※提出期限が2年間延長し、令和8年3月31日までになりました。
利用を検討している方は確実に間に合うよう準備を進めていただくよう、お願いいたします。
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事業承継・引継ぎ補助金とは?
事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業や小規模事業者を対象に、事業承継に要する経費の一部を補助する制度です。
経営革新用と専門家活用用の2種類に分かれ、その中でもさらに以下のような分類があります。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)
- 経営者交代型
- M&A型
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)
- 買い手支援型
- 売り手支援型
このため事業承継にあたって幅広く活用できる補助金制度ですが、種類によって補助上限額などの詳細が異なります。
専門家に相談し、自身に適した類型はどれか吟味した上で交付申請を行いましょう。
事業承継を成功させるコツは?
手法を誤ると大きな損失も被りかねない事業承継ですので、成功させるためには必ず専門家に相談し、可能な限り早く準備を進めることが大切です。
もちろん他にも心がけるべきポイントはたくさんあります。
- 後継者の意思を尊重する
- 育成に必要な時間を十分確保する
- 従業員が戸惑わないよう配慮する
- 株価対策をしておく
事業承継は多くの複雑な手続きを要することはもちろん、後継者や従業員、親族、その他関係者など、あらゆる人に多大な影響を及ぼすということを理解しておかなればなりません。
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事業承継の相談は事業承継M&Aパートナーズへ
現在後継者不足に悩む企業はたくさんあると思いますが、もし後継者が見つかったとしても安心はできません。
むしろそこからが事業承継の複雑な段階であるとも言えますし、M&Aでも計画から完了までには数カ月~数年と決して短くない期間を要します。
そのため、まずは専門家にご相談いただくことをおすすめします。
また、準備の開始時期が遅れれば遅れるほど選択肢は減っていってしまうため、可能な限り早めに行動することが大切です。
事業承継M&Aパートナーズは、無料相談から承っております。お気軽にご連絡ください。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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