事業承継対策の方法は様々なものがありますが、その中に引退する役員(経営者)の退職金を活用したものがあります。本記事では事業承継対策において退職金を活用する方法や、その際の注意点、退職金の算出の方法まで丁寧に解説していきます。

  1. 退職金を活用することで得られる2つ効果
  2. 実際にどのように退職金を算出するのか?
  3. 事業承継税制の活用も有効な選択肢
  4. 退職金を活用して、有効な節税対策を!

退職金を活用することで得られる2つ効果

事業承継で退職金を活用することで以下の2つ効果が期待できます。

  1. 株の評価額を引き下げることができる
  2. 法人税の負担を軽減できる

1. 株の評価額を下げることができる

事業承継において、退職金を活用すると株の評価額を引き下げることができます。

経営者が保有する自社株を後継者に贈与、または相続させる際、贈与税や相続税といった税金が発生します。そして、贈与税や相続税は異動する株式の評価額に応じて算出されます。

基本的に、優良企業においては株価が高騰している場合が多く、そのような企業を事業承継する場合は、後継者に株式を贈与・相続させる際、莫大な税金の負担をしなければならない可能性があります。

そのような際には、退職金を用いて自社株の評価額を引き下げた後に、株を異動させることが事業承継対策として効果的だといえます。

退職金支給で自社の株式評価額が下がる仕組み

なぜ、退職金を支給することで自社の株式評価額が下がるのでしょうか。

退職金の支給によって、自社の株式評価額が下がる仕組みを理解する上で、まず株式評価額がどのように決まっているのかを知る必要があります。

原則的な自社株式の評価方式の一つとして、類似業種比準価額方式があります。

類似業種比準価額方式とは
取引相場がなく株価が分からない企業の株式評価額を、事業内容がよく似た上場企業の株価を基準にして算出する方法です。類似業種比準価額方式では、株式の評価を行う企業の配当金額・利益金額・純資産価額を類似する企業の各項目と比較して、株式評価額を算出しています。

 

以上を踏まえた上で、なぜ退職金支給が株式評価額の減少に繋がるかについて解説します。主な理由としては2つあります。

役員退職金によって自社の株式評価額が下がる理由①

役員退職金の支給において、その退職金は損金に計上されます。そうすることで、会社全体の「利益金額」が引き下がるため、株式評価額も下がります。

役員退職金によって自社の株式評価額が下がる理由②

役員退職金の支給により、会社の純資産が減少します。そうすることで、「純資産価額」が下がるため、理由①同様に株式評価額も下がります。

事業承継対策で退職金を活用する際の注意点

上記のように、事業承継をする際に退職金を活用して株式評価額を下げることは、節税という観点から有効だと言えます。しかし、その際に注意する点があります。

それは、役員退職金の準備のために全額損金の生命保険を活用していた場合、退職金によっての株式評価額の減少が見込めないということです。

全額損金の保険に加入していた場合、解約の際に得られる全額が益金に計上されるため、役員退職金によって損金がでても保険解約による益金と相殺されてしまいます。そのため、利益の圧縮に繋がりません。

また、役員退職金が解約返戻金から支払われるので純資産の圧縮にも繋がりません。

すでに保険に加入していた場合、どのような種類の保険に加入しているか確認してみると良いでしょう。

2. 法人税の負担を軽減できる

退職金を活用することで、法人税の負担を軽減することも可能です。

役員に対して支給される退職金は、会社の経費として計上することができます。そのため退職金の支給が利益の圧縮に繋がり、結果として法人税の負担額を小さくすることができます。

また、退職金の支給により、それを受け取る役員個人の税負担が軽減されることにも繋がります。

退職金に課される所得税と住民税は、以下の式で求められる退職所得に対して分離課税されます。

退職所得=(退職金−退職所得控除)×1/2

上記の式を見れば明らかなように、退職金に課される所得税と住民税の負担は通常の給与所得に比べても軽減されています。

実際にどのように退職金を算出するのか?

役員などへの退職金は、企業がその役員の貢献に応じた額を算出して支給します。適正額を超える金額の退職金を用意することは、法律上は問題ありませんが、損金として計上できる金額は適正額の範囲内となるため、適正額を超えた分の退職金は、法人税法上の損金とならない点に注意しましょう。

退職金の計算方法

役員の退職金を算出する際は、主に「功績倍率法」が用いられます。役員の退職金は実際に、以下の功績倍率法の計算式に当てはめられ算出されます。

 役員退職金=最終月額報酬×役員就任年数×功績倍率

最終月額報酬が100万円、役員就任年数が40年であり功績倍率が2.5の役員Aが退職した際の退職金の計算式は以下のようになります。

最終月額報酬[100万円]×役員就任年数[40年]×功績倍率[2.5]
=役員退職金[1億円]

功績倍率においては、代表取締役の場合(2.0〜3.0)と言われていますが、各企業の状況によってその倍率は異なります。

事業承継税制の活用も有効な選択肢

事業承継を行う際、税負担を軽減する方法の1つとして事業承継税制の活用も有効だといえます。

事業承継税制を活用することで、自社の株式評価額がいくらであるかに関係なく、自社の株式に課税される贈与税や相続税が猶予されます(そのため、退職金を活用して自社の株式評価額を下げる必要性はなくなります。)。

以下、詳しく説明しますが、事業承継税制の活用にはデメリットも存在します。そのため、自社の置かれている状況に合わして、退職金を利用した節税法か事業承継税制の活用のどちらにするか検討する必要があります。

事業承継税制とは?

事業承継税制とは、いくつかの条件をクリアすることで、株式を後継者に贈与、もしくは相続させる際に課される贈与税や相続税を猶予してもらえる制度です。また、一定の場合では免除されます。

事業承継税制利用のメリット・デメリット

次に事業承継税制を利用する上でのメリットやデメリットを説明していきます。

事業承継税制利用のメリット

事業承継税制を利用することで得られる最大のメリットはやはり、対象の株式の贈与税・相続税が猶予されるという点です。納税資金を用意する必要がなくなり、事業承継をスムーズに行うことができます。

事業承継税制利用のデメリット

贈与税・相続税の取消事由に該当した場合に、猶予されていた税額に加えて、利息に該当する利子税を支払うことになります。そのため、事業承継税制の利用には一定のリスクが存在するといえます。

また、納税猶予期間も長いため、長期の間は納税猶予の取消事由に該当しないように気を配る必要があります。事業承継税制は複雑な制度であり、取消事由に該当した場合、利子税を支払わなければならないなど一定のリスクがあります。

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退職金を活用して、有効な節税対策を!

退職金や事業承継税制を活用することで、事業承継において大きな節税効果があることを解説しました。退職金や事業承継税制を用いた節税スキームでは、実務の際に専門的な知識やノウハウが必要になるので専門家に相談することをおすすめします。

名古屋事業承継センターでは退職金を用いた節税対策だけでなく、事業承継全般の様々なサポートを行っておりますので、事業承継についてのご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

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