会社の経営権や支配権を後継者に引き継ぐことを事業承継と呼びます。
経営者が代わった後も会社を長く存続、成長させていくためには、事業承継をスムーズに完了することが非常に大切です。
できるだけ早く準備に取り掛かる必要がありますが、後継者不足や資金不足、親族間の遺産相続など、会社や家庭の状況によって抱える課題は様々であり、それによって対策も異なります。
本コラムでは、事業承継の準備を進めるにあたって、最初に実施すべきことを解説いたします。
「何から始めれば良いのかわからない」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
企業のあらゆることを「見える化」する
事業承継を進めるにあたって、初期段階で行うことは企業を「見える化」することです。
文字通り、「目に見えていないもの、あるいは見えにくいものを可視化する」という意味ですが、具体的に何をするのか解説していきます。
企業理念を「見える化」
企業の活動方針の根幹となる考え方や存在意義を「企業理念」と呼びますが、長く続いている企業は揺るぎない企業理念を有しています。
- 何のために活動しているのか
- どんな企業であるべきなのか
- 自社だけの強みは何なのか
このような企業理念があることで、例え代表者が代わっても、企業はぶれることなく発展していくことができます。
企業理念は代表者だけではなく、社員全員が共有することで大きな意味を持つので、まずは企業理念を明確に「見える化」し、それに合わせて事業承継の方針を考えていきましょう。
資産を「見える化」
企業が所有している資産を明確にします。
特に中小企業に関しては、会社の資産と代表者の資産が曖昧になっていることが多いため、事前に整理しておかないと、当人が亡くなってしまった際、相続が滞ってしまうことが考えられます。
現金、貯金、建物、土地、機械設備などは既に「見える化」されていますが、困難であるのは無形資産です。
例えば人材、技術力、実績、特許、人脈、ブランド力といった目に見えない資産が無形資産に該当しますが、事業承継の際にはそれらも企業価値の計算に含める必要があります。
同時に負債も算出しておきましょう。
借入金がある場合は、その額と借入先を改めて確認し、金融機関から受けている融資、代表者や親族からの借入などが無いかも、漏れずにチェックしておくことが大切です。
経営状況や課題を「見える化」
最後は経営状況や課題の「見える化」です。
自社の経営状況を把握するための手段の一つに、経済産業省の「ローカルベンチマーク」や中小企業基盤整備機構の「事業価値を高める経営レポート」を活用することが挙げられます。
企業の現状を分析し、発展させていくために何に取り組むべきか、何を活かすべきかを明確にします。
同時に現在の企業が特に解消すべき課題が何なのかを設定します。
- 人材の確保
- コスト削減
- 顧客満足度の向上
- 商圏の拡大
- ブランドの確立
例えば上記のような課題が考えられますが、事業承継を行うということは今後数十年に渡って企業を存続させていくことが前提になります。
できる限り長期的な課題であることが望ましいでしょう。
企業の課題や弱点を「磨き上げ」
「見える化」によって、企業の長所や短所が明確になります。
それを踏まえた上で、次に実施すべきことは企業の「磨き上げ」をしていくことです。
「磨き上げ」とは、企業の強みを活かしつつ、現在抱えている課題を解決したり、弱点を克服していくことです。
多くの課題を抱え、将来性が低い企業は、後継者不足に陥ってしまう可能性が高く、M&Aのように第三者機関や個人に企業を売却する場合も、買い手が見つからなかったり、企業価値を低く見積られ、売却価格が下がってしまう恐れがあります。
経営状況が向上すれば事業承継もスムーズに進行する場合が多いため、「見える化」の時点で自社をよく分析し、精度の高い「磨き上げ」を実施しましょう。
特に負債が資産を上回っている「債務超過」の企業は早急に改善策を講じる必要があります。
事業承継の種類を理解する
企業の経営状況を向上させつつ、どのような事業承継を行うか具体的に決めていきましょう。
事業承継の主な選択肢とそれぞれの特徴を解説します。
親族内承継
子どもや孫といった親族に事業を引き継ぐことを「親族内承継」と呼びます。
後継者に事業を引き継ぐ強い意思があれば、早い段階から準備に取り掛かり、十分な教育期間を確保することができます。
従業員の賛同も得やすく、顧客や取引先との関係もスムーズに引き継ぐことができる点も親族内承継の大きなメリットです。
しかし、近年の若い世代は家業を継ぐことに魅力を感じなくなってきている傾向にあり、後継者不足の主な要因となっています。
代表者の急死により、子どもが急遽後継者になることも珍しくありませんが、準備や能力が不十分で、企業の業績が悪化してしまうことも考えられます。
親族外承継
親族以外の役員や従業員が後継者となり、事業を引き継ぐことを「親族外承継」と呼びます。
この手法であれば、親族内で後継者が見つからなかった場合でも事業承継することが可能です。
企業に精通しており、他の従業員からも信頼されている人間に事業を継がせることができます。
ただ、他の従業員が不満を抱く可能性があり、特に後継者より年齢が高い従業員や、勤続年数が長い従業員の反感を招くリスクが高いです。
株式の買取資金不足や個人保証の引継ぎといった、金銭的な問題が発生するケースもあります。
M&A
「M&A」は第三者となる社外の機関または個人に、企業を売却することです。
親族や企業の外にまで選択肢を広げることで、後継者不足を解決できるだけでなく、多額の現金、あるいは相応の新株式を獲得することができます。
廃業とは違い、従業員の雇用を守ることができる点も大きなメリットです。
デメリットは、必ずしも売却先が現れるとは限らないことです。
企業を買い取る側も利益の向上を図って企業を買収するため、業績が芳しくない企業の売却は容易ではありません。
後継者がいなくてもできる準備はある
「後継者が見つからないことには事業承継の準備のしようがない」と考えられている経営者の方も少なくありませんが、実際はそうとも限りません。
後継者候補の有無に関わらず、取り組める事業承継の準備を解説いたします。
事業承継の専門家に相談する
事業承継に関して、現状の課題を明確にしたり、適切な対策を講じるためには専門家に相談することが有効です。
既に面識がある顧問税理士や金融機関の担当者であれば、気軽に相談することができるでしょう。
引退を間近に控え、本格的に準備を開始する場合は、事業承継の専門機関に問い合わせることをおすすめします。
事業承継資金を調達する
選択した事業承継の手法によっては、多額の資金が必要になることも珍しくありません。
- 株式や資産が相続・贈与された場合の納税資金
- 後継者が株式や資産を買い取るための資金
- 事業承継後の運営資金
例えば上記のような資金が必要になることが考えられるため、余裕を持って資金調達を開始することは非常に大切です。
節税対策を講じる
事業承継資金を用意しておくこととは反対に、必要資金を減らすための節税対策を講じることも有効です。
例えば自社の株価をあえて引き下げることで、事業承継時に発生する税金の納税金額を減らすことができます。
生前に非課税で財産を贈与できる「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」を活用する選択肢もあります。
また、「事業承継税制」の特例措置を活用すれば、事業承継にかかる贈与税・相続税の納税猶予を受けることができます。
複雑な手続きや業務が必要ですが、最終的には納税が免除される制度です。
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事業承継は早めに準備することが成功の秘訣
事業承継はまだ先のことだと考えられている経営者の方も多いですが、早めに準備に取り掛かることが事業承継を成功させる秘訣だと言えます。
企業が抱える課題は早めに解決し、ご自身が第一線を退いた後も、企業が長く発展していくための対策を講じましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは、事業承継に関する様々な相談を受け付けております。
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