後継者不足に悩む中小企業や零細企業が増加中
農業や漁業、酪農といった第一次産業や伝統工芸業の抱える問題がよく報じられていますが、それ以外の業界においても対岸の火事ではないですよね。
今回のコラムでは、日本の企業における後継者不足の原因や対策方法など、今後の経営・事業承継に活用したい知識をご紹介します。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営や事業を後継者に引継ぐことです。
上記の通り、後継者問題に直面する中小企業と零細企業は多く、後継者がいないことで廃業を選択する経営者は少なくありません。
この状況を打破するため、国はさまざまな支援策を講じています。
事業承継の概要
事業承継は「経営」「資産」「知的資産」の3つを引継ぎます。
- 【経営】会社の経営権、従業員
- 【資産】株式、設備や不動産、資金(運転資金、借入資金)許認可
- 【知的資産】経営理念、取引先・関係者からの信頼、従業員の技術・知識・ノウハウ、顧客情報
後継者不足の現状を調査
日本の企業が抱える後継者不足の現状について解説します。
後継者難は廃業の大きな理由
日本政策金融公庫が2015年にインターネット上で行った「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、調査に協力した60代経営者のうち57.2%が、70代の経営者のうち56.0%が「廃業を予定している」と回答しました。
また、廃業を予定している企業のうち約3割が「後継者難」を理由としていることもわかっています。
参考:村上義昭(日本政策金融公庫総合研究所主席研究員)「中小企業の事業承継の実態と課題」(2017)p4-p7
http://t.ly/KGiq
後継者不在率は3年連続で最低を更新
また、帝国データバンクが2020年に発表した「全国企業『後継者不在率』動向調査」によると、2020 年の後継者不在率(全国・全業種)は 65.1%にのぼっています。
これは帝国データバンクの実施調査上において3 年連続で低下し、最低を更新していることになります。
さらに、事業承継を考え始める時期とされる50代経営者の後継者不在は7割に迫っています。
事業承継のピークである60代では2年連続で不在率5割をそれぞれ割り込み、以前よりも改善傾向にあるということですが、依然として半分近くの企業を悩ませていることには変わりません。
参考:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」(2020)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p201107.html
経営者も深刻に問題視する後継者不足
こちらも帝国データバンクが2020年に発表した調査「事業承継に関する企業の意識調査」から。
景気動向調査とともに事業承継に関する企業の見解について調査を行っています。
帝国データバンクによると、調査企業のうち実に55.2%の企業が、事業承継について「経営上の問題のひとつと認識している」と回答していたそうです。
さらに、「最優先の経営上の問題と認識している」企業は11.8%。
合計すると約6割強の企業が事業承継について問題視しているということがわかりました。
参考:帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」(2020)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p200904.pdf
後継者不足の理由は多岐にわたる
深刻な問題となっていることがよく分かる後継者不足。
現代社会においてこの問題が取り沙汰されているのは一体なぜでしょうか。
主に以下の問題が挙げられます。1つひとつ解説していきます。
- 少子化の進行
- 身内や親族が後継者とならない(なれない)
- 事業の将来性に難がある
- 負債を抱えている
少子化の進行
中小企業の後継者不足を引き起こす大きな原因は少子化です。
親子間の事業承継が困難に
過去の事業承継は多くが経営者の子どもが後継ぎとなって成立していました。
しかし、そもそも次世代を担う子どもの数が減っていることに加え、ただでさえ少なくなった経営者の子どもが「親の事業を継ぎたい」と思わなくなるケースが増加しています。
少子化は人材難にも
少子化の影響で、後継者のみならず中小企業が擁する人材や求人・採用できる人材そのものが大きく減っています。
家族の承継が見込めないなら役員や従業員に……という意向でも、すんなり進むとは限らないのですね。
身内や親族が後継者とならない(なれない)
「少子化の進行」と少し重複しますが、親族に事業を継いでほしいと希望しても、当の親族側が後継ぎになることを拒否してしまうこともあります。
学歴志向、大企業就職志向
文部科学省の学校基本調査によると、2020年度の大学進学率は過去最高の54.4%に達しているそうです。
大学を卒業して大手企業に就職することの価値比重が高まっているなか、自営業に魅力を感じることができず家を出る経営者の子供は少なくありません。
後継者の資質に疑問も
会社の舵取りを行う経営者には、財務経理の知識や資金調達など様々な資質が求められます。
また、経営の安定は従業員やその家族の生活の安定でもありますよね。
責任をもって会社の方針を判断する力も大切ですし、自身に素質が足りないと感じたならそれを補うための向上心も必要になります。
誰かに後を継いでほしい、経営に乗り気な親族や役員もいる……
それでも会社のことを考えると、継がせない結論に至ってしまうことだってあり得ます。
事業の将来性に難がある
中小企業の将来性を見込みづらい時勢も後継者不足につながります。
今後業績が上がる可能性の少ない事業をあえて継ごうという人は、なかなか出てきてくれません。
現経営者も将来性のなさを感じている
先程ご紹介した調査「中小企業の事業承継の実態と課題」から、現在の経営者当人も今後の会社の動向について不安視する傾向を強めています。
この調査によると、廃業理由について経営者のうち38.2%が「当初から自分の代でやめようと考えていた」、27.9%が「事業に将来性がない」と答えているそうです。
経営者当人が利益を生み出しにくいと考えている事業を、継承して運営していきたいとは思えないですよね。
負債を抱えている
後ほど登場する言葉ですが、事業承継の選択肢のひとつに第三者へと会社を譲渡する「M&A」という方法があります。
この際、やり方によっては譲渡される企業が抱える負債が引き継がれます。
負債のある企業を買い取って肩代わりしよう、という企業を見つけるのは容易ではありません。
新型コロナが事業承継意識に影響?
帝国データバンクの「事業承継に関する企業の意識調査」では、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして事業承継に対する関心の度合いが変化したか否かについても経営者から聞き取っています。
多くの企業はスタンスを変えず
同調査によると、「意識は変わっていない」と回答した経営者が全体の75.0%と大半を占めているようです。
次点に「分からない」が13.8%、「高くなった」が 8.9%、「低くなった」は 2.3%と続きます。
「向上」「低下」どちらの意見も理解できる
事業承継に対する関心がコロナ禍で高くなったと答えた経営者からは、「高齢のため、感染すると本人の健康の危機とともに経営にも打撃を与える可能性が高い」などという声があげられたそうです。
反面、「事業承継の準備を行っていたが、新型コロナの影響で事業承継どころか会社存続が当面の課題だ」という意見も。
さらに、「後継者の強みと現事業の状況をマッチングさせるのが難しい。新型コロナの影響が拡がる現状では事業承継する勇気がない」という経営者もいるようです。
心配な後継者不足、解決するには
日本の中小企業に広がる後継者不足。
その現状や原因を確認したところで、次は不安を解消するための解決策を確認していきましょう。
対策は大きく分けて4つ
企業の後継者不足に対応するための手段は、大きく分けて以下の通りです。
- 親族内承継
- 親族外承継
- M&Aによる事業承継
- 廃業
以下ではそれぞれの対応策について、特徴とともにメリットやデメリットについても解説していきます。
現在事業承継を検討されている経営者様の参考になれば幸いです。
親族内承継
その名の通り、身内や親族に自分の後継者として経営を行ってもらうことです。
親族内承継のメリット
- 交渉を進めやすく話がまとまりやすい
- 受け入れられやすい
- 早期から教育がしやすくコストが少ない
交渉を進めやすく話がまとまりやすい
親族であれば人柄もよく分かっていますし、入社前であれば待遇面やその後の条件面の交渉もしやすいものです。
相談された親族が必ずしも事業承継してくれるとは限りませんが、どちらにしても決定がスムーズに進むのではないでしょうか。
受け入れられやすい
「社長の息子」として現経営者の子息が事業を承継するのは自然な流れなので、従業員や取引先にも受け入れられやすいです。
新経営者と従業員、互いのモチベーションも低下させてしまう社員からの反発も比較的少ないと考えられます。
早期から教育がしやすくコストが少ない
他の事業承継の方法よりも早めに後継者が決められるため、その分長い時間をかけて後継者となってもらうための教育を進めることができることは親族内承継のメリットのひとつ。
社員として入社させてから事業承継までの期間、じっくりと後継者として教育できます。
専門コンサルタントなどが仲介に入る必要もないため、コストも少なく済みます。
親族内承継のデメリット
- 適した人材が見つからない可能性がある
- 相続税や贈与税のリスクがかかる
- 親族トラブルの可能性がある
適した人材が見つからない可能性がある
後継者を決めやすい反面選択肢が多く取れないことから、会社経営者にふさわしい人物を見つけられない場合もあります。
その場合は、外部から後継者を見つけるかM&Aに移行することになります。
相続税や贈与税のリスクがかかる
後ほど詳しくご説明しますが、親族内承継のためには現在の経営者が持つ株式を後継者に渡す必要があります。
この場合、贈与か相続のいずれかを選んで実行することになりますが、どちらにも少なくない税金がかかります。
親族トラブルの可能性がある
子どもが複数いたり、親族間で後継者候補の選定に意見が分かれてしまったりすると、そのまま親族トラブルに発展してしまうことがあります。
また、親族間ということで情報の共有徹底や話し合いに甘えがでないとも限りません。
こういった問題が後継者育成や事業承継計画を遅らせることにつながります。
親族内承継 一般的な手法は?
以下の3つが挙げられます。
- 生前贈与
- 相続
- 売買
生前贈与
親族に自社株式を生前贈与し、経営権を後継者へと移します。
贈与税や相続税がかかることを踏まえ、以下のような方法で行うことが多いです。
暦年贈与
暦年贈与は年間110万円であれば贈与税がかからないため、この非課税枠を利用し毎年少しずつ贈与する方法です。
相続時精算課税制度
生前贈与については2,500万円を非課税とし、被相続人が亡くなった際に「相続時の相続財産+過去の生前贈与分」の相続税を課税する制度です。
これを活用し、株価が低いうちに一括して贈与することでなるべく相続税を抑えるという方法があります。
相続
存命中には後継者に株式など財産を移転せず、相続させることで後継者に承継させる方法です。
この場合、現経営者が必ず遺言によって株式を含む会社関係の資産を後継者に相続させる旨を明らかにしなければいけません。
相続税には比較的大きな基礎控除が認められるため贈与税より安くなりますが、一括で納める必要があるのが注意点です。
売買
後継者が現経営者に対して事業譲渡の代金を支払うことで親族内承継を行うケースです。
資金準備が難しくなることが多いため、あまり多く利用されていません。
親族外承継
こちらも文字通り、親族外の人に事業を継がせることを指します。
以下のようなパターンがあります。
- 従業員を後継者に指名する
- 外部から人材を登用する
親族外承継のメリット
- 親族への承継ができなくても事業を継続できる
- 役員や社員なら、既に会社のことを理解している
- 適任者を広く選択肢にできる
親族への承継ができなくても事業を継続できる
職業選択の自由があるため、経営者の親族であっても無理に後継者にすることはできません。また、そもそも事業を任せるのが難しいというケースもあります。
そういった場合でも親族外から後継者を見つけられれば、これまで築いてきた企業を維持することができます。
役員や社員なら、既に会社のことを理解している
社内から後継者を選ぶなら、経営理念や実務について改めて教育する必要がありません。
さらに後継者が役員の場合、経営に関する知識もある程度持ち合わせているでしょう。
事業承継の準備が遅くなっても慌てることなく進められます。
適任者を広く選択肢にできる
社外からも広く候補を探すため、理想に近い後継者を選べることが親族外承継の最大のメリット。
同じ業界で活躍している人材や経営のプロフェッショナルを後継者として招くことができれば、今後の事業継続にも希望が持てますね。
親族外承継のデメリット
- 選択肢が広い分後継者探しが難航するかも
- 後継者に資金力が必要
- 個人保証の引き継ぎが難しい
選択肢が広い分後継者探しが難航するかも
実務と経営は異なるものです。
社内の役員や従業員を後継者として選ぶ場合、優秀な社員として会社を支えていてくれたとしても経営者として優れているとは限りません。
社外から後継者を選ぶ際も、自社の商材や業務について知ってもらい、経営に携わってもらうにふさわしい人材かを見極める必要があります。
後継者に資金力が必要
会社の株式を次期経営者に譲る場合、株式を買い取るための資金が必要です。
しかし、まとまった資金を調達することは簡単ではありません。
できるだけ資金負担が少ない株式の承継方法を考える必要があります。
個人補償の引継ぎが難しい
企業が金融機関から融資を受ける時には、代表者が保証人となることが一般的です。
経営者が交代する際には、この個人保証も引き継がなければなりません。
金融機関に個人保証の解除や後継者への引き継ぎ処置をお願いする必要がありますが、親族外承継の個人保証引き継ぎは親族内承継よりも金融機関からの承認を得にくいことが多いです。
また、後継者に個人保証を引き継ぐ意思があるかどうかも確認する必要があります。
M&Aでの事業承継
親族外承継のひとつ。「Mergers and Acquisitions」の略で、資本の移動を伴う企業の合併買収のことを言います。
後継者不足の中で事業承継を行える方法として活用されてきています。
M&Aのメリット
- 幅広く法人や経営者から後継者を探せる
- 専門家と相談して支援をもらえる
- 事業拡大やシナジー効果の可能性
幅広く法人や経営者から後継者を探せる
後継者を探すのに難航し、親族だけでなく会社の役員や従業員からも候補が見つからないというパターンはあり得ないことではありません。
かといって、経営の経験がある外部の人を自分の力だけで探すことも難しいかと思います。
M&Aであれば、事業承継やM&Aの専門コンサルタントなどに相談して進めることができます。
専門家と相談して支援をもらえる
先述した経営者探しにおいて、信頼度の高い情報を幅広く持っている専門家に相談しやすいという点はもちろん強みです。
さらに、手続きも一貫して支援してもらえるので、事業承継をトラブルなくスムーズに進めることができます。
事業拡大やシナジー効果の可能性
買い手企業の資本や知識を生かした事業拡大を図ることができるほか、自社企業のノウハウや情報を提供することで活用してもらえます。
M&Aのデメリット
- 社風や経営方針、労働条件などの変化に影響する
- 成立までに時間がかかるケースがある
- 専門家による仲介は手数料がかかる
社風や経営方針、労働条件などの変化に影響する
企業によって社風は違います。自社にとって当たり前なことでも、外に出てしまうと全く違った文化に触れなければならないものです。
買収先企業の社風が合わずに退職する人、新しい労働条件に納得できずに去ってしまう人もいるでしょう。
成立までに時間がかかるケースがある
企業同士の問題になるので、互いに譲れない条件も多いでしょう。
売却側と買い手側の求めるものが合わず、マッチングに時間がかかるケースがあります。
専門家による仲介は手数料がかかる
依頼先によっては仲介手数料が高額になることがあります。報酬体系には各社で大きな差があるため、何社かを比較して慎重に検討するのがベターです。
廃業
後継者不足の最終手段が廃業です。
将来性の見込めない事業を続けていた場合、後継者不足をちょうどいい機会として廃業を選択するのもひとつの手段です。
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廃業のメリット
- リスクが少ない
- 身内に負担がかからない
リスクが少ない
金銭トラブルや親族問題など、事業承継の際に起こり得るトラブルをすべて回避することができます。
引き継いだ後に、後任の経営者がきちんと事業を運営してくれているか不安を抱く必要もありませんね。
身内に負担がかからない
廃業を選べば、子どもなど親族に後継者としてのプレッシャーや経営のリスクを背負わせることがありません。
廃業のデメリット
- 継続可能な事業の廃業で不利益が生じる人もいる
- 得られるはずだった金銭が得られなくなる
継続可能な事業の廃業で困る人もいる
これまでの取引先がなくなったことで不利益が生じる取引先、職場がなくなって収入減を失った従業員など、ひとつの会社を廃業することで大きな影響を受ける人はたくさんいます。
従業員の再雇用先を選定しておくなど、迷惑をかけないための事前準備が必要です。
得られるはずだった金銭が得られなくなる
M&Aで買収してもらえる可能性がある会社を廃業すれば、当然本来入ってくるはずだった資産は見込めなくなります。
対策の遅れが不安につながる
後継者不足が多くの企業で叫ばれています。
また、新型コロナウイルスの影響が響く2021年。何が起こるかわからない情勢下で「うちなら大丈夫」はありません。
経営者が高齢になった段階で事業承継の準備を開始するのでは遅いと考えたほうが安心です。
後継者が早めに見つかったとしても、教育や引き継ぎには多大な時間を要します。
情報の収集を綿密に行い、事業承継を成功させて後継者不足の世の中でも安心できる状態を確保しましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは、事業承継の経験豊富な税理士がていねいな現状分析とヒアリングにより、お客様のご要望に応える「オーダーメイドの承継プラン」をご提案します。
事業承継を検討したら、早めにご相談ください。
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