社長の子供や親族に後継者候補が見つからない場合、社内の従業員を後継者とする、従業員承継が選択される場合があります。
信頼できる従業員に会社を継いでもらえれば、社長も安心して引退することができます。

ただし、突然後継者に指名され、焦りを感じてしまう方も多いでしょう。
スムーズに会社を引き継ぐためにも、今回のコラムでは、従業員承継の流れや注意点について解説いたします。

  1. 従業員承継の流れ
  2. 従業員承継のメリット・デメリット
  3. 従業員承継の課題・悩み
  4. 一つひとつの課題をクリアすることが大切

従業員承継の流れ

まずは従業員承継がどのような流れで進行していくのかを解説していきます。

経営状況の把握・改善

従業員承継に限らず、事業承継の初期段階として行うべきなのは、会社の経営状況を把握することです。
現状をよく分析することで課題や弱点を抽出し、どのように改善していくのかを決定します。
中小企業の場合は会社の資産と社長の資産が曖昧になっているケースも多いため、事業承継の際に何が引き継がれるのかということも明確にしておく必要があります。

後継者を選任する

次に後継者の選任を行います。

  • リーダーシップ
  • 先見性
  • 決断力
  • 周囲からの人望

など、経営者は様々な資質が求められるため、ただ仕事ができるというだけでは不十分です。
社長がしっかりと候補者の適性を見極め、正式な後継者を決定する必要があります。

事業承継計画書の作成

事業承継計画書とは、事業承継を無事に完了させるため、将来的な売上の推移や、取り組んでいく施策などを具体的に記した計画書のことです。
明確にフォーマットが定まっているわけではありませんが、事業承継前後の10年を計画期間として設定することが多いです。
スムーズに事業承継を進行させるためには非常に重要なので、できる限り緻密に作成することが推奨されています。

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後継者の育成・周知

優秀な従業員が会社を継ぐことが決定しても、会社を潤滑に経営していくためには、準備や育成に少なからず時間がかかります。
他の従業員やその親族、取引先や顧客などに承継を周知する必要もあるため、このフェーズに要する期間は余裕を持って設定することが望ましいです。

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承継資金の調達

現在の社長から完全に会社を引き継ぐためには、会社の経営権だけではなく、財産権も移行させなければいけません。
そのためには社長が所有している自社株式を買い取らなければいけませんが、そのためには多額の資金が必要です。
個人で用意することが困難なほどの金額になることも多いため、融資などを活用しつつ、資金調達を行いましょう。

自社株式の譲渡

無事買取資金が調達できれば、社長から後継者である従業員に自社株式が譲渡されます。
一般的には株式の譲渡承認請求書を取締役会に提出し、承認を得ることができれば、株式譲渡契約書を作成し、正式に締結されます。

株式の名義書換え

契約締結後、株主の譲渡人と譲受人、つまり社長と従業員が共同で、会社に対して株主名簿の名義書換えを請求します。
請求が承認されると、株主名簿に譲受人となる従業員の名義が記載されます。

従業員承継のメリット・デメリット

会社の後継者に指名されることは、その従業員にとっても喜ばしいことですが、良いことばかりではありません。
従業員承継にはメリットもデメリットもあるということを理解しておきましょう。

従業員承継のメリット

  • 収入が上がる
  • 経営方針・労働環境などの決定権がある
  • 業務に対するモチベーションが高まる

従業員が後継者となることの主なメリットは上記の通りです。

従業員数 平均月収
101~300人 188.9万円
51~100人 130.4万円
21-50人 112.4万円
20人以下 80.1万円

日本実業出版社が発行している『「役員報酬・賞与・退職金」中小企業の支給相場』によると、中小企業の社長の平均月収はこのようになっています。
基本的には従業員の頃より収入は上がり、経費なども使用できるようになります。

経営方針や労働環境といった社風の決定もできるため、自分の意思が会社に反映されやすくなります。
経営者となることでより強くやりがいを感じられるようになり、仕事に対するモチベーションも向上するでしょう。

従業員承継のデメリット

  • 重大な責任が伴う
  • 経営者としてのスキルを習得する必要がある
  • ワークライフバランスが変化する

経営者になると、社内における権限が強くなる分、重大な責任が伴います。
業績を伸ばしていくだけでなく、従業員とその家族の生活、顧客からの信頼といった、様々なものを守っていかなければいけません。

業務内容が多様化することから、新しく習得しなければいけないスキルも多く存在します。
以前より多忙な生活を強いられることも多く、高い確率でワークライフバランスが変化します。

従業員承継の課題・悩み

従業員承継にはいくつかの大きな課題が存在します。
それが原因で事業承継が滞ってしまうこともあるため、どのような問題が起こり得るのか、事前に把握しておきましょう。

適切な後継者が見つからない

自社の従業員の中から後継者を選ぼうとしても、適切な人材が所属しているとは限りません。
特定の従業員を後継者として育成するという選択肢もありますが、それには長い期間を要するでしょう。
場合によっては、外部から後継者を招聘する、あるいは第三者機関に会社を売却するM&Aを検討することも考えられます。

自社株の買取資金が不足している

社長が保有している自社株式の買取資金が不足するケースも多いですが、その場合には、「所有と経営の分離」の状態になることが考えられます。
株主は現在の社長のまま、経営を後継者に一任することができますが、株主と経営者の間で経営方針がすれ違い、トラブルに発展するリスクがあります。

保証の引継ぎができない

会社を引き継ぐということは、負債に関する個人保証や連帯保証も引き継ぐことになります。
ただし、そのような保証はあくまで個人の資金力や信頼に基づくものであるため、後継者である従業員に引き継ぐ意思があっても、融資をした金融機関が承諾しないケースがあります。
適切な対処策は会社によって異なるため、専門家に相談することをおすすめします。

事業承継のタイミングが分からない

引退間近になって急遽事業承継を進める方も多いですが、中小企業庁の調査により、事業承継を開始するタイミングとしては、40代が適切だと感じる方が最も多いことが分かっています。
現在の社長が60代のうちに新しい後継者に代替りすると仮定すると、10年以上かけて事業承継を進行させることが望ましいということになります。

  • 後継者の育成
  • 資金調達
  • 信頼の構築

これらのように、実際に会社を引き継ぐにあたり、どうしても準備に時間がかかることも多いです。

特定の事業のみを承継したい

複数事業を展開する会社で、一部の事業のみを従業員に承継したいと考えるケースもあります。
会社分割といってもいくつかの選択肢があるため、専門家に相談しつつ、目的に合わせた手法を模索する必要があります。

一つひとつの課題をクリアすることが大切

従業員承継は親族内承継やM&Aと比較しても課題が多い承継方法です。
後継者となる従業員の意思やスキル面での育成に時間がかかるということだけでなく、資金調達や保証の引継ぎといった課題も存在します。

専門知識がないと乗り越えられない場合も多いため、まずは事業承継の専門機関に相談することをおすすめします。

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