近年は業界問わず事業承継の需要が高まっていますが、不動産業も例外ではありません。
事業承継は手続きが複雑であることが多く、様々な点に考慮する必要がありますが、不動産業は特に注意する必要があります。
今回のコラムでは、不動産業における事業承継の注意点を丁寧に解説いたしますので、ぜひ最後までご覧ください。

  1. 不動産業界の現状
  2. 不動産業界における事業承継の動向
  3. 不動産業の分類
  4. 後継者への負担に注意
  5. 事業承継税制を活用する
  6. 不動産業における事業承継税制
  7. 廃業の際も注意が必要
  8. 事業承継の計画はできるだけ早く行うことが重要

不動産業界の現状

他の業界と比較しても規模が大きく、経済に与える影響力も大きい不動産業界ですが、2019年を境に拡大傾向にあった経済規模は縮小へと転じています。

不動産業界の特徴として、

  • 大規模な企業が全体の多くの売上を占めていること
  • 企業の数が他業界と比較しても多いこと
  • 建設業など、関連する業界が多いこと

などが挙げられます。
また、帝国データバンクの調査によると、2021年の不動産業界の倒産件数は1,066件に上り、過去最高の数値となっています。
上記の特徴からも分かるように、不動産業界は中小企業にとっては競争が激しく、厳しい市場であると言えるでしょう。

参考:帝国データバンク「建設業の業界動向調査」(2021年)

不動産業界における事業承継の動向

不動産業界では、M&Aでの事業承継が活発になっていくことが予想されます。

不動産業界に限ったことではありませんが、就業者の高齢化と後継者不足が企業にとって喫緊の課題であり、それが要因となって倒産するケースも頻発しています。
そのため、後継者の有無を問わず実施できるM&Aを検討する企業が増加しています。

M&Aは事業と同時に人材の確保にも繋がるため、全体的に人手不足となっている不動産業界では買い手企業が見つかりやすい傾向にあります。
また、不動産業界は建設業といった関連業種が多いため、M&Aによるシナジー効果が生まれやすく、他業種から買い手が現れるケースも多くなっています。

不動産業の分類

先に述べたように、不動産業界はとても規模が大きいため、業界内でも事業者によって取り扱う業種が分類されており、複雑になっています。
後述する内容を理解しやすいように、ここで簡単に説明させていただきます。

不動産業界の業種は大きく、

  • 不動産開発業
  • 不動産流通業
  • 不動産管理業

の三つに分類することができます。
不動産開発業は、土地を売却するために開発を行う業種を指します。
不動産ディベロッパーとも呼ばれており、建設業と似た側面も持ち合わせています。

不動産流通業は、さらに細かく不動産代理業と不動産仲介業に分類することができますが、不動産を流通させる役割を果たす点においては、両業種とも共通しています。

不動産管理業は、主に不動産の運用する業種で、物件の維持管理や入居者への対応などを行っています。

後継者への負担に注意

事業承継を行う際は、多くのケースにおいて後継者に大きな負担がかかります。

  • 金銭的な負担
  • 精神的な負担

以上の二つに分けて、それぞれの注意点を解説いたします。

金銭的な負担

現社長が保有している株式を後継者に移動させる際、無償で譲渡する場合も贈与税の負担がかかります。
買取りによって株式を移動させる場合も、後継者は買取り資金を用意しなければならず、金融機関での借入れが必要になる可能性もあります。
また、先代の社長が金融機関から借入れや個人保証を行っていた場合、その引継ぎも後継者にとっては大きな負担となるでしょう。

精神的な負担

金銭的な負担だけでなく、従業員や役員から社長になる際には、能力面での成長も必要になります。
業種によっては、新たに取得しなければいけない資格や許可もあるかもしれません。
負担軽減のためにも、初めに後継者の覚悟をしっかりと確認し、余裕を持った計画を立てることが大切です。

事業承継税制を活用する

不動産業界に限らず、事業承継時に発生する納税の負担を軽減するためには、事業承継税制を活用することが推奨されています。

事業承継税制とは、中小企業経営者の高齢化と後継者不在を解消するために作られた支援施策の一つです。
相続税や贈与税の支払いが猶予、もしくは免除されることで、後継者の負担を大幅に減らすことができますが、活用するには以下の要件を満たす必要があります。

  1. 贈与時、20歳以上であること
  2. 贈与時、役員の就任から3年以上が経過していること
  3. 贈与時、後継者及び後継者と特別な関係がある者で50%超の議決権を保有していること。
  4. 贈与時、同族関係者の中でもっとも多くの議決権数を保有していること。
  5. 贈与時、代表権を有していること。

また、下記の四つに該当する会社は利用できないという要件もあるため、注意しましょう。

  1. 上場企業
  2. 中小企業に該当しない企業
  3. 風俗営業会社
  4. 資産管理会社(一定要件を満たす場合は除く)

不動産業における事業承継税制

対象外となる要件の四つ目にある「資産管理会社」ですが、不動産業の中でも、この要件の対象となってしまう場合があるため注意が必要です。

資産管理会社は、株式や不動産などの資産の所有や管理を目的として設立された会社のことを指します。
具体的には、

  • 資産保有型会社(保有する資産の70%以上が特定資産)
  • 資産運用型会社(総収入の75%以上が特定資産の運用収入)

の二つに分類することができます。
不動産の賃貸を目的とした会社だと該当してしまうことがあるので注意しましょう。

ただ、資産管理会社であっても三つの事業実態要件を全て満たすことで、事業承継税制を活用することができます。

  1. 従業員が5名以上
  2. 事務所を所有または賃借している
  3. 3年以上事業を継続して行っている

事業承継税制は特に有効な節税対策の一つですが、手続きには少なからず手間を要します。
また、後継者が代表権を失ったというような打ち切り(取消)事由に該当してしまうと、途中で事業承継税制の認定が取り消されてしまうこともあります。

そのようなリスクを軽減するためにも、活用の際は事業承継税制に精通した専門機関に相談することをおすすめします。

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廃業の際も注意が必要

廃業上述したように、不動産業界は中小企業にとって、とても厳しい状況になっています。
そのため、後継者不在という理由だけでなく、会社の業績の不調や事業承継の手続きが面倒だという理由で廃業を決断する経営者も少なくないでしょう。

しかし、廃業する場合も多くの手続きや時間を要します。
不動産業は特に注意しなければならないことが多いため、判断は慎重に行いましょう。

事業承継と同様に緻密な計画を立てることから始めるのが大切であるため、目安として1年ほど前から動き出すのが良いでしょう。

各種協会や廃業の法的手続きだけでなく、賃貸人などと契約の解除を行わなければいけません。
契約の有効期間は、専属専任媒介契約や専任媒介契約、一般媒介契約など、契約の種類によって異なるので、取引先に迷惑をかけないためにも慎重に整理しましょう。

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事業承継の計画はできるだけ早く行うことが重要

今回のコラムでは、不動産業界の現状や事業承継の注意点を解説いたしました。
事業承継を検討する際、後継者の不在や手続きに時間を要することは大きな障壁ですが、M&Aといった他の方法もいくつかあります。

名古屋事業承継センターでは、35年以上積み重ねたノウハウを活かし、相談内容に合わせて最適なプランを提案させていただきます。
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