事業承継を行う際、大きな問題となっているのが経営者(個人)保証の引継ぎです。

日本の企業の内、99%以上の割合を中小企業が占めています。
中小企業では金融機関等から借入れを行う際、代表者の経営者保証が求められることが多く、その引継ぎを理由に事業承継が失敗に終わってしまうケースが多くあります。

この事態に危機感を抱き、中小企業庁をはじめとした行政がいくつかの事業承継に関する支援策を講じています。
行政が発表している要件を満たすことができれば、「経営者保証の解除」を行うことも可能です。

今回のコラムでは、各支援策の概要や要件を中心に解説いたします。

  1. 連帯保証人と保証人の違い
  2. 経営者(個人)保証の問題点
  3. 行政による3つの事業承継の支援対策
  4. 経営者保証ガイドラインとは
  5. 事業承継特別保証制度とは
  6. 制度の上手な活用が事業承継成功には肝心

連帯保証人と保証人の違い

経営者保証の解除についての説明をする前に、いくつか関連する言葉や事柄について簡単に説明いたします。

保証といっても連帯保証と通常の保証では意味合いが異なり、端的に言ってしまえば連帯保証人の方が保証人よりも重い責任が生じます。

保証人には以下の3つの権利が認められています。

  • 催告の抗弁権(民法第452条)
  • 検索の抗弁権(民法第453条)
  • 分別の利益(民法第456条)

保証人は、この3つの権利を有することで、返済を求められたとしても拒否や返済金の減額を主張することが可能です。
一方、連帯保証人はこの3つの権利が認められていないため、返済を拒否することができません。

重要な点としては、経営者が銀行から借入をした際に求められる経営者保証のほとんどが、連帯保証だということです。

経営者(個人)保証の問題点

経営者保証には、信用を補完し資金調達をしやすくする効果があり、経営基盤が磐石ではない中小企業においては有効だと言えます。

しかし、経営者にとってはリスクが高く、負担がとても大きくなります。
経営者保証の主な問題点としては以下の3つが挙げられます。

  • 経営が悪化した際の経営者の負担が大きくなる
  • 大胆な事業展開の妨げとなる
  • 事業承継の障害となる

経営が悪化した際の経営者の負担が大きくなる

会社の経営悪化に伴い、借入金の返済が困難になった場合、金融機関は連帯保証人である経営者に対して返済を求めることになります。

しかし、経営者であっても会社が抱える負債を自己資金で完済することは困難であるため、担保として提供している個人資産を競売にかけられたり、担保以外の資産であっても差し押さえられる可能性があります。

大胆な事業展開の妨げとなる

1つ目に記載した問題とも関連して、経営者保証は大胆な事業の展開の妨げとなるという問題もあります。

経営者保証により、事業が失敗した時の経営者のリスクがとても高いことが原因で、思い切った事業展開が難しくなってしまいます。

事業承継の障害となる

事業承継が実施できない最大の原因は「後継者がいない」ということです。
しかし、後継者候補がいたとしても経営者保証の引継ぎが原因となり、後継者が事業承継を拒否するというケースも多く、大きな問題となっています。

中小企業庁が公表している、「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によると、後継者の未定の理由として「後継者候補はいるが、承継を拒否」と答えた内、個人保証が原因となっているのは59.8%にも登っています。

また、同調査によると、事業承継に伴う経営者保証の変更で、旧経営者と新経営者の両方から保証を求める二重徴求は減少傾向にあり、2018年では18.6%まで下がっています。
しかし、全体でみると新経営者が経営者保証を提供する割合は59.4%といずれも高く、後継者確保のネックとなっています。

参照:中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」

行政による3つの事業承継の支援対策

このように経営者保証には問題点も多くあるため、行政は事業承継を支援するための対策をいくつか講じています。

  • 事業承継税制
  • 「経営者保証ガイドライン」の徹底
  • 事業承継特別保証制度の新設

事業承継税制は、中小企業の株式を事業承継に伴い、後継者が相続もしくは生前贈与で引き継いだ場合に発生する相続税や贈与税が猶予もしくは免除される制度です。
適用を受けるためには、令和6年3月令和8年3月31日(※)までに特例承継計画を策定し、都道府県知事から確認を受ける必要があります。

※提出期限が2年間延長し、令和8年3月31日までになりました。

こちらのコラムで詳細に説明しているので、詳細が気になる方はこちらをご覧ください。

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経営者保証ガイドラインとは

経営者保証ガイドラインとは、金融機関が中小企業に対し融資を行う際に、経営者に対して経営者保証を求めるかどうかの基準や対応を示したものです。

あくまでガイドラインであるため、金融機関に対して法的な拘束力はありません。
しかし、金融庁や中小企業庁などの行政も中心となり策定されているため、金融機関が経営者保証ガイドラインを遵守することが強く期待されています。

そのため、最終的な判断は金融機関に委ねられるため絶対ではありませんが、経営者保証ガイドラインが定める要件を満たすことが、経営者保証の解除を行う上で重要になります。

経営者保証ガイドラインが定める3つの要件

経営者保証の解除において重要な経営者保証ガイドラインが定める要件は以下の3つです。

  • 資産やお金のやりとりにおいて法人と経営者が明確に区分・分離されている
  • 財務基盤が強化され、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
  • 金融機関に対し、財務情報が開示されている。

前提条件として、中小企業に該当する会社でなければ要件を満たしても適用を受けることができない点に注意しましょう。

事業承継時の二重徴求は原則禁止されている

当ガイドラインの運用は2014年2月から開始されており、金融機関の事実上のルールとして機能していました。

しかし、経営者保証の引継ぎを理由に事業承継が進まないことが問題となり、2019年12月にガイドラインの特則の運用が新たに開始されました。
当特則では、原則として前経営者と後継者両方からの二重徴求を行わないという内容が記されており、事業承継における後継者の負担を減らすことが期待されています。

事業承継特別保証制度とは

事業承継特別保証制度は2020年の4月に新たに施行された制度で、中小企業の事業承継を促進させる目的があります。

上述したように、事業承継では経営者保証の引継ぎが大きな問題となっていますが、当制度を利用することで、事業承継時の経営者保証を解除できる可能性があります。

既に事業承継を行ってしまった会社であっても、

  • 2020年1月1日〜2025年3月31日の間で事業承継を実行
  • 事業承継を行ってから3年以内

上記2つに該当する場合は制度を利用できる可能性があるので、是非参考にしてください。

事業承継特別保証制度の要件

事業承継特別保証制度に適用される対象企業は、

  • 事業承継計画を策定し、3年以内に事業承継を実行する予定である中小企業
  • 2020年1月1日〜2025年3月31日の間で事業承継を実行し、実行から3年以内の中小企業

事業承継計画(スケジュール)の重要性と策定のタイミング!

事業承継計画とは、その名の通り事業承継のスケジュールや道筋を示した計画のことです。 事業承継を円滑に進め、成功…

上記の要件に加えて、対象企業の状態が以下の4つの要件を満たす必要があります。

  • 債務超過ではない
  • EBITDA有利子負債倍率が10倍以内である
  • 会社と個人の分離がなされている
  • 返済緩和中ではない
※EBITDA有利子負債倍率「(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)」

事業承継特別保証制度の注意点

事業承継特別保証制度は中小企業の事業承継での負担を大幅に減らす効果が期待できますが、一部注意する必要があります。

  • 経営者保証を完全に不要とする制度ではない
  • 制度の利用で得られた資金の活用方法は定められている

当制度の適用を受けることで得られる資金は、2億8,000万円と限度額が定められています。
そのため、その額を超える程の保証を提供している場合は、解除することができません。

また、制度で得た資金の利用は事業資金としての活用に限定されており、既に事業承継を実行した後に適用を受ける場合は、事業承継以前の保証人を提供する借入金の借換資金に限定されています。

制度の上手な活用が事業承継成功には肝心

行政を中心に運用される、支援施策を見ても分かるように国全体で中小企業の事業承継を大きく後押ししています。

中には、期限が設けられているものや手続きが複雑なものもあるので、早めに事業承継の準備に着手することが大切です。
事業承継の手続きは専門家のサポートを受けることをおすすめします。

名古屋事業承継センターは、35年以上積み重ねた実績を活かし、個人保証解除や制度適用のためのサポートをすることはもちろん、事業承継の手続きや準備までお手伝いいたします。
事業承継でお困りの方は是非一度無料相談をご利用ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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