平成30年に税制が改正され、利用しやすくなった事業承継税制ですが、メリットがある反面、デメリットも多く存在します。
メリットばかりを見て、デメリットへの対策が疎かになってしまうと、後になって膨大な税負担がやってきたり、後継者に迷惑をかける可能性があります。
しっかりとデメリットやリスクを理解した上で事業承継税制を活用し、後継者に負担のかからない事業承継を実現させましょう。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、非上場の中小企業の後継者について、自社株式にかかる相続税や贈与税の納税を猶予・減免するという制度です。
事業承継税制は、平成20年に制定されましたが、利用要件が厳しいため、利用者が増えませんでした。
そのため、平成30年に大幅な改正が行われました。
改正前の事業承継税制を「一般措置」と呼び、改正後の事業承継税制を「特例措置」と呼びます。
一般措置は今も存在していますが、利用要件が厳しいため、特例措置を使うことが一般化しています。
ただし、特例措置を利用するには、「特例承継計画」の提出が必要であり、提出期限は令和6年3月31日令和8年3月31日(※)です。期限が近づいていますので、事業承継を考えている方は早めの準備をおすすめします。
※提出期限が2年間延長し、令和8年3月31日までになりました。
事業承継税制のメリット
事業承継税制のデメリットを確認する前に、まずは事業承継税制のメリットを説明していきます。
- 相続税・贈与税の納税が不要
- 後継者の負担減少
相続税・贈与税の納税が不要
相続税、贈与税の納税を全て猶予されるというのが事業承継税制の一番大きなメリットと言えます。
非上場の中小企業では納税の資金を捻出するのが大変です。
事業承継税制の利用により税負担を大幅に減少させることで、余った資金を事業経費などに回すことができます。
後継者の負担減少
事業承継税制の利用により、相続税・贈与税をすぐに納税する必要がなくなります。
また、事業の売却や廃業時には納税額を再計算しますが、そこで出た差額分の税金は免除されます。
以上のように、事業承継税制では後継者への負担を減らすこともできます。
親族内承継の後継者を探す際にも、事業承継税制による税負担の軽減をアピールすることで、後継者が事業承継を引き受けやすくなる可能性があります。
事業承継税制のデメリット
事業承継税制にはたくさんのデメリットやリスク、注意点が存在しますので、しっかりと把握し、事業承継における負担を確実に減らしましょう。
- 免除ではなく猶予である
- 手続きに時間がかかる
- 途中で廃業になると利子が発生する
- 特例承継計画の手続きに一定の労力が必要になる
- 要件が細かい
- M&Aができなくなる
- 担保の提供が必要になる
- 対応できる専門家が少ない
- 専門家に依頼すると手数料がかかる
- 取消事由が多数ある
- 遺留分や他の相続人の相続税に配慮が必要になる
免除ではなく猶予である
事業承継税制を利用すれば相続税や贈与税がすぐに全額免除されると思われている方も多いかもしれませんが、基本的にはあくまでも納税猶予の側面が強いです。
猶予とは、実行のタイミングを延ばすことであり、免除とは意味が異なります。
免除されるための条件には様々なものが存在し、これらをしっかり確認しておく必要があります。
詳しくは下記記事をご確認ください。
事業承継税制とは?贈与税・相続税の納税猶予や免除要件をわかりやすく解説
事業承継税制とは、事業承継に関する贈与税・相続税を猶予される制度です。後継者の死亡などにより最終的には免除とな…
途中で利用要件を満たせなくなると猶予が打切りになり、大きな税負担が降りかかる可能性もあるため、非常に注意が必要です。
手続きに時間がかかる
事業承継税制の手続きには煩雑な申請手続きが必要です。
まず、相続税・贈与税に関して、それぞれ決められた期間に都道府県知事への申請を行い、認定書交付後に税務署で手続きをします。
また、事業承継税制適用後も要件を満たしているかを確認するために定期的に都道府県知事や税務署に書類を提出しなければいけません。
各書類の提出を忘れてしまった場合、猶予されている税の全額と利子税の納付の必要が出てきます。
さらに、都道府県によって提出書類の種類などにも差があるため、取扱いに慎重にならなければいけません。
以上のように、継続的に手続きを行うために、時間と費用がかかることが大きなデメリットと言えます。
途中で廃業になると利子が発生する
事業の継続ができなくなり廃業となってしまった場合、それまで猶予されていた相続税と贈与税に加えて、利子税まで支払わなければいけないというデメリットがあります。
猶予期間が長いほど、支払う利子税も増加します。
ただし、事業承継税制を適用してから5年経過している場合は5年間の利子税は免除されます。
また、経営悪化による廃業の場合でも特例事業承継税制を利用していれば、納税猶予額の一部が免除されるなど、条件によっては最終的な納税額が免除される可能性もあります。
特例承継計画の手続きに一定の労力が必要になる
特例措置の利用には、特例承継計画を作成して都道府県知事へ提出し、確認を受ける必要があります。
特例承継計画とは、株式を後継者に移行するまでの期間における経営計画や、後継者が株式を承継してからの5年間の経営計画を記載するものです。
提出期限が2024年(令和6年)3月31日2026年(令和8年)3月31日(※)に設定されており、提出の際には 認定経営革新等支援機関(国の認定を受けた公認会計士・税理士・金融機関・商工会議所など)の所見が必要になってきます。
※提出期限が2年間延長し、2026年(令和8年)3月31日までになりました。
以上のように、1つの書類の提出に周りを巻き込む手続きをしなければならず、そこにかかる労力がデメリットと言えるでしょう。
要件が細かい
事業承継税制の利用にあたっていくつもの細かい要件をクリアしなければいけないのもデメリットの一つです。
要件は大きく以下の4つに分けられます。
- 会社の要件
- 先代経営者の要件
- 後継者の要件
- 制度適用後の要件
それぞれの要件につきましては過去のコラムにまとめてありますので、詳しくはそちらをご覧ください。
事業承継税制とは?贈与税・相続税の納税猶予や免除要件をわかりやすく解説
事業承継税制とは、事業承継に関する贈与税・相続税を猶予される制度です。後継者の死亡などにより最終的には免除とな…
M&Aがしにくくなる
事業承継税制を適用している期間にM&Aによる株式譲渡を行うと、それまで猶予されていた相続税、贈与税、さらに利子税を支払う必要が出てきてしまいます。
ただし、制度適用後から5年経過後で一定の場合には、猶予税額の一部が免除されることとなります。
事業承継税制はもともと親族内承継を想定してできた制度ですが、適用後も、制度を適用し続けるコストとM&Aにより得られる手取り額のバランスを意識することも大切です。
担保の提供が必要になる
相続税や贈与税を猶予してもらうには、その額に相当する担保を国税庁に提供しなければならないというデメリットもあります。
担保と認められる財産は以下の通りです。
- 国債及び地方債
- 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
- 土地
- 建物等で保険に付したもの
- 鉄道財団等の財団
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
- 納税猶予の対象となる非上場株式
これらのうち、納税猶予の対象となる非上場株式の全てが提供された場合には、その価値が納税猶予税額に満たない場合でも税額に相当する担保が提供されたとみなされます。
そのため、多くの会社が非上場株式による担保の提供を選択します。
担保の種類により提出書類も異なるので、国税庁のホームページを参考に間違えないようにしましょう。
対応できる専門家が少ない
事業承継税制には面倒な手続きが多く、免除までも長い道のりとなります。
自分では適用条件を満たしていると思っていても、気づかぬうちに穴を作っていたり、条件を見落としていたりする可能性があります。
そこで専門家に対応をお願いしたいところですが、実際対応できる専門家が少ないのが現状です。
また、事業承継税制は要件が厳しく、少しのミスがあると打切りになったり、損害賠償に繋がったりすることから、事業承継税制に対して消極的な専門家も少なくありません。
頼れる専門家が見つかりにくいのもデメリットと言えます。
事業承継M&Aパートナーズでは、事業承継税制のサポートが可能です。まずは無料相談にて、お気軽にお問い合わせください。
専門家に依頼すると手数料がかかる
当たり前ですが、専門家に依頼すると手数料がかかってきます。
事業承継税制だけでなく、相続税や贈与税の申告についても依頼すると高いコストがかかってしまいます。
税金の免除で大きなメリットが得られるのであれば話は別ですが、利用については費用対効果を考慮して判断しましょう。
取消事由が多数ある
事業承継税制の大きなデメリットとして、取消事由が多数あることが挙げられます。
取消条件は事業承継税制適用後5年間と5年経過後で異なってきます。
適用してから5年経過した後は要件が緩和されます。
しかし、5年経過までは1つでも要件を満たせなくなると事業承継税制の適用が打切りになる、という厳しい条件の中で経営を行う必要があります。
猶予打切りには様々なケースが考えられますので、困った際は中小企業庁や国税庁に問い合わせましょう。
中小企業庁・国税庁ともにホームページに事業承継税制についての説明を記載しています。
遺留分や他の相続人の相続税に配慮が必要になる
事業承継税制を利用するには、全発行済株式総数の半数以上を後継者に相続させる必要があります。
しかし、親族内で遺産を相続する場合には、遺言書がない場合には法定相続分に従って遺産分割するのが原則となり、株価次第では後継者が必要な株式数を取得できない可能性があります。
また、たとえ後継者に全株式を相続させるという遺言書があったとしても、その結果、他の相続人の遺留分を侵害する場合には、先代経営者の死後に親族内で争いが起こりかねません。
そのため、先代経営者は、他の相続人の遺留分を満たすだけの相続財産を用意しておくと良いでしょう。
また、後継者以外は相続時に相続税を支払わなければならないため、後継者以外の財産の相続人の納税資金の確保を考えておく必要があります。
以上のように、事業承継税制適用後の円滑な経営には、後継者以外のことを考えた財源確保が必要になってくるというデメリットも出てきます。
先代経営者が亡くなった場合
事業承継税制を利用するか否かを判断する際によく悩みとして出てくるのが、先代経営者が亡くなった場合の話です。
多くの方が不安になる部分だと思いますので、簡単に説明していきます。
先代経営者が死亡してしまった場合、猶予されていた贈与税は免除されます。
しかし、特例措置の適用により後継者が取得した株式は既に後継者の名義に変わっているにもかかわらず、税務上は相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。
つまり、先代経営者が亡くなると、贈与税はなくなりますが、その分相続税が増えるということです。
ただし、「相続税の納税猶予」への切替手続きを行うことで、「相続税の納税猶予及び免除の特例」が適用されます。
切替えの申請期間は相続開始の日から8ヶ月以内ですので、忘れずに手続きを行うことを推奨します。
まとめ
事業承継税制を上手く活用すれば、膨大な相続税や贈与税の負担を回避することができます。
大きなメリットを得る一方で、細かい要件を満たす必要もあり、当然リスクも伴います。
単に「税の負担がなくなる」と認識するのではなく、デメリットやリスクを理解した上で事業承継税制を利用することで、後継者に負担をかけない事業承継を実現させましょう。
事業承継M&Aパートナーズでは事業承継やM&Aに関するご相談を承っておりますので、気軽にご連絡ください。
※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。