事業承継は煩雑な手続きや注意しなければならない項目が非常に多く、少しの油断が大きな問題に発展する可能性が否定できません。

事業承継時に起こり得るトラブルを事前に把握しておき、対策を打っておくことで、トラブルを未然に防ぎましょう。

本記事ではトラブルをケースごとに分けて説明していきます。

  1. 先代経営者に関するトラブル
  2. 後継者に関するトラブル
  3. 株式に関するトラブル
  4. お金に関するトラブル
  5. 事業承継後の経営に関するトラブル
  6. 事業承継に関するトラブルへの具体的な対策は?
  7. 困った際はいつでもご相談ください

先代経営者に関するトラブル

まずは先代経営者が原因で起こるトラブルについてです。
先代経営者に関するトラブルは後になって大きな問題になる可能性がありますので、事前の対策が必須になります。

  • 先代経営者が引退後も影響力を保持する
  • 先代経営者の急死による相続争いが起こる

先代経営者が引退後も影響力を保持する

一般的には、先代経営者は事業承継後は引退するものですが、その後も経営に介入してしまうケースがあります。

原因としては、長年勤めた会社への強い愛着や、従業員や後継者に対しての信頼の無さが挙げられます。
「自分がいなくても本当に経営は上手くいくのか」と不安になり、ついつい経営に口を出してしまいます。

しかし、後継者や残された従業員に負担となってしまうケースが多いです。

後継者は意見を出すのが億劫になってしまったり、従業員も後継者と先代経営者のどちらの意見を受け入れたら良いのかがわからなくなり、社内が混乱してしまう事態が考えられます。

先代経営者の急逝による相続争いが起こる

事業承継の準備をあまりしていない状況で先代経営者が急逝した場合、相続について争いが起こってしまう可能性があります。

先代経営者が遺言を残していれば相続トラブルは生じにくいのですが、遺言がない場合子どもや先代経営者の配偶者、親族を巻き込んだ問題が出てきてしまいます。

誰が、何を、何割相続するのかで、親族間で大きな揉め事になってしまう可能性があります。
先代経営者は事業承継を見据えた事前の準備が必要です。

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後継者に関するトラブル

後継者が関係してくるトラブルも多数存在します。
後継者は事業承継後の経営を左右しますので、先代経営者は必ず確認しておきましょう。

  • 後継者への事業引継ぎがおざなりになる
  • 後継者が早期に離職してしまう
  • 後継者が決まらない

後継者への事業引継ぎがおざなりになる

事業承継を行う上では、先代経営者は自社株式の引継ぎや社外への根回しなどを優先してしまい、後継者への引継ぎの時間を十分に確保できないまま引退してしまうという状況が考えられます。

後継者は経営方針や事業の根幹などがよくわからないまま、手探りで経営を進めていかなければならず、事業承継後の経営が上手くいかない可能性が高くなってしまいます。
社外人材を後継者に迎え入れる場合には尚更、引継ぎの説明が必要です。

事業の引継ぎには時間を確保する必要があることを、先代経営者・後継者共に理解しましょう。

後継者が早期に離職してしまう

時間をかけて選んだ後継者が早期に離職すると、経営に大きなマイナスの影響をもたらしてしまいます。

事業承継前には、後継者の能力、経営理念への共感の度合い、リーダーシップ能力といった項目の検討だけでなく、後継者の育成を行うことが推奨されます。

しかし、後継者の検討や育成が不十分だと、承継後の経営で成果がうまく出せず、後継者は自信を失くしてしまい、早期に離職してしまう可能性があります。

事業承継にかけた時間や費用が水の泡になってしまいますので、後継者の慎重な選定や充実した教育を行いましょう。

後継者が決まらない

後継者の決定は簡単ではありません。

先代経営者の気持ちとして、たくさんの項目を検討した上で納得のいく人物に後継したいものです。
しかし、理想の人物というのはなかなか見つかりません。
時間だけが過ぎていくと徐々に焦ってきます。

そのため、早く決めることを優先してしまい、納得がいかないまま後継者を選んでしまうとミスマッチに繋がり、経営の悪化や後継者の離職などの状況が想定されます。

日本の少子高齢化の現状を考えると、後継者候補は減少していくのは明らかです。
後継者がなかなか見つからないのは当たり前だという認識を持ちましょう。

株式に関するトラブル

事業承継時には株式も動きます。
株式取引では大きなお金が動くので、十分に注意しましょう。

  • 自社株式の取得において高額の費用がかかる
  • 株式分散により意思決定に支障が出る

自社株式の取得において高額の費用がかかる

中小企業の経営者や親族内承継をしようとしている経営者は自社株式の大半を保有している場合が多いです。

そのため、事業承継時に相続する自社株の評価額が高くなっており、後継者の支払い能力次第では自社株式を買い取ることができず、事業を引き継ぐことができないという事態にもなりかねません。

承継時には、自社株式の評価額を抑えるための施策が重要です。

株式分散により意思決定に支障が出る

息子が2人いる先代経営者が遺言を残さなかった事例を考えます。

仮に長男が後継者で、会社の株式を二男にも分けた場合、長男は役員の選解任や事業の業態転換などを自由に行うことができず、円滑な経営が行えないという事態が考えられます。

株式が分散してしまう際は、配分を考える必要があるでしょう。

また相続人関連のトラブルについては、先代経営者が遺言を残すことで問題の発生リスクを減らすことができます。

お金に関するトラブル

事業承継において、お金も成功するか否かを左右する重要な要因です。
場合によっては膨大な被害額が発生してしまうので、事前に十分な対策を練っておきましょう。

  • 後継者が税負担に耐えられない
  • 金融機関からの信頼度が低下する
  • 派閥争いにより資金が流出してしまう

後継者が税負担に耐えられない

事業承継では、資産を引き継ぐ際、資産額に対する税負担が後継者にのしかかります。

節税対策をしておくと税の負担が大きく減るのですが、負担を減らす税制を利用するためにも様々な条件を満たさなければなりません。
そのため、利用が難しいケースも多く、税負担に耐えられない後継者も少なくないでしょう。

後継者に税金を支払える資金力がないと、事業承継は実現しません。
税金に実現を妨げられないように事業承継税制の利用を検討しましょう。
後ほど事業承継税制については説明いたします。

金融機関からの信頼度が低下する

中小企業において、金融機関は経営者への信頼度に依存して関係を結んでいるケースが散見されます。

経営者が代わって業績が悪化してしまう企業が多く、金融機関は後継者の力量を注意深く見ています。

事業承継後の経営が上手くいかず、金融機関からの信頼が低下した場合、お金を貸してもらえなくなり、経営に大きなダメージが出てきてしまいます。
金融機関からの借入れによる資金面の援助がないと、新しい事業や既存事業の発展にもマイナスの影響が出てくる可能性があります。

派閥争いにより資金が流出してしまう

経営者の長男に株式の6割、二男に株式の4割を保有させていて、長男が後継者であるケースを想定します。

先代経営者である父は能力のある二男ではなく、半ば強引に長男を後継者に選択したとします。

すると二男はその選択に反発し、保有株式の買取りと自身の退職金を後継者である長男に求める可能性が考えられます。
結果として、数億円の資金が会社の外部に流出してしまいます。

強引に後継者を選ぶと派閥争いに発展し、資金が流出してしまう可能性があるため、注意しなければいけません。

事業承継後の経営に関するトラブル

事業承継がうまくいっても、その後の経営で躓いてしまうということはよくあります。
事業承継後のリスクも考えて計画したり、行動をとるようにしましょう。

  • 取引先が離れてしまう
  • 従業員の理解が得られない
  • 周りに相談しないまま進めてしまう

取引先が離れてしまう

事業承継をきっかけに既存の取引先が離れてしまう可能性があります。

長年先代経営者と強い繋がりがあった顧客は、先代が退いた途端に「先代でなければ取引きはしたくない」と取引きを打ち切られてしまう場合が考えられます。

取引先との関係は長年培ってきた重要な無形財産ですので、事業承継のタイミングで失ってしまうのは非常に惜しいです。
後継者への引継ぎの努力を怠らないようにしましょう。

従業員の理解が得られない

必ずしも従業員全員が後継者に納得しているわけではありません。
会社の規模が大きいほど、容認派と反対派の2つの派閥ができやすいです。

特に、長年勤めている従業員は先代への想いも強く、後継者を受け入れるのにも時間がかかってしまう場合があります。

社内の人間関係が円滑でないと、仕事や経営にも影響が出てきてしまいます。
ケースによっては和解金などの支払いが発生する大きなトラブルに発展します。

長く働く従業員には早めの段階で後継者のことを伝えておくなど、事前のコミュニケーションが必須です。

周りに相談しないまま進めてしまう

事業承継や後継者について相談できる相手がいないことも、事業承継が失敗に終わってしまう原因になり得ます。

先代が誰にも相談せずに事業承継や後継者について話をどんどん進めてしまうと、従業員や親族からも反感を買う可能性が高まります。
結果的に従業員の離職にも繋がってしまいます。

事業承継には専門的な知識も必要になってきますので、先代が一人で行うには限界があります。
事業承継時は周りへ相談をしながら進めていきましょう。

事業承継に関するトラブルへの具体的な対策は?

事業承継に関するよくあるトラブルを紹介しました。
本章ではトラブルを未然に防ぐための具体的な対策を解説していきます。

  • 綿密な事業承継計画を策定する
  • 後継者を慎重に選ぶ
  • 先代経営者が引退する前から後継者教育を行う
  • 事業承継税制を利用する
  • 社内外の調整をする
  • 信頼できる相談相手を見つけておく

綿密な事業承継計画を策定する

事業承継は5年〜10年をかけて取り組むべき長期的なプロジェクトです。
綿密な事業承継計画を策定した上で事業承継を行っていきましょう。

上記のようなトラブルやリスクへの対策を組み込みながら考えるのがおすすめです。
事業承継計画のひな形は中小企業基盤整備機構のホームページ上で無料でダウンロードできますので、参考にしてみてください。

不明点が出てきた際は専門家等に相談しながら策定を進めましょう。
綿密な計画には時間がかかりますが、長期的に見て有効な手段といえます。

後継者を慎重に選ぶ

事業承継の成功には後継者に誰を選ぶかが大きく関わってきます。

なかなか理想の後継者が見つからず、徐々に焦ってくる気持ちもわかりますが、焦って選択を妥協すると、後々経営にマイナスの影響が出てきてしまいます。
後継者も選ばれたものの、会社と価値観や方向性が合わず、苦しんでしまうという状況が想定できます。

先代経営者、後継者、どちらも納得がいった上で事業承継は進めていきましょう。

参考までに、後継者を選ぶ際のポイントを挙げておきます。

  • 時代を読み、取り入れていく柔軟性はあるか
  • 変化に対応するスピード感覚はあるか
  • 逆境に耐えられる忍耐力はあるか
  • 社内外で均衡を図るコミュニケーション力はあるか
  • 人々をまとめ、率いていくリーダーシップはあるか
  • 業界や取引先の状況など目に見えない周囲の状況をいち早く汲み取る洞察力はあるか

先代経営者が引退する前から後継者教育を行う

事業承継を見据えた後継者教育は早いうちから行いましょう。

教育の始まりが遅くなり、事業承継時に後継者の教育が不十分なものであった場合、事業承継後の経営にマイナスの影響をもたらすのは目に見えています。
できるだけ早くから行うことをおすすめします。

教育には社内育成と社外育成があり、どちらも重要です。

社内育成では自社のやり方で利益を生む方法を身近に感じてもらうことができ、業務に伴う苦労や従業員の気持ちを理解するのに最適です。
社外育成では自社と同業種や関連業種の企業に入社・出向させるのが一般的で、広い視野や能力の獲得が目的となります。

どちらの育成もバランスよく行いましょう。

事業承継税制を利用する

事業承継時に起こる手続きには多額の税金がかかります。
そのため、事業承継をしないという選択をする経営者が増えてしまいました。

そこで事業承継を普及するために作られたのが事業承継税制で、事業承継にかかる税金の納税猶予や減免を受けられるという税制になります。

事業承継税制の利用には複雑な条件を長きに渡って満たす必要があり非常に大変ですが、税負担の軽減というメリットはとても大きく、事業承継の際は確実に利用すべき制度です。

過去のコラムに詳細をまとめていますので、ぜひご覧ください。

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社内外の調整をする

社内には必ず事業承継について伝えておく必要があります。
トラブルの例でも取り上げたように、事業承継について従業員の理解がないと、事業承継後の経営が怪しくなってきます。

また長年付きあいのある取引先や得意先にも事業承継や後継者のことを前もって伝えておかないと、いきなり関係を断ち切られたり、関係が悪化してしまう可能性は否定できません。

社内外のどちらも調整を行っておくことでスムーズな事業承継が実現できます。

信頼できる相談相手を見つけておく

事業承継には専門的な知識だけでなく、周りからのサポートがあってこそ成り立ちます。
むやみに先代経営者が一人で進めるのではなく、周りに相談しながら事業承継を進めてください。

わからない、どうしようと思ったときはもう手遅れの可能性もあります。
信頼できる専門家が近くにいると安心して事業承継を進めることができ、困った時にすぐに相談できます。

事業承継には常にリスクが伴いますので、何かあったときのために信頼できる相談相手がいる状況を作りましょう。

困った際はいつでもご相談ください

事業承継に関するトラブルと具体的な対策を説明いたしました。

今回紹介したものの他にもトラブルやリスクは存在しますので、事業承継計画を立てる際に想定できるものは洗い出しておき、考慮しながら計画を立てるようにしましょう。

事業承継は長い時間と高額の費用がかかります。
一つのトラブルでそれまでの時間と費用が水の泡になってしまう可能性がありますので、起こり得るリスクには慎重に向き合いましょう。

名古屋事業承継センターでは事業承継に関するご相談を無料で承っております。
お困りの際は気軽にご連絡ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
詳しくは当センターへお問い合わせいただくか、関係各所にお問い合わせください。