現在の日本には、次世代の会社の担い手となる後継者が不足しており、廃業を余儀なくされる企業が多く存在します。
なぜ、後継者が不足してしまうのか、それを防ぐためにはどのような対策が必要なのかを知っておくことで、将来後継者不在による倒産を防ぐことができるかもしれません。

この記事では、後継者難倒産の詳しい現状と解決策をご紹介します。

  1. 後継者難倒産とは?
  2. 増加する後継者難倒産の厳しい現実
  3. 後継者難倒産はなぜ起こるのか
  4. 後継者難倒産に陥る会社の特徴
  5. 後継者難倒産を防ぐための解決策
  6. 後継者が見つからないときに考えること
  7. まとめ

後継者難倒産とは?


後継者難倒産とは、経営者から事業を引き継ぐ後継者が不在、経営者の「病気」や「死亡」、事業承継の失敗などの原因により、事業継続の見込みが立たなくなって倒産してしまうことを言います。

日本企業の倒産理由の多くを占めるものは「販売不振による経営状況悪化」ですが、ここ数年で後継者難による倒産も増えてきているため、決して楽観視できる状態ではありません。

この後継者難倒産は日本の多くの企業が直面し得る大きな壁となっているのです。

増加する後継者難倒産の厳しい現実


それでは、今の日本企業全体における後継者難倒産の現状を見ていきましょう。

日本の後継者難倒産件数

東京商工リサーチが発表している2022年の後継者難倒産は422件(前年比10.7%増)にのぼり、調査を開始した2013年以降最多で、初の400件超えとなりました。
それだけでなく、2020年から3年連続で前年を上回っており、後継者難倒産をする企業が年々増え続けているという厳しい現実があります。

後継者難倒産件数推移グラフ

(参考:https://www.tsr-net.co.jp/

このグラフを見てみると、2013〜2019年まではほぼ横這いに推移していましたが、2020年以降は右肩上がりに増加しています。
後継者難倒産はコロナ禍でも増加が続き、会社経営者にとって重大な問題となっているのです。

業種別に見る後継者難倒産

後継者難倒産を業種別に見てみましょう。
10産業のうち、金融・保険業、不動産業、情報通信業を除く7業種で前年を上回っており、その中でも建設業が全体の約2割を占めて最も多いということがわかっています。
業種別後継者難倒産割合

(参考:https://www.tsr-net.co.jp/

建設業、製造業は特に人手不足が深刻な業界でもあり、会社の後継者だけでなくそもそもの働き手が不足しているような厳しい状況に立たされています。
かつて日本の高度経済成長を支えた2業種ですが、時代の流れと共に徐々に規模の縮小を余儀なくされているという厳しい現実があります。

後継者難倒産はなぜ起こるのか


では、一体なぜ後継者難倒産が起きてしまうのでしょうか。
後継者難倒産が起こる理由として以下の4つを挙げます。

  • 事業承継の在り方が変わってきた
  • 少子高齢化が影響している
  • 事業の将来性に不安がある
  • 十分な準備期間を確保できない

それぞれを詳しく解説していきます。

事業承継の在り方が変わってきた

経営者が自分の子供などの親族に会社を引き継ぐ「親族内承継」の割合が減少し、事業承継の在り方が変わってきていると言えます。
かつては9割ほどの会社が親族内承継をしていましたが、近年は3割ほどとその割合は大きく減少。

競争が激化する社会の中で生き残るために、親族以外の優秀な人材に継がせたいと考える経営者が増えたことが要因の一つです。
さらに、会社を引き継いだ際の重い税負担や負債も引き継がなければならないという理由で会社を継ぎたくないと考える親族が増えたために、親族内承継は大幅に減少しました。

親族内で後継者が見つかれば後継者不足に悩まされることはありませんが、その選択をせずに後継者を探すとなるとなかなか適任が見つからず、後継者不足に悩まされる経営者の方が増えています。

少子高齢化による影響

日本は少子高齢化社会であり、出生率も年々減少。
少子高齢化によってそもそもの母数である労働人口が減ってしまい、事業を引き継ぐ適任の後継者が見つからないという現実を突きつけられています。

さらに、平均寿命が伸びていることから経営者の引退年齢も上昇しており、高齢になっても事業承継のことをあまり考えず事業を営んでいる経営者の方が増えています。
そういった経営者の方が突然病気を発症したり、体調不良によって事業を継続することが困難になることで倒産するケースも多くみられるため、少子高齢化の影響は大きいと言えるでしょう。

事業の将来性に不安がある

これまで会社を存続させ、事業を運営してきた大変さを誰よりも痛感しているのは経営者の方ではないでしょうか。
事業運営の苦労や負担を知っているからこそ、経営者自身が会社を継がせることに難色を示してしまうこともあります。

後継者としても、将来の明確なビジョンや事業計画がないまま引き継ぐことは大きな不安を抱えることになり、大きな不安を抱えた状態では事業を引き継ぎたくないと考えてしまうでしょう。
後継者としても将来性が見込めない事業を引き継ぐことは避けたいはずです。

以上のように、経営者自身と後継者の双方が事業の将来性に不安を抱えていることで、事業を継承できずに倒産してしまう企業もあります。

十分な準備期間を確保できない

事業承継には多くの準備と長い期間が必要です。
いつかは事業を引き渡したいと思っていても、なかなか行動に移せずにいると、不測の事態が発生して事業承継できずに倒産してしまうケースがあります。

スムーズに事業承継を進めるには計画的に準備を進めることが必要ですが、いざ問題に直面しないと行動に移せないという方も多いです。
事業承継に充てる余力がないという気持ちもわかりますが、万が一の事態が起きた時のリスクを考えると、早めに準備を進めておくことをおすすめします。

後継者難倒産に陥る会社の特徴


後継者難倒産に陥る会社には次のような特徴があります。

  • 負債の大きい会社
  • ワンマン経営の会社
  • 時代に合わせた変化に対応できない会社

それでは一つひとつ解説していきます。

負債の大きい会社

負債を大きく抱えた会社は、引き継ぐ後継者のリスクが大きいため後継者難に陥りやすいです。
例え収益が安定して返済が順調だとしても、事業承継には多額の税金がかかるため想定外の大きな支出が発生します。

設備投資に多額の先行投資が必要な製造業などは大きな負債を抱えやすい業界ですが、負債をできるだけ減らした状態で継承するのが望ましいです。

ワンマン経営の会社

経営者がほぼ全ての経営判断や方針の決定を行い、会社を経営しているワンマン経営の会社では後継者が育たず、後継者難に陥るケースがよく見られます。
決してワンマン経営が悪いわけではありませんが、事業を引き継ぐという点においては望ましい状態とは言えません。

自分の代で事業を畳むと決めている場合は別ですが、次の代にも引き継いで永く事業を続けたいと考えるのであれば、経営体質を改善し、後継者となる人材を育成していくことが必要です。

時代に合わせた変化に対応できない会社

今まで会社が大切にしてきた伝統や文化を守ることは素晴らしいです。
しかし、それを守るためには時代に合わせた変化も大切になってきます。

伝統や文化を重んじるが故に時代に合わせた変化に対応できないと、社内の従業員も経営の先行きに不安を感じます。
従業員が経営の先行きに不安を感じていると、会社を引き継ぎたいと思う人材が社内から現れず、後継者が見つからない状態に陥ってしまうリスクがあります。

DX化やAIの発達など様々な変化が押し寄せている時代ですが、それらを上手に取り入れて活用することで経営状態も安定し、将来性のある会社として後継者が現れるかもしれません。

後継者難倒産を防ぐための解決策


後継者難倒産を防ぐための解決策には、次のようなものがあります。

  • 事業承継を見据えた早めの後継者選定と育成
  • 経営状況や事業計画の見える化
  • 専門機関に相談
  • M&Aによる事業承継

それぞれの解決策を詳しく解説します。

事業承継を見据えた早めの後継者選定と育成

後継者難倒産が起きる原因の一つとして、準備不足ということを挙げました。
多くの経営者は事業承継問題に取り掛かる余力がなく後回しにしてしまう傾向があります。

しかし、突発的な健康問題(病気や死亡)などにより突然引退を余儀なくされる場合もあるため、自分ではあと何年と考えていても、その計画通り進められる保証はどこにもありません。
もしもの時に備え、事業承継を考え始めた段階で早めに後継者を選びましょう。

そして、後継者の育成には長い期間がかかります。
しっかりと引継ぎができず、後継者が大きな負担を抱えることがないように、計画的に業務内容を引き継いで後継者を育成していくことが必要です。
早めの準備がスムーズな事業承継の重要なポイントであると言えます。

経営状況や事業計画の見える化

特に中小企業でよく見られるケースですが、経営者が考える事業計画が役員や従業員と共有できていなかったり、経営状況が不透明だったりすることがあります。
このような状態の会社を継ぐことは、承継後に想定していた収益を確保できないなど、後継者にとって大きなリスクを伴うため会社を引き継ぎたいと考える人が現れない可能性が高いです。

もしかすると経営者の方も、事業計画の詳細を詰めることができていなかったり、自社の経営状況がどういう状態で推移しているのか把握できていないかもしれません。
そういった場合は、外部のコンサルタントなどに依頼して、第三者目線で自社の状況や今後の展望を整理すると良いでしょう。

まずは経営状況や事業計画の見える化をすることで自社の状態を確実に把握し、役員や従業員と共有することで透明性を持たせましょう。
そこで見えてきた問題を着実に改善することで経営状態の安定にも繋がるでしょう。

専門機関に相談

事業承継を考え始めたとき、まずは事業承継の専門機関に相談することをおすすめします。
事業承継に関する様々な問題や課題を把握することが、事業承継の第一歩となります。

自社の問題や課題を整理できるだけでなく、事業承継に関する法律関係や支援制度などの情報も詳しく聞くことができ、自社にとってどのような事業承継の形が最適なのか見えてくるでしょう。
支援制度を知らずに進めてしまうと、免除できたはずの税金がかかってしまうなど、負担を増やしてしまう可能性もあります。

無料で相談に乗ってくれる機関もあるため、事業承継を考え始めたタイミングで気軽に相談してみましょう。
相談先について、過去に紹介しているのでこちらのコラムも参考にしてみてください。

事業承継はどこに相談する?相談先一覧とそれぞれの特徴

後継者不足や資金問題など、事業承継を行う際には様々なトラブルが発生する可能性があります。 自分たちの手には負え…

M&Aによる事業承継

M&Aとは、「企業の合併・買収」のことで、第三者に経営権を委ねるという選択です。
親族や会社内に後継者が見つからない場合、あなたの会社をM&Aによって守るということもできます。

近年、後継者が見つからないことでM&Aによって事業承継をするという企業も増加しています。M&Aのマッチングサービスなどもあるため、どうしても後継者が見つからない場合はM&Aによる事業承継を検討してみましょう。

後継者が見つからないときに考えること


様々な手を尽くしても残念ながら後継者が見つからない場合もあります。

後継者が見つからなかった時の最終手段が廃業を選択することです。
大切に守り抜いてきた会社を畳むことは、計り知れない苦悩があるかと思いますが、後継者が現れない以上、仕方のないことだと言えます。

廃業することは悪いことばかりではなく、親族や関係者への迷惑を最小限に抑えることができるなど、廃業することのメリットもあります。
親族に引き継がせることで、経営のプレッシャーを与えてしまったり、債務整理を関係者に負わせないなど、周りのことを考えると廃業を選択する経営者もいます。

難しい決断になるかと思いますが、廃業することも一つの選択肢として考えてみましょう。
廃業に関する詳しい記事はこちらをご覧ください。

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まとめ

後継者難倒産を防ぐためには、初動の速さが大切になります。
早めに計画を立てて準備することで、後継者難による倒産を防ぐことができるかもしれません。

まず何から始めたら良いかわからない方は、専門機関へ相談することから始めてみましょう。
当センターでも無料相談を承っております。
事業承継の専門コンサルタントがあなたのお悩みに寄り添い、最適な事業承継プランをご提案します。

事業承継をご検討でしたら、お気軽にご相談ください。

※本記事は、その内容の正確性・完全性を保証するものではありません。
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